凍える社 後編

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 人気の絶えた夜のオフィスに、キーボードの音が響く。
 ようやく半分がたデータを打ち終え、顔を上げた細田みさきは疲れた瞳をもみほぐした。
麻生玲子の仕事は今日に限って壊滅的だった。窓の外は闇に包まれ、通りからクリスマス
ソングが淡くはかなく響いてくる。
 自分の行為が正しいのかどうか、彼女には分からなかった。
 貸しを作ったという優越感も、与えた優しさにたいする満足感も、何一つ得るものはな
かった。気持ちの悪いものを眺めるような玲子のあの表情をみるかぎり、今回の件で彼女
が細田に感謝の念を持つとは到底思えない。
 はっきりしていることは一つきり。今夜は到底早く帰れそうにない。
 陰鬱な、暗澹たる気分だった。
 自虐的な気分のまま作業に没頭してみても、胸に打ちこまれた後悔のくさびは容易には
抜けてくれそうになかった。玲子を庇ったこの選択が良い結果を生むのだろうか。彼女の
気持ちを少しは囲いこむことにつながったのだろうか。
 無機質なキーボードの音が、彼女を過去に誘う。
 思えば細田みさきにだって、玲子と同じように恋愛に夢中になっていた時期もあった。
もう5年以上前、まだ営業部に所属していた頃のことだ。当時は寿退社が当然のことだと
思っていて、やはり口うるさくオフィスに君臨するお局OLを見ては、こうはなるまいと
心に決めていたというのに。
 そう。ケチのつきはじめはあの時期だった。
 彼女が担当していた、以前からの取引先の担当が替わり、関西の支社から異勤してきた
その相手と細田は恋に落ちた。若く野心家で実力もある相手だった。幸せだったと思う。
結婚とその先の新生活さえ目の前に思えていた‥‥その男が、実はすでに関西で別の女性
と籍を入れていて、上京してきた妻が涙ながらに会社に踏み込んでくるまでは。
 彼が何を考えていたのか、今となっては知るすべもない。
 事実が発覚してすぐ彼は関西に戻されたということを後から聞いた。だが同時に、何の
落ち度のない細田までが、その取引先との担当を下ろされることになってしまったのだ。
 納得などできるはずもなかった。
 悪夢のような展開に呆然とするしかなかった細田に向けられる会社の上司や同僚たちの
視線はおどろくほど冷ややかなものだった。大事な取引先との関係に傷がついた。彼らの
目は無言でそう細田を責めていた。何度、OLをやめようと思ったことか。それを仕事が
できるからと懸命に慰留したのが、今では部長職につく当時の上司、財前和明だった。
 励まされ、仕事のアドバイスを受け、親身になってもらい‥‥
 あるいは財前は最初から彼女のカラダが目当てだったのかもしれない。けれどあの時の
彼女は、それを拒めるほどの強さなどどこにもなかった。
 仕事では辣腕の上司、家庭ではちょっとだらしのないよき夫。そして‥‥
 若い頃のテクニックを生かし、技巧の限りを尽くす彼に、細田はただ流されていった。
陥落。惑乱。爛れた、先のない刹那的な日々。そしてそのこともいつか密かに洩れ、彼女
は止めさせられるのではなく、営業部から総務部に回されたのだった。純粋な政治決着の
一つの形として。
 静寂が、社内を包み込んでいた。外の祝祭を引き立たせるかのように。
 オフィスの半分は影に閉ざされている。彼女のいるスペースだけが煌々と蛍光灯を灯ら
せていた。闇の中に孤立した最後の拠り所のように、弱々しくまたたきをくりかえす。
「‥‥‥‥」
 手が震えて、うまく数値を打ち込むことができない。
 おやとモニタから視線を外し、キーボードを見下ろした細田は点々と水滴のしたたった
手の甲がじんわり滲んでいるのに気がついた。じわっと歪んだ視界から、頬を熱いものが
伝っていく。
 うろたえ、思わず口元に手を押しあてた細田はその仕草が彼女の歳で許される格好では
ないことに気づいてもっと狼狽した。あわてて中断させたPCを一時落とし、握った拳で
まぶたの上から瞳をぐじりぐじりとこする。
 涙は、まるで涸れはてる気配もなく、はらはらとこんこんとあふれ続けていた。
 堰を切った感情が、とめどなく細田の心からあふれだしていく。
 声を殺し、ハンカチを手に泣きながら、誰もいなくてよかったと思った。こんな姿を人
に見られたら、お局OLの矜持もなにもあったものではない‥‥そんな風に。

 ひとしきり泣き、洗面所で顔をすすぐと少しは気分もましになった。ポーチを取りだし、
流れたメイクを目立たないようにとりつくろう。ふぅと吐きだすのは、ため息の塊だった。
戻って再開したグラフ化は、さいわいあとわずかで完成だった。この場所は冷える。嫌な
思い出まで心からあふれてきてしまう。早く‥‥家に帰りたい‥‥ただ、眠って‥‥
 急いでペースをあげた細田は、背後から近づく影に気づかなかった。
 とん、と肩に手を置かれ、文字通り椅子の上で飛びあがる。
「頑張っているな、みさき」
「あ、か‥‥部長」
 財前和明の姿におどろき、思わず時計を見やる。時刻はすでに11時をまわったところ。
家族思いの彼が、一家団欒で過すクリスマスを不意にして残っているはずないのに‥‥
「進捗具合によると、この前話しただろう?」
 彼女の考えを見透かしたように、財前は肩をすくめてみせた。
「でも、その‥‥それなら、なぜ」
「気になったんだよ。帰りがけ、外からビルを見上げたらこの部署だけ電気がついていた
んで、もしやと思ってね。邪魔じゃなければ、ここで待っていてもいいかな」 
 思いがけず、暖かな気分に細田はみたされていた。
 肩に置かれた手。その、節くれた財前の掌に、自分の手を重ねてしまう。
「ありがとうございます。もうじき、終わりますので」
 手早く残りのデータを打ち終え、ざっとチェックを入れなおして、どうにか終わらせる。
PCを切り、立ち上がりかけたその躯が、財前の腕にからめ取られていた。
「財前部長? あの?」
「自分と賭けをしたんだ。みさきがもし残っていたら、渡そうと」
「え‥‥」
「メリークリスマス」
 どこか恥ずかしがる財前の表情の先に、包装されリボンをかけられた小さなプレゼント
の箱があった。驚き、目をみはった彼女の手の上にその箱が乗せられる。
 にわかには、手の中のその重みが信じられなかった。
 優しいとはいえ、彼はこういう気配りをする男性ではないと思っていた。むしろ恋愛の
駆け引きはもっと強引でムダを省き、うむを言わせずみさきを引っぱっていく。その悪い
ところにどうしようもなく、悔しいながらもずっと魅かれ、支えられてきてきたのだから。
「開けてみるといい」
 けれど柔らかいセリフは、まぎれもなく細田のためのものだった。他の誰でもなく。
 またしてもじわっと涙があふれかけ、かろうじて押しとどめる。それでも瞳はうるんで
しまっているのだろう。にこりとする財前を目の隅にとらえながらリボンをほどき、中を
のぞきこむ。
「ウソ‥‥いいんですか‥‥」
 一目でそれと分かる、高価なネックレスが台座におさまっていた。デザインは少し古風
だが、まぎれもない本物の輝きが彼女を射る。黙って台座から掬いあげた財前は、細田の
首をそらせ、自分の手でネックレスをつけてくれた。
 会社の制服に場違いなほどまばゆい輝きと財前の顔を交互に見やり、途方にくれて呟く。
「部長。でも、私‥‥今日は本当に何も考えてなくて、お返しが‥‥」
「いいんだ。みさきがここにいてくれるだけで」
 真剣すぎるそのまなざしに、ぐらりと心が動いていた。他の人なら歯の浮くセリフが、
強い余韻を残して彼女の心を奏でていく。
 財前の顔が近づいてきた。いつのように、みさきのあごに優しく指を添えて。かすかに
恥じらい、嫌がるでもなくみさきはその場でかぶりを振る。
「部長‥‥ここでは‥‥み、見られて、しまいます‥‥」
「大丈夫。2人きりだ」
 答える男の熱い息がかかり、頬がかあっと赤みを帯びていく。
 唇を開き、彼の舌を受け入れるのは、本当に当たり前の事のようにみさきには思えた。


                   ☆


「ん、あっ‥‥はァン、駄目、声が‥‥」
 出てしまいます‥‥
 言いかけた言葉さえうねりせりあがる情感に飲み込まれ、がくがくする膝を踏みしめた
細田みさきはカラダをささえる腕を事務机に突っ張らせたまま、あぁ、と呻いた。
 実用一辺倒の制服を生地の上からねちっこく撫でまわし、愛情深くあらゆる躯のライン
をなぞりだした財前が、今はしゃがみこんで彼女の下半身をひたすらに責めあげていく。
タイトなスカートから伸びるストッキングごしの愛撫に、全身の毛がちりちり逆立つ気分
に襲われて、抑えても抑えても刹那的な喘ぎが唇からあふれだす。フェティッシュで濃厚
ないたぶりは、ストッキングの下からじっとりとみさきを蒸らし、発情させていた。
 温度を抑えた暖房だけが静かに唸っている。
 凍てつくオフィスの片隅。殺伐とした事務用品の社の奥深くで、一目をしのんだ上司と
OLが愛し合う光景にはたまらなく猥褻なものがあった。
「はっ、はっ、はっ‥‥」
 乱れた息が上がりっぱなしで、普段よりはるかに昂ぶっているカラダに細田はおののく。
誰もいないし心配などいらないと思ってはみても、危うい遊戯を覗かれるかも知れないと
スリルが、大人としての理性などにおかまいなく本能的にカラダを火照らせてしまうのだ。
汗ばんだ太ももの間に手を挟まれ、ぎゅうと押し広げられる。膝をすぼめて抵抗しようと
した時、財前がスカートの上からぐっと鼻先をお尻の谷間におしつけてきた。
「ひゃぅッッ‥‥っっ!」
 まるで女の子のような悲鳴をあげてしまい、口惜しく唇をかみしめたときには、すでに
男の腕にがっちり下半身を抱擁されて閉じることのできなくなった足を内側から歯と舌で
じくじくねぶりまわされていく。
 下唇に小さく歯を立て、こみあげてきたたまらない官能をみさきは味わいつくしていた。
普段と微妙に違う二人の関係。職場にいるという自覚が彼を敬語で呼ばせてしまい、それ
がまた一段とみさきの心に背徳感という焔を灯していく。
 つつぅとこぼれだしたオツユがショーツでは抑えきれずにストッキングにまで染みだし
ていくのを、みさきは快楽に呆けた意識で感じていた。スカートに頭を突っ込まれている
状況で、きっとクロッチにシミのできたショーツもストッキング越しの透けた秘部も全部
見られているに違いない。そう思えば思うほど、とろとろと濡れそぼったアソコの反応を
とめられなくなっていく。
「部長、ダメ‥‥口が、汚れて、しまいます‥‥」
「フン‥‥気にするものかよ」
 ニヤリと笑ったらしい気配がして、財前はストッキングもショーツも脱がさずみさきの
秘裂にむしゃぶりついた。ビクビクンと甘い電撃につらぬかれ、もはや立っていられない
みさきの両足をしっかり肩で支えながら、強引に舌先をねじりこんで甘い蜜をワレメから
かきだそうとするのだ。
「はぁン、ふぅ、ふぅぅぅ‥‥ッン」
 声をこらえたまま、みさきはパンプスの中で爪先を丸く折り曲げ、軽いアクメに達して
いた。キュウンとつきあげる愉悦の、格別な甘さにひくつき、なおもお股をいじくり回す
財前の顔を内ももでギュッとはさみつけてしまう。
 くぐもった笑いを残して、財前が彼女の下から顔をのぞかせた。
「ダメ‥‥でもないだろう? こういうのも」
 真っ赤な顔をそむけたまま、みさきはコクンと頷く。
 彼女とて行為の数は少なくないのに、財前の前では初心うぶな処女のようになすすべもなく
刺激を快感を根こそぎ絞られ、むさぼられてしまうのだ。
「今度は俺にもして欲しいんだが」
「‥‥」
 ふたたびコクンと頷くみさきの瞳は、燃え上がった情欲をなみなみとたたえていた。
 
 制服の胸をはだけ、スカートを腰までまくりあげたあられもないポーズで細田みさきは
ひざまずいている。見咎められたら言い逃れしようのない半裸の姿カラダを事務机の下の
スペースに隠して縮こまり、それこそAVかなにかのように、椅子に座った男の下半身を
熱心に両手と口腔で慰藉しているのだ。
 大きく足を開く財前の鼠蹊部に屹立する肉棒は、あきれるほど逞しくグロテスクだった。
何人もの女を泣かせたカリの先端を口に含み、よだれをたっぷりとためたまま、みさきは
彼に教え込まれたとおり上目づかいに視線を流して熱心に顔を上下させていく。
「う‥‥おぅ‥‥だいぶ、俺の好みを、知ってきた‥‥っク」
「ンブ、ぁぅング」
 くぐもった呻きがあがるたび、みさきは嬉しそうに目を細めてなお熱心に財前のモノを
しゃぶっていく。唇を丸くすぼめて血管の浮きでた肉桂にまとわりつかせ、時に頬の裏で
こすりあげ、ためらうことなく喉の奥まで突き入れては何度もディープスロートを重ねて
いく。これ以上ない従属的な奉仕行為に、男のモノを奏でながら彼女自身もはっきり下腹
部を疼かせていた。
 低く呻く男が手を伸ばしてみさきの頬を撫で、うなじから胸にかけてを指で煽っていく。
乳房をきゅっと揉まれると嫌々をするように肩をよじり、途切れることなくフェラチオを
続けつつ、肩口で乱れたつややかな長髪を指で梳きあげる仕草を見せるのだ。
 ゾクゾクッと震え上がるほどの脈動がみさきの口の中でわきあがる。男の限界を悟って
一気にペースをあげた細田の唇から、もぎはなすように財前は剛直を引き抜いていた。
「あぅ」
 ぬらりと濡れ輝いたシャフトがそりかえり、彼の腹部を打つ。物欲しげに喉を鳴らした
みさきの口から、透明な唾液のアーチが彼自身の鈴口までつうっと淫靡に糸を引いていた。
「おいで、みさき」
「‥‥はい」
 桜色に頬を上気させ、ぽうっとのぼせた瞳を悦びをためて、みさきは命令どおりに立ち
あがっていた。腰をつかまれて反転させられ、椅子に座ったままの財前のいきりたつ股間
に、自分から腰を沈めて行くようにカラダをリードされていって‥‥
「目をそらすな。自分でハメるんだ」
「あっ、はぁァ‥‥熱い、ですッ‥‥すごっ‥‥」
 ハスキーな声でよがりつつ、みさきはじわじわと自重でつながっていく肉と肉のせめぎ
あいに溶けた視線を絡みつかせていた。膝までズリ下ろされたショーツとストッキングが
職場での性行為というなまなましさを一層ひきたてている。
 ズブリ、ズブズブッと肉の狭間に食い入っていく怒張の窮屈さに、みさきはひときわ首
を振って快感を訴えかけていた。財前も普段以上に興奮しきり、いつもよりもグッと固く
凶悪にエラが開いて彼女の胎内を抉り貫いていく。
「はっ、ハァッ、あはぁァァっっ‥‥つ、つながりっ、ましたっ‥‥」
「まだだろう」
 息も絶え絶えになったみさきが男の手をまさぐり、信じがたい力で指先を絡めてくる。
3分の2ほど咥えこんだところでついに身動きが取れなくなり、快楽の波に飲まれたまま
腰を浮かすことも沈めることもできず、うつろな瞳で男の味を噛みしめているのだ。
 だが‥‥
 冷淡に突き放した財前はみさきの手をふりほどくと彼女の腰に両手をあてがった。その
意図に気づき、にわかに焦ったみさきが腰をよじりだす。
「あ、ダメ、駄目ェ‥‥待って、待ってください、もうちょっ‥‥」
「断る。今イクんだ、みさき」
 ガッチリ腰をホールドし、懸命に腰を突っ張らせて時間を稼ぐみさきの嘆願を無視して、
発情しきった裸身を、むき卵のようにつるりと滑らかな美尻を、一気にたぎった怒張の根
元まで引きずりおろす‥‥!
 女の恥骨が男の腰に叩きつけられ‥‥
 肉と肉とがぶつかりあう、パァンという甘やかな媚肉きしみが淫靡な水音を圧して響く。
「あっ、あはっ、あはハぁぁァァァッッ」
 子宮から噴き上げるような歓喜と苦痛に裸身をみっしりと貫かれ、意識が閃光に溶けた。
悩ましくよがりくるう肢体は海老ぞりにたわめられ、はちきれんばかりの乳房を天に突き
あげてそりかえり、なおもあきたらず衝撃にひくついて。
 みっしりと男の太さを呑みつくし、ヴァギナの底を拡張せんばかりのエラの張り具合に
ただそれだけで灼りついていた裸身は心底からエクスタシーの懊悩に震え上がったのだ。
狂ったように動悸が乱れて全身をかけめぐり、興奮しきった財前の怒張にカラダが馴れる
ゆとりもないまま悠々と深いストロークで動かれだす。
「あっ、あひぃ、待っ‥‥あぅ、んんんン、ンンンッッッ」
 母音ばかりが意味もなく羅列する声は懇願の体をさえなしていなかった。
 いつものように手首をつかまれ、裸身をうねりくる官能の波をきっちり噛みしめること
もままならぬままグイグイとピッチをあげてバックから獣のように犯されていく。喘ぎを
殺そうとしていたことさえ忘れ、暗いオフィスをすすり泣きでみたしつくして、みさきは
ひたすらなアクメの連続にガクガクと気をやっていく。
 そのたびにギュッ、キュウウッとひときわいやらしく緊まる肉壷を、微細な蠕動で砲身
から精を絞り取ろうとする女の機能を、冷ややかな瞳を細めたまま財前もまた痺れきって
無我夢中に責め上げていった。
 つかんでいた手首から腕へ、胸へ、うなじへと手をかけて彼女をふりむかせ、半開きの
唇を音高く吸い上げる。苦々しい自分の精とみさき自身の唾液がぐずぐずになって銀糸を
引き、舌先を吸い上げられてうるむ瞳が感極まったように見開かれる。
 パァンパァンという肉の律動は、めくるめく頂上までいともたやすくみさきを押し流し
ていった。快楽と愉悦の濁流に飲まれ、男の巧緻な技巧に嬲りつくされて、もはや彼女に
そそぎこまれた快楽から抵抗するすべなどない。イってイっても終わりのない無間地獄の
ような連鎖の中で、火のついた裸身をのたうたせ、みさきはひたすらに男の形だけを灼け
ただれた下腹部の底にしっかり焼きつけてひきつり、イキつづけている。
「おぅ‥‥いく、イクぞ、みさきっ」
「うンッ、きて‥‥ェェ」
 うなじをビィンとつっぱらせ、流し目を背後にくれながらほとんど無意識にほとばしる
セリフで財前への媚態を示すみさきの姿は、なにものにも変えがたいほどみだらで愛しい。
 技巧をほこる財前和明の持久力も、そこが限界だった。
 ドク、ドクっと、たまらずに爆発したシャフトから大量の白濁が流れ込み、一部は逆流
してボタボタッとオフィスの床を卑猥にそめあげていく。
 ズリ下ろされたショーツにもストッキングにも大量の愛液をしみこませながら、みさき
の裸身はそれでもなお絶頂の余韻に痙攣をつづけ、壮絶な美しさに全身を汗でまみれさせ
ながら、ギッチリ男を咥えこんで名残惜しそうに根元から絡みついていた。
 追い上げられ、ほとんど正体をなくすほどによがりぬいて‥‥ 


                   ☆


 はっと目を覚ましたとき、細田みさきは車内の助手席にいた。
 窓の外を流れゆくクリスマスのネオン。はっとして運転する財前和明の横顔を見やる。
「気づいたか」
「あ、はい‥‥あッ! えっと、その‥‥はい」 
 なにげなく答えかけての狼狽は、ようやく鮮明になってきた記憶が絶頂の瞬間で途切れ
ていたせいだった。快楽の底をなめつくし這いずり回って、あられもなく桃源郷に意識を
とばしている間中、財前に介抱されていたのだと気づいたのだ。
 見ればみさきは制服のままだった。さすがに気をやった私を抱えて女性社員のロッカー
室に入れなかったということなのだろう。
 はっと気づいてスカートの上からお股のあたりに手を重ねる仕草が面白く、財前が笑う。
「すまんな、今は何も履いていないだろう。後かたずけはしておいたが」
「うぅ‥‥すみません」
 まるで少女のようだと思いつつ、それでも羞じらいに小さくなってみさきは謝罪する。
落ち着いてきたのかほうと息を吐き、一つ深呼吸して財前に訊ねた。
「それでその‥‥どこへ向かうんです」
「俺の家だ」
 信号で止まった財前は、おどろくみさきに向きなおって話しかけた。
「言ってなかったか? 今日は家族が出かけているんだよ」


 深夜を過ぎたぐらいだろうか、彼に促され、細田みさきはかって一度訪れたことのある
一戸建てのガレージから降り立っていた。高級住宅街のなかほどにある立派な格式の家。
だが、なんだろう。妙な違和感が漂っているのだ。
 それは財前の態度にしてもそうだった。
 いつもの逢瀬と違い、やけに柔和で、口数が多い。ひたすら行為に没頭しみさきの躯を
むさぼる彼の本来の姿とは、どこか似ても似つかない感じがあるのだ。
 とまどいがちに胸のネックレスをもてあそびつつ、車を降りて彼の後につづく。
 おかしいといえば、これもそうだった。
 私に贈ってくれたこのネックレス。たかが不倫相手の愛人に贈るには、あまりに不相応
で高価すぎるのだ。宝石には詳しくないが、それでもこれがちょっとした結婚指輪よりも
高くつくだろうぐらい検討はつく。
 ぼんやり立ち尽くしていたのだろうか。気づくと、財前が玄関で彼女を待っていた。
 慌てて小走りになり、彼につづいて中に入る。
 ようやくそこで気がついた。

 これは‥‥この建物のうつろさは、生活感のなさなのだ。

 やけに乱雑に散らかった靴箱。しまいあぶれた革靴が雑多に並んでいて、そのくせ女物
の靴がまるで見当たらない。廊下をあがって奥のリビングが見えた途端、そのだらしない
室内の散乱ぶりに危うく声を上げるところだった。
 彼女の動揺に気づかず、どこか気のゆるんだような態度で財前が部屋の奥に歩いていき
ヒーターのスイッチを入れる。その仕草に、この部屋がついさっきまで外気温とまったく
変わらない寒さだったことに細田は思いいたった。
 立派な家。けれど、その中には誰もいない。いや、ずっと、いなかったのだ。
 冷えきった伽藍の洞は凍える社(もり)だった。ただ一人祭り上げられ、取り残された
主のためだけの。
 何もかもが、点と点が唯一つの線となり、くっきりした形となって表われてくる。
 おどろくほど優しく細田を抱きしめていた前回の逢瀬。
 クリスマスの予定を聞かれたときの、どこかぼんやりとした返事。
 あんな時間まで会社に残っていた理由。
 細田に贈るにはあまりに高価すぎる、やや古風なデザインのネックレス。
「どうしたんだい。入っておいでよ」
 みさきのスペースを確保しようと、部屋の中を片づけながら財前和明が呼びかけてくる。
急速に何もかもが色あせたような感覚に襲われ、細田は男の背を眺めていた。
 不倫愛からこその、激しく、むさぼるような逢瀬。
 あの時、クリスマスの予定を尋ねながら私は嫉妬していた。幸せな聖夜を過ごすだろう
彼とその妻と、その娘たちに。どれほど望んでも、渇望しても決して得られることのない、
妻というその座に。
 おそらく、だからこそ刹那の愛が狂おしく、2人はむさぼりあい求めあっていた。もし
それが日常となったとき、現実はどのように姿を変えてしまうのだろうか。
 財前和明という男性の3つの面を、今さらながらに細田みさきは思い起こしていた。
 辣腕の上司。
 乱暴で、あらがうことのできない悪い男。
 そして‥‥だらしのない、冴えない夫。
「あー、ちょっと待ってくれ。コーヒーを淹れてくるから」
 なおも声をかけつづける財前の後ろ姿。そこにあるのは、本当の意味で年相応の老境に
入らんとする、変哲のない一人の男性の姿だ。
 今、すがりつく手を差し伸べているのが誰なのか、彼女ははっきりと理解した。
 結婚というシステムに見果てぬ夢を見て、得られない狂おしさに眠れぬ夜を重ねた自分。
その位置を彼に差し出されたのなら、喜んで、ためらいなく座れるだろうか。籍をいれ、
妻となり、この男と残りの人生を過ごしていけるのか。自分より20も老いたこの男性と。
凝然としてつきつけられた現実に、細田は声もなくその場で固まっている。
 本能的な恐れと、逃げ出したいという強い衝動。
 けれど同時に、細田は彼を愛してもいた。
 もっとも苦しい時、一番最後まで細田をかばい、細田を守ってくれたのは財前だった。
彼がいたからこそに救われた。もし今が和明にとって一番苦しい時だとするならば、私は、
もっとも深いところで彼に大事なものを返してあげられるのではないだろうか。
 分からなかった。
 めまぐるしすぎる展開に、みさきは混乱の淵に叩き落されていた。
 廊下とリビングをつなぐドアの細い溝、それが、ルビコン川の彼岸と対岸のようにさえ
思えてくる。
「なぁ、みさき」
 ようやく、二つの真新しいカップを手にリビングの奥から戻ってきた男が口を開く。
「あらためて、メリー・クリスマス。君に、伝えたいことがあるんだ」
 さっき、廊下の電話台の脇においてあった白い紙。
 暗がりでちらとみかけたあの書式は、よくドラマで見かけるあれではないだろうか。右
半分にびっしりと書き込まれ、左が完全に白紙になっていた、あの紙こそが。
「みさき」
「みさき」
「話があるんだ、みさき‥‥君の気持ちを‥‥俺は‥‥」
 財前が柔らかく、何度も彼女の名を呼びかける。
 細田みさきは答えなかった。
 懸命に口を開いている彼の話の続きを聞くのが、一分後の自分の選択が怖かった。
 傍観者だった、傍観者であり続けた自分はどこへ行くのか。なにを選び取るのだろうか。

 ぎゅっとまぶたを閉ざじ、やがて、彼女はゆっくりと瞳を開いた。
                                  (了)


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