黒く艶やかなる獣の檻 その2

Novels Back Next    

(※当アトリエは成人向け・SM小説サイトです。検索等でお越しになられた方はまず こちら をご覧下さい)
 

ビッチリ後ろ手に溶接された上半身が、革の縛めにあらがいピチピチと軋みだす。
いや、本当に「あらがえ」るなら、どれほどマシか。
コンクリート詰めにされた鈍い恐怖。
あぶら汗を滲ませながら躯をゆすっても、アームアインダーの縛めは1ミリたりとも
反応しない。まるで肩から先が溶け落ち、飛べない翼に生え変わったかのような緊密
さで覆われているのだ。
悩ましく半裸の躯をくねらせるのがせいぜいというところ。
空恐ろしいほどの圧迫と密着感が、自暴自棄めいた諦めで心を塗りつぶしていく。
気づけば生徒の言うなり。
服を剥かれ、マゾ奴隷の拘束を施されている。
もしや‥‥私に呼び出された最初から、かなめは私をさらし者にするつもりだった?
「ううん、そんな目をしないで」
少女の瞳がどろりと濁る。
同じ境遇を哀れむかのように、ちろりと舌で唇を湿らせる。
「今の私だって先生とまったく一緒だわ。一人きりじゃ絶対に自由になれない、そう
いう拘束を施されているんだもの」
「うそ。嘘をつかないで」
ウソなんて。
ほら、見れば分かるでしょう?
愉しげに呟きながら、音羽かなめはくるりくるりと身を翻し、背中で棒のように固く
――私とまったく同じポーズで――束ねられた両手とアームバインダーを見せつけた。
トリックでも詐術でもない。
音羽かなめの後ろ手は拘束具にすっぽり包まれ、指先から肩のつけ根まで黒革の袋に
閉じ込められている。アームバインダーの内側で無力にうごめく少女の指は、衝撃の
情景だった。
濃紺のセーラー服をくびれさせ、厳しく両肩に食いこむ革ベルト。
ジッパーを引き上げた革紐が首輪のDリングをひっぱりつづけるため、彼女はあごを
反らしぎみに胸を張らざるをえない。その革紐を固定するラチェットさえ、ダイアル
錠で外せないのだから。
たしかに、音羽かなめはこれ以上ないほど完璧に拘束されていた。
じゃあ、誰が、私たちの拘束を解いて‥‥?
ふたたび同じ台詞が口をつきかけ、のどの奥でかすれてしまう。
「みなみ先生がこういう態度に出るのは分かってましたから。ちゃんと身をもって判
断して欲しいんです。この感触を」
「駄目。ダメなのよ‥‥だから、お願い」
‥‥このとき、私は何をお願いしようとしていたのだろう。
こんなSMの道具を舞台で使わないでくれという部活顧問としてのお願いだったのか。
それとも‥‥
もっと切迫した私自身のことだったのか。
この拘束をほどいて頂戴‥‥こんな悪戯はやめて、私を解放して‥‥
お願い‥‥
イジワル‥‥しないで‥‥
ついとあごを上げ、教師らしからぬ弱気な姿を見下ろすかなめは、けれどその先を断
ちきった。
「ほどけますよ、もちろん。脱出マジックに使うって言ったわ、私」
「え?」
「先生をいじめたかっただけ」
パニックじみた頭に放り込まれた一言が、思考を停止させる。
どっと安堵がおしよせ、心が破れそうになった。陸に打ちあげられた魚のように上半
身をよじらせ、少女へにじりよる。
「私の背中のダイアル錠。番号がわかれば、先生が口を使って外せるでしょう」
「そうよ、そうじゃない! それで二人とも解放されるわ」
「でも教えるつもりはないわ」
「なっ‥‥?」
冷えきった不意打ちの科白に凍りつく。
「吉岡先生はいいの。でも、みなみに‥‥みなみ先生だけにはきちんと知ってもらい
たい。私を丸めこもうとする前に、この拘束の意味を、一緒に感じてもらいたかった
の」
ギシギシとアームバインダーを軋ませて悶えながら、音羽かなめが切々と語りかける。
私を口説き落とそうと迫ってくる。
「違う、違うわ。丸めこむだなんて。聞いてかなめちゃん、私はただ‥‥」
「それに、どっちみち先生に選択肢なんか、ないですよ?」
この一瞬。
窓枠を震わすような寒風とともに、夕暮れの逆光がかなめの表情を塗りつぶした。
けれど、その中で見たのだ。
透明だったはずの少女からこぼれだす、淫らな小悪魔の微笑を。
甘く残酷な女主人(ドミナ)の悦びを。
「先生を拘束しているアームバインダーのカギ。昨日、郵送しちゃいました。先生の
ご自宅へ」
「そっ‥‥そんな」
「ごめんなさい、スペアはどこにもないの」
部室の床にへたりこんだ私に、近々と頬を寄せ、吐息まじりにささやく。
だから、今日はその格好のままで。
先生のおうちまで、私がエスコートして、送っていってあげますから‥‥と。


               ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


ウソみたい。悪質な冗談よ。こんな‥‥朦朧とした、躯が火照って悪夢じみて‥‥
生徒と二人仲良く、恥ずかしい姿で縛られていて‥‥
意識が、クラリ、クラリとかしぐ。
アームバインダーでの不自由状態に慣れているのだろう、音羽かなめがテキパキ下校
の準備をはじめていた。
咥えてきた通学鞄を壁ぎわに下ろすと器用に口だけで金具を取りつけ、背中を向けて
しゃがみこむ。アームバインダーの細くとがった先端に垂れ下がるリングをナスカン
に押しあて、カチリとはめこむのだ。
ほんのり誇らしげに、拘束姿の少女が頬を紅くする。
「ね? これで両手が使えなくても大丈夫なの。鞄を持って帰れるわ」
私は‥‥
足も心もすくんだまま、腰が抜けていた。
はしたない姿を女子生徒に見られる恐怖、同僚たちに視姦される恐怖。鞄もコートも
教員用の更衣室におきっぱなしのまま。こんな、女として無防備すぎるむきだしの躯
で、誰が残っているか分からない校舎内を戻らなければならない‥‥なんて。
じくじくとした下半身の疼き。
この疼きがおののきか、羞恥か、その他の感情なのかも分からない。ただ革の食いこ
む肌がカッと火照り、汗ばんでいくばかりなのだ。
「お出かけ用の支度をしなくちゃ。先生、手伝ってくれます?」
「う、うん‥‥」
放心しきったまま、従順に、音羽かなめにしたがう。
チョーカーめいた細い首輪を食み、少女が私のおとがいから唇をはわせていく。
私なんて、調教用の金具を咥え、あえかな少女のうなじに頬を寄せるだけでドキドキ
するのに。
しっとり皮が吸いつき、お揃いの首輪で施錠される。
咥えさせられたリードをそれぞれのアームバインダー下端のリングに通し、彼女のス
カートをくぐらせ、お互いに口を使ってパートナーの首輪のリードにつなぐ。
噛みしめた口の中でこだまする金属音に、ブルリと身震いが走った。
「準備は整ったわ。ねっ、行こうよ、みなみ先生」
こんな現実、ありえない。
ほんの30分前は、今夜のドラマや中間テストの準備で頭が一杯だったのに、気づけば
下着姿で廊下に連れ出されようとしているのだ。
「大丈夫。私もコート羽織りますし、先生にもブレザー羽織らせてあげますから」
「待って、イヤっ。私にはできない。できないわ。お願いよ‥‥」
「‥‥」
「かなめちゃんは慣れているんでしょう。かなめちゃんが、教員用の更衣室から私の
コートと鞄を取ってきて」
あふれだすのは拒絶ばかり。足がすくみ、膝が砕けそうなほど笑っている。
今もドアの脇に身を預け、立っているのがやっとなのだ。
うるんだ目ですがりつく私をどう思ったのか。
どこか冷淡な、けれど同情のこもったまなざしを投げ、かなめはチラリと目を落とす。
腰をひねってリードを見せつける。
「もうムリね。今、先生と私をリードで繋いじゃった。一緒に来るしかないです」
「な、なんでそんなイジワルを‥‥」
「まさか、親切よ。先生は体験したことないでしょう?」
かなめの瞳が刷毛でひいたように細まる。
淡い唇が紅潮し、吐息をもらす。
――縛られたまま一日放置されて、一人きりで過ごしたことがある?
――アームバインダーの上からカギをかけられて、家から学校まで通勤したことは?
――拘束された躯のまま痴漢の手からどう逃げだすか、知ってる?
「‥‥ね?」
「かなめ‥‥ちゃん。あなたは、どうしてそんなことを」
口元にうっすらと、ぎこちなく。
優しい少女の笑みをうかべ、音羽かなめがコツンと額をくっつけ、頬を近寄せた。
頭半分ばかり背の低いかなめが、つま先立って私に密着する。
「私‥‥私ね、かなめちゃん」
「はい?」
「怖くて、震えちゃって、一歩も動けないみたいなの。普通じゃない、こんな状況で」
「すぐに慣れるわ。だから、最初だけ、気持ちを分けてあげる」
私と同じになれるようにと呟いて。

‥‥みずみずしくも弾力に満ちた小さな唇が、私の呼吸をふさいでいた。

ちゅうっと吸いつく、暖かく濡れたつたない感触。
しゃぶりつくように慰撫するように甘い音を立て、やわらかい少女の口づけが震える
心を奪いさる。小柄な体に似つかわしい小さな唇が仄かに開き、首をかしげて更なる
まじわりを要求しながら、緊張とわななきの止まらない私の唇にとろとろと紅い舌で
雫をなすりつけてくる。
ノックするように、執拗に、かわいい舌先が私を誘う。
こんな、生徒となんて‥‥しかも同じ女同士なのに、ありえない‥‥
常識と理性のかけらが、崩れ落ちていく。
とうの昔に、最初に拘束されることを了承した時点で、私は日常を放棄していたのだ。
求められるがまま、おずおずと唇を開けていく。
「んっ‥‥んァ、ぁむ、ぅ‥‥」
「あふッ‥‥ん、ふっ」
大胆かつディープに、大人のキスだった。
ついばむばかりの積極性から一転、喉の奥まで侵略してくる少女の舌触りを、動悸と
同じくらい弾む舌で受け止める。
ぬるりとした体液の交換が心をあたため、おどろくほど嫌悪感はなかった。
閉ざしたまつげの下からひくひく揺らぐ瞳で私を観察し、深い深い舌さばきで私を篭
絡していく。絡めとられ、動きを封じられ、ザラリと唾液をまぶされて、一心不乱な
攪拌にあわせ、唾液をそそぎこむ。
拘束されたまま、抱きしめることも、髪をなでることもできない。
胸と胸を密着させ、太もも同士をからめあい、微熱と微熱をわかちあう拙い愛撫だけ。
彼女の雫が喉を灼き、つぅーっと滴り落ちていく。
息が苦しくなるまで見つめあい、燃えあがる唇同士は一度たりとも外すことなく。
「んっ‥‥キスは、あまり上手じゃないの、ね」
かろうじて少女にやり返す。
「へらず口。じゃあ今度、みなみ先生に教えてもらいます、ね」
「ええ。機会があったら‥‥ね」
はあはあと息を吸う唇と唇から、なまなましい雫のアーチが溶け落ちていく。
拘束され、火照らされ、絶望をかみしめて。
もう、充分すぎるくらい音羽かなめの望んだ世界に巻き込まれているのだと、この時
私は実感した。
もとより、自由を取り戻すまでは日常に帰還する手などないのだ。
「落ち着いたわ。この状況では、後はもう悲鳴をあげるか、かなめちゃんに従うか、
どちらかしかないものね」
「ええ。一つだけ、みなみにお仕置させてください」
「‥‥先生、でしょう?」
「みなみ先生をなだめるのに時間を使いすぎました。脱出マジックなら致命的な位。
これはその罰です」
かなめが私の胸元に顔をうずめる。
と次の瞬間、ブラの継ぎ目を咥えたかなめは、ずるりっとブラジャーを抜き取った。
淡く羞らった双の乳房が、ふるんとたわんで少女の鼻先をくすぐる。
「ひゃっ!? え、ええっ!?」
「さっきアームバインダーを着せたとき、ホックをはずしておいたんですが‥‥‥‥
着やせするんですね、先生」
「ちょっと、ヤダ、やめて‥‥かなめちゃん、返して」
「駄目。私に逆らわないで」
ひたと真摯な瞳が、あいまいさを許さぬ色で私を見上げている。
先生をリードしてあげますから‥‥
滔々と語りかけるそんな幼い瞳を信じてあげたくなるのは、一体どういうわけなのか。
暴行じみた行為をされていながら、彼女を責めることができないのだ。
異常な心理にあることは十分自覚できていた。
単に、原因となる異常な拘束状態から、今のままでは絶対に抜けだせないというだけ。
かなめちゃんに逆らうことへの恐怖心だってある。
いいえ、それが大半かもしれない。酷いことをされそうで怖い。全身がすくむ。
でも。それでも。
取り除きようのないアームバインダーの束縛は、緊張と、灼りついた異様な陶酔感を
もたらしていた。適応規制の一種だろうかと内心をひやかす余裕さえある。
どうせ、じきに余裕さえふっとんでしまうのだ。
「行きますよ、先生」
「ええ。いいわ、かなみちゃん‥‥」
あまりにも突拍子もない現実をつきつけられて、両腕の窮屈ささえ信じがたいほどで。
なし崩しで縛り上げられ、従わされているにもかかわらず。
私は、この謎めいた、よく知っていたはずの女の子に、心を奪われてしまっていた。
「どこへなりと、私を連れて行ってちょうだい」
ギイ‥‥
小さな小さな軋みと共に部室の扉が開く。
コートを羽織った少女と、ジャケットを羽織らされた女教師が、つうっと無音の廊下
へ歩みだす。
浴びせるような残照もすでに失せていた。窓の外はぼんやり昏く、うそ寒い。
ひえびえとした校舎の中を、不自由な姿の少女に並び、どこか雲の上に舞い上がった
おぼつかない足取りで一歩づつ踏みしめていく。
「ンッ」
思わずこぼれる喘ぎ。
ジャケットの裏地で擦りあげられ、勃ってしまった乳首がダイレクトに刺激を伝えて
くる。
そうでなくても、身じろぎさえ不可能なほどアームバインダーで固く締め上げられた
後ろ手のせいでバランスが崩れてしまうのだ。転んだらどうしようという不安さえも
ないまぜになって、たどたどしい足取りでしか進めない。
人の気配はなかった。
生徒も、巡回の教師の靴音さえない。
なのに裸身はびっしょり汗にまみれ、じくじくと躯の底で奇妙な反応をみせている。
無理もない。
今の私は、かろうじてジャケットを肩に羽織らされているだけ。
風のない校内だから飛ばされずに住んでいるだけで、あらわな胸元は全開なのだ。
窓越しに、向こうの校舎から見られていたらどうしよう‥‥
万が一にでも生徒が通りかかったなら。
その可能性を思うとキュウッと不快な疼きが下腹部を襲った。なまじ男性に見られる
より、同じ女同士だからこそ、そうした場合の対応は想像にかたくない。
ヘンタイとさげすまれ、爆発的に噂は広まり、私は学校を‥‥
「みなみ!」
「‥‥なんで呼び捨てなのよ、かなめちゃん」
「だって変な顔してる。切なそうな顔」
妄想、してたでしょ。
あまりにも的確な、年に似合わぬ観察力だ。この子はどうしてここまで鋭いのか。
「そんなに妄想が好きなら、ほら、こっちの階段から降ります」
「え、どういうこと?」
言われるがまま、普段とは違うルートを歩いて、踊り場で立ち止まる。
「あっ」
「顔をそむけないで。先生の、これが今の姿よ。妄想よりも凄いんじゃない」
叱咤の声が飛ぶ。
踊り場に降りきった私の前にいたのは‥‥もう一人の私。
腕を通せないジャケットをだらんと肩から羽織り、唖然として裸の上体をさらけだす。
第XX期生卒業記念と縁取りされた等身大の鏡の前で、下半身はスラックスのまま、
かろうじて乳房だけジャケットに隠した女性が映りこんでいた。
「こんなの‥‥ただのヘンタイじゃない」
惨めさのあまり呻く。
正面からだと、両肩に食いこむ革ベルトさえジャケットに隠れ、まるで好きこのんで
露出しているかのようだ。両足の間からアームバインダーの先端が見え隠れするのを
除けば、拘束されている女性だとは思えないほど。
「違うわ。見るのはそこじゃない」
ジャケットの襟を咥えたかなめが、私の裸身を包みかくす唯一の衣服をはぎとった。
あとに残されたのは、忌まわしい革装束だけ。
思わずしゃがみかけた私に肩をぶつけて引き起こし、鏡に押しつける。
「ほら、後ろを向く。先生の着せられたアームバインダーはこういう拘束具なんです」
「ああ‥‥こんな‥‥」
なんて残酷な縛られ方をしているの‥‥こんなのが、私‥‥
瞳がどろりと濁っていくのを感じとる。
首を振り向かせ、今度こそ、裸身を絞めあげる革拘束のすべてから目が離せなかった。
見るからに嗜虐的な縛めのカタチ。寄せてひねり上げた両腕を細い袋に押しこんで、
これでもかという位、幾重にも括っていく。
手首の根元にはひときわ太い革ベルト。バックルからは南京錠。
内側からでは絶対に外せない奴隷の仕掛け。
仮にこれを外しても、互い違いに交差する無数の紐が後ろ手を拘束具に捕らえ、ダメ
押しに最上部にも太いベルトが締め上げている。両肩のベルトから脱ごうにも、腕の
自由がゼロに等しいカラダではもがくことさえできない。
すべての拘束を外側からほどこす獣の檻。
縛られた女性には、何一つ、抵抗するすべさえ与えられない。
アームバインダーとはそうした拘束具。絶望を味わわせるだけでなく視覚化するのだ。
「どう? お望みどおり、恥ずかしい姿をさらけだして、妄想とどっちがイイの」
「望んでいないわ。あなたが私をこうしたんじゃない」
「強制はなかった。先生は進んで拘束されたの」
「それは‥‥」
痛烈な指摘だった。思わず唇をかむ。
「そうね。私が甘かった。先生としての仕事を忘れて、好奇心に溺れたみたい」
「その代償がコレ。ね。分かるでしょう。この機能性と残酷さが」
「‥‥」
顧問の教師として、それだけは首肯するわけにはいかない。
だが内心は同感だった。こんな姿で演者が舞台に出てきたら。そこから鮮やかな脱出
劇を演じてみせたなら。そのインパクトは相当なものだろう。
でも、こうして躯で理解させられたからこそ。
「かなめ‥‥」
「はい」
「最低ね。あなた」
「‥‥‥‥みなみに言われたくないわ」
「!!」
思わずかっとなって振り向く。
手が自由なら、この小生意気な女生徒の頬を平手打ちしていただろう。
激情のおもむくまま、あらん限りの力を両腕にこめた。女の細腕だろうがかまうもの
か。革の器具なんか引きちぎれたってかまわない。この子に相応の罰を‥‥!
――ぶるっと、裸身がひきつれていく。
――なんてこと。
――筋肉が吊りそうなぐらい力をこめたのに。
鏡に映った私自身は、軽く腰をひねり、アームバインダーの先端を持ちあげただけで
終わっていたのだ。
あまりにも惨め。あまりにも無力で無抵抗。
こんな状況下で裸をさらけだす危うさは、スリルを愉しむかのような彼女の行為に重
なりはしないだろうか‥‥
「駄目よ。怒らないで、今は私に逆らわないで」
少女が、毒にも似た淡い笑みをこぼす。刷毛でなぞったようにその瞳が無色に戻り、
促すかのようにリードを引いて歩きだす。同じアームバインダーで拘束された背中を
無防備に見せつけながら。
音羽かなめ。
この子は、どこまで私を翻弄し、私をもてあそび、愚弄するつもりなんだろう。
ぐずぐずに煮こまれた感情の渦が、私をかきみだす。
今はとにかく、私のマンションまでたどり着かなければならない。眩暈がするほどの
遠い道程を一つづつこなすしかないのだ。
そして、同じ拘束姿で微笑むこの少女に、すべてを握られている事実も、また。



                         Total  daily  - 
Novels Back Next bbs Entrance