黒く艶やかなる獣の檻 その5

Novels Back Next    

(※当アトリエは成人向け・SM小説サイトです。検索等でお越しになられた方はまず こちら をご覧下さい)
 

「っあ、いや‥‥違、ひッ」
衝撃に突きあげられ、うっとうしげな周囲の視線を浴びながら嬌声をもらす。
たまらずにがばっと口を両手でおおいかけ、手首・肘・二の腕すべてをビチビチっと
緊め上げられて逆に激しい声があふれかえった。圧迫される痛みを思い知り、完璧な
施錠を施された後ろ手をほんの数ミリ軋ませるばかり。
ぎゅうと手首のつけねを偏執狂的に革ベルトが堅く締め直し、痛々しくもくびりだす。
無慈悲な現実を味わう無力さにクラクラし、頭がぽーっとなっていた。
疼痛と圧迫感。アームバインダーの固い革を鳴らし、不自由な裸身をくねらせるのみ。
神経を灼きつくす甘い旋律に、よだれがこぼれてしまう。はしたなく頬をつたう粘液
さえ、絶望的なまでに縛められた奴隷の躯では拭うこともできない。
ダタダンと単調な枕木が轟音をとどろかす。
そんな下らないリズムではない。柔肌を揉みしだき、粘膜をしゃぶりつくすばかりの
生の感触、身震いせんばかりの振動が私を犯したてていく。
なぜ‥‥?
どうして、そして誰、なにが、どう‥‥?
懸命に喘ぎをこらえるのがせいいっぱい。言葉さえつむげずドアに寄りかかり、窓に
映った自分に魅入ってしまう。
瞳をぽーっと潤ませ、腰をもじつかせ、たしかに誘っているような女の媚態だ。
でも、ここは少し混んでいる程度の、しかも女性専用車両だ。股間や太もも、お尻を
舐めまわす痴漢の手なんか、どこにも存在しない。
ううん。
この機械的な律動は、とどまらずに頭を‥‥ぁア、馬鹿にさせていく甘い焦らし責め
の正体は、きっとアレ、だ。スラックスの奥で下着ごしに女の芯を責めたてる器具を
用意‥‥で、できたのは‥‥かなめしかいない。
またしても私は彼女に玩ばれ、浅ましいリアクションを観察されているに違いない。
今は不自由な怒りさえ、どろどろに灼け爛れた快感をつのらせていく。
かな、め‥‥音羽かなめに、詰問しなければ‥‥!
体をひねったところへ、小さな影がよろめき、胸元にぽふんと飛びこんできた。思い
がけぬ乳房への刺激。流れくだるポニーテールが鎖骨をくすぐり、愉悦をこじりだす。
「みなみ‥‥せん、せ‥‥すごい‥‥腰がきちゃ、う」
「え? か、かなめ、も‥‥?」
ろれつが回らないのか、返事の代わりに音羽かなめが抱きついてきた。
同じ奴隷の躯。革拘束に折りたたまれた後ろ手をくねらせ、ウェストからバストまで
くびれを重ねて引っついてくる。制服のスカートを膝で割り、私の足に、バレエ選手
めいた美脚をぐいぐい割りこませる。
くびれた腰同士がぴとっと密着した刹那‥‥あ、と吐息を殺しきれなかった。
びぃぃぃんと輻輳する振動。
間違いない。
怜悧な音羽かなめが一瞬にしてグズグズに堕ちたのも、同じ理由。


私は、痴漢対策で装着させられた、股間を食い締める貞操帯に犯されてる――!


ゴーっと音を立てて列車が鉄橋をわたり、騒音と振動が一段と高まる。
轟音のなか、秘かにあふれだす蜜のしたたりを、ねばつく水音を躯の裡から耳にした。
おぞましい貞操帯に躾けられ、濡れそぼっていくマゾの証明を。
「あ、あぁ‥‥ン、っんァ‥‥みなみぃ」
「かっ、かなめ、ちゃ‥‥」
ほとんど同時に、鉄橋の騒音にまぎれてかなめと喘ぎ声のハーモニーを奏でる。
見つめあう瞳も声もどろっどろだった。はためには性感をむさぼる同姓の恋人同士だ。
とろけてたわわに熟れきった果実を、枝を折らずにさするよう。
うかつな動き、刺激ひとつで達してしまう。
無機質な器具にイかされ、最初のアクメを躯が覚えてしまう。そんなの惨めすぎる。
だから、同じ振動に悶えさせられた拘束姿のまま、同じ首輪から火照るうなじを触れ
あわせ、互いの耳元でささやきかわす。
「ね‥‥くちびる、近いよね。欲しい。人がいなければ、ね」
「馬鹿なこと、言わ、ないで」
ことんと私の肩に頭をのせたかなめが、ぞっとするほど妖艶な伏し目を流してくる。
間近で火照った弾力ある唇から目が離せない。
どうしてだろう。
私にできるのは、せいぜい無力な躯を目立たぬようのたうたせ、注ぎこまれる官能を
平然としたフリで飲みくだすこと。
こんなのは嫌。
まわりの人々には知られたくない。まして彼女らが同性ならばなおのこと。
だって、いま、すごく感じちゃってる‥‥‥‥っッ!
それも愛撫の結果、ではない。
被虐的なシチュエーションに溺れ、ローターでのひとり上手で乱されてしまったのだ。
この状況下で、生徒にハメられいやいや強制的に拘束されたなど、どこに申し開きが
できるだろう。
恥ずかしい意識とはうらはらに、オンナの躯はひたすらな快楽を食みだす。
はふはふ呼吸が乱れ、たっぷり蒸らされた胸の重みを、はりつめた乳房の痛いほどの
感じ具合を、いやおうなく味あわされてしまう。
灼りつきのひどさときたら、ぎりぎりと歯をかみ合わせて堪えないとダメなぐらい。
呼気が洩れれば、すべて鼻にかかった艶やかな喘ぎになるだろう。
懸命に意識をそらす。
発情した音羽かなめに見入ってたら取り返しがつかない。今のうちに怒らなきゃ‥‥!
「ごめんなさい、みなみ。誰にも止められないの。このローターは」
「なっ、え、どうして」
「だって‥‥」
言いかけた台詞を先回りされ、混乱する私をうながすように、かなめの視線が動く。
「ローターのスイッチ持ってないよ、私?」
「その、アームバインダーの先っぽで握って、ン、いるか、も」
「ねえ見て? どこに握っている、の?」
もぞりと、アームバインダーの先でかなめが指先をうごめかす。私が着せられたもの
以上に窮屈で細身のソレは、指を伸ばしたきりモノを握ることさえ不可能だ。
「じゃっ、じゃあ‥‥誰が」
はふ、はふっ‥‥無意識のうちに、小さく甘い呼吸がこぼれだす。
唇を半開きにして、下半身から突き上げる淫猥な食い込みに、ギチギチと締め上げる
律動に、意識のすべてを奪われてしまう。
「ケータイのストラップってさ。電波を受信して光ったり動くのがあるの知ってる?」
「‥‥っッ!!」
びくびくっと背中がひきつった。
その言葉だけで瞬時に理解できた頭の速さを、この時ばかりは後悔する。
「そうよ」
女の子らしい弾んだ声音で、かなめが囁きかける。
「ケータイの電波を拾うたび、ランダムで動作が変わ‥‥ンッ、んぁァ」
「やっ、ァ、ひぃ」
またしても意に反して重なりあう、みだらな秘密のハーモニー。
腰と腰とをくっつけあって、二重に高まった振動の痙攣に下腹部をどろどろに溶かす。
脈拍めいて強い刺激が、ブルッブルルッとクレヴァスをいじめだす。逆にかなめの腰
からは、さざ波めいた早いリズムが流れでてくる。
悦びの涕泣が喉をひくつかせる。
目を落とせば、近くの席に座ったOLが受信メールをチェックしている。まさか今の
受信メールが、かなめと私、二人の振動パターンを違うものへと変えてしまったのか。
そういう、こと‥‥?
「だ、だからね。私を、ンっっ、叱らないで。だって、みなみのご主人様は――」
「だっダメ、言わないで」
さえぎろうにも彼女を口をふさぐ手は革拘束の内。唇で唇をふさぐことさえできず。
限りなく声をとろかしながら、音羽かなめが私にうちあけた、


――みなみを責めあげるご主人様は、まわりの女性たちすべてなんだから。


「あ、あ、あぁ‥‥‥‥!」
それが、限界。
怯え、おののいた瞳を見開いて、車内をみわたしていた。
迷惑そうに目をそらす女性、無言で見返す女子高生、気づかない人、人、人々。その
車内の女性すべてが何らかの形でケータイをいじり、メールを打ち、ひそひそ声で通
話している。
それらすべてに圧倒されて、ぐうっと背筋がそりかえっていく。
羞じらう胸をたゆんと虚空につきだして、いやらしく小刻みな痙攣を腰から全身へと
広げていく。束ねられた指先にさえ、抜け出しようのない深い被虐の官能が溜まって
行く。
かなめの言葉は事実だった。彼女たちの誰でも、私を好き勝手に辱めることができる。
ケータイからメールを打つだけで。何かしら電波を発信させるだけで。
私をもてあそんで、虐めることが‥‥
「‥‥‥‥」
今の今まで擬似的に、バーチャルに感じていた下腹部のしたたり。
それが真実となり、ぬるぬると湿りだす革ベルトを股間深くに食い締めて、はっきり
頭が白くかすんでいく。
惨めにも人前で、声だけを殺したまま、オルガニズムの高みに突き上げられていた。
幾度も小さく長くイきつづけ、どろりと意識が混濁していく――――


「みなみ。みなみったら」
「ん――ァ」
「どこで乗り換えるのか、教え‥‥んンッッッ!」
さえずりめいた可愛らしい小声が卑猥にとぎれ、私は世界を取り戻した。
なん、だろう。さっきまでは鉄橋をわたったばかりの場所なのに、いつのまにか全然
違う繁華街の夜景が窓の外に広がっている。
どうやら、弛緩したカラダをドアに預けたまま、放心していたらしい。
座席と手すりの角に私を押しこみ、音羽かなめが切なく声をこぼしている。やがて、
ふわぁと頬を赤らめ、瞳だけを動かした。
「ひどいよ‥‥私、もう、こんなに何回も‥‥みなみがだらしないから」
「わ、わたし、ぃ?」
「私が支えてなきゃ倒れてた! みなみ、記憶飛んでない?」
恥ずかしさに息が止まる。言いかけた声が快楽の残滓にまみれ、どろりと濁っている。
ンン、と喉を鳴らし、もう一度しっかり声をあげた。
「私、まさか、その」
「大丈夫。イった時もえっちな声を出したりしてないわ。よく我慢したわね、みなみ」
「‥‥‥‥んぁ」
おそるおそるの質問にストレートで返され、耳まで赤くなった。
粘性をおびた体液が下腹部に薄くにじんだ不快感がある。スラックスにしみるほどで
はないが、こんな電車のなかで‥‥人前でアクメに溺れてしまうなんて。
今は、私のローターは止まっているようだ。
「SMプレイなら、野外緊縛露出ってところかな。先生も立派なマゾ奴隷ですよ」
「‥‥」
「にらまないで。括られて繋がれて、感じてるのもぜんぶ私たち自身のせいじゃない」
「そんなの詭弁だわ、だって私」
「この状況は誰かのせい? みなみや私は調教されてる最中なの? 違うよね。ご主
人様がいるなら、この姿を望んだみなみ自身よ」
の、望んでって‥‥私が‥‥マゾ奴隷のす、姿を‥‥?
かなめに騙された、で済む時点はとうに過ぎている。こうまで無力に仕立て上げられ、
バイブのおまけつきで喘ぐ奴隷の姿こそ、私の望んだ私自身なのだ。
これが、選択の結果なのだから。
ひくんと背がのけぞり、アームバインダーで緊め上げられた躯がぶるり引きつりだす。
うなじを駆け登ったアクメの前兆に、んくと喉をさらしていた。
乗り換えのターミナル駅にすべりこんでいく。
「ゆっくりでいいわ。首輪のリード、足でひっかけないでね」
「ん」
「どこで乗り換えたらいいか教えてね、みなみ」
開いたドアめざしてせわしなく動きだす乗客を見やり、音羽かなめにうなずき返した。
降り立ったホームを木枯らしが吹きぬけ、全身が鳥肌だつ。
眩暈しそうな人の群れ。見慣れた家路が、こんなにもおそろしく苛烈なものだとは。
騒音、チャイム、アナウンス、無数の靴音。
わんわんと耳朶がこだまする。
みっちり後ろ手に固められた、施錠済みの裸身がガタガタ震えだす。
乳首まで尖らせて、性感にたっぷりみたされた私の躯。自分のものとは信じられない
官能と絶望のあまりに四肢が翻弄され、ただ歩くことさえままならない。
し、信じられない‥‥
こんな帰宅ラッシュの雑踏のなか、私はなんて格好をしているのだろう。
アームバインダーの革生地はにじみだした汗で柔肌に溶けあい、ぴっちり一体化して
しまっている。腰や胸をどれほど揺すりたてても、後ろ手にへばりつき融合しきった
縛めは柔軟に吸いついてくるばかり。
肩にのしかかる革のストラップが、拘束の重みをたえまなく実感させる。
一足ごとにファーコートの裏地で乳房をなすられ、股間にもぐりこむ貞操帯のきつさ
に呻吟し、息もたえだえに腰をくねらせ歩いていく。
かなめだけが私の羅針盤だった。
連絡通路を進み、次のホームへの階段をゆるゆるあがっていく。
同じ不自由さを抱えながらに、音羽かなめは、教室での彼女よりはるかにのびのびと
自由に振舞っていた。
囚われの身だと知っていればこそ、奴隷らしからぬ優雅な仕草に目を奪われる。
「視線は下げてね。ただでさえ今のかなめはえっちい目をしてるから、変な男とかに
誘われでもしたら終わりだよ」
「う、うん」
言われてみれば、心なしか周囲からの、男性の視線が肌に刺さってくる。
おそらくはささやかな違和感のはず。
けれど「どこかエロい」空気が、私の周りにたちこめていた。股間を虐める革ベルト
のせいで、歩きながらお尻を振りたてしまう。窮屈なアームバインダーのおかげで、
胸を揺すりたて強調してしまう。
周囲の目に気づくたび挙動不審になりかけ、おどおど視線をそらしていた。
せかせか行きかう背広姿や学生らと視線をあわせるのがいやで、かなめの背中だけを
じっと見つめる。
同じカラダだというのに、はるか年下の彼女に調教され、曳きまわされている気分だ。
アナウンスが流れ、警告を鳴らしながら電車が滑りこんでくる。
「みなみ。今度こそ守れないわ。気分出さないでね」
「ね、ねえ、かなめ」
にわかに緊張と震えが膝をすくませ、生徒にすがりついていた。不安げに裸身を密着
させ、アームバインダーをこすりあわせてしまう。こんな時、せめて手をつなげたら
どれだけ救われただろうか。
この路線はさらに混んでおり、女性専用車両がない。
サラリーマンや若者にまじって電車の中にぎゅうづめで押し込まれてしまう‥‥
なにを期待してなのか。
何におののいているからなのか‥‥
私の躯は、自由の利かない奴隷のカラダは、主の意思を裏切って小刻みに震えていた。


               ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


「みなみの降りる駅、こっち側のドアで良いのね」
「ええ」
コンパスのように足を揃えてバランスを取り、扉の横に身を寄せる。
鞄や肘で乱暴にカラダを揉みしだかれ、こみあげる嬌声を懸命に口の中で噛み殺した。
仲良くかなめと並び、人波にぐいぐい押しこまれて、ぎゅむとドアのガラス窓に胸を
押しつけられている。
アームバインダーの背中をさらしているのが気が気ではなかった。誰かに気づかれた
ら、ただの淫乱なマゾ奴隷にしか見えない。恥ずかしい弱みを握られ、抵抗もできず、
されるがままだ。
かなめが小さく笑みをこぼした。
「私たち、まるで中世の市場で競り落とされる奴隷みたいですね」
「な、なにをいきなり」
ちょっと‥‥
なんて例えをするんだろうこの娘は‥‥
ぞくぞくっといやらしい痙攣が下腹部をかき乱した。姿勢が悪いと言われ、つきだす
お尻が腫れあがるまで撲たれて身体検査をされる。そんな白昼夢に眩暈をおぼえる。
「ふふ‥‥先生、妄想で目がトロンとしてきてる。本物だね」
悔しいが反論できない。これが現実の私なのだ。
電車の揺れが乗客をぐらつかせ、不自由なカラダで足を突っぱらせて踏んばる。その
たびに股間を食い締める革ベルトの悩ましさに、ひくひく爪先だつ。
こっそりと、たっぷりと噛みしめる深い絶望の調べ‥‥
そのときだった。
「‥‥!」
さわわという不気味な感触がお尻をすくませた。ファーコートの上からスラックスの
丸みをなぞり、さりげなくも大胆に太ももまでコートをずり上げて、分厚い手が入り
こんでくる。
パニックどころではない。
子鹿のように硬直し、声が出なかった。反発して後ろ手の革拘束に気づかれでもした
らと思うと、アームバインダーの先端で手を払いのけることさえできない‥‥!
ぐっと肩を押され、われに返った。
視線を落とすと不安げに音羽かなめがこちらを見上げていた。彼女の目の色が変わり、
自分が泣きそうな顔をしていたらしいことに初めて気づく。
かなめの瞳から、色が消えていく。
「あ‥‥あ、ぁ‥‥」
感じることなどできない。おぞましさと恐怖に胸をつぶされていく。
ひとり噛みしめていたひそやかな快楽とは真逆だ。
身勝手で乱暴な、女を試す手ざわり。圧迫された車内では逃れようもなく、不自由な
腰をうねらせ、せいいっぱい不愉快を表示する。
なのに、何を勘違いしてか、背後の指はさらに調子よく股間のつけねを這い出す‥‥
「キャッ!」
びくっと指が離れた。
押しころす悲鳴は、音羽かなめのものだった。周囲の乗客たちが驚いた顔をしている。
フラットな胸を窓に圧迫されたかなめが首をかしげ、上目づかいに見る。
「お、お尻を手が‥‥ち、痴漢が‥‥先生」
「え!?」
声がうわずったのは動揺からだ。少女の震えた声を耳にして頭がグチャグチャになる。
アームバインダーに固く噛みしめられた無力な後ろ手がひくひく疼いてしまう。
私の真後ろに痴漢がいるのに、かなめちゃんまで‥‥
縛られ、半裸で‥‥首輪までセットで。
同じマゾの拘束を施されてつながれた躯は、無抵抗の奴隷そのもの。
目が泳いでいた。
かなめの隣には喧しそうな中年の女性、その後ろに背広の若い男性、かなめの後ろの
学生風の男は迷惑そうに目をそらす。自分の後ろは怖くてのぞけない。
だ、誰に声をかけたら‥‥
ううん、できるはずがないのだ。今の私たちには、特に。
二人とも自縛に酔ったヘンタイそのものの躯で、助けを求められるはずが‥‥ない。
「だ、大丈夫よ‥‥私が、いるから」
「う‥‥うん」
こくんとうなずき、けれど。
「大丈夫です、先生‥‥混んでるし、私、我慢するもの」
ギョっとするような台詞をはいて、かなめが右肩を押しつけてきた。
それはダメ。痴漢がますます大胆になる‥‥そう思うが、もう遅い。密着した狭い空
間で躯がかしぎ、私の足のあいだに音羽かなめのほっそりした脚が割りこんでくる。
少女のお尻に圧迫され、痴漢の手がふたたび遠のいた。
まさか‥‥このために一芝居打った‥‥!?
微熱をはらんだ童女の肢体がしなだれかかって私の左半身にまとわりついてくると、
その淫靡さと未熟さに動悸が早まり、拘束衣に包まれたカラダが火照りだす。怜悧で
淡白な面立ちが頬と頬をくっつける距離にあり、ちらと目を落とせば、軽く背伸びを
した透明な瞳が、まっすぐ私だけを射抜いている。
足の踏みかえも困難なラッシュの中、かなめと瞳を絡めあっていた。
愛おしさといたわりでなみなみと揺れるまなざしに目を射られ、ドキドキしてしまう。
羞かしげに色づく唇がふと開き、はふ、ふ、と吐息をもらす。
なぜ、そんなに切なそうにしているの‥‥?
問いかけたいが、喉がまだ干からびていてうまく声を出せないのだ。
つと、かなめがうなじをすりよせてくる。
”見て。目を落として”
私の耳たぶに火照る唇が密着し、淫乱なささやきが注ぎ込まれる。
”私をいたずらしてるのが、先生の痴漢。こんなの相手じゃ、先生じゃ太刀打ちでき
ないわ”
――な、え、ウソっ!!
目尻がつりあがるほど瞳を開いていた。
がばと顔を落とし‥‥のぞきみた破滅的な状況に慄然となる。
音羽かなめのセーラー服。濃紺の冬服にくっきり、裏地から男の手が浮き出ている。
セーラー服を脇までまくりあげる手で、薄い胸をじかに揉みしだかれ、腰砕けにでも
なったのか下半身をクの字に曲げて男に突きだしている。
それどころか、ちらと見えたプリーツスカートは腰の上までたくしあげられ、白桃
めいた瑞々しいお尻と股間を締め上げる黒革の貞操帯がむきだしなのだ。
男の太い腕がお尻をわしづかんでいるのが分かる。
この角度では見えないが、明らかに男の指が童女の秘めやかな場所をまさぐっている。
”か、かなめちゃ”
”しーっ”
頬を上気させたまま、音羽かなめはゆっくりと首を左右に振った。
私の頭は真っ白なのに、上気してはいてもかなめに動揺の色はない。おとなしく身を
預ける姿に安心しきってか、駅が近づき減速しているというのに痴漢は手を休める様
子もない。
ギシ、ギシリと身をよじり、時折、耐え切れないようにかなめがふ、ふっと息を吐く。
どう、どうしよう‥‥
だって、私の身代わりで、かなめちゃんがこんなに痴漢の指に耐えているなんて。
今度こそ痴漢をにらみつけるが、意外なほど目立たない背広の中年だった。しかも、
こちらの視線に動じもしない。
”駄目よ。拘束されてるの、知られちゃった。先生もグルだってバレてる”
”じゃ、じゃあ、どうしたら‥‥
んんッとあえかに喉をさらし、のけぞったかなめが囁く。
”大丈夫‥‥こういうの慣れてるって、最初、言わなかった‥‥ン、ぁ‥‥っけ?”
ぜんぜん大丈夫には思えない。
たくみな痴漢の指使いに翻弄され、快感をこらえている美少女。そうにしか見えない。
煽るようにアームバインダーごと縛られた腕を撫でられ、無力さにひくひく肩をよじ
らせているのに。
”みなみ‥‥今度の駅、こっちのドア開くの?”
”え、ええ”
”人あまり‥‥ンっ、降りない駅、です?”
”そ、そうだけど”
減速しだす車内で人の列がよろめきざわつくが、痴漢は密着したまま。
停車したドアが開き、閑散としたホームが広がる。
ここで痴漢の男が降りてくれたら‥‥かすかに抱いていた淡い期待がついえていく。
「あがっ!」
唐突にあがったのは鈍い悲鳴だった。
上体を私に密着させたまま、かなめの足がせわしなく交差する。その直後、発車前の
ジングルに急かされでもしたのか、男が呻きつつもつれる足でホームへ飛びだした。
‥‥隣にいた中年女性のスカートに腕をつっこんだ状態で。
「ちょっと! あんた、何してるの!」
「なっ、ああ!?」
心底おどろく男に声をおっかぶせ、激怒した女性が男の腕をひねりあげる。言い逃れ
できないないぐらい男の股間は猛りたっていた。ぷしゅと鼻先で閉じるドア。呆然と
見やる私たち――駆けつけてくる駅員たち――をよそに、電車が走りだす。
何が起きたの‥‥?
状況がまるで分からない‥‥でも、ひとつだけ、たしかなこと。
”今の、かなめのしわざね?”
”ええ。そうよ”
今度こそ、嬉しそうに音羽かなめが私の空間へ滑りこんできた。
女同士、肌を重ねあうことでほっと安心する。
見た目は平然としていたが、かなめの脚はガクガクに痙攣していた。それが愛おしく、
自分の足ではさみこみ、ぶりかえした震えを吸いとってやる。
背中までめくりあげられていたお尻のスカートも、どうにか元に戻せたようだ。
”みなみの脚‥‥ギュっていやらしい。私を虐めたいの?”
”教えてくれなかったらね。いま何をしたの”
頬と頬をすりよせての内緒話。
なんでも男の爪先を踏みつけて空間を作り、アームバインダーの先を勃起した股間に
叩きつけ、よろけた男を女性の方へ押しやった‥‥らしい。とっさに股間を押さえた
から、抵抗できずにバランスを失い、痴漢はああなったのだという。
”囲みじゃなくてよかった。一人だから演技できたの”
”囲み?”
”集団で逃げられないように壁を作って、全員で女性をなぶる痴漢のこと。卑劣な手”
あらためて慄然とした思いに駆られる。
――守るべき教師の私がかなめを守れなかった、その忸怩たる思いと。
――痴漢を平然と退け、しかも痴漢に身をゆだねていた、音羽かなめの底知れなさに。
なぜ、彼女は詳しいのだろう。
どうして、こんなにも手馴れているのだろう。
なぜ、音羽かなめの拘束姿は、これほどの色香を匂わせてしまうのだろう‥‥?
肩のストラップがよじれたのか、視線を落とした童女がぎゅいと腕をひねった。漆の
つややかさを湛えたポニーテールを逆側に振りはらい、冬服のカラーの下に埋もれた
アームバインダーの拘束帯を正しく食い込ませようともがきながら呟く。
”でも、やられたわ‥‥あの痴漢、上手だったし、それに”
”それに?”
肩のつけねを革がきつく食み直す感触に息を飲み、少女はあえかな色をにじませた。
わずかな隙間に膝を滑りこませ、片足をあげてニーソックスの足首にまとわりつく
くしゃくしゃの濡れた布地を見せつける。
学校指定の革靴にからまって丸まったそれは、フリル付のショーツ。
”‥‥下着、脱がされちゃった。この躯じゃ穿けないもの。捨てていくしかないわ”
”ウソ‥‥それじゃかなめちゃんは‥‥”
かなめって呼んで。
名前を呼びなおさせてから、少女の唇が言葉を紡ぎだした。
”仕方ないじゃない。先生の家まで、私、何も穿いてない状態。貞操帯だけのね”
”ダ、ダメよそんなの”
ぶるぶるっと被虐の官能が昂ぶり、背筋がよじれていく。
あどけない声音であきらめを口にするこの娘の心をおもんばかることもできずに。
ファーコートの下で乳房を丸出しにされた私の比ではない。
度を超えたいやらしさ。
拘束を悦んで噛みしめる首輪付きの少女、なんて。
リンゴ柄の可愛くも悩ましいショーツを脱がされ、膝上のスカートの奥はぷるんと
色づくお尻を裂く調教用の貞操帯で、じかにクレヴァスを封印されているのだ。
じか、に‥‥‥‥?
ひっかかった違和感は、かなめ自身の声に破れてしまった。
”じゃあ今穿かせてくれる? 無理。このラッシュの中、手も使えないのに”
”で、でも、これじゃホントに変態のマゾみた‥‥”
”足首に下着からまってる方がずっと変態。犯してくれっていってるような、ンァ”


‥‥それは、どっちで感じるのが早かっただろう。
耳か。
それとも、すっかり爛れきって敏感にうるみだす、嬲られつづけた女の源泉か。


車内のざわつきを圧して、ケータイの着メロが大音量でなりひびいた。
「!」
「ッ‥‥あ!」
たった一声だけで済んだのは幸運‥‥なのだろうか。
迷惑そうに誰もが音の方向へ振りむくその瞬間、ブブブッとさざ波のようなパルスが
クレヴァスからわきおこっていた。ぐっと官能をこらえ貞操帯を噛みしめてきた股間
へのダイレクトな刺激が女の芯を揺るがす。
とまっていたローターにスイッチが入り、嬉々として無力な裸身を嬲りだす。
いや‥‥奴隷の愉悦を炙りだす。
たっぷりオツユを吸って湿っていたアソコを、ふたたび律動がビィィィと捕えていた。
瞬間的に自失し、瞳が定まらなくなる。
淫乱な下半身を引きずり出され、逃れようもなく煽られていく。
まただ、また‥‥自由を奪われたまま、またしても人前で躯を開かされていく屈辱。
こんなのイヤ。かなめと二人仲良く首輪につながれて、痴漢だらけのこんな人前で、
拘束されたままイかされてしまうのだけは、絶対、にっ‥‥ッッ!
べったりと快楽まみれな呼気の塊を吐きだす。
痴漢とは違う私だけの刺激。腰骨を伝わってかなめのローターと共鳴しあっている。
まるで、かなめにぐいぐい犯されていくみたい。違う。馬鹿、何を妄想して、私‥‥
感じるもんか、拘束されて悦ぶマゾじゃ、ない‥‥
わざと手首をこじり、アームバインダーの痛み、緊めつけの苦しさに酔いしれていく。
さっきよりは、そう。さっきよりはずっと我慢できる。
あ、あは‥‥
声をあげ、音羽かなめがぐりりっと私の乳房に顔をうずめた。ひょこっと覗かせる目
が女のソレ。どろりと情欲に溶けて壊れかかっている。
”い、イイよ、ぅ‥‥先生?”
”なにを”
”私、ダメ。今ので、限界。だから‥‥笑わないで、ね”
”な‥‥に?”
かなめは熱っぽい声を近々と寄せて、んんっとうなじを反り返らせた。両腕をめいっ
ぱい力ませ、棒のように一本に束ねられた後ろ手を艶やかにツンと尖らせながら‥‥
アームバインダーの先端で、不自由な指先を蠢かせながら、切なげに眉をしかめる。
「イ‥‥イっちゃ‥‥んんんァ、ァ‥‥ッッく!!」
「‥‥ッッ!」
かぼそい喘ぎを懸命にかみ殺し、爪先立ってひくひく昇りつめる少女の痴態を、私は
独り占めしていた。何度も短く息を吐き、溶かしきれない熾き火の名残がまたしても
昂ぶっていく無限のサイクルを見つめつづける。
にわかに線路の騒音が高まり、轟々とこだまするばかりとなった。
トンネルに入ったらしい‥‥。
外の夜景に気を紛らわすこともできず、胸の中でよがり泣く少女の淫靡な姿を網膜に
焼きつけたまま、私はこらえ続けないといけないのだ。
こんな‥‥
まだ、まだ終わらないの‥‥
この娘は、こんなにも長く、気持ちよく、はしたなくアクメをむさぼっている‥‥っ!


                         Total  daily  - 
Novels Back Next bbs Entrance