グラップル・フィーラー 〜凌辱の美姫〜 03 前編

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鴻神サイバオテック本社のメインゲートは地上50メートルの高みにあった。
これは比喩でもなんでもない。この時代、土地資源の活用と自然との協和のため、多くの
都市において交通網はかっての平面グリッドから3次元へその概念を移していた。林立す
る高層ビル群を結びあわせ目的地から目的地へ立体的に繋がるアクセスは、まさに都市と
いう生物を支える循環系そのものであるとも言えた。
鴻神市でも、ビジネス街など高層ビルがひしめく海來(かいらい)区周辺はこうした構造
になっており、多くの企業がひしめきあう経済特区の反映を四囲に見せつけている。
「タウマス様の記者会見は正午過ぎになっております」
「‥‥」
「休日ですし道路もすいております。よろしければ少しドライブしながら向かいますが」
「‥‥」
「いかがでしょうか、ご主人さま」
「なんか違う、今朝のこの人」
呟いた鴻神いりすは、メガネごしに涼しげな瞳を向けるメイドから車外へ視線をそらした。
オープンルーフの助手席を微風が吹きぬけ、ストレートの黒髪をさらさらとなびかせる。
地上30メートル。
鴻神いりすと真手須智香は、真紅のコルベットで高架を流していた。
さらに上層階へのランプを乗り継ぎながら、いりすはきらめく飴細工のごとく頭上に張り
巡らされた道路を見やり、ついで眼下に敷かれた無数の運河を見やった。地上を緑化して
自然環境を取りもどした他の高層都市と違い、海來区では湾から敷かれた運河が流通・交
通の要となっており、こうしている今も多くの船が行き来していた。
(これらすべて、その礎をお爺様が築いたのだ‥‥)
まぎれもない誇りとプライドを感じて鴻神いりすは下界を見下ろす。その左手には、生物
的な光沢をもつクレッセント・シードがおさまっていた。昨日の暴走などウソのように、
G3はいりすの手を包み込んでいる。
さいわい、凌辱をうけた真手須智香も、深刻な精神的ショックは受けなかったらしい‥‥
なにせ鼻唄まじりなのだから。
「うふふ、うふふふランデブー、2人で迎える初めての朝♪」
「‥‥」
「ご奉仕ご奉仕、だって私はメ・イ・ド♪ 『捨てないでね、ご主人さま?』♪」
「‥‥‥‥」
なんだか歌詞が穏やかでないのは気のせいだろうか。
彼女の服装、奇妙なしなの作り方、いちいちすべてが露骨なアピールぶりだった。
視線に気づいてか、真手須はミラーごしにパチッとウインクをよこした。ツッコミ入れて
欲しそうに腰のあたりがムズムズくねくねしっぱなしだ。
‥‥うん。
ここは、流すべきなんだろうな。無視。無視。
君子妖しき(怪しき)に近よらず。
危険がデンジャー、かぐわしき変態の香りで朝からイッパイイッパイだ。
「だぁって私は夜用だか〜ら〜〜〜〜♪」
「やめんかぁ! しかも力いっぱいコブシ入れて!!」
演歌だったんかい、その唄!
思わず怒鳴ってしまった。それもカミナリ親父口調で。
「しまった、声かけちゃったよ私」
「ふふ」
してやったりとばかりに、真手須が話しかけてきた。
「さっきからモノ問いたげな表情ですが、どうなされました? ご主人さま」
覚悟を決め、いりすは迂遠そうなところから切りだした。
「えーと、なんでいつもより丁寧な口調なの?」
「私めは卑しき奴隷にございますれば」
「‥‥ぐぁ」
直球ど真ん中。一球目でデッドボールの直撃。
いや、でも仕方ないかといりすは思う。たしかにムチャクチャ根に持たれて当然だった。
「昨日は‥‥ゴメンなさい、智香。シードの副作用とはいえ、私も本当に悪かっ」
「○○○○の中を足の親指でかき回されてしまいましたし」
「‥‥ぐぁ」
「あんなムリヤリに服をはぎとられ、なしくずしにイかされてしまって」
「‥‥ぐぁ」
「もう智香、お嫁にいけません。一生奴隷として夜のお供をさせていただきたく」
「それがー、そのー、メイド服に『首輪』の理由でしょーかー」
度重なるボディーブローの連続に、鴻神いりすの質問はもはや棒読みだった。
いりすに負けず劣らずクールな外見の彼女に、いい年してぶりっ子されても怖いだけだし。
いいんだけどね。
全然よくないけれど。
「首輪のカギはご主人様に管理していただきたく」
「ちょっといいかげんにしなさい、智香。いくらおしとやかな私だって、本気で怒るわよ」
「――ツッコミ待ちですか?」
「違う!」
性格はまぁともかく、いりすは純然たる深窓の令嬢だ。男子とつきあったことだってない。
昨夜はその――前後不覚だったけれど、一人でエッチなこともめったにしないのだから。
気を沈め、ふっと深呼吸する。
いつもなら真手須が震えあがる怜悧な瞳で、鴻神いりすは運転席を冷ややかににらんだ。
「自分の立場を分かってないの? あなたと私は――」
「カラダを重ねあって一緒にエッチした仲、ですしね。うふふ」
「‥‥ぐぁ」
「むろんお嬢様の奴隷であること、重々承知しております。卑しき下僕にございますれば」
「‥‥ぐぉぉ」
「お嬢様の夜伽にお引き立ていただいて智香は幸せでした。これからも、どうぞよしなに」
「人事異動の季節‥‥まだかしらね‥‥」
しばらくはこのメイドにネチネチ嬲られそうだと、いりすは深く後悔していた。
ストーカーと走る密室に2人きり。
ブルーでアンニュイな鴻神いりす、優雅なる休日の朝だった。

サイバオテック社正面は海來区で最大のコンコースになっている。ひっきりなしの車列は
いくつかの検問ゲートで分別され、それぞれの目的層へ流れていくのだ。
コルベットは迷うことなくコンコース最上部へ向かった。運転者が額に嵌めたチタン製の
ヘッドサーキュラーギア(携行型ウェアラブルPC)が、承認情報を検問とやりとりして
コルベットの通過を許可していく。
「ねぇ智香。やけにチェックが厳しくない、今日は?」
「それだけ今日の新製品発表が、重大な意味を持つということでしょうね」
「ふぅん」
重役専用のエントランスにたどりついた鴻神いりすは一人車から降り立った。磨き上げら
れたホールを突っきり、暗証式の直通エレベーターですみやかに133階へ向かう。
会長室のあるフロアは、珍しくざわめきに包まれていた。
「お待ちしておりました、いりすお嬢様。会長はすでにお待ちです、どうぞ」
「ありがとう」
知り合いの受付嬢がいりすを奥へ通した。制服の襟ぐりから、鎖骨の上の小さなほくろが
大胆にのぞいていた。色気のある外見とは裏腹に、彼女が専門的な護身術と高度な訓練を
つんだボディガードでもあることを鴻神いりすは知っていた。
応接室に案内した受付嬢が深く一礼して去っていくと、入れ替わりに正面の扉が開いた。
いりすにとってもっとも親しい人物が現れた。
恰幅のよい体躯に上品なスーツをまとい、口の下には豊かな白髭をたくわえている。髪は
やや後退しつつあるが、経営者としてつちかった鋭い眼光は往年の映画俳優を思わせた。
「ひさしぶりだね。というほど間が空いたわけでもないが」
そこでいりすの手に目をやり、
「ふむ。プレゼントも気に入ってもらえたようだ‥‥会いたかったよ、いりす」
「お爺様!」
老境にある鴻神・ゾイ・タウマスは、深い緑の瞳に愛情をこめ、孫娘を優しく抱きしめた。


同時刻――
サイバオテック本社ビル48階、研究所への搬入口に一台のヴァンがたどりついていた。
何の変哲もない、社名ロゴが車体に入った技研の職員が使う業務用のヴァンだ。
奇妙なことがおきたのは、検問ゲート通過の直後だった。
ブザーが鳴り響き、屈強なアームにライオットガンと捕縛ネットを装備したガードロイド
2台が滑りでてヴァンを停止させる。とまどい顔で警備員はヴァンに近づいた。
のっぺりした、暗く無表情な男が運転席から顔をだす。
「何か異常でも?」
「すぐに理由は分かります。まずIDの提示をお願いできますか」
喋りながら、警備員は運転席の2人を検分した。無表情な暗い顔の運転手に、肥満気味の
助手席の男性。どちらもよれた技研の制服姿で、典型的な技術屋の身なりだった。
「ID確認。小野豊彦さんに、瀬上カムイさんですね?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あぁ」
「ヴァンの中に明らかな生体反応があります。確認の為、後部ドアを開けてもらえますか」
運転席の“小野”に声をかけつつ、警備員は彼の手首に嵌まったG3デバイスを見るとも
なく目に留めていた。キラキラと手甲の表面で光が明滅している。
「そのことだが――」
相変わらず無機質で能面じみた表情のまま、“小野”が口を開いた。


                ‥‥‥‥‥‥‥‥


「それが、シードが使い手を『選ぶ』ということ」
「うむ。クレッセント・シードには強い偏向性がある。同調可能な精神波の帯域がごく狭
い上、潜在ESPが低ければフィードバックされた伝達情報を脳が処理できず精神に変調
をきたす――ラボの研究者がそうなったように」
ソーサーに紅茶のカップを置いた鴻神タウマスは、ぐっと上半身をのりだした。
緑の瞳に意志をこめて孫娘に語りかける。
「いりすが認証された今、シードはさらに強固に、いりす以外のアクセスを拒絶しようと
するだろう。うっかり人に貸すでないぞ」
「もちろんです、お爺様」
自身もぬるくなった紅茶に口をつけ、鴻神いりすは祖父の話を頭でまとめていた。
最新鋭のG3デバイス、クレッセント・シード。
まだ7基しか試作されてないこのシードの情報がなぜか今日の公式発表前に断片的に漏れ、
しかもそれが問題のある内容だったため、キナ臭い噂が水面下で流れはじめた。そのため
祖父は万が一のトラブルにそなえ、一基を社外に預けることにしたのだ。
‥‥鴻神いりすの手元に。
「すでに知っているとおり、第2段階まで開放しなければシードの特性は発揮されない。
したがって、能力の開放は限定的な状況下で行ってほしい。鴻神家の令嬢がシード所持者
だと知られてはならんぞ」
「ええ。まぁ、見ただけではこれが噂の機種だと誰も気づかないでしょうしね」
返事をしつつ、いりすはかすかな不安をおぼえていた。
産業スパイやテロに狙われる程の問題とは、との問いに、祖父は笑って答えなかったのだ。
「‥‥不穏な動きというのは、この頃のG3犯罪の増加とも影響が?」
「うむ。そこなのだよ、問題は」
いりすに指摘され、タウマスは渋い顔になった。
「どうも最近、外部はおろか社内にも、また警察の違法G3取り締まりにも奇妙な干渉の
形跡があってな。警備を厳しくしたのも理由あってのことなのだ」
もっとも今日の発表以降は騒ぎも収まるだろうとつけ加え、タウマスは安心させるように
微笑んだ。いりすがすべきことはいつもの新型機のモニターと変わらない。シードを実際
使用し、感触やクセをチェックすれば良いのだから。
ためつすがめつシードの輝きをながめ、いりすは祖父に問いかける。
「そういえばお爺様は、私がシードに『選ばれる』ことを‥‥拒絶反応がでないことを、
最初からご存知だったのですか」
「‥‥確信は、あった。なにしろ、礼鈴の思いがシードの開発にはこめられているのだ」
「お母さまの思いが?」
不意にでてきた母の名前にいりすは驚いた。
鴻神礼鈴(こうがみ れいん)はいりすの母であり、父タウマスと一緒にG3デバイスの
開発にあたっていた。優秀な技術者にして予知能力を持つESPでもあったと幼いいりす
は聞かされて育ったのだ。
「うむ」
タウマスは静かに、重々しくうなずいた。
「グラップル・ガード・ジェネレ−ターには設計当初から『予測されうる危険』があった。
開発すべきが悩む私を後押したのが礼鈴で‥‥初の起動実験にも自ら志願したのだ」
「そうだったのですか」
「きわだった礼鈴の超能力がG3の基礎理論を完成させたと言っても良い。私が手紙の末
尾に添えた4行詩、あれが礼鈴が残した予言詩なのだ。そうして、私がいりすに贈るべき
言葉でもあるのだよ」
「‥‥」
「おそらく新型シードは本来G3が実現可能なスペックをギリギリまで引き出す。しかし、
同時にそれは触手の暴走など危険をもはらんでいるのだ。そこを忘れないでおくれ」
「分かりました、お爺様」
「うむ。何かあった時には、そのシードがお前を護るだろう。その力はお前のためにある。
大丈夫だとも、お前に危害は加えさせない‥‥私が保証しよう」
言いながらタウマスが取りだしたのは、メタリックに輝く漆黒のナイトバイザーだった。
ためしに目にかけてみると、計ったようにサイズもぴったりだ。
「このナイトバイザーは精神波を安定させ、シードに内蔵されたアナライザーをクリアに
視認させつつリミッターの代用を果たす。これを渡しておきたかったのだよ、いりす」
「ありがとうございます、お爺様。使わせていただきますわ」
「うむ。くれぐれも無茶はするなよ」
祖父の、タウマスの節くれだった手が、安心させるようにいりすの手を包んでいた。
沈黙しているシードをも。


               ‥‥‥‥‥‥‥‥


サイバオテック社を後にしたコルベットは3ブロック先の桜グランドキューブへ向かった。
アミューズメント施設やアウトレットが統合された巨大なグリッド建築は虫かごのような
外観をしており、格子と格子の間を縦横に高架が貫く眺めは壮観そのものだ。
「あなた‥‥まだ首輪をつけてたの。もう分かったから、いい加減外しなさいよ」
「でも、これはお嬢様への隷属の証ですから」
いつまでもしつこく絡んでくる真手須智香にカチンと来て、鴻神いりすは黙りこんだ。
その変化に気づかないのか、メイドは浮き浮きとして言う。
「お買い物のあとで部活に行かれるのですか? せっかくの休日に、しかも私服なのに」
「私はただの観戦。サイが助っ人ででるらしいのよ、試合に」
「サイ? もしや‥‥もしや、名前から察するにその方は女の子でなく」
「?」
顔をこわばらせた真手須智香を見た瞬間、いりすは残酷な意趣返しをひらめいた。
高飛車な笑みを口元に浮かべ、ねっとりいびるように言う。
「うん。クラスメイトの男の子だけど、あ、でも、男の子って変よね。彼、たくましいし」
「‥‥」
「んーとそうね、男友だちかも。あれ、どうしたの?」
全身をふるふる震わせて黙りこんだ真手須に、いりすは容赦なく追い討ちをかけた。
「あらぁ? 妬いてる? 妬いちゃってるの? 私の同級生にー」
「‥‥んぐぐ」
「ウソー、まさか恋のライバル出現、とか思っちゃった?」
「‥‥ングググ」
「自分で下僕だって言ったクセにねー、智香ったら」
「‥‥」
「身分の差も考えずに夢見ちゃったりしたー? あはは、案外可愛いのねー」
喋りながらその横顔に目をやり、いりすはギョッとする。
運転席のメイドは本気で涙をこらえていた。顔をぐしゃぐしゃにして鼻をすすっていた。
ずり落ちた眼鏡にとめどなく涙がたまっていく。
真手須智香25歳、絶望のどん底に叩き落された休日の昼下がりだった。
マジ泣き5秒前。4、3、2、1、はい。
「う、う‥‥んグググ」
「冗談よ」
あっさりいりすは言った。
助手席から身を乗りだし、頬をつたう涙をハンカチでぬぐってやる。
「ゴメン泣かないで。朝のしかえしのつもりだったのに‥‥罪悪感に駆られるじゃない」
「お、お嬢様‥‥ふ、んぐング、酷いです‥‥」
「真手須は真手須で大事に思ってる。身分がどうとかは絶対ありえないから」
それに。
「伶奈と沙織に強引に誘われたの。私はただ、ついて行くだけ」
「で、では、好きな男の子とかでは」
「ええ。むしろ応援する気なし。負けてほしいくらい。残念ながら彼、勝つでしょうけど」
軽く唇を曲げ不機嫌に上気したいりすの顔は、なぜか真手須をドキリとさせていた。

グランドキューブ中央のロータリースクエアは休日の混雑をみせていた。やっとスペース
を探して道路わきに止めたところで、広場正面のオーロラビジョンが切り替わった。
「お爺様の、記者会見‥‥」
いりすが呟く。
映しだされた会見場は本社ビルの広間らしく、プレスがぎっしりつめかけていた。中央に
タウマスが位置し、左右に社長や開発部長らしき人々が顔をそろえている。
『本日、鴻神サイバイオテック社は最新鋭のG3デバイス、クレッセント・シードを発表
することになりました。最大のポイントは思考分割型のテレパスで、これとPCの連動に
より、人は思念によってPCを操作しつつ並列的に他の作業もこなせるようになります』
会見場がどよめく。
PCの進化にとって最大の焦点はコントロールデバイスの進化だった。
今までも眼球の動きに反応するキーデバイスなど様々なものが開発されてきたが、どれも
精度に欠け、昔ながらのキーボード入力には叶わなかった。
もしそれが完全に実現されるとすれば‥‥
だが、次の台詞は舞い上がったいりすの興奮に冷水をあびせた。
『また、クレッセント・シードは軍事転用も視野に入れ、その開発を進めております』
「軍事転用って‥‥うそ。兵器のこと?」
「お、お嬢様‥‥」
ショックを受けた鴻神いりすは、その場で腰を浮かしかけていた。
興奮で火照っていた脳に冷たく事実がしみてくるにつれ、のろのろと助手席に座りなおす。
なぜ企業テロに狙われるのか。
その、冷厳たる答え。
(――お爺様は、最初からこのことを知っていた。だから私に何も言わなかった――?)
不意にぎくりとしていりすは自分の左手を見た。
冷え冷えと輝くシード。
これが‥‥これが、これが‥‥
『なお、巷に流れた悪質な噂はほとんど根拠のない憶測でありまして、特に生体クローン
の脳が中枢に使用されたという匿名の配信記事は全面的に誤りであります。弊社としては、
きわめて重大な信用毀損にあたるとして被疑者不詳のまま刑事告訴に踏みき――』

いりすの放心と会見場の静寂は、まえぶれもなく破られた。
――スクリーンの内側と外側から同時にとどろいた、激しい爆音によって。


               ‥‥‥‥‥‥‥‥


ひっきりなしのアラートが、研究室エリアに耳ざわりに響きわたっていた。
まだらに明滅した廊下に、アラートに応える者などない。
殺され、バラされ、解体され、千切られ、ひしゃげ、晒され、潰され、両断され断首され
蹂躙され爆散し弾け飛び喚き咽びおののいて、骸と化して転がる血塗れた塊は白衣、白衣、
白衣白衣白衣白衣白衣‥‥
壁面を覆い尽くす触手に支配された世界は、静かなる惨劇のコロッセオそのものだった。
歩く者もない廊下にコッコッと落ち着きはらった靴音が響く。
まんまと内部への侵入してのけ、すでに“小野豊彦”のIDを捨てた瀬上カムイと、ふら
ふら操られて歩く小野豊彦だった。
「他愛もない」
G3デバイスをかざし、呟く瀬上は返り血一つ浴びてはいない。
そのデバイスから滑りだした触手が、2人を先導する一人の女性技術者のカラダを無残に
絡めとっていた。引き裂かれた白衣の尻がまくれあがり、ベットリ広がって吸着した肉腫
が女性の股間を前後ともに制圧してしまっていた。一歩ごとに胎内をえぐり犯される恐怖
と、神経に流しこまれる快楽の衝撃とが、彼女の意識をほとんど錯乱させていた。
「やッ、嫌ァ、イキたくな‥‥ひぅッ、ん、んんンッッッ!」
ローヒールの足がピンと爪先立ち、わなわなとスレンダーな裸身が悩ましく反り返った。
ボタボタッと、剥き身の下腹部から愛液が糸を引いて滴りおちていく。
リノリウムの床に点々とイッた履歴を残し、犯し抜かれながら女技術者は歩かされていた。
スカートを裂かれ、むきだしの尻の谷間で激しく抽送をくりかえす二本挿しの極太の擬装
手が、彼女を倒錯した凌辱のエクスタシーへと押し上げていく。
「も、もうイヤァ‥‥どうして」
触手は下半身ばかりでなく胸にもまきつき、白衣の下をほとんど全裸に剥き上げていた。
知的な瞳が苦悩にゆがみ、桜色に火照った半裸の裸身を見下ろす。理不尽に尖らされた乳
首には触手の先端が赤子のように吸いつき、根元からキュウキュウと吸い上げていた。
慣れ親しんだ研究所を、串刺しにされて先導させられる。
なまじ手足が自由なだけに、女性技術者の無力感にはどうしようもないものがあった。
たまらない羞恥と苦悩におかされて瞳の端を涙がつたう。
シャープな顔を屈辱と愉悦にゆがめつつ、彼女は喘ぎを押し殺して鋭く瀬上に切りつけた。
「こ、殺せばいいじゃない! 他の、他のみんなをそうしたように!」
「ふん。死にたいか。快楽より死を選ぶか」
瀬上カムイは冷たい声で一蹴した。
「アラート発生で中央実験室が自動閉鎖された場合、再入室には室長クラスのIDを含む
職員2名のパスコードが必要‥‥それが貴様の生存価値だ。クク、理解したか?」
「なっ、そんな、あなたどうしてそこまで」
「貴様が知る必要はない」
拒絶と同時、胎内に刺さっていた触手がものすごい勢いでたわんだ。そのまま、女の中へ
大量の液体がどぶどぶっと注ぎ込まれていく。
あまりの衝撃と快楽反応に、汗みずくになった彼女のカラダは跳ね上がっていた。
「あぁっ、あぁぁぁ‥‥ンンンー!!」
「貴様が犯されている理由はもっと簡単だ。G3デバイスの酷使による反動で、俺自身も
カラダが疼くからな。貴様はさしずめ車の冷却装置のようなものだ」
「そ、そんな、私はモノじゃない‥‥ンァァ」
たえまなく膣内にまがいの白濁を吐きだされ、律動にあわせて彼女のクレヴァスはビュク
ビュクと痙攣きっていた。がくりと膝の力を失いかけて、ヴァギナとアナルの二点で吊ら
れかかって悲鳴をあげながら飛び上がる。
地獄の道行きはどのくらい続いていたか‥‥気づいた時、巨大な隔離扉が目の前にあった。
「小野と一緒にパスコードを入力しろ。それで解放してやる」
「ん、ンンー」
ぞぶぞぶと全身をぬめる触手に嬲りつくされ、必死になって女性室長がうなずく。すでに
この虐殺者に抵抗する意志は彼女の中から消えていた。
荒れ狂う官能を必死に押さえ込み、瀬上の言葉にわずかな望みを抱いてパスを入力する。
ゴンゴンゴンと、不吉な軋みをあげて扉が開いた。
部屋の中央、円筒形の測定装置内に生物的な光沢を放つG3デバイス2基が鎮座していた。
擬装手を一閃して邪魔なコードを引きちぎり、骨ばった瀬上の手がG3を奪い取った。
「ほう、これがシードか。クク、ク」
「ゆ、許さないから‥‥必ずつかまるわ、あなた」
時折ひきつけを起こし、イキっぱなしにさせられていた女室長の瞳に光が戻りかけていた。
口をかすかにゆがめ、触手の使い主は女を見下ろす。
「よくやった。世話になったな‥‥約束だ。解放してやろう‥‥人生から・・・・」
「ヒッ、そん」
擬装手が一振り、宙を疾っていた。
最期に言いかけた『な』の音は、ビチャリと声帯もろとも血だまりの中へ落ちた。
「小野。お前は監視カメラ・音声、記録を全て消去しろ。その後すみやかに自殺するんだ」
「かしこまりました、マスター・・・・・・・・・・・・・」
表情をまじえず小野が答えた。コンソールに座り、手際よくシステムの中に侵入していく。
見守っていた瀬上カムイの顔が、ふと変化した。しばし意識の底を探り、呟く。
「面白い。あの防壁を突破する戦力があるか‥‥」
「そこまでだ! 両手を上げて振りむけ。抵抗をやめておとなしく投降しろ」
威圧感のある声が瀬上の背に飛んでいた。
バタバタっと散開した十近い足音がすみやかに2人を取りかこんだ。水際だった迅速さだ。
悠然と向きなおった瀬上カムイは失笑した。
「‥‥ほう。たしかに火炎放射器なら触手と相性が良い、か。ふん、タウマスめ小細工を」
「頭の後ろで両手を組み、腹ばいになるんだ!」
「ククク。銃さえなければ法に抵触しない、か。その野蛮な武器なら、跡形なく侵入者を
消し炭にできるだろうとも。さすがタウマス子飼いの私兵。上出来、上出来だ」
「聞こえなかったか。両手をあげ、腹ばいになって投降しろ」
瀬上の挑発にもフォーメーションを乱さず、武装兵は火炎放射器を構えて包囲していた。
1万度を超す高圧プラズマジェット流は、トリガーの一射で標的を灰燼に化す事ができた。
射程の短さも、狭い屋内での同士討ちを防ぎ、有利に働く。
逃げ場はない‥‥どんな戦術家でも、この状況をそう見たことだろう。
瀬上カムイをのぞいては。
「動かない方がいいぞ。お前ら、後頭部に爆弾が取り付けられている」
いたって普通の口調に、ほんのわずか兵が動揺した。一人が自分の頭に手をやり、しかし
すぐにはったりと知って顔を紅潮させた。
「なにをバカな」
「そうか? 本当に爆弾はなかったか? よく調べた方がいいのではないか?」
初めて――
にたりと、瀬上カムイは黒い笑みを浮かべた。いまや炯々と輝くデバイスをゆっくり顔の
前にまでかかげ、両手を上げながら囁く。
「残念、時間切れだ」
「キサマ、さっきから一人で何を言っ‥‥」
「3、2、1。BOMB」


圧壊の音が低くこだました。
酷く耳ざわりな軋みと飛沫音を残し、十の頭部が鮮烈なる朱の花と散った。


‥‥後に残るは、己が意志を剥奪されて無感動にコンソールに向かう傀儡のみ。
「アヴァンと合流しないとな」
底の抜けた十の血液タンクが、転倒しつつ実験室をだくだくと濁った紅に染めあげていく。
凄惨なありさまには目もくれず、瀬上カムイは憎悪に深く瞳を細めた。
「ククク。タウマス、ついにだ。ついに貴様とまみえる時がきた」


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