黒く艶やかなる獣の檻 その3

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『この革の食いこみ‥‥似合ってるわ、みなみ』
『私に逆らわないで』
『逆らっちゃダメよ、みなみ。誰にも知られたくないんでしょう?』
『わかって、みなみ』
‥‥どうして。
すたすたと前を歩く瀟洒な制服姿を、うるんだ瞳でにらみつける。
一回りは年下のあどけない少女に何度も何度も呼び捨てにされて、こんなに動揺して
しまうなんて。
私は、注意どころか、たしなめることさえできない‥‥
はためく冬服のスカートと腰までの黒髪。
そこからのぞくのは、細く折れそうな後ろ手を固く束ねあわす、光沢ある革拘束の色。
自然体で身にまとう音羽かなめの振る舞いは、不自由さもいやらしさも一切感じさせ
ない。
まるで、制服の一部であるかのようだ。
なのに。
そんな教え子とお揃いのアームバインダーを着せられ、同じ首輪をはめていながら、
私はとめどない羞恥に襲われ、ヘンタイじみた裸身をさらすマゾのおののきに、喉を
ひくつかせていた。
同じ奴隷の格好をさせられているのに。
私だけが、音羽かなめの言うなりで、従属させられているのだ。
「んぁ、は‥‥ふ」
袖を通せないジャケットが風に乱れ、いきなり裸身をなぞりあげられ、んっと喘ぐ。


――踊り場の鏡のまえで、落ちたジャケットを咥えて拾いあげる少女。
――激情の名残りで震えがとまらない裸の肩にすりよる少女。
――すべてを見透かした瞳。
――ごくさりげなく、足をすくませていた私の肩甲骨にキスを降らせ、甘噛みして。


あまりにも自然で‥‥だからこそ、あまりに性的だった。
幼い声音と、うらはらの大人びた挑発が、何度もリフレインして意識をかきみだす。
アームバインダーごしに押しつけられた発育途上の胸が、まだ膨らみかけの、相応の
柔らかい感触を残していく。
「‥‥ン、んンッ」
意地悪なペッティングの感触がよみがえる。途端うなじが疼き、懸命に快感を噛み殺す。
生徒の口づけなんか期待してない‥‥のに。
なのに、小さな歯があざを残した首筋が、今も悩ましい愛撫の痕跡をくっきり残す。
つうと這いまわった唾液の道すじが、じくじくと甘い。
上半身の熱と火照りはひどくなる一方だ。
まるだしの乳房から肩甲骨のくぼみまで、すべて性感帯であるかのよう。
身動きを封じられたせいか、柔肌のすべてが過敏になり、何倍にも反応してしまう。
ううん、違う。
この格好は強制されただけ。快楽を噛みしめてしまうようなヘンタイじゃない‥‥
びくりと足が凍りついた。
無人の廊下遠くからこだましてくる靴音は、平衡感覚まで狂わせる。
耳からの刺激さえも私を翻弄していて、頭の冷静な部分は大丈夫だと判断しているの
に、カラダはそれを信じてはくれない。
お願い‥‥
こんな格好、生徒に見られたら言い訳もなにもできないの‥‥
部室棟の出口まであと少し。校舎に戻れば教職員用更衣室はすぐ。そこまでの辛抱だ。
不意にアームバインダーの先端を引っ張られ、大きくよろめいた。
くいっと手綱をあやつられ、引き寄せられる。
アームバインダー同士をつながれた私とかなめのカラダが、否応なく密着させられる。
「走って。みなみ」
「どうしたの‥‥かなめ、ちゃん」
「足音が近づいてきているわ。いま人に見られたら先生は終わり。一緒に走って」
音羽かなめが、一方的に身をひるがえす。
弾かれて足が動いた。もつれながらの足取りがまぎれもない焦燥に包まれ、バランス
の取れない身体をよじって走りだす。
「‥‥ッ!」
火花のような閃光がはじけた。
たゆんとバウンドした乳房がジャケットの裏地に直になすりつけられたのだ。ガクン
と腰が砕け、まったく無防備に、股間をくぐらせたリードが深々と下着に食いこんで
しまう。
甘やかな疼痛がダイレクトに神経を灼き、呼吸さえ忘れた。
いやっ‥‥
こんな刺激、欲しくないのに‥‥
緊張してパンパンに張っている‥‥オッパイが、しびれて‥‥ッッ!
走りながら‥‥頭の中は、アノことだけで‥‥
ほとんど目をつぶり、歯をくいしばって流れこむ官能の濁流をやりすごす。どろりと
混じりあう快感の塊が、尖りきった乳首から、桜色に染まりだす乳房から、間断なく
そそぎこまれてくる。
一歩ごとに双の乳房がブラウスに擦られて痺れ、目もくらむ衝撃で腰が跳ねてしまう。
「やめっ‥‥先生早いっ、転んじゃう‥‥ンァッ!」
「あっ、かなめちゃん!」
短い悲鳴とともにリードが張り詰め、全身がのけぞった。
つんのめって転び、反動で、先に倒れた音羽かなめまで廊下を引きずってしまう。
「だ、大丈夫?」
おろおろと少女のまわりをうろつくばかり。
助けたくても、カラダは後ろ手にねじりあげられ、アームバインダーを施されたまま。
抱き起こすことさえできない。
アームバインダーにバランスをとられて何度も転び、少女は起きあがれずにいた。
無力さに歯噛みしつつ、肩を差し入れ、どうにか立ちあがらせる。
次の瞬間、音羽かなめが私にしがみついてきた。窓がわの柱の陰に押しつけられる。
「か、かなめちゃん‥‥ゴメン」
「間に合わないわ」
軽やかな足音が、終末の鐘のごとく響きわたった。
吹奏楽部の子らしい大きなケースを肩から下げた生徒が、廊下の向こうの階段から姿
をあらわしたのだ。
「どうしよう‥‥先生が、危ない目にあっちゃう」
下をむいた音羽かなめが、本当に悔しそうに唇を噛みしめる。
「そこの教室に逃げこめたら。でもこのカラダじゃ私も先生も扉を開けられないもの。
このままじゃ先生がさらし者に‥‥」
「あの子、まだこっちに気づいてないわ。逃げだそう」
「ムリなの。ごめんなさい、私、足をすりむいちゃったみたいで、すぐは走れない」
‥‥緊張と快感に溺れ、忘れかけていた教師の意識が戻ってきた。
恥ずかしいのは私だ。
なによりも、音羽かなめを気づかわなければならなかったのに。
「ご、ゴメンなさい。私のせいでケガ、させちゃって‥‥いつもの勢いで走ったから」
「体育の先生だもんね、みなみは。足早いんだ」
「あ、当たり前でしょう?」
こつこつと迫る室内履きの足音が、意識をぐちゃぐちゃにする。
教師として、音羽かなめを守らなければならない私。
拘束を施された悦びにあえぎ、露出プレイにうろたえているマゾの(いや違う、なんで
そんなこと‥‥思うの‥‥普通なのに‥‥)の私。
どう、どうしたら‥‥。
音羽かなめがジャケットの前を咥えて閉じあわせ、上から小ぶりの胸をおしつけてくる。
みっしりと、私の乳房をたまわせながら、かなめが囁く。
「もう時間ない。演技して」
「な、なにを」
「私に合わせて。みなみはいつもの先生を演じきって。動揺しちゃダメ」
とたん、かなめはすすり泣きしはじめた。
「私‥‥また、演技に失敗しちゃって‥‥文化祭も近いのに」
「か、かなめちゃん‥‥?」
「不安なんです、期待を裏切れないし、けどパートナーにも反発されて」
びっくりするほど大声の音羽かなめにのけぞりかけ、けれどその身がびくりと縮まる。
すぐ3メートルほど先に、女生徒がいたのだ。
あ、と口の中でつぶやきかけた女生徒が、歩きながら頭を下げてくる。
思わず視線が泳いだ。
どうにか会釈だけ返す。でも顔は合わせられず、まして彼女の表情など見えなかった。
唇のあたりがひきつっているみたい。束ねられた後ろ手にちぎれそうなほど力がこも
り、腰が砕けて、膝なんて笑いかけている。
心臓が今にも破れそう。
耳の裏で、ドクンドクンと血管が脈打っている。
壊れたピストンのように弾み、顔に血が上っているのを自覚する。
触ることも直すこともできないスラックスの奥がじわりと熱を帯び、痙攣のさざ波が
体の芯へ広がっていく。
「みなみ先生。私、彼女をどう引っ張っていったらいいのか」
「だ、大丈夫よ‥‥あなたの、し、していることは正しいの‥‥もっと自信を、ッ」
「‥‥」
「自信を持って、自分の思うすべてを教えこんであげて。それで良いの」
通りしなの、生徒の一瞥に震えあがる。
女子校特有の、いかにもさりげない‥‥けれど遠慮のない観察の視線が痛かった。
だめ。そっちを意識しちゃだめだ。自然じゃないと。
「い、いいんですか‥‥みなみ先生」
抱きつくようにおおいかぶさり、音羽かなめが私を隠してくれている。
けれど、私の上半身は見えているのだ。
うなじから肩甲骨まで肌がのぞき、不自然に羽織るジャケットも気づかれているはず。
ひしゃげたむきだしの乳房が、脇からのぞいてないだろうか‥‥
「ッ、ぁン」
「――先生、どうしたんですか?」
思わずビクッと背が突っ張り、そこで、今のがかなめの声だとようやく気づく。
両手をとらえて離さない革拘束が恨めしかった。
顔や態度、あるいは仕草から、破廉恥な奴隷の躯を見破られてしまうのではないか。
施錠まで施されて、残酷なアームバインダーの軋みに酔いしれている私を‥‥
「か、かなめちゃんの意思が大事なの。最後までやりとげなさい」
「はい」
私を見上げるかなめの瞳が、つうと横に流れていく。
釣られて目が動き、女生徒が遠ざかっていくことに気づいた。不思議そうな顔を一瞬
見せたものの、彼女はそのまま歩いていく。
遠ざかっていく足音が完全に消えるまで、全身を尖らせ、追いつづけた。
あの大きさはチェロなのか、滑らかな曲線を描くケースが遠のき、廊下の角に消える。
吐息をこぼし、何か口にしかけて顔を戻す。
「んンンッッ!?」
――音羽かなめの濡れた舌が、私の中に、あった。
声など、出せようもない。
いきなりのディープキスで、口腔を侵されていたのだから。
お互いの鼻がくっついている。そこから呼吸の荒さ、動悸のひどさ、どれほど私たち
が緊張していたかを実感してしまう。
びっしょり汗をかき、昂ぶり、少女も私もドロドロだった。
夕暮れの校舎で。
それも、いつ生徒が通りかかってもおかしくない廊下の片隅で。
蕩けそうな、甘く溶けだす粘液同士の愛撫が、長く、名残惜しく、つづけられた。
水音さえ卑猥で私を没頭させてしまう。
こんなにも無我夢中でむさぼりついてくる音羽かなめが、この瞬間だけはたまらなく
愛おしく、性的な魅力をおびて輝いている。
交わりが濃くなるほど私の躯も潤み、つんと尖りだす乳首を意識してしまう。
小さな唾液の塊をそっと舌裏になすりつけてやると、やるせなげに少女は目を細めた。
コク、コクンと喉が動くのを見届けて、音羽かなめの唇を解放する。
‥‥いや、解放されたのだろうか。
この瞬間だけは、どちらがどちらを責めていたのかわからない。ぽーと見つめあう。
やがて、華のような笑みが少女の面立ちをいろどった。
「上出来。よくできました、みなみ」
涙のあとを残したまま、さっきまでの高ぶりを欠片も見せずにっこり笑う。
そうか。
この涙も、彼女の演技だったのか。
「ねえ先生。見られるって事は、演じるって事なの。先生の仕事もそうでしょう?」
「そういう部分もあるわ」
空気が親密な色を帯び、緊張の質が変わりつつあった。
このハプニングで、私と音羽かなめは何を共有してしまったのか。
‥‥共犯者はだれなのか。
「なら演じきらなきゃだめ。ねえ先生、秘密は秘密よ。普段通りでいる限り、ここは
日常。残酷な拘束も、羞じらいも‥‥キスだって全部。秘密は2人だけのもの。でも
先生が動揺したりして、そこから生徒や他人にバレたら」
「‥‥‥‥‥‥‥‥そう、ね」
痛いほど理解できた。
危うい綱渡りを踏みはずした瞬間、日常は終わりをつげる。
全裸で拘束され、肌を汗ばませた女が二人もいるという事実。それがどれだけ破滅に
近い地点か、聞かされるまでもない。
ぎゅっと私の胸に顔をうずめ、音羽かなめが、いたずらっぽくこちらを見上げる。
「先生は、私の先生でしょう?」
「こんな時だけ先生扱い? ズルいのね。でもそうよ」
「なら、私を守りたいなら、みなみがしっかりして。でないと2人とも終わりです」
「ン。わかったわよ、生意気なご主人様」
「違うもん。私たち2人とも奴‥‥」
抗議しかけた少女の額に――はじめて自分から――チュッと唇を押しあてる。
音羽かなめは呆けたように頬を紅く染めあげ、上目づかいにおどおどと睫毛を伏せた。
その可愛らしさに、胸のどこかがキュンと締めつけられる。
「あ。みなみ‥‥」
「橘先生と呼びなさい。いつまで私の胸を鼻息でいじめるつもり?」
ぷいっと顔を背けるふりして、上体で彼女を押し返す。
ぴりぴりと痺れかける、はかなく淡い快楽の前兆が、かなめの温もりとともに裸の乳
房を、腰を‥‥アームバインダーに包まれた手首さえも絡めとっていた。
ぐいとリードが張りつめ、ふたたび歩かされていく。
縛られている――
あまりにも無抵抗なまま、これから、私は野外へ引き出されていくのだ。
手馴れた調教師に躾けられる子馬のように、少女に手綱をひかれ、校舎を歩いていく。
下半身の底が渦を巻き、じわりと溶け、疼きはじめる。
もう、隠せない。
露出プレイまがいの衝撃で、私のなにが変わってしまったのか。
ほつれきった半裸の裸身をゆすりたて、固く縛められた奴隷の味を噛みしめながらの
道のりは‥‥無力なだけに、どうしようもない、スリルだった。


               ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


――おそれていた女性職員や同僚たちの姿はなかった。
大きなため息をつき力を抜く。ここで吉岡主任にでも出くわしたらすべてが水の泡だ。
更衣室には、暮れなずむ夕陽の翳りがたちこめていた。
「ね。ロッカーを開けられないわ、この躯じゃ」
「工夫しなさい、みなみ」
私とみなみは同じカラダなのよ?
からかうように音羽かなめがアームバインダーの後ろ手をなすりつけてくる。
少しの屈辱を味わいつつ取っ手に噛みつき、獣のように歯を使ってロッカーを開けた。
肩がけのポーチを引っぱり出す。
音羽かなめが唇を器用に使い、ジャケットのボタンを留め直してくれた。インナーが
ないから、ひどくきわどい胸の谷間まで肌が露出している‥‥それでもずっと普通。
ファーコートをはおり、腰を結べば目立たない。
「お財布は? 忘れ物ない?」
「最初から財布はジャケットの内胸ポケット。定期もクレジットカードもね」
「なら、あとは一つだけね」
ぐっと私の背をロッカーに押しつけ、屈んだ少女がスラックスのベルトに口を寄せた。
「下も脱がすわ」
「なっ、何を‥‥やめて!」
びっくりして、思わず音羽かなめに対し、声を荒げてしまう。
不思議そうに彼女がこちらを見あげる。
「忘れたの? 自分の立場を」
「なんのことよ」
「教えてあげるって、私、言ったわ」
”――拘束された躯のまま痴漢の手からどう逃げだすか、知ってる?”
どくん、と。
やっとの思いで、心臓が大きく脈を打つ。
いつのまにか、音羽かなめは自分の鞄から光沢のあるモノを取り出し、咥えていた。
からまった革ベルトの束のようなもの。用途は分からない。
「答えのひとつはコレよ。一番いやらしいところを悪戯されないように守らなきゃ」
「いやよ私。絶対にいや」
「‥‥みなみ」
ずいっと、音羽かなめが迫りよった。
アームバインダーの革紐で首輪を後ろに引っ張られたまま、まっすぐ私をのぞきこむ。
「お願い。私、みなみを危険な目にあわせたくない」
「なっ」
絶句しかけた私に、さらにかなめが畳みかけてくる。
「私一人ならどうでも対処できるわ。でもみなみは、初めてでしょう? 私、この躯
じゃみなみを守りきれないもの。だから‥‥みなみ先生が、汚されないためにも」
彼女は本気で、私に懇願していた。
うっすら目尻を水っぽくうるませている音羽かなめに、不覚にも胸をつかれ動揺する
‥‥でも、彼女は涙さえ演出していなかっただろうか。
「わ、私を‥‥ここまで弄んでおいて、さらに、辱めるつもりなの?」
「違うったら!!」
思いがけず、ぎょっとするほどの大声をかなめが上げていた。
驚き、あわててなだめようとする私を振り切って‥‥不自由な奴隷の身を揉みねじり、
きゃしゃな腕が抜けそうなほどきりきりと革拘束を軋ませ、懸命に訴えかけてくるの
だ。
「なんかあった時が怖いのよ! 先生を傷つけたくないの。ね、いいでしょう? 私
が守ってあげるから。貞操帯を嵌めさせて? これさえつけておけば、痴漢もカギを
外せないから安心なの」
「かなめ、ちゃん。声、声を下げて‥‥!」
「だからね? 貞操帯を、履いて欲しいの。しっかりと、施錠させて‥‥!」
頭がまっしろになる。
甲高い少女の声が、廊下に漏れでもしたら。
‥‥際限なく高ぶっていく生徒を鎮める手なんて、私には一つしか思いつかなかった。
やわらかい唇をふさぐ。
唇から唇へ。冷静な吐息を、したたる雫とともにどろりと流しこむ。
かなめの瞳がこぼれんばかりに見開かれ――けれど、彼女は抵抗しようとしなかった。
下肢に膝を割りこませ、もどかしくカラダをからめてくる。
んふ、んふっ、と、乱れた鼻息を愛しく思いながら、私は何度もかなめを愛した。
舌と舌をからませ重ね、一心不乱に追いまわす。
「ん。ンーー!!」
じたばたと、細いうなじをうちふってかなめが抗議に身をよじった。
かまわない。逃がさないようにしっかり舌を歯で捉えたまま、徹底的に慰撫したのだ。
カラカラになるまで啜りあげ、次には倍のしたたりをそそぎこむ。息継ぎのゆとりも
与えず、肺活量に物言わせてひたすらになぞり回す。淡い面立ちに赤みが差し、瞳が
うつろになり、大人びた欲情に染まっていく。
「ひおい‥‥ひど、いわ。みなみに、お、犯された‥‥」
「その口がよく言う」
――激情はおさまったらしい。
今は、おとなしく私を見上げて、返答を待ちわびている。
もごもご痺れた口唇を動かすかなめに密着し、形良い耳たぶにぬるぬる舌を這わせた。
「本当にわがままで強引な子ね」
「ひぁ、みなみ、ぃ」
「あなたの勝ちよ。どうせ今の私じゃ、かなめちゃんに逆らえないもの」
かぷりと耳たぶにかじりつく。
むぐむぐと歯をたてたまま、あらがうそぶりのない少女の熱を絞りだす。
敏感な肌を甘噛みされ、ひぅ、とやるせなくも蕩けた呼吸をこぼす少女にささやいた。
「いいわ。はめてちょうだい。貞操帯」


               ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


「下着‥‥沁みているわ」
「う、嘘ッ」
「いいの。ただの生理現象。誰でも、初めて縛られてカラダが慣れるとこうなるの」
「う‥‥」
我慢できずに嫌そうな声をあげてしまう。
少女が鼻面を寄せる先‥‥スラックスを下ろした下半身に音羽かなめがへばりついて
器用に口で革の束をほぐしていた。
貞操帯は、下腹部にまきつける革拘束だった。ウェストのくびれを一周し、へその下
に下ろして股間を締めあげるらしい。
確かに、下着には、ほんのわずか水っぽい気持ち悪さを感じてはいたけれど‥‥
わきあがる羞恥心が、私をおかしくしていた。
驚くほど上手に革ベルトのバックルを口で外し、かなめが貞操帯を腰にあてがう。
「恥ずかしいでしょ。目をつぶっていいよ」
「う、うん」
言われるがまま目をつぶると、さらに肌の感度があがるようだ。腰に何かがまきつけ
られ、ぐいと下着の上からベルト状のものがまとわりつく。
「な、何をしているの」
「ぴったり食い込む場所を探しているの。見たい?」
「‥‥」
ベルトを咥えたままのくぐもった声に、返す言葉もない。
見たくない。赤ん坊のように世話をされ、濡れそぼった部分をさぐられているのだ。
「イヤラシイこと考えてない? どんどん沁みてるよ」
「こ、こんな‥‥ムリよ‥‥ねえ」
「絞るよ。声、我慢して」
頭がぐるぐる訳の分からない堂々巡りを繰りかえし‥‥なにか言い返そうとした刹那。
――口を半開きのまま、声もなく叫んでいた。
あまりにも異質で、未知。
股間の谷間にギチリギチリ革ベルトが食い入り、火照った土手を裂いて埋まりだす。
ベルトの裏地、なのか。
敏感なところに、もどかしくも膨らみのある異物が触れて‥‥
思わず爪先立ったお尻のすぼまりさえ突き上げるように、にちりと突起が押しこまれ
てくる。きゅきゅっとお尻の肉を左右にかきわけられ、尾てい骨の下へぎしぎしっと
梳きあげた革ベルトの先端を引き結ばれてしまう。
「――あ、はっ、はひ‥‥っ」
「できたわ。カギもOK。みなみも見る?」
カチンと施錠をほどこした音羽かなめが、笑みをたたえていた。
すぐには声が出せない。
おののきながら見下ろす瞳に飛びこんだのは、下着ごしに女の部分を辱める、黒革の
細い拘束ベルト。狭隘な谷間にぐいぐい押し入り、濡れた生地さえ巻きこんで消えて
いる。
「はっ、外して‥‥」
「無理なのは知っているでしょう。カギないもの。緩めるのもムリ」
「う、うぁ‥‥こん、な」
「大丈夫。最初はびっくりするけど、数分で慣れる。歩けるようにもなるわ」
頭が、バラバラになりかかっている。
なんで、なの‥‥?
音羽かなめの心に、少女らしい気づかいに、触れることができたと思っていたのに。
やわらかく幼い笑みに心奪われているうち、さらに容赦のない拘束の追加オーダーを
ほどこされてしまっているのだ。
しかも‥‥
これ、貞操を守るものなんかじゃない。
カラダの深部から、被虐的な女の官能をこじりだす仕掛けに満ちている――
「ねえ。みなみ、忘れてない?」
「あ、へ‥‥ぇ?」
「アームバインダーが恥ずかしい拘束具かどうか、それを確かめるために先生は試着
しているんでしょう? こんなので感じるわけがない。そうも言っていたわ」
反論‥‥など。
頭の奥に押しやられかけていた事実を、かなめが丁寧に思いおこさせる。
ギシリと同調する革が軋み、拘束を味あわされて身悶える。
「先生はそれも忘れるほど、アームバインダーのいやらしさに溺れていたんですか?」
「‥‥ふ、ふさけないで。何度、私をだませば気が済むの」
睨みつけると、かなめはむしろ微笑んだ。
「だますなんて。ベルトはきつく締めないきゃ。指をねじこまれたり脇にズラされる
わ。そのせいでちょっと感じちゃうのは‥‥副作用みたいな、ね」
首輪のリードを手繰られ、私に、選択肢はなかった。
「ひとつだけ教えて」
「‥‥なに?」
「ウソをつかないと約束して。その上で質問に答えて欲しいの」
「いいわ。みなみの言う通りにする」
残照のなか、薄く目をあけ、逆光をあびた少女が居丈高に言葉をつむぐ。
思わず唇を噛む。
なにが『言う通り』なものか。私こそ、彼女の言いなりにさせられているというのに。
でも、どうしても聞かなければならない。


「あなた――私を破滅させたいの?」


沈黙は重かった。
質問の深さをはかるように、たどたどしく、音羽かなめがしゃべりだす。
「‥‥決して。逆。絶対に、みなみを危険な目にはあわせない。アームバインダーを
味わってもらうだけ。だって‥‥信頼してるもの、私、先生を」
「説得力ないわね」
「でも事実。私‥‥みなみ先生が、大好きだから」
ゾクリ、と背筋が粟立った。
生徒の「好き」ほど嬉しいセリフもない。普通ならそれは信頼の証。でも音羽かなめ
と私は、3度もディープキスを交わしたのだ。そんな彼女の「好き」は、私をどんな
風にしてしまうのだろう。
ため息、だった。
目をしかめつつ下半身に力を入れてみる。
ひどく淫靡な感触が一足ごとに下半身から響くけど、でも、歩けないことはなさそう。
むしろ慣れたとき、このじくじくした疼痛に溺れそうなのだ。それが怖い。
「かなめ」
「ン。なに? 先生」
生徒だからこそ、彼女は、彼女にしかできない方法で私を篭絡した。
私をどうしたいのかなんて分からないけど、音羽かなめを信じるしかないのも事実。
今の私は、彼女のものなのだ。
コツンと額をくっつけあう。鼻をつつきながら言う。
「かなめ、私も好きよ。教師としてじゃなく、女同士として。だから、放課後の今だ
けは、かなめを呼び捨てにする。いい?」
「うん。もちろんよ、みなみ」


教師だからこそ――私にしかできない篭絡の手段も、もちろん、ある。


甘い悦びが、制服の上から少女をいろどっていた。
軽やかなステップを刻み、薄い笑みをうかべ、ひらりと少女がスカートをひるがえす。
「うふふ‥‥じゃあ、覚悟してね、みなみ」
「なに、かなめ」
「人前で、見られながらの緊縛プレイよ。絶対に感じちゃダメだからね」
「‥‥ン。怖いわ。お手やわらかにね」
たっぷり苛めて、カラダを火照らせてあげるから。そう、怜悧な瞳を細めて、少女が
宣言する。煽りたてる台詞の苛烈さに、分かっていても背筋がゾクゾクとよじれた。
うながされ、肩をならべて廊下へ歩みだす。
おそろいの衣装を着せられ、腰の裏側で、キュッとすぼまったアームバインダーの先
を見せつけながら。
彼女の助けを借り、どうにか下駄箱でローファーに履きかえる。
校舎を出たとたん、渦をまく路上の風が私たちに襲いかかり、びくんと上体が傾いだ。
膝が砕けそうなほどガクガク笑っている。
「大丈夫よ。深呼吸して」
「え、ええ」
どれだけ強がって見せたところで、不安とおののきでテンションがおかしいのは事実。
家にたどりつくまで、私は無力な人形そのもの。
満員電車の混雑や突風でコートを奪われ、最悪の結末を迎える可能性もある。
けれど‥‥
じくりじくりと溶けていく下半身を意識から締めだす。
緊張と火照りで加速する躯に、おののく心が追いつかないだけ。
このスリルを、奴隷の道行を、きりきり全身を食い締める革のせせらぎを‥‥
私は、愉悦に感じはじめていた。
一足ごとに下腹部を疼かせる、大胆でいやらしい拘束の味とともに。



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