黒く艶やかなる獣の檻 その10

Novels Back Next    

(※当アトリエは成人向け・SM小説サイトです。検索等でお越しになられた方はまず こちら をご覧下さい)
 

玄関前に、ひどくなまめかしいオンナの匂いがまじりあい、たちこめていた。
ドアの隅にずるりと裸身をもたれさせ、冬服のセーラーカラーを乱した音羽かなめが
ひくっ、ひくっと弓なりに伸びあがる。
体重でつぶされた後ろ手が小さな背中でくねり、腕の中でもがくペットのようだ。
「ン、グ、ほどけなっ‥‥ダメェっ、どうしたら‥‥」
甘くて、無力で、可愛い調べ。
音羽かなめの絶望にとろけきったウィスパーボイスが、私をドロドロに疼かせてゆく。
私自身も、靴箱に背中をあずけて足をだらんと投げだし、わきおこる甘い衝撃に腰を
ひくつかせるばかり。
「ん、ぁ‥‥っ、は‥‥ァア!」
後ろ手縛りの皮袋を外から革ベルトで緊めあげられ、お揃いの南京錠を留められて。
悩ましいほど2人の躯は無抵抗だった。
疼痛まじりのお尻で食むアナルプラグの味もそう。
電池の切れたクリトリスのローターが伝えるもどかしさも、そう。
羽織らされたブラウスさえもが無防備な乳首を嬲り、無限の官能を煽りたててしまう。
「ひぁ、ぁ‥‥またイく‥‥っ!」
「ぁ‥‥んン、かなめちゃん‥‥っ、落ちついて」
教え子を助けようと、ぐんと膝を起こす。
その躰がアームバインダーにがくんと引き戻され、したたかに肩を打ちつけて息が詰
まった。オッパイがひしゃげていく痛みと快感がほとばしり、ぎゅうと上体を丸めて
しまう。
ウソ。起きあがれない‥‥なんて。
こんな、立ちあがる自由さえ奪われて私は‥‥
ぞぶりとあふれだす被虐の味を、きつく歯を噛みしばってやりすごす。違う。立てな
いのはアームバインダーに体重がかかっているせいだ。ころんとうつ伏せになり、頬
を床にすりつけ、膝を躰の下に滑りこませようとする。
惨めで‥‥そして倒錯的だった。
教え子の前で芋虫のように玄関を這いまわる女教師。脱げかけのブラウスの下を革の
しつけ着で喰い緊められ、愛液のシミを残すスラックスと乳ぶさ丸だしの上半身を、
冷たいタイルにいざらせる。
あまりにも卑しい奴隷の躯が‥‥他ならぬ、この私自身なのだ。
焦燥感が、じりじりと背中を焦がしていた。
小悪魔の罠を思いかえす。
今のうちに、同じ縛めに繋がれて悩乱する音羽かなめを支配下におかねばならない。
パニックで自失しているうちに手綱を奪わなければ、自縛馴れした少女にきっとまた
陥れられてしまう。
ガクガクする膝で音羽かなめににじりよっていく。
動揺しきった少女はポニーテールを左右に振りたくり、焦りにとらわれて唇をつぐみ、
私を避けようとする。
「いやぁ‥‥ダメ、私できなっ‥‥このままじゃ先生が‥‥ひぐッ!」
「かなめっ!」
思いがけず、叱責の声で一喝していた。
びくんと震えた音羽かなめの足にむりやり下半身を割りこませ、つんと形のよい鼻を
ぴたっとくっつけて至近距離でささやく。
「二度は言わない。舌をだすのよ、かなめ。今すぐ」
「ひっ、センセ‥‥ぅ」
今にもひっこめそうな紅い舌を根元からすくいとり、遠慮なく前歯でしごいてやった。
のたうつ顔を扉の角に押さえつけ、震えと怯えを梳き落としていく。真っ赤になって
愛撫をこらえる痙攣がしだいに下へ降りていき、やがて下腹部が切なげにグラインド
しはじめた。
たっぷりと涎をあつめ、唇に上から塗りつけていく。
ぬらりと濡れた唇をちゅっちゅさせ、誘いをかけて口唇を広げると、かなめの方から
おとがいをひらいてかぶせてきた。小さな唇に、ギリッと歯をたてて噛みつく。
鉄の味がぬらりと口中に広がった。
「ひャっ‥‥!」
「許さないから。かなめ」
切迫した声音でささやきかけ、逃れようともがく少女の舌をすくいとる。
果てしない愛玩の合間に、濡れた舌でたたみかける。
「私を本気にさせて‥‥。私をマゾに溺れさせて‥‥。拘束の味を私に覚えさせて。
すべて、すべてかなめの望んだ通りの結末でしょう。上出来かしら」
「みなみ‥‥セン‥‥セ?」
でも、ね‥‥。
柔らかく甘噛みする矛先を徐々に唇からうなじへとそらしていく。もっとも無防備な
肌を狙われ、ぶるるっと腕の中で弾ける音羽かなめは発情期の若鮎だ。
「んむっ」
「ぅあ‥‥ン、ふ」
ほんの半日で、こんなにも音羽かなめの唇を愛しく感じるようになってしまうなんて。
あまりにも相性が良すぎる。どれだけディープに犯しあっても飽きることがない。
はぁ、はぁとせわしなく胸を隆起させる少女にささやく。
「許さないから。大見得きって私を奴隷に仕立て上げた責任、とりなさい。でないと」
すっとしゃがみこみ‥‥
ご奉仕する隷奴のように、細いくびれたウェストに顔をすりよせ‥‥
涼栖学園の冬服のスカートに口を寄せる。
かなめほど器用じゃない。それでも、私だってスカートのホックを口で外すぐらいは(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。


しゅるるという衣擦れに少女が気づいたときには、すでに手遅れだ。あっというまも
なく黒い布地は太ももにまとわりつき、足首にくしゅっと絡みつく。
「あなたも露出狂のハダカを、人前にさらすことになるわ」
「あ、センセ‥‥ゃぁ‥‥!!」
痴漢に剥かれた生のショーツを満員電車内で脱ぎ捨ててきた少女に、お尻を覆い隠す
すべなどない。私の拘束と同じ。彼女はもう、自力ではスカートのホックを留められ
ない。
幼くも淫靡な官能の源泉が、ぷりりっと弾力的な2つの丸みがさらけだされる。発育
途上の桃を割ったような紅みと羞じらいとがつるんとした腰から下をいやらしくも火
照らせ、いや、それ以上に正面は‥‥‥‥‥‥

目を、疑う。

言葉がない。なかった。
こんな、あっていいはずが‥‥でも‥‥かなめなら。
喉がひりつく。無性にツバをのみこみたいのに、気道がパンパンに腫れ上がっている。
セーラー服の裾からチラチラのぞく、少女のへその真下。
すっぽんぽんにされた下半身。
むきだしになり、まだらに赤みの増した未発達のクレヴァスは、まがまがしいほどの
糸を引いていた。
透明な粘液がフチをてらてら光らせ、貞操帯という名の淫具が食いこんだ土手は充血
した帳を開き、なにかを根元まで咥えこまされている。秘裂の左右のやわらかな隆起
をより強調させるように革ベルトで栓をされ、凶悪なほどミッチリと‥‥
匂いたつような女の悩乱のきわみ。
今だって、ほら、むせび泣く新たな雫が貞操帯のベルトから、したたっていく。
「せ、センセ‥‥」
かぼそい声に、はっとわれにかえった。
羞じらいのあまり茹蛸のように朱にそまった瞳が、唇を噛んでまぶたを伏せている。
みずみずしい羞恥のありようと、下半身のギャップときたら。
ぐっと、音羽かなめの股間に膝を押しこんだ。
それだけで、じかに人肌を感じた音羽かなめは卒倒しそうなほど首をのけぞらせる。
ぐにゃりと戻ってきた表情は、感きわまって溶けているのだ。
「感じるの? 私をこんなにしておいて、一人でイくの。いけない子ね、かなめ」
「ご、ごめんなさ‥‥ぃ」
「私の自由を奪ったのはかなめよ。だから、私を解放するのもかなめ。できないとは
言わせないわ。私たちはもう、一心同体なの。分かる?」
「うン」
尻尾をふる子犬さながら、吐息をハスキーににじませ、汗だくの教え子が胸の谷間に
絡みついてきた。どこまでも倒錯した熱っぽいロリータの体形に、同じ革拘束の身を
寄りそわせ、微熱を重ねあう。
「うン、ウン‥‥わかった。センセ、好き‥‥ン、くはッ」
「んぁっ!?」
偶然なのか、おかえしとばかり少女の腰が私の下腹部をすりあげていく。スラックス
ごしにクリトリス真上のローターを揺すぶられ、わななく声がとぎれた。
唐突な愉悦のぶりかえしに裸身ががくがくと弾んでしまう。
もどかしい。
もっと、もっとイジワルな刺激が欲しい。
この疼きをかき乱して、貫いて、奪って欲しい‥‥っ!
でも、それらすべては音羽かなめを躾けてから、言いなりにさせてからの事だ。
淫靡にしびれきった不自由な裸身に酔いながら、ようやく立ち上がり、リビングへと
向かう少女を追う。
つやつやと爛れた童女のお尻は虐められたがっているかのよう。
ザクロの花弁めいて色羞く少女のスリットの卑猥さが、まぶたにくっきり焼きつく。
「ちょっと、かなめ。なんでリビングに? まず玄関ポストの封筒を」
「あら?」
くるりと身をひるがえす少女が、薄い笑みをのぼせた。
「もう9時ですから、みなみ。叔父様に連絡入れないと、私、大変なことになります」
まさか‥‥
思わず時計に目を走らせ、理解と同時に、胃の底がぎゅっと緊張でねじれた。
ウソだろう。そんな。連絡って、どうやって。
だって、だって私も彼女も、こんな格好‥‥後ろ手に括られて、何も、できないのに。
つつっと歩み寄ってきた音羽かなめが、爪先だちになり、私の耳たぶにささやきかける。
吐息交じりの睦言が、私を呪縛する。
「電話です。先生の家に泊まるって、伝えておかないと」


               ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


口でつまみあげた受話器を、黒革に囚われた少女が器用に転がす。
メモ帳のペンを咥えて自宅へプッシュする音羽かなめの軽やかで自然な所作に、私は
ただただ魅入られていた。
スピーカーホンに切り替えるとコール音が響き、どきりと心臓が跳ねた。
つやつや跳ね踊るポニーテールが白磁の尻をなぞり、背徳の匂いを濃厚にかもしだす。
『もしもし。鷲崎です』
『あ、叔父様‥‥かなめです。遅くなってごめんなさい』
重々しい男性の声がリビングに流れだし、心臓が飛びだしかける。
まさか‥‥
この瞬間、愛娘と女教師が揃って狭隘なアームバインダーをきっちり噛まされ、後ろ
手に縛り合わされているなど、電話の向こうでは気づきようもないだろう。
教師の方は、乳首をツンと勃たせてオッパイ丸出しの躯。
実の娘ときたら上半身だけ制服をはためかせ、ほっそりした腰から下はニーソックス
きりのすっぽんぽん、つるんとした裸体なのだ。
おまけに、お揃いの首輪まで嵌められた上にリードで連結済。
ぷりぷりしたお尻の底では、括約筋でアナルプラグをきっちり食い緊めている。
『ケータイが電池切れちゃって‥‥うん。連絡遅くてゴメンなさい。そろそろ新歓だ
から、先生の家で前準備を‥‥』
厳格そうな反応が気になり、擦り寄ってしまう。
背後からかぶさって耳を寄せると、急に音羽かなめが低くソフトな喘ぎをもらした。
小さな肩が快感に呑まれ、ぶるるっとよじれだす。
『んァ‥‥ッ、違う、なんでも‥‥ん、ちょっと、その、しゃっくり‥‥えと、ね』
「!?」
苦しく言葉尻を濁すと、首をねじってかなめが甘く私を睨んだ。
”酷いよみなみ。おっぱいスリスリされて、私、イキかけて、おかしくなっちゃう!”
”あ、え‥‥ゴメン”
囁かれて初めて、乳ぶさがたわむほど胸を押しつけていたことに気づいた。
あわてて躯を引き剥がす。汗ばみ、密着したオッパイがこすれて危うく本気の吐息を
もらしかける。
『とにかく、先生に一度代わるから』
”へっ、ええっ?”
あっと思うまもなく立ち位置を入れ替えられ、受話器の近くに押しつけられた。逃げ
ようもなく、焦った咳払いで声の調子をととのえる。
『あ、もしもし。夜分に恐れ入ります。私、涼栖学園の教師をしております楠みなみ
と申します。ご連絡が遅れまして大変もうしわけございませ‥‥ぅあッ、んン!』
‥‥完全な不意打ちだった。
音羽かなめが、スラックスのベルトに口を這わせてベルトを外しだしたのだ。
”みなみにお仕置き、ね。さっき私にイジワルしてくれたお返し”
”お願い、今は、待って‥‥ぅあ”
冗談でしょう?
いま親御さんと話しているのに‥‥万が一にも気づかれたら‥‥
ぞくぞくっと駆けのぼった焦りは、くるおしいほど過敏に柔肌を火照らせた。
スラックスにまとわりつく少女が私を全裸に剥きあげようとする。
『どういうことかね、楠先生』
『はい。あ、あの‥‥私、演劇部の顧問をさせていただいておりまして、その公演の
準備が忙しいため‥‥』
これ以上、少女にいたぶられる前に説明しなければ。思えば思うほど焦りがつのり、
さらに会話をもどかしくさせる。
疚しさと疼きが、アームバインダーに捕らわれた私をおかしくさせていく。
『それでなぜ、かなめは楠先生のご自宅にいるのですか』
『いえ、そのぉ‥‥ファミレスなどで居残りするよりは、私の家で活動させた方が、
その、こういうご時勢ですから、その』
どう見ても事実は逆だ。こんなにもふしだらで不健全な微熱の交歓を愉しんでいると
いうのに、保護者に偽りをならべたてている。
『安心かと思いまして‥‥んぅッ』
シュルルッッ‥‥
敗北を告げる衣擦れと共に、絶望的な速さでスラックスが太ももから滑り落ちていく。
私は自分が間に合わなかったこと、いまから音羽かなめにイくまで啼かされることを
悟った。
窮屈な布地から解放され、ぷるんとお尻の肉が跳ねる。
黒革の首輪とアームバインダー以外、一糸まとわぬ裸身に剥きあげられてしまったの
だ。よじれたショーツと、股間を絞りたてる浅ましい革紐の貞操帯きりに。
『分かった。何時までだ?』
『当人らは遅くまでやるそうなので、その、場合によっては泊めようかと‥‥ひっ』
粘膜を溶かしつくす衝撃につらぬかれ、花芯をねぶられて呼吸がとまった。
じゅる‥‥
本気で、そんな、汁気たっぷりの水音が耳を打つ。
反射的に、ぎゅっと太ももで音羽かなめの顔をはさみこんでいた。私のいやらしい
革の貞操帯のわきから、かなめが舌を尖らせて女の深みをえぐってきたのだ。
なまなましい嗜虐行為。
ざらっとした舌に直接舐めあげられる快楽と衝撃。
ずっと物欲しげに爛れていたところを、こんなに優しくイジワルにまさぐられて。
ダメ、ェ‥‥
もう、我慢できないっ、声が、卑猥な喘ぎがこぼれちゃ‥‥ぅ‥‥
『では、かなめをよろしく頼みます』
「はっ、はひィ‥‥‥‥イッ、くぅぅぅ‥‥‥‥ッッ!!」
オクターブは裏返った浅ましい嬌声が絞りだされる。崩壊をつげる喘ぎは、ブツッと
とぎれた電話の音をかき消して部屋にみちあふれた。
耳をふさぎたいほどの自分のアクメ。
奴隷のアームバインダーで縛り上げられた無抵抗な童女を足元にかしずかせながら、
その私自身が扇情的に裸身をよじらせ、壊れそうなほどうなじを反り返らせる。
不自由なのに。もどかしくて苦しいのに。
自分の意思じゃないのに。
逃げたいのに、カラダを棚に押しつけられて動けない。
いや、違う。こんなにも充血した奥までえぐられて、思いがけぬ少女の舌の長さに
腰が抜けかかっているのだ。むしろ、自分からぐりぐりとはしたなく股間を差し出
して悦んでさえいる。
気持ちイイ。深すぎてイク。レイプ同然にぬめる舌先をねじこまれてかき回されて。
こんなにも乱暴に、優しく、教え子のローティーンの女子に犯されて、私、よがり
狂っている‥‥っっ‥‥!!



               ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



ポストに差し入れた右足をきゅっと折りたたみ、音羽かなめが肩をすくめて呟く。
「やっぱりムリ。取れないよ。足の指でもつまめないもの」
「え、ええ‥‥そうね」
生返事の私は、むっちり強調された音羽かなめの艶やかな丸みから目を離せずにいた。
汗ばみ、張りついた黒のニーソックスが、華奢でいて肉付きのよい太ももをみちりと
緊めあげている。
幼いクレヴァスを裂く革の貞操帯のふちを、ぬめっとした透明な雫が穢している。
少女を笑えないくらい、私自身、腰から下がドロドロだった。
物足りない、満たされない子宮が疼く。
中途半端な貞操帯にギッチリ拘束された下腹部は、ローターの振動で刺激をむさぼる
ことさえできずにいる。ケータイの電波が入ってこなければ再起動しないし、電池も
ほとんどバッテリー切れなのだから、
当然だ。
気づかれれるよう、もどかしい股間をよじらせる。
もっと‥‥虐められたい。
知らず、音羽かなめの物欲しげな少女の帳に目を走らせてしまうのだ。
ニーソックスのへりを濡らすオツユのシミはもちろん、ローティーンのぷりりとした
お尻のラインが張りつめ、ほんのり白い肌が、熱をはらんで赤子のように爛れている
のがたまらなく倒錯的で悩ましい。
腰まで届くポニーテールの黒髪が、今では冬服姿の下半身を隠す唯一のよりどころ。
髪先がはずんで、さっきからかなめ自身のお尻をさわさわ撫であげる。
のろのろとリビングに戻った。
ぐったりと、ソファーにカラダを預けてしまう。
疲労もピークに近かった。ちりちりとした腕のしびれが、焦りを呼びおこす。すでに
4時間近く窮屈なポーズで両手を拘束されたままなのだ。
後は、かなめ自身が自由を取り戻すしかない。
かなめのアームバインダーはジッパータイプ。革紐さえ解ければ、ジッパーを下げる
だけで解放される。
「でもムリ。この革紐は4つ編みで、芯にワイヤーを通してあるの。切断は不可能よ」
「そんな紐、本当にあるの?」
疑いをむけると、音羽かなめは口をとがらせた。
「一回ハサミ入れたことあるもん。海外からの輸入品だし高かったから‥‥あっちの
SMマニアは半端ないんだって」
よく分からない。
けれど、音羽かなめのアームバインダーのジッパーと首輪をつなぐ革紐を切る手立て
がないのも事実だった。口でハサミを咥えて紐を切るなんてできるはずがない。
「他の手立てはあって?」
「うん、そうね‥‥ここは舞台じゃないから。ぶざまでも、時間かかっても、手段は
いくらでもあるわ」
あらためて、音羽かなめが全身をくねらせる。
セーラー服にまとわりつき、無情に縛めつづける獣の拘束具をたしかめているのだ。
一見、拘束は首輪と逆三角錐のアームバインダーのみ。
けれどこの2つがクセモノだ。
アームバインダーを閉じるジッパーは革紐で首輪に繋がれている。紐はロープラチェ
ットで絞られ、リリースレバーを押しあげる瞬間しか緩まない。
ラチェットと首輪のリングをつなぐダイアル錠は番号が分からず、外すのは不可能だ。
しかも、両肩にはアームバインダーの革ストラップが食い込み、鎖骨の上からきつく
緊めつける。
その上ラチェットは首輪の真裏。どれだけ顔をねじっても、かなめ自身では確認も、
触れることもできない位置で施錠されている。
少女一人をうなだれさせるにはやりすぎな、施錠のオンパレードだ。
音羽かなめは黙ってリビングの姿見の前に立ち、自分のいやらしい姿をなめまわす。
均整のとれたアーモンドの瞳がとろりとうるんでいる。
彼女自身マゾの気質があるらしい。絶望的な自分の姿に興奮しないはずがないのだ。
ややあって、かなめは反抗的にあごを逸らした。
「‥‥気に入らない」
「どういう、こと」
「これ自力じゃ不可能。エスケープアーティストの沽券にかかわるわ‥‥協力が必要、
なんて」
エスケープ、あーてぃす‥‥?
何を言われたかはよく分からず、しかし、セリフと裏腹な自信のみちた顔にぞくっと
した。音羽かなめはおそらく、脱出の手を見つけだしたのだ。
「みなみ、いい? 簡単に説明するね。手伝って」
「うん」
ひざまずいた音羽かなめに促され、彼女の後ろにまわりこむ。
漆黒のポニーテールをはらって首を傾け、かなめが乳白色のうなじをあらわにする。
無防備な後ろ姿にドキリと心臓が跳ね上がった。
「私の首輪の真裏なんだけど。ラチェットのレバー。見えるかしら、みなみ」
「小さな鉄の弁みたいの?」
「そこに噛みついてちょうだい。下から押し上げればレバーが緩むわ」
「ん」
小さくうなずいて、少女の首にそっと前歯を寄せる。呼吸がかかったのか、ひくりと
うなじが震え、か細い吐息がその唇から漏れた。まるで倒錯している。犠牲者を啜る
吸血鬼のようだとわけもなく思う。
「でも、レバーを緩めただけじゃ紐はゆるまないわよ、かなめ」
「ええ。だから先生‥‥して」
言われるがまま。おとがいを傾け、小さな涙滴状のラチェットに歯を立てる。
口の中へと苦い鉄の味が流れこんだ。ラチェットの中で革紐を固定していたカムが、
きちりきちり上下する響きもだ。かなりバネが効いていて固い。
歯の裏で鉄さびをこそぎ落としていくかのような、ひどく不快な感触をこらえる。
「ねえ、みなみ」
「‥‥」
流し目をくれる少女に、口をふさがれたまま瞳だけを走らせる。
婀娜めいた色で、少女は私にお願いをした。
「そうやって押し上げたラチェットのレバーの隙間に、なにかを挿し込んで欲しいの」
「‥‥ン?」
「ここ、みなみの家でしょ? なにか、手ごろな道具、ない?」
道具と言われて混乱する。
縛り上げられ、自由なのは口だけなのに、5ミリもないラチェットの隙間に何をねじ
こんだら良いのだろう。ハサミやボールペンや千枚通しは論外。大きすぎるし危ない。
口を離せばすぐ落下してしまう。
例えばネジだ。細くて小さく尖ったもの。それで、一人暮らしの女の家にあるような。
「‥‥爪楊枝か」
思いついてリビングへとかなめを引っ立てていく。
2・3本まとめてねじこんでやると、ラチェットのカムが開き、固定された。
「できたわよ。私のかなめ」
しびれきった腕をあらためて意識しつつ、背後から耳たぶに噛みついて吐息をまぶす。
嬉しそうに流し目をくれ、小柄な裸身がきゅうとねじれかえった。
「ん、んぁン‥‥何それ、ご褒美?」
「ちゃんと解けたらね、もっともっと続きをしてあげるわ」
コク、とあごを引いた音羽かなめが背筋をそらす。
自然と空気が張りつめ、イリュージョンマジックの緊迫感がリビングを支配した。
どんどん動悸が激しくなっていく。
緊張、しているのだ。
‥‥見ている私の運命さえ、彼女のエスケープにかかっている。
音羽かなめは本当に自力で脱出できるのだろうか。ラチェットが動くようになったと
はいえ、それはただ、それだけだ。きっちりと無残な逆三角錐に引き絞られたアーム
バインダーは、変わりなく両手を包みこんで密閉し、ジッパーは引っかかったまま、
開こうとするきっかけさえないように思える。
本当に‥‥
彼女を、信じていいのだろうか。
「‥‥」
瞳と瞳をからませて、ただ、凝っと見つめあう。無色透明な少女の唇に、うっすらと
微笑がのぼっていく。
「いいわ。みなみ‥‥私のエスケープアート、見せてあげる」
肩幅に足を開き、軽くあごをあげて目線を上に。
ピンと伸ばしきったアームバインダーが、幼い下腹部の後ろからのぞいている。膨ら
んだ両手首にピッチリ張りつく革拘束の残酷な対比が、濡れそぼった太ももの奥から
のぞくのだ。
ぴたりと動きを止め、集中するかのように目を閉じて‥‥
鳴りだすことのないBGMの開始を合図に、たった一人の観客の前で、瀟洒な裸身が
くねりはじめた。



                         Total  daily  - 
Novels Back Next bbs Entrance