馴致 その2

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週明けの朝、更衣室で出会った中野さんと私は目を合わせる事ができなかった。SM
バーで肩を並べたステージ調教はほんの2日前。まだ、あまりに生々しかったのだ。
そそくさと挨拶して自分のロッカーに行きかけたところで、背中から声をかけられる。
「早紀先輩、一昨日の夜、会いましたよね」
「‥‥え?」
文字通り、ビクン、と背が跳ねた。ぎこちなくなる手足を押さえ込む。
カマをかけられている‥‥
あの時の奴隷が私だと、疑われているのだ‥‥
さりげなさを装ってふりむくと、いつもおっとりした顔の彼女が、はっきり疑惑の色
を浮かべて私を凝視していた。
「アレ、痛くありませんでした? 私、お股がひりひりしちゃって」
「ンーっと、ん、なに? 一昨日?」
「‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥違うの、かな? ホントに?」
「あの、中野さん。いいかな。もう着替えないと」
「あ、はい、えっと‥‥ええ」
粘りつく視線を振りきり、私はその場を立ち去った。ロッカーが彼女と対角線にある
のが、これほど嬉しかったことはなかったと思う。
なぜって‥‥
その時、私の肌には調教でつけられた縄目の痕がまだ鮮やかに残っていたのだから。


              ‥‥‥‥‥‥‥‥


またしても意識を失い、浅い夢を見ていたらしい。
ふっと上半身を起こしかけ、カラダ中の筋肉がぴくりとも動かせないことに気づく。
あぁ‥‥そうだった。今の私は、人でさえないのだ。
最下層まで貶められた発情期のケモノ。
シーツの上で悶える機能しかない、発情中の、裸の置物に過ぎない‥‥
目覚めとともにたちまち苦しく浅ましいセルフボンテージの愉悦が汗みずくの肌身に
しみわたっていく。サディストの私自身によってデザインされた自縛の味は、Mであ
る私自身のツボを完璧につき、あらがう間もなく絶頂まで昂ぶらされてしまうのだ。
みずからの手で選びぬいた調教を奴隷の身に施されていくこの悩ましさ。
軽く身悶えただけで下腹部がにちりと淫音をしたたらせ、ゾクゾク責めあげられて。
自分好みのカラダへと躾け直され、無力に堕とされた躯を犯し貫かれる快感ときたら。
くぅ‥‥ンッ、ンン‥‥気持ちイイ‥‥
イイ、よぅ‥‥
「あフ、はぐぅぅ」
本気のよがり声、これさえかすれて声にもならないのだ。
助けを求めたくても、私の唇になじみきったボールギャグが愛情深く口内に食い入り
ストラップが頬をくびれさせるほど引き絞られていて、悲鳴さえくぐもった喘ぎ声に
変換してしまう。興奮しきっていた昨夜の私自身の手で施された拘束の硬さを、どれ
ほど恨めしく思いかえすことか。
完璧に口腔を埋めつくす口枷をわざと音高くぎしぎしっと咥えこみ、吐きだせないか、
せめて緩まないかときりきり空しく口の中で転がしてみる。
舌の根元をみっちり圧しひしぎ、歯の裏にへばりつく悩ましいスポンジボールギャグ。
小さな口元を限界まで開かせっぱなしのボールギャグは完璧に収まっていて、だるい
顎がひりひり疼き、残酷な圧迫感がつややかに官能を揺さぶりたててくる。
「くふっ、はぁンン、カハァ‥‥」
喘ぐ快感。声を奪われる快感。人としてのコミニュケーションを奪われる快感。
必死になって喘げば喘ぐほど、私のカラダはふるふると熱く淫らに茹だってしまう。
後頭部のストラップを解かないと声を取り戻せない。そんなことは分かっているはず
なのに。ムダだと、無意味なあがきだと、身をもって知っているのに。
なのに、煩悶はとめられず、体力ばかり消耗してしまう。
なんて愚かしく哀れなんだろう‥‥その思いがまた奴隷の躯をそそりたてるのだから。
堂々巡りの快感の輪廻。
ただしく、救いようがないマゾの業とでもいえるだろうか。
幸い、たっぷり水を含ませておいた猿轡は鼻を覆う革マスクに密閉され、喉の渇きは
心配なさそうだ。
けれど、そのせいで口の中はパンパンに膨れあがっていた。汗とヨダレで顔に張りつ
く革マスクの表面にボールギャグの輪郭がうっすら浮かびあがる光景は淫靡そのもの。
無残な縛めの身である私に可能なのは、ねっとり涎にまみれて唇と一体化した口枷を
ただ恨めしく見下ろすことばかりなのだ。
「‥‥‥‥ンっ」
首をふりたくっていた私は、やがてがくりと肩を落とした。
やはり、こんな手段では到底吐きだせそうもない。助けを求めるのは不可能だ‥‥
自虐的で悩ましい抵抗にズクリと全身が疼く。
爛れた粘膜をめくり返していくような、たまらない悦びと怖れの深み。
キュウキュウ蠕動するクレヴァスが、引きちぎりそうな勢いでバイブを飲みつくす。
そう。
まさしく、はしたないことに、狂おしいことに。
今の私はこんな行為にさえ感じきって悦びを極めさせられてしまう、マゾ奴隷なのだ。
つぅんと体内をつきあげる、得体のしれないおののきにあらがいきれずに‥‥
凄いっ、グジャグジャになってる、躯の中で暴れてる‥‥ぅ‥‥
「‥‥‥‥ッッ!!!!」
達してしまう瞬間、背筋がひきつれ、カクンと前のめりに崩れた私はきりりとボール
ギャグを噛み縛っていた。あふれかえる刺激の波の大きさにこらえきれず、絶望と被
虐の象徴に歯を立てたままブルブル全身をつっぱらせていく。
ボールギャグから水音があふれ、革マスクの内側をべっとり汚していった。


窓の外では、すでに日が高く昇りはじめていた。
週末にはまだ早い金曜日。体調不良だと中野さんを通して会社に伝えたのは昨夜だ。
日頃まじめで通っている私の欠勤理由が疑われることはないだろう。
OLたちが仕事をしているこの同じ瞬間、まさか熱に浮かされたセルフボンテージで
自由を剥奪され、絶望的な凌辱の渦に巻きこまれているとは、思わない‥‥はず‥‥
「きひッ‥‥ン、ひぅぅ、ふ、カフッ、ぃうンンン」
またっ、またイカされちゃう‥‥ッッ!!
止まら‥‥ない‥‥誰か‥‥
とぎれなく襲いかかってくるハードなリズムに、灼けついた神経が痛みで爛れていた。
腰がビクビクよじれ、たてつづけに昇天させられてしまう。イッた直後の裸身を容赦
なく責めあげるバイブの律動を、馴染みきったカラダはすぐ受け入れてしまう。
もうダメ‥‥
狂う‥‥狂っちゃう‥‥
完璧に痙攣しっぱなしの手足が動かせないだけで、どれほど苦しいものか。
例えばジェットコースターで急降下する瞬間、バーを掴むことができないとしたら。
高いところから足を踏みはずすあの一瞬が、永遠に終わらないとしたら。
身じろぎさえ許されない何重もの革拘束に責められながらのエクスタシーは、快楽の
波濤に乗せ上げられて降りることもリズムをとることもできない、コントロール不能
な凌辱の恐怖そのものなのだ。
「ひぐっ、ひぐぅぅぅ」
ただひたすらに上半身をグラインドさせ、甘い波に身を任せようとする。
けれどそれは、ニップルチェーンで連結された乳首をいたずらにかきむしるのと同じ。
身じろぎにあわせ、乳首に噛み付いた金属の金具が激しく揺れる。
過敏な先端をびりびりっと食いちぎる苦悩の衝撃は全身をすくませ、やがてじんわり
した疼痛となって乳房全体に広がり、腫れあがっていく。
我慢できない苦痛が、むずむず感が広がっていく。
それを嫌って上半身を硬直させていれば、今度は逆にヴァギナをえぐりこむ官能の渦
がたえがたいくらい沈殿していって昂ぶらされてしまう。
結局、どのような形にしても不自由なカラダは快楽反応の二律背反に板ばさみとなり、
むさぼらされるアクメにやがて意識を遠のかせてしまうのだ。
本当に凄い‥‥いくらでもイケる‥‥
止まんない、絶対、ダメ‥‥
このまま楽しんでいたら、溺れていたら、私は終わりだ‥‥
ギュッと瞳をつぶり、マゾヒスティックな楽しみを断ちきるようにして身を起こす。
ぐっとお腹に力が入り、下腹部のベルトが急激に股間に喰いこんだ。にぢりと肉割れ
が裂け、二分させられた恥丘を盛りあげながらさらにバイブが深く抉りこまれていく。
止まる気配もないバイブが、いやらしく唸りを上げる。
「ぅぅグ、んぁぅぅぅ」
すでに半日近くみっちり犯されつづけた私の躯は熟れきっていて、わずかなバイブの
角度の変化でさえ、爛れて敏感になった媚肉が喰らいついてくるのだ。
無神経な玩具に嬲られつつ、けだるい全身に残った力をかき集めてカラダを起こす。
セルフボンテージのお約束があってこそ、快楽は快楽でいられるのだ。
だからこそ。
金属と革の硬い縛めから、逃れなければ。
まだ余力があるうちに、気力が快感に溶かされてしまう前に、縄抜けしなければ。
胸の谷間で揺れる手枷のカギを、チェーンから外すのだ。
どうすれば外せるか。どうすれば、自由が手に入るのか。必死になって頭を働かせる。
単純にナスカンで留められているだけなのに、完璧な磔の身では手も届かず、顔半分
をすっぽり覆う革マスクとボールギャグのせいで歯を使うこともできない。
鼻先にぶら下がっているのに決して届かない、絶望の餌。
なら、ならば、緊縛姿の私に残された手は‥‥
‥‥行うべき行為に思い当たったとたん、想像だけでくらりと甘美な眩暈が走った。
はしたない行為。
まるで快楽をむさぼる子猫のような情けない行為。
それでも、何もしないわけにはいかない‥‥
覚悟を決めた私は、はしたなく喘ぎながら上半身をリズミカルにゆっくり振りだした。
最初は小刻みに、しだいに、大きく旋転させるように。
着慣れた革の拘束衣によってくびりだされていた大きな乳房が、たぷたぷと弾みだす。
2つの胸を繋ぐニップルチェーンを振りまわし、反動で手枷のカギを外そうとする。
「ンッ、んぎィ!」
ズキンと乳首に痛みがはしり、顔がのけぞっていた。
鮮烈でダイレクトな疼痛。金属のクリップに噛みつかれた乳首がじぃんと痺れ、痛々
しく充血して尖りきっている。かきむしりたいような狂おしさが乳房全体に広がって
いくのだ。
髪の毛がさかだちそうな刺激を我慢して必死に上体を弾ませる。
ギィンと遠心力でつっぱったチェーンが弧を描いて胸の谷間に叩きつけられる。その
衝撃と苦しさと、一瞬楽になった乳首に走る電撃めいたひりつきと。
磔になった両手がミトンの中で痙攣し、無意味にあがく。
ほとんど運任せで縄抜けとさえいえない稚拙な手段。それでも運良くこれでナスカン
が外れてくれたなら、すべてが終われるのだ。
この苦しい疼痛も、惨めでいやらしい卑猥な胸振りダンスも‥‥
ダメだ、そうじゃない、エッチなことを考えちゃいけないんだ‥‥またおかしく‥‥
絶望の味がこんなに気持ちイイのに、また感じ出したら‥‥止まらなく‥‥
不意に、ぶるぶるっと裸身がわなないた。
体の奥深くで大きくうねる官能のささやきに、躯がどろりと崩れだす。
いけない‥‥また‥‥私‥‥
あふれる刺激をこらえようとねじった顔が壁際の鏡を見つめ‥‥それが終わりだった。
悩ましく瞳をゆがめ、快楽の熱をむさぼりつくす奴隷の姿。
‥‥どうして抗えるのだろう。
これが、私の最高の望みだったのだから。
ひとしれずイキ続け、決してほどけない拘束の中で無情にのたうつのが‥‥
本当に、なんて情けない姿。哀れで、綺麗で、蕩けそう‥‥
千切れそうな痛みが、膨れあがった乳首の掻痒感が、とめどなく肌を灼きはじめる。
どうしようもない不自由さ、もどかしさが、マゾの疚しさにすりかわって甘く激しく
カラダを苛みだすのだ。
ふぅふぅと息を吐く頬が、じわじわと快楽の波に火照りだし、耳まで染まっていく。
違う、私はこんな刺激なんか求めていないのに。
この無限ループから抜け出したいのに、残酷な拘束はゆるむ気配も見せなくて。
自由を剥奪された事実そのものが、絶望的に身を揺すりたてるだけの行為そのものが、
めくるめく快感を裸身に注ぎ込んでくるから‥‥
ふたたび下腹部がよじれ、バイブを振りたてて深く深く収縮と蠕動をくりかえしだす。
嫌だ、もう、こんな形はイヤなのに。
こんな、このままじゃ、また私、イかされちゃ‥‥‥‥ッッ‥‥‥‥
「‥‥‥‥!!!!」
刹那、意識を走った火花はまさに真っ白く脳裏をアクメでぬりつぶして。
圧力だけで壊してしまいそうなほどに、みちみちとお股のバイブを喰い緊めたままで。
ガクガクッと絶息し、ふるふる肩を震わせる私のお腹には依然として冷たいチェーン
のとカギが、空しい努力をあざ笑うかのように押し当てられたままだった。
ふぅ、ふぅぅと爛れた喘ぎが絶頂の苦しさを物語る。
終わらない。
終われない‥‥何度イかされても‥‥抜け出せない‥‥自縛の罠から‥‥


              ‥‥‥‥‥‥‥‥


放心‥‥して、いたのだろうか。
気づいた時、私は天井をながめ、シーツの上に身を横たえていた。
横たわるといっても、頑丈な革の足枷に折りたたまれた下半身は立てた膝を伸ばせず
苦しい姿勢のまま。ポールに括りつけられた磔の両手はベットからはみだし、手首が
宙に垂れている。肩の下に固定された棒のせいで肩甲骨が浮き上がり、背中が反り返
ってしまうのも終わりのない自縛の辛さを強調するのだ。
ねっとりと、みちみちと、身じろぎに応じて革鳴りが響き裸身が緊めつけられる。
たえまないアクメの連続でふわふわカラダが地につかないような、非現実めいた陶酔
が全身をむしばんでいる。
けだるく甘い絶望の果実、そればかりを味あわされて。
想像以上に四肢は憔悴しきり、ぐったりと気力を失って弛緩しっぱなしだった。
無理もない。
ろくに食事もとらず、ひたすらに絶頂を極めさせられて、体力が消耗するのは当たり
前なのだ。こうして時間がたてばたつほど症状はひどくなり、セルフボンテージから
の脱出をさらに困難にしていく。
悔しさでじわっと涙が滲み、拭くこともできずにつぅと頬をしたたっていく。
天井にのびた陽射しが、徐々に影を濃く伸ばしだしていた。壁のTVもいつのまにか
消え、静かな室内にこだまするのは浅く鼻にかかったマゾの嬌声ばかり。
「‥‥」
キュッとボールギャグを噛みしめ、この悪夢が現実だということを再確認する。
‥‥運良く、誰か部屋にこないだろうか。
そう。例えば、隣の水谷君が異常に気づいて入ってきてくれたら。
現実逃避の妄想さえ浮かべてしまうほど、私の理性は疲弊しきっていた。
当然、都合のいい展開が転がってくるはずもなく、革の拘束具は手足を阻んだままだ。
芋虫のようにいざり、のたうち、よがりまわって。
どうしたらいいの、私は‥‥?
身の内を引っかきむしるような鋭い焦りが、冷汗が、全身をびっしょり濡らしていた。
絶望したら、希望を失ったらそこで終わってしまう。
せめて‥‥そう、せめて私をセルフボンテージに導いたご主人様に、間違って拘束具
の小包を送ってきた見知らぬマスターに出会うまでは、諦めるわけにいかないのだ。
シーツの上で七転八倒し、ようやくのことで上半身をおこす。
たったこれだけで、もう私はぜいぜいと息を切らしていた。その事実にぞっとする。
体力が、余力があとわずかしか残されていない。
「くぅッ」
閉じられない歯を食いしばり、女座りの姿勢から転倒に気をつけて静かにうつぶせる。
たわわに充血し、ビリビリしびれる乳房が体重で押しつぶされ、悲鳴をあげていた。
カラダの下でニップルチェーンが引き攣れ、麻痺しかけていた神経に、新たな疼痛の
芽が乱暴な勢いで塗りこめられていく。
「ん、んくぅ‥‥ふぉォォン!」
たえがたい痛みに惨めにも反応させられ、バクンと弾んだ裸身はお尻を高々と掲げた
ぶざまな姿勢で凍っていた。磔の横木が背に食い入り、断頭台のようにシーツに頭を
うずめさせた。口枷を食いしばり、やっとの思いで顔をねじって呼吸を確保する。
なんて淫らな光景なんだろう‥‥
イメージするだけでどろりとカラダが達しかけてしまう。
これは、オシオキを待ちわび、マゾの悦びにオツユをしたたらせる服従のポーズだ。
バックから犯されるときのケモノの姿勢。違う、だから、カギを外すことだけ考えて
‥‥疚しい邪念を払いのけ、ゆっくり腰を前後に振りはじめる。
カラダの下敷きになったチェーンはねじれ、ナスカンにも体重がかかっていた。この
ままチェーンをシーツに擦りつけてやれば、あるいは外れるかもしれない。そういう
読みなのだ。
チェーンそのものをナスカンに押しつけようと、カラダをくねらせて調整していく。
「くッ‥‥んんぅフ、ヒクッ」
しかし、上下動を繰りかえしだしたとたん、全身が狂ったように跳ね蠢いた。
気違いめいた衝撃と、意識を遠のかせる快感の波。
チェーンよりも先に揉みくちゃにされた乳首から量りがたい刺激の奔流がだくだくと
流れこみ、甘い悲鳴が自然と絞り出されてしまうのだ。
下腹部に突き立ったバイブまでが拘束衣の軋みにつれてズリズリ蠢いて、まるで本当
にバックから犯されているみたいな、妖しい気分になってしまう‥‥
「ンンッッッッ」
チリン、ちゃりっと金具のぶつかる音が響きつつも、のぞきこむ胸の谷間から一向に
ナスカンが外れようとしない。体重をかけ、ナスカンの可動部にチェーンを押しつけ
ようとしても、柔らかいシーツに埋もれたナスカンはすぐに滑ってずれてしまう。
なによ‥‥どうして、うまく‥‥いかないの‥‥
考えてみれば、その時すでに私は呆けきっていたのだ。
手も使えないのに、どうして柔らかいシーツに押しつけただけでナスカンが外れると
思い込んでしまったのだろう。これこそ不可能に近いというのに。
もっと有効な手はあったはず。
膝の間にはさんでナスカンを外すなり、自由な足の指を使う方法を考えるなりすべき
だったのだ。けれど、もちろんそうしたアイデアが浮かびかけた時にはすべてが手遅
れで。
「あぁン、ふぁぁぁン、ンンーー!」
いつのまにか。
まさにいつのまにか、痛みにむしばまれるこの儀式は本来の目的を見失いつつあった。
ピンと括りつけられた両腕が、ギシリギシリと革にあらがって淫らな軋みを奏でだす。
痛くて痺れて感覚さえおぼろになりかけて、なのに、腰の反復運動だけが奇妙にイイ。
気持ちイイ感覚に流されて、とめられずに暴走しだすのだ。
イケない、まただ‥‥
私、また‥‥うぅ、どうしよう‥‥
また、また‥‥最後までイきたく‥‥イかされたく、なっちゃってる‥‥
ビクビクッと裸身が突っ張り、激痛とただれきった痺れがオッパイをじぃんと激しく
包み込んでいく。すごい、本当に感じてる。ご主人様の手でグチャグチャに嬲られて、
思いきり揉みしだかれているみたいな、そんな気分に、なってる‥‥
‥‥理性だけは失うまいと踏みとどまるのも、儚い抵抗で。
ねじれきったニップルチェーンの鎖が、クリップにはさまれて充血した乳首を痛烈に
ひしゃげさせた次の瞬間、私は声をあげて思いきり絶頂を迎えてしまっていた。



             ‥‥‥‥‥‥‥‥


窓の外が、昏くなりかけている。
夜が、不自由なままで迎える夜が、やってきた‥‥
いじましさ、焦り、消耗、すべてが渾然一体となり、私をけだるく束縛していた。
硬い革拘束の残忍さだけではない。ことごとく思いついた脱出の方法が失敗に終わり、
疲弊した肉体はもう縄抜けをしようと決意する気力さえ奪われてしまっているのだ。
どうしようもない、自縛の、終わり。
あっけないものだと思いかえす情けなささえ希薄で、ただひたすらに全身を震わせる
凌辱の悦びに私は痙攣を続けるばかりなのだ。
まさに、ベットの上に置き去りにされたインテリアのように、震えるだけの存在‥‥
「みゃーー」
聞きなれた声が私を現実に引きもどした。シーツに爪をかけ、よじのぼってくる子猫。
テトラにエサを与えるのを忘れていたんだっけ、私。そっか‥‥
‥‥
‥‥‥‥
そうだ、テトラなら!
天啓がパァッと連鎖的に閃いていった。
テトラ。私の飼っている子猫。人なつこく、好奇心おうせいで、活発な子猫。そして
引っかきグセのある・・・・・・・・・子猫だ。
バーテンの罠から私を救ってくれたのもこの子だったのではなかったか。あの時も、
外しようがなくのたうちまわっていた私のコートのボタンを引っかきまわし、いとも
器用に外してしまったのだから。
なら、この子になら、テトラなら、ニップルチェーンから伸びるナスカンだって‥‥
「ンッ、くぅんンン」
不自由な猿轡の下からつとめて喉声をあげ、テトラの気を引こうとする。もっとも、
愛想をふりまかなくても腹ペコの子猫は私に注意を向けてくれたようだった。
とことことやってきて、そこで私の興奮具合に気づいたのだろう。ブルブルっと躯を
揺すりたて、なぁーと甘い声で擦り寄ってくる。
不自由な奴隷のカラダで子猫を待ちわびるドキドキと緊張感は限界まで高まっていた。
心臓の鼓動が壊れそうなぐらい。無理もない、この一瞬を逃したら、私は二度と自縛
から逃れられないのだ。
太ももにぴっちり吸いついた革の足枷にじゃれかかるテトラを、必死になって乳房の
方に集中させようとする。上半身を弾ませ、キラキラとニップルチェーンを光らせる。
テトラ、こっちだよ、こっちこっち‥‥
足枷なんかどうでもいいから、ホラ、このチェーンをいじって‥‥
チェーンの、ね、中央の、ナスカンを引っかいて外すの‥‥
声を出せぬ口の中で必死に呼びかけ、子猫の機嫌をとろうとしている。どうしようも
なくいじましい、緊縛奴隷と移り気なペットの駆け引きだ。私にはいっさいの自由が
残されていないのだから、ただ子猫のきまぐれに身を任せるしかない‥‥
無力な裸身がビュクビュク疼く。
ニップルチェーンを振りまわす乳首はギリギリ疼痛に変形し、浅ましさでカァァッと
カラダは火照りだす。
なんて惨めで、卑猥で、いやらしいんだろう。
被虐の悩ましさを体感させられ、とぷりとぷりと蠢くクレヴァスが蜜を吐きだす。
子猫のほうに絶対的な主導権がある以上、私はそっと促すしかないのだ。
やがて‥‥
「みゃ」
一声あげたテトラは、唐突にジャンプしてニップルチェーンにぶら下がった。
鮮烈な痛みが、激痛が、もっとも敏感な先端をつらぬく。
「ヒゥゥッッ!」
こみあがった悲鳴はまぎれもなく恐怖と痛みによるものだった。
思わず上体をたわませて後ろに逃れかけ、そのカラダが不自然にガクンと硬直する。
飛びつき、ぶら下がった子猫のがニップルチェーンにそってずるずる滑り落ち、中央
に下がったナスカンに思い切り体重を預けたのだ。
「ピギャア!」
びっくりしのか威嚇の唸りをあげ、子猫がぎゅむっとナスカンにしがみつく。両足を
つっぱらせた不自然な立ち姿で、子猫は私のニップルチェーンを‥‥そしてその先の
乳房を、異様な勢いで変形させていくのだ。
信じがたいほど鋭角にV字に張りつめたニップルチェーンが、歪に乳首を引き伸ばす。
その痛みが、たえがたいむず痒さが、私を恐慌に突き落として。
千切れちゃう、痛いっ‥‥
お願いだからテトラ、ヤメッ‥‥‥‥‥‥ッッッ!!
「‥‥‥‥ンム、んぅぅ‥‥」
「ピニャァァ!」
威嚇の声をあげて子猫がぴゃっとベットの端まで飛びのく。
ちょろちょろっと私の股間から溢れたのは、言うも恥ずかしい‥‥生理的欲求だった。
湯気をあげるおしっこが、あまりの痛みにせきを切って洩れだしたのだ。
「‥‥!!」
誰も見ていないというのに、顔が真っ赤に火照っていく。
自縛プレイの真っ最中に飼い猫に責められ、あろうことか失禁してしまうなんて‥‥
子猫にお漏らしさせられてしまったのだ。
あらかじめ何重にも敷いてあった防水シートとタオルの上に、おしっこがしみていく。
呆然と、拘束された躯をヒクヒク揺すりあげてありえない痴態を眺めながら、解放感
と恥辱の羞恥に意識をさいなまれ、ふたたび私はマゾの愉悦をむさぼらされていた。
ゾクンゾクンと跳ねる腰が、渦を巻く頂上の遥かな高みへ裸身をつきあげていく。
こんな、こんなことでまたイカされてしまう‥‥
さらに消耗した私は、無力な自縛姿で延々と、自動人形のようにイキ続けるのだ‥‥
「くぅぅぅゥッッ!」
絶頂の苦しさに背がのけぞり、大きくおなかを波打たせて深呼吸しようとする。
嫌だだった。
こんなので、こんな恥ずかしい形では、イキたく、ないのに。
ぶるりと腰が震え、おしっこの最後の一滴が、ちょろっ、と解放されて。
「‥‥‥‥」
恥辱のあまりギュッと瞳を閉じたまま、私はエクスタシーにつきあげられていた。
びっしょり汗にまみれたカラダを室内にさらして、たちのぼる臭気から逃れることも
できず。
でも、でも‥‥
視線の先、そこにはナスカンの外れたカギが転がっていた。
ポールに括りつけられた両手を解放しうる唯一のカギ。唯一の、最後の希望。
ミトンを嵌められたこの手で扱うのは難しい、けれど少なくともこれで、カギは私の
手に入ったのだ。
「んっ、んっクッ」
喉を鳴らし、ようやく絶頂のリズムにカラダを馴らして愛しい子猫を見やる。
彼女は眉の間をしかめ、鼻をくっつけるようにカギのにおいをかいでいた。
そして。

テトラは、不機嫌そうな猫パンチで、手枷のカギを弾いたのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


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