黒く艶やかなる獣の檻 その4

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学園から踏みだせば、そこはまぎれもない野外だ。だらだら曲がりの坂が駅まで下り、
はるかな稜線に沈みゆく残照が煉瓦畳をまだらに染めあげ、吼えたける木枯らしでポ
プラ並木が怯えだす。
私は、この風景が好き。重厚な学び舎も、高台から望む夕暮れも。
名だたるお嬢様学校で子女をあずかり、まっとうする教職は、何ごとにも代えがたい
――なのに。
「‥‥‥‥んぁッ」
靴音を残し、つま先でターンする。
とたん、甘痒い疼痛が子宮のへりまでぞぶりと這いあがり、悩ましくも吐息が乱れた。
目のふちにどろりと欲望が溜まり、鼻息をふうふうとあえがせる。
スカートでないことが今日は恨めしかった。
スラックスのせいで、なおさらぴっちり拘束され外せなくなった気分だ。革ベルトは
小気味いいほど股間にきゅうきゅう食い入り、たまらず爪先立ってしまう。それが、
次の連鎖をこじりだす。
私は――おぼれているのだろうか?
状況に流され、こっそりとこの愉悦を噛みしめ、味わってはいないだろうか。
いいや。「愉悦」では甘すぎる。
全身が爛れていく。あまりの焦りに心が追いつかない。動揺すればするほど、柔肌が
汗ばみ、チリチリ鋭く蝕まれていく。ねっとり毒めいたスリルが、中と外からサンド
イッチのように私の官能を絞りだし、女の恥部を目覚めさせていく。
このカラダの秘密を知られたら、すべてが終わる。
今味わっているスリルとおののきは、極限のもの。取り返しのつかないプレイなのだ。
ふいに、耳たぶに熱い息が吹きかけられた。
「ふふっ‥‥いやらしい娘」
「ひァ、ッ」
「先生、頭の回転が早いのよね。だからだよ。こんなに――似合ってる」
背伸びして頬をすりつけ、音羽かなめが、年相応の淡白な美貌に笑みをにじませた。
唇をねだられたのかとドキリとしてしまう。
「また妄想、してたでしょ。すっかり気分出しちゃってない? 白状して」
「‥‥許して」
「ダーメ。許さないわ。どんな妄想か教えなさい、みなみ。生徒みんなにバレちゃう
妄想? 恥ずかしいマゾだって知られちゃう妄想?」
いけない、と直感する。
少女の言葉をまともに受けとったら巻き込まれるだけ。からかわれているだけだ。
背後からまわりこむ冬服姿の少女を、ついと押し返す。
「かーなーめ? あまり暴走すると」
「許さない? いいわ。私にも罰をちょうだい。先生の好きにして?」
「‥‥っ」
ふに、と私の胸へ、ファーコート一枚へだてて丸出しの乳房の谷間に、音羽かなめが
顔をうずめた。危うく声を押し殺す。かなめが、瞳の色に笑みをにじませる。
「私も同じだよ。先生の奴隷だもの。ねー」
「‥‥」
直球の科白をぶつけられ、言葉を失う。ぞくぞくっと痙攣のさざなみが走っていく。
見あげた学園の深い影に、ぶるりと心が震えあがる。
私は――私たちは、まぎれもなく野外に放り出されているのだ。
助けを求める相手もなく、ただ無防備に、無抵抗に括りあげられただけの奴隷同士が、
仲良く縄尻をつながれたきり。
可憐ではかない少女の肉づきから、微熱がつたわってくる。
音羽かなめのカラダさえ、冬服の奥でみっちりアームバインダーに捕らえられている。
セーラーカラーで肩ストラップを上品に隠しているため、この幼い少女が自縛の縄目
に酔っているなどとはとうてい思えない。清楚な姿なのだ。
アームバインダー連結した首輪を後ろへ引かれ、つ、とあがったおとがいが、まるで
キスを求めているよう。
かなめと二人、じゃれあい、からみあいながら、のろのろ学園前の坂を下っていく。
世界が、これほどの刺激とスリルに満ちているなんて。
信じられない。いまだに、この状況が。
こっそり悟られぬように肩をしならせてみる。腕をひねり、手首をこじっていく。
「ンっ」
‥‥ダメ、だ。
ほとんど1〜2センチも動かせない。
さりげなさを装って首を傾け、自分の背中に目を落とす。
コートに隠されて、ぴんと揃えられたアームバインダーが両手を括り合わせていた。
逆三角を描いて上腕から指まで、完全にラッピングする革の拘束帯。
その一番細くきゅっとすぼまった先、真上から革ベルトに絞りたてられ、駄目押しの
南京錠まで施された手首のつけねの部分が、コートの裾からのぞいている。
それは――絶望的な情景だ。
自分の手が外に見えないというのが、衝撃的だった。
指の先まで拘束に包まれ、何一つ逆らうことのできない体にされてしまった現実。
見えているはずの指の代わり、アームバインダーの先端から鉄のリングが垂れている。
懸命にもがくと、自分の指の形に少しだけ革の袋がつっぱるのが分かる。その眺めが、
ひどくマゾヒスティックでいやらしい動きなのだ。
音羽かなめの体も同じだった。
いや、むしろ彼女はさらに卑猥でいやらしいかもしれない。
濃紺のセーラー服を着たローティーンのかなめは、ぱっと見、澄まして後ろ手に鞄を
提げている風に見える。だから、それが拘束具のナスカンに繋がれたものだと気づく
瞬間のいやらしさは筆舌に尽くしがたいだろう。
そして、運良くそれを知った者は、無抵抗の少女をおもちゃにすることができる‥‥
「ン‥‥っ、ふ」
こんこんと沸きだす妄想を、ぎゅっと脳裏から締めだす。
一歩、一歩。
濡れた下着のよじれたクレヴァスに負担をかけないように。
理不尽にあつらえられた革装束に躯を馴らしていく。迂闊に身もだえれば、繋がれた
手綱ごしに反応すべてが筒抜けだ。人知れず、疼きだす躯を慰めるしかない。
かなめが、ついと身を伸ばす。
その反応でドキリとなり、逆に緊張がはりつめた。女子校特有のさえずりめいたおし
ゃべりの声が近づいてくる。学園の生徒が数名、駆け下りてくる。
「大丈夫。みなみは普通でいて」
私をかばって少女が囁きかける。その気づかいが愛おしかった。下腹部の忌まわしい
ベルトを咥え返すぐらいにぎゅっと腰で噛みしめ、背筋を正す。
アレンジした三つ編みを胸のうえで弾ませ、生徒たちがカーブを曲がってやってきた。
ぱっちりとした二重の少女が、こちらにチラと目をくれる。
「あ、楠先生! さよーならー」
「あんまり走っちゃダメよ、砧さん。おしとやかにね」
「えー。先生が言うかナ?」
女子生徒との、ほんの一瞬の会話。なのに、びっくり箱のように鼓動が跳ねている。
‥‥顔は赤くないだろうか。
‥‥自分では直すことのできないコートの胸元は大丈夫だろうか。
‥‥着せられた奴隷のコスチュームはバレないだろうか?
革ベルトが食いこんで引きつる肩とうらはらに、少女たちが横を通り抜けていく。
ほっと肩で息をつく、そのときだった。
「今日の橘先生、なんかエロかわいいね。すごく女っぽいよ、色気でてるナ」
「なっ‥‥!?」
「ははっ、怒んないの。どうせデートでしょ。じゃーね」
――返事を、かえせなかった。
心臓が蒸気を噴きあげて空回りしている。動悸がひどすぎて、立っていられない。
駆け下りていく少女たちを呆けて見つめている。
エロ‥‥い――?
後ろ手をこじり、音羽かなめがぎうと密着してくる。
無色透明な瞳はブレることなく、冷たく塑像めいた表情で彼女たちを見送っていた。
姿が見えなってから、ぽつりと呟く。
「ふーん。あの子たちと仲良いんだ、みなみ」
「ん? なにを言っているの。生徒だから当然でしょう。一体どうしたの、かなめ」
「別に。ねえみなみ、キスして」
「え‥‥」
とろりと何かが攪拌されるような、子宮がきゅっとすぼまるような衝撃をおぼえた。
今度こそはまちがいない。ン、と形良い唇をさしのべ、瞳をつむったまま、頬に朱を
たたえて音羽かなめがうなじを伸ばす。奴隷の象徴である首輪の黒革が、かぼそくも
白い肌に強調され、思わずつばを飲んでいた。
「私、動悸がおかしくなってる。みなみを守ろうとして緊張、しすぎちゃった」
「だ、だってここは」
動揺のあまり、声がかすれた。
さっき以上に心臓が破裂しそう。耳を流れる血管が昂ぶりすぎ、風音さえ聞こえない。
ここは、言いわけのきかない路上。
しかも学校と駅を結ぶ一本道の坂の途中なのだ。
屋外で、縛りあげられた無防備なカラダ同士のまま、少女にキスをねだられるなんて。
誰に見られるかも分からない公然の路上で、からからになった私の唇に舌をねじこみ、
唾液をむさぼろうというのか。
「さっき、更衣室で私を落ち着かせてくれたみたいに。して。卑猥に私を奪って」
「ここではダメ。見られたら終わりよ」
「大丈夫、ここは曲がり道の途中で死角。それに、私またおかしくなっちゃう。先生
がつなぎとめてくれないと」
「‥‥」
蕩けたかわいい声が、何度も、みなみ、と私を呼ぶ。
わからない、何もかも。
判断がつかないのに従うなんて愚かなことだ。分かっている。でも。
目を瞑って一心に近づいてくる少女を突き返すことは、私には、うん、できなかった。
唇を唇でつまみ、もう一度つまみ、首を傾けて口腔を重ねあう。
すぐさま、小さな舌が滑りこんできた。
震えている‥‥そう感じる。舌が震えるなんて知らなかった。でも彼女はたしかに、
舌先をわななかせていたのだ。そこに、ねっとりと甘露をなすりつけていく。
「ん、んフッ‥‥かな、め、もっと舌を‥‥!」
「ぁン、ふぁァ――ンンっ」
いけないことだと思えば思うほど、舌先の動きが乱れていく。息遣いが激しくなり、
ぐちゅぐちゅにかきまぜられていく。小さな下唇に噛みつき、引き寄せて、どろどろ
になるまで体液をかわしあった。
うすく瞼を開けると、少女もこちらをうっすら見つめ返していた。
恥ずかしいのか頬を真っ赤に火照らせたまま、嬉しそうに至近距離の瞳が笑みくずれ、
くるくる瞳孔を動かしている。
細く肩口に極まったアームバインダーの黒革にしわを寄せつつ、切なげにウェストを
うねり舞わす。風にあおられ、弾むポニーテールをなびかせる。
寒気がまざらないように、さらにぴっちり唇を重ねあって、熱いしずくを飲みくだす。
引き剥がす口唇からしたたった銀のアーチが、きらきら輝いて夕暮れを反射した。
「ぷぁ――みなみ、やっぱり、すごい。私と、相性、いい」
「あい、しょう?」
「な、なななんでもない」
ろれつの回らない舌で懸命に何かを弁解する少女がいとおしい。
教師として、自分がおかしくなっているのは百も承知だ。けれど人前でいきなり無残
な拘束を強要され、服を剥かれて、正常な判断ができただろうか。
かまうもんかと、少しやけにもなっていた。
もはや言い訳は不可能。誰にも懺悔できない放課後のアバンチュールなのだ。なら、
せめて、密度の高いかなめとの非言語的コミュニケーションを堪能しなくては。
「少し時間ずらして行こうよ、みなみ」
「‥‥ええ。いいわよ、かなめ。全部まかせるわ」
慣れたようすの彼女に甘えかかる気持ちで、ふうーと深い息をはきだす。
「うん、そうする。あいつらと同じ電車に乗るのはちょっと、ね」
「あ‥‥っ」
忘れていた。この先が、ひどく過酷な旅路であることを。
私たちは、通勤ラッシュの雑踏のなか、この秘密を誰にも気づかせず、家まで帰り着
かなければならないのだ。


               ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


宵闇を照らす街灯を避けるように町の中心部へ降りていく。
この郊外の町でも、人の姿はそこそこで、小さなロータリーにも数台が止まっている。
駅舎が近づくにつれ、緊張で足がもつれだした。
チラ、と前を行く音羽かなめが視線を投げる。私を気遣ってのそれに、どうにか頷く。
『Suicaよね、みなみは。私と同じで胸ポケットだっけ?』
『ええ。でも、どうやって改札でSuicaを出せばいいの。手が使えないのに』
数分前の会話を思いだす。
後ろ手に括られていても電車の乗り降りは簡単だとかなめは言う。
『意外とね、人って、他人を見てないの。自分のことでせいいっぱい』
『嘘。私、わたしには‥‥』
『できるわ。できなきゃ、二人一緒にジエンド。私じゃ先生を庇いきれないもの』
自然体をよそおい、人気の減った自動改札へと歩いていく。
不自由な後ろ手がギシリときしむ。二人の首輪同士を繋ぐリードは2メートル足らず。
一緒に抜けなければ引っかかり、駅員に気づかれてしまう。
小柄なカラダを屈め、アームバインダーを後ろに突き出したまま、かなめがセーラー
服の左胸をパネルにすりつけた。
ぽんと矢印が灯り、チャイムが鳴ってドアが開く。
「‥‥」
かなめが目でうながした。眩暈を覚えつつ歩みだす。
彼女より頭ひとつ背の高い私はさらに深く屈みこみ、胸を押し当てなければならない。
「んぁ」
ぐりっと乳房が圧迫され、苦痛をおぼえる。
襟ぐりを大きくのぞかせて、汗ばんだ鎖骨を丸見えにしながら、ファーコート越しの
乳房をタッチパネルになすりつけている女。はためには、駅員には、どう見えている
のだろう。
チャイムが鳴るまでのタイムラグが、ひどく長く感じられた。
パネルが赤く灯りかけ‥‥
青ざめた刹那、ポンとチャイムが鳴りひびいてガコンとドアが開いた。
かろうじて解放された女囚のように、よろめき、つっかえながら改札を抜けだす。
「そのまま歩いて。駅員が見てる」
「ッ!?」
すっと寄り添ってきたかなめの一言で、耳たぶまでぱあっと紅潮するのが分かった。
見られていた‥‥
眩暈のするような屈辱、羞恥プレイの一部始終を駅員に見られたのだ。
意識がグラグラと危うくなる。
下半身がひどく蕩け、たっぷりローションを満たしたガラス壷みたいに揺れている。
惨めな拘束姿を見られていたという事実が、ひどく狂おしく、私のカラダをおかしく
させていた。
駅構内を歩く足がもつれ、膝にからみつくリードにつんのめりそうになる。
”最近はいろいろ駅員も警戒とかしてるから‥‥”
”疚しくなんかないの、普通でいて‥‥”
冷静なかなめの言葉が右から左へ抜けていく。寒風吹きすさぶホームでも、心は乱れ
きったまま。こんな露出狂のカラダに仕立てられて、やましさを感じないわけがない。
まばらな乗客の目さえ気になり、顔を上げられない。
彼女らは、なかには制服姿の子もいるらしいけど‥‥私のあの痴態を見たのだろうか。
不自然な服装や、黒革の拘束具に気づいたのだろうか。
胸が痛いほどツンと張りつめていく。
「ダメ。駄目よ、かなめちゃ‥‥かなめ。動揺して、心が」
「分かった。あとで、たっぷりキスのお返ししてあげるから。今は、落ち着いて」
「えっ」
「ホームは監視カメラだらけよ。変な記録、残したくないでしょ?」
お互いが、お互いを慰めあう。だからなのか。
不自由なカラダでは、唯一そこしか自由にならないからなのか。
みずみずしい、かなめの唇の感触を思いだすと緊張とおののきはしりぞき、代わって
甘い衝動がカラダの芯から疼きはじめた。かなめの笑顔に心を奪われる。
「乗るわよ、みなみ」
「ん」
拗ねるように、甘えるように、小さくうなずきかえす。
ようやく、白くにごっていた意識が戻りつつあった。かすかなホームのざわめきや、
ロータリー前の雑踏、到着をつげるアナウンスも。かなめが私を連れてきたのだろう、
女性専用車両のドアが開き、8分混みぐらいの車内に滑りこむ。
一瞬、わけもなくカァァッと頬が暑くなった。
本当に‥‥
施錠され、縛り上げられた奴隷の躯のまま、電車に乗り込むことができた‥‥
乗り込んでしまった‥‥
単調な響きをあげ、車両がゆっくり走りだす。
中は静かだった。ほとんどの女性が疲れた顔をしていて、ケータイをいじっている。
どの道このカラダでは人を縫って歩くのも座席に腰掛けるのも不可能だ。
ふう、と息を吐いてドア脇にもたれかかり――

「‥‥ぁ、んふァッ!」

沸きおこったダイレクトな振動に下腹部を犯され、瞳孔を見開いていた。



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