グラップル・フィーラー 〜凌辱の美姫〜 02

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疾走するコルベットの車内では、雇い主とメイドとのやりとりが淡々と展開中だった。
「で、どうして智香はタイミングよく来れたのかしら」
「大地伶奈様からご連絡が入りまして」
「どんな風に」
「お嬢様がグリーンマートで触手に襲われてすんごいことになっている‥‥と」
「それが全速力でやってきた理由だった、と。伝言ゲームばりの誤謬ね」
「ええ」
「何を思い返しているのか知らないけど息が荒いわよ、智香」
「ふ。まさか」
「あ〜あ、さっきの触手に絡まれて、太ももの裏側、ぬちゃぬちゃなのよねー」
「どどどっ! どこですか、お拭きいたします私が、私めにご用命下さればただちに」
「ならハンドル握りなさい。ただちに」
ついでに鼻血が出てるわよ‥‥
オープンルーフの助手席に腰かけたいりすは、ため息を車外に流すと運転席のメイドの顔
をハンカチで拭いてやった。いりす専属の住みこみ家政婦、真手須智香(まてす ちか)は、
こうみえて昼は超心理生物工学サイバイオテクニクスを大学院で専攻する才媛というから驚かされる。
――本物の変態だけど。
「もったない心遣いです、お嬢様‥‥ハァッ、ハァァァ」
「異常に鼻の下を伸ばすなっ!」
リアルすぎる鼻息づかいと興奮具合が本気で怖いし。
「‥‥」
はしゃいでは見たものの、鴻神いりすは実のところ沈みこんでいた。
G3の有用性を示す機会だと思っていた犯罪との戦いが、PBT社(サイバイオテック社)
令嬢としての肩書きがついた瞬間から政治的な意図によって歪められかねないと平良先生
は指摘した。それはなにより、いりすにとってもっとも辛いことだったのだ。
「ねぇ、智香」
「なんでしょうお嬢様」
「正義のヒロインって、きっと肩身が狭いんでしょうね」
頬を撫でる風から市街地の騒音が遠のき、かわって樹木のざわめきがまじりだす。
夕陽に照らされた丘陵の頂、鴻神邸に続く広大な敷地を真紅のコルベットは疾走していた。
お屋敷に暮らすのはいりすと姉の亜衛乃(あえの)、そして執事を含めた使用人たちだ。
母はいない。父は統括するギリシャ支部で一年のほとんどを過ごしていた。
考え考え、ハンドルを握ったメイドがいりすの問いに答える。
「ヒロインは」
「‥‥」
「ヒロインは、ヒロインであるだけで幸せでしょう。それこそが、自己のあり方だから」
「“白の天使”のこと?」
「はい」
白の天使。その名はつねにひそやかな噂の域にとどまっていた。だが警察がそれを否定し
うとんじたところで、鳴神市の擬装手犯罪に立ち向かう名もなき天使の存在は、いまでは
多くの人々に知られていた。
いりす自身、白の天使には非常に強い共感をおぼえ、憧れてもいた。
でも、だからこその疑問。
「そう、幸せなの‥‥感謝されることもなく、正体を秘めるしかなく、充足も達成感も、
喜びすら口に出すこともできないのに?」
「――その秘めた喜びこそが、『使命感』と呼ばれるものかもしれません」
「哀しい存在ね」
制服の詰襟ホックを外して汗ばむうなじをのぞかせ、鴻神いりすが頬杖をつく。ヒロイン
のありよう。犯罪と戦う力。それをどう扱うべきなのか。
ぱたぱた胸元をあおがせつつ、いりすは、とまどいと困惑のただなかにあった。
「‥‥で。バックミラーいじって何しているの、ストーカー」
「それはもう。私はお嬢様ひとすじですから」
「視線もひとすじなのね」
ここでいりすが胸でもはだけたら、間違いなく事故りそうな勢いだった。主に鼻息で。


                ‥‥‥‥‥‥‥‥


「ただいま、バトラー」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
帰宅したいりすを迎え入れたのは謹厳な顔つきの初老の執事(バトラー)だった。以心伝
心で短いやりとりを交わしつつ、いりすと執事は玄関ホールをすたすた横切って二階への
螺旋階段を上がっていく。
「姉さんは? あと、報告すべき事はあって」
「亜衛乃お嬢様はすでにいりす様をお待ちです。それと、本日タウマス様に呼び出されま
して、いりす様に直接お渡しするようにとプレゼントを預かりました」
「ヤバ、姉さん怒ってるかなぁ? というか変ね。私の誕生日は来週でしょう」
「社の機密に属することらしく、仔細はお手紙でと。いずれもお部屋に届けてございます」
「ふぅん。また試作機のテストプレイかしら。腕が鳴るわ」
そこまで話したところで会話に気づいたのか廊下の扉が開いた。ふわりと空気が華やぐ。
鴻神亜衛乃(こうがみ あえの)は、いりすの姉というより双子のように見えた。ただし
目尻はより柔らかく、おっとりと優雅で口数の少ない立ち振る舞いは、活発ないりすとは
反対にほのかな大人の色香をおびていた。
「お帰りなさい‥‥いりす。遅かった、のね」
静かに語りかけ、微笑む姉をみとめたいりすは顔をほころばせつつ小走りに駆け寄った。
「ただいまっ、姉さん」
「もう‥‥抱きついたって、ダメ」
きゃしゃなカラダにしなだれるようにして、いりすは軽い抱擁を交わす。
不服そうに咎めだてる亜衛乃の視線に、いりすは気まずそうな顔を作って舌をのぞかせた。
「ゴメンなさい。ちょっとトラブルがあって遅くなっちゃったの」
「服の見立て‥‥手伝ってくれるんじゃ、なかった?」
「食後、食後には必ず。ね?」
「もう、ずるいわね‥‥いりすは」
甘えて顔を胸にすりつける子供じみたいりすの仕草には亜衛乃もかなわないらしい。威厳
を作ってにらみつけようとするものの、まるで「めっ」と娘を叱る母のようだ。
「そういえば、いりすお嬢様はなぜ遅かったのでございますか」
「うん。帰りがけにね、暴走した擬装手に襲われたの。太ももの内側がぬちゃぬちゃー」
「‥‥いりす、無事だったの」
「それは大変でございました。お風呂を準備いたしましょうか」
まるで動じる気配もない執事に苦笑したいりすは、不安げな亜衛乃を安心させようとした。
「もう拭いたから大丈夫。ケガもなし。ほらっ」
「‥‥‥‥!!」
ぶばっと。
ガレージから戻ってきた真手須智香の鼻から、鮮血のアーチがほとばしっていた。
大胆にスカートの前をたくしあげたいりすの手がギョッとして止まり、そして、食い入る
ように眼福を目に焼きつけながら、受け身も取らず前のめりにメイドがぶっ倒れていく。
「だ、大胆な‥‥黒のレース紐パン‥‥ごふッ」
「どさくさまぎれに願望を呟くなっ、色だけだろ合ってるのー!!」
「大胆‥‥いりす」
「あ」
あわてて口を押さえたときにはすでに、いりすの叫びは屋敷中に響きわたっていた。

いつものように向き合って晩餐を終え、いりすと亜衛乃は食後のひと時をくつろいでいた。
来客用の食堂は広すぎて落ち着かないため、姉妹はいつもダイニングで食事を取っていた。
小さいとはいえ優に20畳はあるダイニングルームには、執事と両令嬢専属のメイド2人
が控えている。家族同様に信頼できる使用人たちだ。
「よろしいのですか、いりすお嬢様。私どもにお見せになって」
「うん。あなたたちにならね」
小包をほどき、いりすが取りだしたモノ‥‥それは新型のG3デバイスだった。
外見はディーセント・ケアに似ているが、脈動するかのように弾性のある金属面が光沢を
放っている。テレパスの出力を計るASC(変成意識野)インジケータこそ残されていた
ものの、各種サーモモニターや排熱口、感圧スイッチが廃されていた。
「かなりシンプルになった‥‥のね」
「うん。バッテリーもないの。作動原理も動力もまだ不明‥‥本当の試作機ね。一応この
状態で、すでにディーセント・ケアと同等の機能が使えるらしくて」
「えっと‥‥パスコード、なしで?」
「つまり、本当の能力はディーセント・ケアの比じゃない、ってこと」
目につくのは手甲の厚みにそって開くスロットのみ。ナノバイオクラスターのアンプルを
セットして使用するらしい。
「そんなわけで、お爺様に起動テストを頼まれたから、あとで地下を使うわ」
「お父様の、ラボを?」
「うん。お屋敷ではそこ以外で起動するなと手紙で言明されているの。なぜかしらね‥‥
それより、姉さんが今度の集まりに来ていくドレスを選ばなきゃ」
「ええ‥‥お願いできるかしら」
まだかすかに首を傾げつつ、いりすにつられて亜衛乃も立ち上がった。鴻神家の令嬢たち
は、それぞれ社交面と実務面にその適性をふりわけてPSB社のイメージを支えていた。
ダイニングルームを出しなに、ふと亜衛乃が首をかしげる。
「‥‥いりす、新機種はなんて名称なの?」
いりすは口を開いた。


                ‥‥‥‥‥‥‥‥


欠けたる月が煌々滅々、陰々と暗夜慟哭の夢幻境に輝いていた。
鴻神市の中央部からほど近いビジネス街。人気の絶えたビル最上階のフェンスに座るのは
言わずと知れた鬼手の魔人。アヴァンと呼ばれた仮面ペルソナの青年だった。
(‥‥ともかく、鳴神グリーンマートの時限トラップは何者かに破られたわけです)
(『何者』か。ふん。予定外の邪魔が入ったのに、特定もできんとは)
(お言葉を返すようですが、マスターこそ僕の領域テリトリーをご存知でしょう。多少のアンチESPの
負荷で破れるような、アレはそんなヤワなものでは)
ひごろ嘲弄的な青年がムキになって訴えかけていた。だが。
(ククク。『策 動 領 域ヒュプノバラージ』の名も落ちたな)
抑揚のないテレパスが沈黙を生みだした。
ギラリと青年の脳裏から零れ、G3を輝かせた刃のひらめきは、あるいは殺意か憎しみか。
(僕の前で、その名称はやめていただきたいと申し上げたはずです、マスター)
(‥‥)
(もう一度口にされるようでしたら、マスターと言えども僕はこの名にかけて)
(ク、クク、ククククク)
淡々とした忍び笑いが、昂ぶりかけた激情に水を注していた。圧倒的な存在感と威圧感が
テレパスとなり、満足げにうなずく。
(ふん。それでいい。言い訳などやめろ。本社襲撃に陽動など不要、俺と貴様で充分だ)
(‥‥分かりました。ただ、万一に備えた後詰めが)
(貴様の能力を破った未知なる第3の存在か。つくづく用心深い。そういえば白の天使は)
(ヤツは夜中しかあらわれません。それが彼女のルールなんです。それに)
舌なめずりの音。
(昨夜の戦闘で、左腕に深い傷を負わせました。しばらくは力も充分出せないかと)
(上々だ。我々は『疾 駆 単 騎クリムゾンアクセル』と手を組んだ。彼女があらゆる追跡を阻むだろう)
二度目の沈黙は、ほんの刹那だった。
(なんですって・・・・・・・!!)
(落ち着け、アヴァン)
(『疾 駆 単 騎クリムゾンアクセル』と! なにを、真逆まさか、そんな莫迦な!)
(俺も貴様もヤツと顔をあわせることなどない。そういう契約だ)
(ふっ、巫戯化るな! 認めないぞ僕は、あの『虐殺の紅化粧ベルセルクタイフーン』と手を組むなど愚挙の)
どうしようもない手の震えと、自制心をあざわらい荒れくるう昏い雄叫び。しかし、この
アヴァンの反応を予期していたらしく、男‥‥瀬上カムイはそのまま話を続けた。
(ふん。一時的な同盟だ。我々の目的の障害となった暁には、排除するのみ。いかな二つ
名とて、つねに孤独と向きあう彼女に我々を凌ぐ力はない。否、彼女はこの二つ名ゆえに、
必ず一人で行動せざるをえないのだからな)
(‥‥)
(その折には、最上の肉を貴様が食らうが良い)
ぶぅんと音たてて、青年のG3がテレパスの終了を告げる。
「‥‥『疾 駆 単 騎クリムゾンアクセル』だと、クソ‥‥許さない、僕は‥‥」
途切れたテレパスにも気づかず宙を睨む青年を一陣の風があおり、次の瞬間、青年はビル
の谷間へともつれるように身を躍らせていた。
‥‥地面に叩きつけられる鈍い音は、どこにも響かなかった。
ただ闇が、すべてを飲み込むのみ。


「クレッセント・シード‥‥欠けたる種、か」
意味深な名称にしばし思いをめぐらし、鴻神いりすは慎重に新型デバイスを手に取った。
鴻神家の地下二階にはかって父が使っていたラボがある。G3の反応を計測し、コントロ
ールするための設備。ここでなら、ESC残留反応――G3使用時に発生するナノバイオ
クラスターの残りカス――の遮蔽も可能だ。
微弱な生体電流を1ミリワット以上に増幅してESPを発動させるG3の構造は、正真の
超能力者が発する強い負荷には脆い。遺伝的な潜在ESPの高さから、いりすはこれまで
も技研に頼まれて新型G3の限界稼動テストを行うことがあった。
慣れた手順で服を脱ぎ、伝導率の高い被験者用の薄い下着をまとってモニタールーム中央
に歩みでる。あらわになった彼女の肌は、緊張にうっすら上気していた。
入念に封蝋されていた祖父の手紙を思いかえす。
『必ず一人で起動し、成功したら、明日の昼までに本社に来て欲しい。お前に渡したその
最新鋭G3、クレッセント・シードの発表は明日の記者会見で行う。その前に会って知り
たいのだ。シードがお前を選んだのかどうかを――』
あれは、どういう意味だったのか。
『シードが選ぶ』とは‥‥
いつになく不自然で暗示めいた手紙の文言は、いりすを不安にさせていた。起動時の危険
性について延々のべた手紙の末尾もまた、奇妙な詩でしめくくられていた。
『我、己が意思を以て世の理を捩じ曲げる者也。
 我、あまねく人々の足下に跪きて奉仕する奴隷也。弱き者の剣たり盾たり審判たる者也。
 咎人として煉獄に堕つるとも、邪神の力借りて世界に仇なす汝を此処に殲滅せん。
 我が名を怖れよ。我は‥‥』

『我は、世界を滅ぼす深遠の渦グラップル・フィーラー也!!』

「違うわ。お爺様。擬装手使いグラップル・フィーラーは、世界を滅ぼすものじゃない」
呟きつつもぶるりと身震いし、彼女はクレッセント・シードを装着した。メインマシンと
G3をコードで繋ぎ、モニタリングを開始してトラブルに備える。動力源など不明な部分
が多いだけに、いりすはいつもより慎重だった。
太ももに巻いた弾帯からナノバイオクラスターのアンプルを抜きだし、シードのスロット
に差しこむ。細長いアンプルが吸い込まれ、手甲の表面、ASCインジケータがうっすら
色味を増す。
唐突にズキリと頭痛が走り、顔をしかめかけたいりすは目をみはった。
「ウソっ‥‥真後ろの壁まで、完全に見えてる‥‥ものすごい性能じゃない、コレ‥‥」
唖然とした囁きが震えをおびるのも無理はなかった。
まだ第一段階の起動さえしていない‥‥なのに、あっという間に拡大した変成意識野は、
いりすの周囲360度全周を視野におさめてしまっていた。背後の壁に這うコードの模様
さえクリアに目で確認できる。ディーセント・ケアの魚眼より、さらに広い視野だった。
それだけの能力。それだけの高機能。
ならば、その代償とは。祖父のおそれる危険性とは、なんなのか。
「いくわ‥‥一気に、第2段階まで起動させる。大丈夫。私にはできるはず。落ち着いて」
ためらいかけた心を奮い立たせ、大きく息を吸いこんで。
いりすは言語命令を解き放った。
「――覚 醒ウェイク――開 放オープン!」
クレッセント・シードが起動した。
空気がほのかに揺らぎ、四囲の光がデバイスに収束して、次の瞬間、弾けとぶ‥‥!
「‥‥!!」
何を口にする間もなく、シードから放出された輝きは微細な触手さながらにいりすの裸身を
まさぐり、ついで爆発的な速度で表皮から神経の中へもぐりこんできた。
渾然と溶けあう世界、意識、現実‥‥心に沁みだした『ソレ』はいりすを侵食して‥‥‥
「な、なに‥‥ヤメ‥‥来るなァァ!」
悲鳴は、誰一人聞くものもないラボの中で続き‥‥
ふっと、途絶えた。


「ふっふっふ」
深夜の、誰もいるはずのない鴻神家の地下二階をストーカーが徘徊していた。独唱つきで。
「お嬢様の、ヴィーナスの、うるわしの、ハ〜ダカ〜♪ のぞく私〜はネズミ小僧♪」
‥‥‥‥
‥‥聞くに耐えないので以下Bメロ、Cメロ、サビ全部省略。
真手須智香の目的はだた一つ。稼動テスト中のいりすの、いやらしく発育したうるわしい
裸体を目にすること、あわよくばナマ着替えさえ目に焼きつけてしまうことだった。
「‥‥いつもと同じだろというツッコミは却下します」
「‥‥」
誰かをけん制しておいて、ふたたび忍び足で歩きだす。
重々しい二重の金属扉を開きモニタールームへ。再びきっちり後ろ手に閉ざす仕草がまた
手馴れている。気づかれないよう、そろりと腰を上げて、頭と目だけ窓からのぞかせた。
その表情が青ざめる。
「お、お嬢様‥‥いりすお嬢様!!」
窓の向こう、鴻神いりすは左手のデバイスを右手で抱えこみ、うずくまっていた。狂った
光輝がラボ内を跳ねまわり、乱舞しつづけている。
悲鳴をあげ、もつれる指先でロックを外した真手須は、分厚い扉ごとラボに転がりこんだ。
うずくまったいりすへと駆け寄りかける。しかし、彼女はほんの二歩しか進めなかった。
浮き上がった足。全身に絡みついた、生々しい粘着質の感触。そして。
うなだれていた顔を静かにもたげたいりすの視線に射抜かれ、真手須智香は戦慄した。
ギラギラとした欲情‥‥略奪の歓喜に溺れきった、ダークブルーの瞳。
夢幻のうちにいりすが呟く。
「滅――砕――吼」
「‥‥‥‥!!」
たけりくるう肉腫の奔流が真手須智香を飲みこみ、反対側の壁に叩きつける。
どぉんと。
遠雷のごとき激震が鴻神邸を揺さぶった。



               ‥‥‥‥‥‥‥‥


「ンッ‥‥な、に」
爆音にもうろうとなった頭を振り、真手須智香は状況を把握しようとした。
なにか、たえまない淫らな刺激が全身を火照らせている。
はっと動きかけ、だがその身は指一本自由にならなかった。ビクンと跳ねかけたカラダを
ぬるりとした感触が這いまわり、ギシリギシリと淫らに締め上げていく。粘着質の液体が
メイド服にしみこんできたゼリー状の触手だと知り、真手須は息を呑んでいた。
おそらく、見た目はネバっとしたコールタールの塊に絡めとられた虫のような姿だろうか。
壁に食いこむ擬装手で拘束された彼女は、両手を大きく広げて磔の身となっていたのだ。
「いけないメイドね、智香。私の裸をのぞきにきたのかしら」
「おっ、お嬢さ‥‥ひっ」
熱に浮かされた囁きにおどろいて振りむきかけたメイドは、あごの下から鎖骨のあたりを
つぅっと肉質の触手でなぞられて息をのんでいた。ぬるりと触れるか触れないかのタッチ。
たったそれだけで、秘めやかな女性の急所をいじくり回されたのと同じくらいの甘い衝撃
が真手須の中を貫いていったのだ。
たまらずビクビクンと弓なりに背がのけぞり、液化した触手の海の中で躯が跳ねてしまう。
じわりじわりと下腹部が、お股の奥が熱をはらんでいく。
「こ、これ‥‥どうしてカラダが‥‥あァッ」
反射的に熱い息を吐き、真手須はギョッとして磔の手足をよじらせた。
いりすの声はどこか変だった。そして、それ以上に真手須自身がおかしかった。擬装手に
絡めとられた肌のすみずみがチリチリ火照り、疼きだしていたのだ。
「私の質問が先。ねぇ、智香。私のこと、好きなのよね」
「はっ‥‥は、はい」
「‥‥私とエッチなこと、したいでしょ? 私の奴隷になるならイカせてあげる」

いりすの台詞は、真手須智香をぞっとさせた。

鴻神いりすは、いつものいりすではなかった。
破壊された壁の粉塵がおさまり、触手の使い主がその中から姿をあらわす。
時折顔をゆがめ、だが、ぽうと上気した顔を妖しく微笑させている。桜色に染まった肌を
漆黒の擬装手で胸と股間をおおっただけのあられもない裸身だった。
左手のクレッセント・シードは静かに輝いていた。その手元には漆黒の、肉感もたしかな
のたうつ擬装手の束。液状と肉質はっきり異なる二種の触手をいりすは自在に操っていた
のだ。
ミチミチとねばっこい粘液にカラダを慰撫され、喘ぎをこらえて真手須智香が訴えかける。
「どうされたのですか、お嬢様‥‥G3の起動実験は、なにかトラブルでも‥‥」
「いいえ」
いりすの声はうれしげに否定した。
「G3は‥‥ううん、シードと私は一体化したの。なるほど、皮下神経とシードの端子を
そのまま接続するのだから、反応速度も精度も劇的に向上するはずね」
くんと、指を一本曲げる。
メイドを磔にした触手がぐんにゃり退いて囚われのカラダをむきだしにし、同時に真手須
の正面の空間が裂け‥‥鋭利な触手が宙を疾った。
残像でも追いきれぬ擬装手を真手須の目が捉えきれたかどうか。
次の瞬間、はらりと衣擦れの音を残して、メイド服は完全に剥ぎ取られてしまっていた。
切り刻まれたエプロンは塵と化し、黒地のワンピースもペチコートごと胸から下半身まで
ざっくり裂かれ、ブラジャーを引きちぎられたメイドの、肉づきの良い下乳が外気に晒さ
れていた。
「もちろん思うだけで自由に動かせるのだけど――神経の延長だからね――簡単な動作や
言語命令を使った方が、伝達がスムーズになってより正確に操れるみたいなの」
いりすの説明をさえぎったのは真っ赤になった真手須の悲鳴だった。
「ひっ‥‥や、いやぁぁ‥‥お嬢様ぁ」
「恥ずかしい?」
破れた生地でかろうじて上半分をおおわれた乳房にいりすの擬装手がのびる。すでに粘液
まみれとなった胸を根元から絞るように擬装手が絡みついた。今にも乳首をつまみだされ
そうな状況は扇情的で、あやすように胸をまさぐられる真手須智香は目を細め、ハァハァ
喘ぎをかみ殺していた。
「お嬢様、おやめ下さい‥‥こんなの、はっ、恥ずかしいに決まってます‥‥!」
「どうして」
「だって、お嬢様に‥‥見られてて、私は‥‥」
「いつも私の着替え、のぞいてるのに?」
「そっ、それは役得というヤツで‥‥ハッ、しまった誘導されたぁ‥‥ぁァン」
「ふっふふふ」
淫らに、卑猥に、耽美な声でころころといりすが笑う。
「起動は成功‥‥シードも私を受け入れた。神経接続にともなう相性も最適だった。でも、
今の私には致命的な欠点があることをシードは教えてくれたわ」
「‥‥」
「脳にかかる負荷が大きすぎて、カラダが理不尽に発情してしまうのよ‥‥こんな風に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いりすが自分の股間に指をあて、おおっていた触手をわずかにずらす。
ボタボタッと音高く床にしたたったもの。それは、まぎれもなく透明な処女の愛液だった。
真手須の目がいりすの股間に、むきだしになった生足をつたう流れに釘付けとなった。
目にしただけで、真手須のショーツまでがジュクっとシミを作りだす。
「そんな、脳内麻薬の異常放出‥‥違法改造G3と同じでリミッターが外されてる‥‥?」
「あなたのカラダが疼くのも、私の快楽を神経から流し込んでいるから」
「‥‥!!」
はっと真手須はジェルに拘束された自分を見下ろしていた。
欲情にあらがえないのも当然‥‥すでに彼女は、表皮から融和した擬装手によって神経の
コントロールを奪われていたのだから。たえがたい疼きが嬲られる乳房を充血させていく。
もどかしい。たまらない。もっと強く、意地悪く‥‥
メチャクチャにされたい‥‥
「馴らさないといけないの、この反応に。だからね、智香」
「‥‥」
ゴク、と真手須が息をのむ。変化した声音で、いりすの言いたい事を察してしまったのだ。
「だから‥‥私を、慰めてほしいの」


               ‥‥‥‥‥‥‥‥


「たまらないでしょ。どう? 私にいじめられて、エッチなことされて」
「お、お嬢様ァ」
とろけきった喘ぎと、ネチャネチャした触手のぬめりとは違うまぎれもない女性の快楽反
応がラボの中に響きわたっていた。
「いいのよ、我慢しないで。エッチなメイドをしつけるのも‥‥ン、私の仕事。喘いで?
悶えてよ? たくさんお仕置きして、私だけの奴隷にしてあげるから」
「だめっ、らめです。そんな激しく‥‥あぁァン、おかしく、なっちゃ‥‥」
優雅に足を組んで腰かけたいりすの前で、メイドは肩を大きくよじらせ、今やむきだしの
股間にわだかまった微細な触手による愛撫で狂ったようによがらされ続けていた。
襟元のカラーも、袖もカフも、純白のタイツも、液状の触手でドロドロだった。クールで
理知的なイメージをあたえる眼鏡もまた、どろりと濃い粘液で汚されていた。
半裸で身悶える拘束姿はみるからに劣情を誘う。
相変わらず拘束された躯。自由のないままの一方的な凌辱。
その苦しさが、行きどころなく積もり溜まっていく快楽が、メイドのカラダを灼きつくす。
しかも、同時に神経からも、とどまることなく快感が流しこまれてくるのだ。
「んっ、ふぁぁ、ファァ‥‥また摘んでる、そっこ、そこはい、ぎッ‥‥」
「クリトリスが腫れちゃった。ゴメンね、優しく撫でてあげる」
ビッシリ伸びたイソギンチャクのような触手がいっせいにクレヴァスにむしゃぶりついて、
そそり勃った肉芽を揉みくちゃにしていた。
「ひっひ、酷いです‥‥お嬢様、ていうか女王様‥‥キャァ」
「失礼なことを言うとオシオキよ」
急にしなった触手の一本が、器用にも横から真手須のお尻をムチのように打擲していた。
真っ赤にそまった皮膚の痛みさえ、内側から侵された神経が官能に変化させていく。
皮下へのダイレクトな侵入。
それは文字どおり、躯の内側から理不尽に火照らされ、凌辱されることを意味していた。
奪われた性感を爪弾くいりすの執拗な愛撫は、真手須をドロドロに溶かしていく。
「うれしい? 夢がかなって」
「そ‥‥そんなぁ、人をセックスアニマルみたいにィィ」
「あら、違うの?」
擬装手の織りなす椅子に座り、自らも体を触手でいじりながら、いりすが言う。
「ち、違いませんけど、特に今はぁぁァァァ、壊れ、壊れちゃ‥‥っっ」
「ね。今どんな感じか私に教えて?」
「わ、私‥‥こんな敏感になってます。肌を擦られただけで、イキそ‥‥あ‥‥」
口に出すと、さらに激しくカラダがうずきだした。肌という肌すべてがむきだしにされた
かのように熱く滾っていた。わずかな衣擦れさえ、彼女を官能の高みに押し上げていく。
「すっかり言いなり。抵抗しないのね、変態メイド」
「そぉぉんなぁ、ひどい、っですよぉぉ」
敬愛する主に裸身をなでまわされ‥‥
お嬢様自身の手でなすすべもなく嬲られ、昂ぶらされてしまう‥‥
もとより、真手須智香がこんな甘美な誘惑に、欲望の快楽にあらがえるはずがないのだ。
「‥‥それに」
快楽のほとりで口をひきしめ、真手須は上目づかいにいりすを見つめる。
「わっ、私は‥‥お嬢様に満足していただければ、何でもいたしますから‥‥んんんンッ」
「なるほど」
いりすが小さく笑う。心なしか、頬が紅潮していた。
「いい子。さすがバトラーの見立てに狂いはないわ。彼が即決で雇用を決めただけあって、
あなたは本当、主に尽くすメイドの鏡ね」
壁に食い込んだ粘液がはがれ、液状の繭でくるまれたまま真手須のカラダはいりすの前に
膝まずかされた。足を開かされ、両手を背中高くねじあげられて、念入りに漆黒の触手が
メイドを縛りあげていく。フレアのミニスカートの名残りが触手にひっかかり、さらに大
胆に引き裂いていた。シュルシュル巻きつく擬装手が粘液ごしに肌をあおる掻痒感に息を
のみ、真手須はフルフルと歓喜でのけぞっていた。
その顔から眼鏡が外され、目隠しの触手がへばりついて視界を完全に奪い取ってしまう。
「あ、あの」
「ダーメ。主の恥ずかしいところ、見せるわけにはいかないわ‥‥舐めてもらうんだから」
「!!」
真手須が何を思ったか表情では分からずとも、トプンとお股からあふれだした愛液の洪水
が感情をあらわしていた。快楽に蕩けた頭には、理性も自我もわずかしか残されていない。
つ、と鼻をくすぐる、かぐわしく濃厚な処女の香り。
いりすの股間のあたりに、彼女の顔があった。
「お願い‥‥今度は、私をおかしくして」
ねだる声の甘さ。
ここまで発情させられて、こんな媚びた甘い誘惑をいったい誰が拒めるというのだろう。
いざなわれるように盲目の顔で凝視しつつ、最初はおずおず鼻先をいりすの股間に埋めた
真手須智香は、ちろちろと、やがて大胆にグシュグジュと舌使いを響かせていりすの秘部
を舐めはじめた。
「ンッ、あぁぁっ、上手よ‥‥そう、舌をのばして‥‥」
声と同時に、真手須のカラダを縛りあげた触手がギシギシ合奏をかなではじめ、不自由な
カラダをみるみる悦びの頂点に押し上げていく。乳首の先端に吸いついた触手が小さな口
でキリキリと肉を甘噛みし、引っぱったりくねらせたりする、そのたびに彼女は気も遠く
なる愉悦の波を飲み干していくことになるのだ。
「ウブ‥‥ンク、あ、んぁぁ‥‥お嬢様‥‥ンッッ」
「いいの、そうよ、遠慮しないで私をメチャクチャにしてェェ」
舌ったらずないりすの嬌声が、純粋な喘ぎが、真手須智香をとめどなく興奮させていく。
どれだけ嬲られようと吸いついて舐めつづけるクレヴァスの感触だけは離さないと言わん
ばかりに、真手須のクンニリングスはいりすを思いがけずアクメへ突き上げていく。
「くっ、ンンッ‥‥すごいわ、イカされちゃう‥‥」
ピクピクとのけぞりながら熱い吐息をこぼしたいりすは、ふと何かを思いつき顔を妖しく
上気させた。いっそう強く腰を押しつけ、真手須の股間をいじっていた触手を引き上げる。
「ふぁ!? お、お嬢様ァァ、そんな‥‥」
「ふふっ」
微笑むと同時、いりすは素足の先を充分うるおった真手須智香のクレヴァスに押し当て、
にちにちと足の指でワレメをいたぶりだしたのだ。
ぎょっとした真手須もまた、すぐに何をされているかに気づき、カァッと耳まで赤面する。
「だっ、ダメですお嬢様、そんなァァ‥‥」
「惨めね、智香。あなたのココはこんなのですっかり感じてるみたいよ」
「ダメ、うぁぁ、中に入ってきちゃ‥‥うンっンン」
「なーによぉ。一緒に気分だそうよ、ね」
女の敏感な箇所を足でいじくりまわされる浅ましさ。
それがかえってゾクリときたのだろう、惨めさによがり泣きながら、真手須の反応がはっ
きり絶頂寸前のむせび泣きになる。触手の緊めつけにさらかって裸身を前後左右に揺すり
たて、自分から濡れそぼったクレヴァスにお嬢様の足を突き入れてくるのだ。
ジブジブとオツユがあふれ、主の足をいやしく汚していく。
「いぁっ、らめ、らめぇぇ」
「舌を休めないの、智香。私をイカせないと、最後までしてあげないから」
「ぶっ、うング‥‥ゅ、ちゅプ‥‥」
足の親指がごりごりとワレメの上端を押しつぶし、敏感に充血した肉芽を蹂躙していた。
もぞもぞと4本の指で女のとば口をこじあけられ、真手須のすすり泣きが一気に昂ぶる。
舌をつかい、粘膜をねぶりながらの喘ぎが、吐息が、いりすをも興奮させていく。
「ンァァ、アァァン‥‥お、お嬢様‥‥ンッ、ンンーー」
「足でいじくられて感じちゃうの。いやらしい‥‥ンァ、イイ‥‥最低のメイドね‥‥」
「んふぁっ、ンァァン、おっ、お嬢様‥‥お許しを、狂っ」
喋りかけていた真手須のカラダが激情にがくんと跳ねた。
勢いあまって、その歯と舌ががつぷりといりすのクレヴァスを甘くもみつぶし‥‥

「アァン、ンッッ‥‥イクッ‥‥‥‥‥‥‥‥ッッ!!」
「狂ってしまいますぅゥゥゥ‥‥!!!!」

真手須智香の顔に透明なオツユがたっぷりあびせかけられ、真手須もまたいりすの素足を
踝までべっとりと卑猥な雫で汚しきって、よがりきった2人はほとんど同時に愉悦の頂点
まで駆け上っていた。


                ‥‥‥‥‥‥‥‥


ふっと取り戻した理性は、おぼろで頼りなかった。
ほんの一瞬、われを忘れた獣欲が鴻神いりすを支配しかけていた。心の中に溶けこみ語り
かけてきた声、シードの使用法、世界と一体化し、すべてを、分子のかけらさえ我が物に
した喜び、すべてを理解し、すべてを超越した絶大なる驕りと昂ぶり‥‥
そしておぼろな意識でよがり狂った情欲の熾火‥‥
目の前、粘液の海に横たわる自失した半裸のメイドを見て、いりすはすべてを思いだした。
「智香!」
「お、お嬢様‥‥ちょっと、荒い求愛で、私、その‥‥感激、です」
「あっ、そ、そう‥‥ならいいんだけど‥‥」
「‥‥」
「謝らなくていいのかな、私?」
誰にともなく問いかける。むろん答えなどない。
ひく、ひくっと身悶え、真手須智香は戦慄とおののきの境で呆けていた。かわいそうだと
思う。その‥‥エヘラヘランとにやけきった、幸福の境地のようなこの笑顔でなければ。
いずれにせよ、いりすの心の靄は、罪悪感はすぐには晴れない。
「終了クイット」
すでに擬装手は組織崩壊していたので、言語命令でG3を終了させる。だがいりすの指は、
真手須智香を磔にし、丹念に触手で責めさいなんだ肌ざわりを克明に覚えていた。
強き力。猛き力。世界を手にする力。
「これが、力の代償‥‥なんて、おそるべき」
ポツリともらしたいりすは不意に階上で響く足音に気づいたか、あわてて立ち上がった。
「真手須、いつまでもお楽しみなの! さぁ、見つかる前に行くわよっ」
「ふぁ‥‥ご主人さま‥‥もっとォ」
「‥‥」
「ご主人様のオツユ‥‥おいちいの‥‥バブっ」
「そりゃご主人さまだけど! でもお前のご主人様は意味違う『ご主人さま』だから!」
怒鳴りつけ、へろへろの真手須智香を連れだす。
ドアをくぐりつつ振りかえったいりすの視線の先には、クレーターのごとく壁に穿たれた
真円の破壊痕が抉り残されていた。抉られた分の壁はない。すべて、粉塵と化したのだ。
あの時、衝撃は真手須智香を素通りし、背後ではじけていた。
あれほどの肉塊を叩きつけられたというのに、真手須のカラダには傷一つなかったのだ。
モニタするためメインマシンと繋いだコードも、拒絶反応なのか一瞬で焼き切れていた。
いりす自身の体感以外に、この能力を分析する術は残されていない。
そう、さしずめこれは。
『選択できる殺戮・・・・・・・』
ふっと、鴻神いりすの脳裏を奇妙な発想がよぎっていた。壊す‥‥殺す、その対象を自在
に選べる攻撃の手段があったとしたら。そのような危険な存在が許されるとしたら。
「これはまるで」
ナイトブルーの瞳は、物思わしげにけぶっていた。

「‥‥兵器じゃない。これじゃ」


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