黒く艶やかなる獣の檻 その9

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閑、とした倒錯の気配が、音のとだえたマンションの廊下にみなぎっていた。
「んむッ、あふ、みなみ‥‥‥‥ぃ」
根元から舌を巻きとられ、甘やかな睦言ばかりが五感を溶かしていく。
ぬぱ、と唇が引き剥がされて、したたる雫をすっかり爛れた味蕾ですすりとる。軟体
じみた粘膜が這いずり、どろどろな唇のふちを丁寧に舐め、ぬぐってゆく。
「んぁ、ぁ‥‥かなめ、ひゃ」
「ンーーー」
口移しの甘露は、やがて高みからの恵みとなり‥‥
鼻孔をふくらませて呼吸することさえ忘れ、汗よりもいやらしい何かで地べたにお尻
の型取りをベッタリ残しながら、おとがいを傾けて、首を捻じ曲げながらひたすらに
口唇をふさがれていた。
まるで犯されている。ムリヤリな陵辱だ。少女の感覚器を強引に口腔へとねじこまれ、
なしくずしに愛の施しで喉を灼かれているのだ。
ぺたんと膝をくずしてへたりこんだ私に、上から覆いかぶさる幼い少女。
黒髪を波打たせる少女が唇をむさぼるたび、アナルプラグのカサがお尻の底でぐり、
ぐりりっと濡れた内壁をえぐり、一突きごとに背筋を灼かれてしまう。
ポーズは違うのに、後背位で、バックから犯され、よがり啼く自分をイメージした。
この従順な体位は、まさにそのものではないか。
「ん、あむっ」
ようやくのことで吐きつくした私の悲鳴を呼吸もろとも飲みほした少女が、唇をつい
ばむ愛撫に変えてじゃれあいだす。
自宅前だという言い逃れのできないシチュエーション、それさえ意識からふっとび、
いつか私は、あえかな舌先を一心においかけてなすりあわせていた。
舌上皮を触れ合わせ、ちろちろした鮮烈な愛撫。
粘膜と粘膜がこすれあうたび、電撃じみた性感が流れ下ってきてお尻が跳ねてしまう。
またしても、音羽かなめは手馴れていて、模範的な奴隷だった。
動揺のそぶりもなく私のパニックを封じこみ、柔らかくてきゃしゃな裸身を包みこむ
ように私にからみつかせてくる。ぽっぽっと発情する成長期の肢体が、本気の疼きと
ぬくもりと伝播させてしまう。
ねばぁと、無数の糸の檻が2人の唇をつなぐ。なごり惜しくて何度もちゅっちゅする。
「あっ、うぁ‥‥駄目なのよかなめ、家のカギがどこにも」
「ないんでしょ?」
やんわりと音羽かなめが先回りする。
「みなみの目に映った絶望を見てすぐ気づいたわ。だって‥‥ン、あんな幸せそうに
イッちゃってるんだもん。びくびくって」
「なっ」
「もう逃げられない、助からないって思って、それでイッちゃったんだよね」
ぞくりと裸体が引き攣れた。
冗談だ。そんな、絶望して、それだけでイッてしまうなんて、普通あるはずが‥‥
否定の心をあどけない一言が叩き折る。
「先生って、真性のマゾだと思う。私に調教されてて、嬉しかったよね?」
「うぁ‥‥あ、あぁぁ‥‥」
ただの一言で、あっさり人格を剥奪された。
奴隷として仕立て上げられた裸身によりそうようにと、心の芯まで屈服させられる。
拒絶の代わりに疚しい涎が口の端からこぼれ、私はびくびくっと下腹部をつきあげる
浅ましい痙攣に苦しめられていた。
世界が、日常が、あざやかに、奴隷のあきらめで書き換えられていく。
かろうじて声をつむぐ。
「別に、かなめちゃんと同じよ‥‥お揃いの、奴隷同士のくせに」
「‥‥え、ぁ?」
「おぼえてなさい。たっぷり躾けてあげる。あとで、ね」
不意をつかれた音羽かなめが二歩下がり、ぶるるっとはしたなく上体を揺すりあげる。
セーラー服への食い込み具合をたしかめるように肩紐をぎしっときしませ、やがて、
きゅうっと瞳をすぼめ――立ったまま、自失した。
ややあって、あは、と笑う。
「教え子をわざと煽るなんて、悪いご主人様‥‥言葉だけで、イかされちゃった」
「‥‥」
気づかれないようにこくんと唾を飲みこんだ。
少女のスカートのへりから、太ももを這ってつぅぅと数滴、透明なしずくがしたたり、
落ちていくさまに、ただ、魅せられていた。痴漢に剥き下ろされたショーツを車内に
脱ぎすててきた少女は、ぷるんとしたお尻にじかに冬服のスカートを履いているきり
なのだ。
施された拘束に没頭しきり、悦びの涎を流す痴女が2人‥‥なんて光景なんだろう。
しかも、絶望に閉ざされたドアの前で痴態を見せびらかしている。
「ほら立って。探しましょ」
間延びした私に肩をかして、ふらつく膝をむりやり立たせようとする。、
「カギ。先生はスペアを外に置いとくタイプだと思うの。どこに隠したか忘れた?」
「あ‥‥」
言われて思いだす。たしかに、私はそういう性格だ。度忘れしがちなので、入居時に
スペアを1つ外に隠したはず。
でも――アクメの余韻で躰は震えきり、まともに思い出すことなんて、できない。
どこにしまったかなんて、分からない。
「じゃあ、私が代わりに探し出してあげます」
アームバインダーを食い込ませた肩で私を押しのけ、音羽かなめは廊下に進みでた。


               ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


誘うように、踊るように、かわいいお尻がふりふり揺らめく。
大胆な下半身のコンパスを躍動的にわりひらいて、スカートがまくれるほど深く上体
を倒している。お尻のはるか上に高くかかげられたアームバインダー先端のリングは、
さらった少女の運搬用の取っ手だ。
マンションの廊下で体操競技さながら、思いきり開脚してみせつける。
ズリあがった冬服のプリーツスカートから、履いてないことを見せびらかすように、
きわどい水桃の丸みがチラチラのぞいて嗜虐的に私をそそっている。
あまりに無防備すぎる。
犯したい。襲って、さらって、今すぐここで押し倒したい。無力な躯を姦したい――
ううん。じきに少女を部屋へ連れこめるのだ。だから。
「‥‥んぐ!?」
欲望に身をゆだねた刹那、縛り合わされた後ろ手をむごたらしく緊め上げられ、ぴく
んと裸身がはじけてしまう。のけぞりかける苦鳴が連動する首輪に阻まれる。少女と
同じ奴隷拘束の疚しさを、存分にこの身で噛みしめる。
‥‥犯すどころではない。これ以上ないお膳立てを施され、犯される寸前の私なのに。
‥‥教え子を相手にして、程度の低い衝動にもほどがある。
苦笑さえ、苦しい灼りつきの中。
被虐的な性欲に心をどろどろにかき乱され、レイプ魔の思考さえ脳裏を掠めてしまう。
この、ぷりんと弾力あるローティーンのお尻を裂いて、革ベルトが深々と埋もれてい
るのだ。
したたる生乾きの内ももにまで、目が吸い寄せられてしまう。
――またしても、疑問がわく。
同じ貞操帯を施されながら、音羽かなめは車内でたやすくショーツを脱ぎ捨てていた。
なぜショーツは貞操帯に絡まらず、するりと脱げたのだろう。
「‥‥‥‥っ」
頬が熱くなっていく。
つまり。こんなにも忌まわしい、存在を主張してオンナを犯したてるアナルプラグを、
あの子はいつ装着したのだろう。部室で会った時、彼女のスカートの奥には、すでに
悩ましいプラグが収納されていたのだろうか。
施錠され、ケータイの電波が飛び交う女子校のなか、お尻の肉で咥えこんでいたのか。
だとしたら‥‥
音羽かなめの嬉しそうな喘ぎが、物思いを中断させた。
「んァっ、あむ‥‥ンンン、く」
少女は華麗に裸身を折りたたんだまま、薄汚れたマンションの廊下にためらいもなく
頬をすりよせ、落ちたスペアキーに歯を立てている。
隠し場所を探りあて、落下して跳ねるキーをさっと靴で踏みつけると、見事なバラン
ス感覚を発揮して、埃まみれの廊下でセーラー服を穢すこともなく、鍵だけを前歯で
つまみあげるのだ。
ふりむき、じっと私の顔色をうかがう。
と、瞳でにこりと笑い、ぱたぱたと小走りに駆け寄ってきた。
はふはふと薄い胸を上下させ、誇らしげに咥えたカギを見せびらかす少女は、まるで
躾の行き届いた子犬だった。耳と尻尾があればさかんに振っているだろう。
褒めて褒めて、ご褒美をちょうだいとねだらんばかりの勢い。
素直に主の命を待つペット‥‥ゾクゾクッと、熱風のようなおののきが体の中を吹き
抜けていく。
下半身がはっきりと疼き、粘つき、ただれるのを感じていた。
なんてカワイイ子なんだろう。
肘の裏が引き攣り、束ねられた二の腕がぎゅうっと絶望的にくねってしまう。
抱きしめたいのに、頬を両手で包みこんであげたいのに‥‥こんなにも愛おしいのに、
後ろ手を棒のように絞り上げるアームバインダーがそれを許してくれない。
ギチチッと革を軋ませ、無慈悲な拘束に鼻を鳴らす。
見上げてくる一途な瞳を見ていると、むらむらとよこしまな思いがわきあがるのだ。
カギを咥えてほんのり朱に羞らう唇から目がはなせない。
ご褒美に、虐めてあげたい‥‥
動作はほとんど無意識だった。首を傾け、髪を流しながら音羽かなめの唇をこじあけ、
舌をねじいれる。
「ダメッ‥‥カギ、飲み込んじゃ‥‥ひっ」
「‥‥んふッ」
動揺した少女があわててカギを咥えなおす姿さえ嗜虐をかきたてて、私はやみくもに
かなめを責めたてていた。ねっとりと唾液を流しこみ、こばもうとするエナメル質の
犬歯にも、たっぷり蜜をそそいでおとなしくさせてゆく。
いくえにも舌を丸めてやり、その上に思いきり唾液をながしこんでやると、ひときわ
甲高いアクメの啜り泣きがこぼれはじめた。ぶる、ぶるっと肩がよじれかえり、必死
にカギを飲み込むまいと防戦一方になる。
「いにゃ‥‥ぁあ、許ひ、へェ‥‥。もう、イきたくなっ‥‥っぎ、ひっ‥‥ッッ!」
「へえ。んむぁ‥‥な、なんかい、私にイかされた‥‥?」
「2、20から先は、おぼへてない‥‥っ、ひぅぅ」
20回も絶頂をきわめたなんて。
うらやましさと妬ましさが、なおさら舌先の遊戯を激しくさせる。
アームバインダーの中で細い腕をひくつかせ、ぴくぴくっと爪先だって、音羽かなめ
の瞳から理性の灯が消えていく。
ねっとり暖かなしずくが膝をわりこませた私のスラックスを汚し、唇をロックされ、
獣の拘束具にくるまれた少女の裸体が2・3度トビウオのように引き攣れた。
止まらない。
終わらないのも道理。
責めあいに限界がない。女同士のまじわりはこういうものなのか。それこそナメクジ
のように朝までつづけられそうだ。
ぬばっと、舌から舌へ、スペアキーをゆずり渡される。
どろどろの透明な滓でくるまれた自宅のカギに、知らず、不審な瞳を送ってしまう。
舌足らずに音羽かなめに問いかける。
「だいひょう‥‥ぶかな。こへ、中でひっかかっちゃいそう」
「そうしたら嬉しいね。明日の朝までずっと奴隷のまんまだよ。私も先生も」
「!?」
もう、これ以上の煽りには応えられなかった。疼く体をぐっと我慢し押さえつける。
上下の階でも人の歩く音やエレベーターが響いているのだ。いつ、住人に見られても
おかしくない。
忘れていた危機意識とともに、焦りが戻ってきていた。
咥えたカギをもたつきながらも鍵穴に差込み、首をひねって開錠する。
ようやく城の閂がはずされ、あとは扉をあけて入るのみ‥‥‥‥‥‥そこで凍りつく。
家のマンションは、いたって普通なL字型のノブだ。
がちゃんと押し下げ『手前に引けば』ドアが開く。その手前に引く動作を、拘束済の
このカラダでどうやればいいのだろう。
ビク、と肢が痙攣した。
静かなエレベーターホールから、上昇する機械音がひびいてきたのだ。
さっきから一度も5階には止まってない。今回だってここで止まるとは限らないけど、
でも、もし、万が一人が降りてきて、間に合わなかったら‥‥?
「んもう」
音羽かなめがぐいと割りこんできた。
背中をくっつけ、カラダを何度か揺すったかと思うと、首輪のリードを器用にノブに
巻く。肩でノブを押し下げ、カラダを引き剥がしつつ歩きだすと、魔法のように扉が
開いた。
「ほら、急いで。閉めるから」
はらりとリードをほどく音羽かなめに急き立てられ、ローファーでタイル敷きを踏み
しめる。腰からすばやく入ってきたかなめに押され、一歩、廊下に踏みあがっていた。
革拘束の逆三角錐から垂れるDリングをノブにひっかけ、外界を遮断する。
「ふぅ‥‥助かったぁ」
「しっ」
叱責におどろき、ビクっと凍りついた扉一枚向こうを、男性のものらしい足音が通り
すぎていった。身をよせあい、瞳を交わして、間一髪だったいまさらの恐怖をわかち
あう。
不自由なカラダの奥で、じわっと沁みだす淫らな雫を太ももに感じていた。
「間に合った。犯されなくて良かったね。私も、みなみも」
ぞわ、と下半身が熱くなる。
んもう‥‥
こんな時まで私を虐めずにはいられないらしい。口を尖らせ、かなめに振りかえる。
「先に言うことがあるでしょ、お客なんだから」
「あっ。うん。お邪魔します」
ようやくの自宅だった。安全が約束された唯一の場所。人に襲われる心配もない憩い
の我が家だ。
2人とも手が使えない無力なカラダなので、靴もコートも脱ぎ散らかし、リビングへ。
泥棒・空き巣対策で、明かりはつねにつけっぱなしだ。
「広いねえ。みなみ一人暮らし?」
「1年前からね。彼氏と別れてから、ずっとかな」
小柄な奴隷がくるくるとステップを踏み、嬉しそうに室内を物色する。
狭隘なアームバインダーで施錠された裸身を伸びやかにひねり、平らな胸をそらして
肩ごしに瞳を流してくる。黒いニーソックスで軽やかに爪先だつ様子は倒錯の天使だ。
なぜか虚勢を張っていた。
独り身なのは一年どころではない。
ちろりと、紅い唇を効果的に舌で湿らせ、透明な2つの瞳がいたずらっぽく向けられる。
「じゃ、今はフリーなんだ。私、みなみのお嫁さんに立候補しよっか」
「いいわね。家政婦+夜用の奴隷が自分から志願してくれるなんて。飼ってあげるわ」
「やばっ。逃げなきゃ‥‥って逃げられないっけ。私、みなみに繋がれてるもの」
わざとらしく手綱を張りつめさせ、頬を赤くしている。
主人にじゃれつくペットのようだと思う。
繋がれてるのは私も同じ。
そして、ペット扱いの奴隷とお揃いの拘束を施され、同じ境遇に貶められているのも。
私もまた、従順なペットになるしかないの‥‥?
埒もない淫猥な夢想をふりはらう。
それが、なぜか惜しかった。
ここでなら、少女と心ゆくまで愛しあえる。縄目から抜け出せるかどうか分からない
まま、緊張感と焦りで心を灼りつかせ、熱い下半身を愛液でぐじゃぐじゃにしたまま
狂ったようにまじわっていられるのだ。
「あ、ひゃ‥‥かなめ、ちゃん」
「ほら。こっち」
急に少女が足を速め、首輪とアームバインダーを引かれて前のめりになってしまう。
器用に奥のドアを開き、音羽かなめが寝室へと私をつれこんだ。
ここだけは暗い室内。
整えられたベッドの上掛けへとダイブする少女にひっぱられ‥‥膝立ちで乗りあげた
ベッドの、私の真下で、あおむけの少女が上目づかいに誘っていた。
柔らかく沈んでいるのは、まるで初夜の花嫁だ。
「ほらっ。ね? 私は、抵抗しないよ?」
「間違いだらけ」
低い声で訂正し、ひとしきりギシリと自分の肩をくねらせてみせる。
食いこんだアームバインダーは依然、外れる気配さえなく私を噛みしめている。
「私は、じゃなく、私も。抵抗しない、じゃなく、抵抗できない。そうよね、かなめ」
「‥‥」
小さな鼓動さえ伝わってきそう。そんな期待の目で、少女が見上げている。
けれど、誘いには乗れない。この先に踏み込んでしまうなら、たとえ覚悟をきめたと
しても、自由意志でなければいけないと思う。
だから冷静に声をつむぐ。
「さぁ、拘束プレイも終わりにしよう。私を自由にして」
「‥‥」
「かなめちゃんをどうするか。私がどうしたいか。その後で、考えさせてちょうだい」
私の声が重なり、吸い込まれ、寝室の壁に溶けていった。まるで睦言のように。
凝っと本気の目で私を見つめる少女。
そのまっすぐな視線にウソはない。本気で、思いを推し量っている。
「きっと、後悔、するよ?」
「いいえ」
まっすぐな声をまっすぐに否定する。
「大人ってのは面倒なものなの。自分の心で決めたことじゃなきゃ、本気になれない」
「‥‥」
「少なくとも人との交わりはね。今日のは、本当なら減点よ、かなめちゃん」
「‥‥‥‥集合ポストになかったのは知っているでしょう?」
「ん‥‥カギのこと?」
「私、玄関ポストに入れるよう指示して宅配使ったの。集合ポストは万が一が怖いし」
マンションに戻ってきたときを思いかえす。
たしかに、かなめは5階の私の集合ポストをのぞいていた。
あそこにないなら玄関のポストにあるはず。なのに‥‥かなめの冷え冷えした反応が
妙に気にかかる。これはまるで、悟り、あきらめた奴隷の態度だ。
「絶望、しないでね」
ころんと反転して起き上がる少女にうながされ、一緒に寝室を出る。リビングを抜け
玄関へ。ポストをのぞこうとして、そうして‥‥理解、する。
「嘘、でしょ」
「ゴメン」
私は、音羽かなめの非を、ケアレスミスを、なじれるのだろうか。
たしかに封筒は玄関ポストの中だった。マンションではありふれた、扉の裏側に備え
つけられた深さ40センチほどの上ぶたのついたタイプ。その底に、封筒が見えている。
そう。


つまり、アームバインダーの逆三角錐に囚われたカラダでは、どうやっても、絶対に(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
底に寝そべる封筒を引っぱりだすことができないのだ。(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


もう一度、音羽かなめが謝る。期待させた分を償うかのように。
「‥‥ゴメン」
「足の指でつまめないの?」
音羽かなめは、逆らうでもなく従順に右足を折りたたみ、ポストの底に差し入れた。
ポスト脇の透明な部分から、かなめが懸命に封筒をつまもうとする様子が見てとれる。
けれど、無理。
封筒はぺったり寝てしまって、ちょうどポストと同じサイズの上、紙質が硬いせいで
折り曲げてから足の指でつまむこともできないのだ。
嘘だ‥‥
こんな悪質な冗談、ない。安全なはずの自宅で、朝まで縛られたままなんて。
このままじゃ、イきまくった惨めな姿のまま、登校中のさらし者にされちゃう‥‥
「く、靴下だから滑るのよ。そのニーソックスを脱げば」
「どうやって?」
「あ‥‥」
柔らかい音羽かなめが下肢を折り曲げても、普通より長い膝上までのニーソックスの
裾を足の指でつまめない。太ももをこすりあわせるだけでは、みっちり蒸らされて、
汗とオツユでへばりつく靴下を脱ぐなんて、できそうにないのだ。
激しく、鼓動が波うちはじめていた。
夕暮れの校舎で体験した、あの汚泥の中へ沈められていく、あがきようのない絶望感。
空回りするばかりの焦り。全身が熱くなり、ブラウスにくすぐられた乳首がツゥンと
惨めに反りたっていく。
縛られ、革のきしみに犯されたまま、ひたすらイきくるうしか手がないなんて。
すぐ目の前に、自由への鍵が転がっているのだ。
なのに、2人とも拾うすべがないばかりに、この疚しい拘束に身をあずけるしかない。
見慣れた玄関の廊下までもが、狭く細い、奴隷を閉じ込める檻に見えてくる。
このままでは、何もできず消耗しきった朝を迎えてしまう。
どうしよう、どうすれば‥‥
無理よ、自力でなんて‥‥食い込みすぎて、んッ、ほどけない‥‥ッッ!
「‥‥」
「そ、そうよ! かなめちゃんのダイアル錠はいくつなの。私が口で外してあげる」
「知らないわ」
「へっ?」
「残念だけど、私も番号を知りません」
またしても‥‥
かなめの涼やかな、微量の甘い毒を含んだささやきが、私の耳朶を舐め上げていく。
「使う前、目をつぶって適当に番号を設定したわ。だから、運よく開けられる確率は」
0.1%、ですね。
少女の、無色透明だった瞳の奥から、どろりと濁った歓びがあふれだす。
毒のある女主人の官能。
奴隷をいじめぬく瞬間に瞳にやどるであろう、正真の悪意。打ちひしがれた奴隷を目
にして快楽する、そんな、視線を向けられてしまう。
自分だって同じ虜だというのに‥‥
「ン、くァッ‥‥ウソ、嘘よそんな‥‥‥‥ンッーー!」
ドクンと、骨折って心臓が鼓動をきざむ。
頭が真っ白になり‥‥
私は‥‥はっきりと、頂点へのぼりつめていた。
もう何度目なのか、お尻の穴でめちゃくちゃにプラグを噛みしめてしまう。巻き込ま
れたショーツの不快ささえ、感じるよすがになってしまうのだ。
イきたくないのに、ぶるぶると痙攣の止まらない私へ、音羽かなめがささやく。
「だから、他の手を使います」
「ほっ、他の手って‥‥私より非力なのに、どうするつもり」
「分からないわ。少なくとも、自由の身になるまでは。でもね、先生。覚えてる?」
――私が、舞台で何をしようとしていたのかを。
かなめの言葉は鈍器のように私を殴打した。なにもかもを思いだす。あきらかに拘束
慣れした立ち居振る舞い、奴隷のカラダで痴漢を撃退したその身ごなし、そして彼女
自身が語り聞かせたあの台詞を。

『――舞台の上で、拘束された私がアームバインダーからの脱出劇を演じるんです』

今にして、意外なほど少女が冷静なことに気づく。
暴れるでも溺れるでもなく、彼女はただ淡々と縛めに身をゆだねていた。あきらめに
見えたそれが、まったく違う感情であることにはじめて気づく。
これは、自信だ。
「じゃ、じゃあ、かなめちゃんは抜け出せるのね? カギがなくても」
「試してみます。でなきゃ、舞台でエスケープアートなんてできるはずもないから」
ドアポストから離れて、かなめがゆらりと立った。
意識を集中させ、全身の感触を、軋みを、縛めの苦しさを一つ一つたしかめていく。
瞳は色をなくし、全身にありったけの集中をそそぎこむ。その姿は、幼いながらも本
職のマジシャンそのものだ。
私もまた、教え子の変貌にみとれていた。
奴隷の革拘束は、首輪と、おそろしく華奢なアームバインダーの二つきり。
後ろ手をピンと揃えさせるアームバインダーは、ジッパータイプだ。ジッパーには革
紐が結びつけられ、涙滴型のラチェットで引き絞られている。ラチェットのリリース
レバーは小指ほどもなく、とても操作できそうにない。
アームバインダーのストラップは両肩に食い込み、外れぬよう鎖骨の上を緊めつける。
最後に、首輪の裏にあるDリングとラチェットをダイアル錠が施錠している。
これでもかというほどの残酷な施錠のオンパレード。
どれ一つとっても、自力では脱出不能だとただ首をうなだれるしかない奴隷の縛め。
それでも縄抜けを試みる少女はあどけなく、神々しかった。
むごたらしく自由を奪われた裸身を、ひくひくっとたわませ、大きく息を吐いて――
唐突に、その瞬間がおとずれる。
薄い膜のようにはりつめていた緊張が、あっけなくやぶれた。
「あっ、ウソ。駄目」
うろたえた音羽かなめが小さな悲鳴をこぼす。
動揺し、後ろ手の体躯を揉みねじり、きりきりと無力に肩をつっぱらせる。むろん、
その程度でアームバインダーの束縛がゆるむはずもなく、むしろキリキリと革が引き
攣れていくばかり。
「施錠、されちゃってた‥‥ウソ、あの時テンションあがりすぎてて‥‥これじゃ、
私、外せない」
「‥‥なにを、なにを、言ってるの?」
施錠ってどういうことだろう。
音羽かなめ自身が部室で自縛をほどこしたときに嵌めたダイアル錠のことだろうか。
そんなの、最初から気づいていたはずでは?
「だってっ‥‥これ、普段と違う、ジッパーを引きずりあげた革紐だってワイヤーを
編みこんだタイプだから、絶対に切れない‥‥っ、しぃ‥‥」
ぴくんぴくんと、囚われた若鮎のように、健康的なローティーンの肢体が跳ねおどる。
濃紺のセーラー服が乱れ、スカートがまくれあがって、みずみずしいお尻の穴までが
丸見えになる。
下腹部をスジのように割り裂く革の貞操帯が、ぬらぬら輝いているのだ。
動揺とおののきが、またたくまに感染してくる。
まさか。
セルフボンデージに馴れた彼女が、そんなミスを犯すはずが‥‥ない‥‥?
だってそれじゃ、音羽かなめがアームバインダーから抜け出せないなら、私までもが
この束縛から抜けだせなくなってしまう‥‥!?
そう、気づいた瞬間に。
心とカラダが支えを失って決壊した。
「あーっ‥‥んぁ、ぅ、ぁァア‥‥‥‥ッッ」
ひどいお漏らしのような水音が玄関にひびく。
腰がぬけ、くたくたとへたりこんだ私のスラックスが哀れをもよおすほどくっきりと
濡れそぼり、大きくシミの広がる下半身を見つめながら、びしょびしょのソレが失禁
ではなく、別の、狂おしいエクスタシーの余韻なのだとぼんやり感じていた。



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