首輪のある生活 その1

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 28才最後の一日が、もうすぐ終わろうとしている。
 ベットサイドで瞬く時計のデジタル表示に目をやったのもつかのま、ぬちっと腰を浮か
せた若い彼がお尻の肉を鷲づかみにし、背後から深々とカラダを抉ってきた。
 私のカラダを満たしていく、深く熱い実感。
 重なり合う裸身がうねり汗ばみ、ほぐれてまた繋がりあう。
「ん、んはぁ‥‥ンンッ」
「ぐっっ‥‥」
 わずかに開いたカーテンの向こう、夜景をバックにした窓ガラスに自分の顔が映りこむ。
形のいい眉を切なげにひそめ、紅く羞じらう唇はハァハァ荒い呼吸で半開きのまま。会社
では決してみせない女の顔だ。私の、本当の顔だ‥‥
 人をお局扱いして遠巻きにする後輩OLたちは、こんな姿をどう思うだろう。まして、
彼女たちから人気の高い彼を、私がひそかに独占していると知ったら‥‥
「ん‥‥イィッ」 
 こりっと耳をかじられて、はしたなくハスキーな声があふれた。夜景に重なる彼の顔が
小さく笑みを作り、満足げな仕草にキュウッとカラダの奥深くが疼いた。6才年下の彼を
悦ばせている自負心と、火照った身体を煽られるいじらしさが、心をドロドロに溶かす。
感じてしまったことを彼に悟られるのがなぜか悔しい。
 ぎゅっと唇をへの字に曲げていると、彼が2本の指を口内にさしこんできた。柔らかい
指使いで鼻の下をくすぐり、吐息にまみれた半開きの唇をねぶりだす。
「愛してる」
耳もとの囁き。なんてツボを心得ているんだろう。年下のクセに。
いやらしい。
上と下と、両方から犯された私のカラダは、もう満足に返事も言えない。
「あっ、あフ‥‥」
 下半身を貫くストロークにあわせて、入りこんだ彼の指が口腔を侵食してくる。舌先を
指でつままれ、なまなましい衝撃でうなじが痙攣を繰り返した。窓に映る自分自身の瞳に
やどるのは、ゆらゆらくすぶりつづける悦びの情炎だ。
「ひぅ、くぅんンンッ‥‥」
「‥‥」
 ほとんど喘ぎ声を出さず息を吐くだけの彼と対照的に、私のカラダはびっしり汗に濡れ、
たえまなく全身がよじれていくようだった。ハスキーにかすれる自分の呻きが恥ずかしく、
いやらしい気分が波打って押し寄せてくる。
 うつぶせの姿勢で押しつけられ、ひしゃげた乳房に彼が手を伸ばした。充血した柔肌を
揉みしだかれ、私は思わず、ギュッとその手の上から指を絡めて押さえ込んでいた。敏感
な反応を見てとって彼は薄く笑い、吐息を耳に吹きこむ。
「そんなに気持ちイイの? 年下に、いいように煽られるのが」
「ンッ‥‥」
 彼の言葉責めは、燃え上がった私のカラダを心地よく愛撫する。優しく溶かすぬくもり
とイジワルな台詞のサンドイッチで、はしたないほどアソコが反応してしまうのだ。
「はぅン!‥‥そ、そこっ、ダメ‥‥」
「ギャップが素敵だよね。けっこうマゾッ気あるし。彰子さんは」 
 ぬるる、パァァン‥‥ずぬぬッ‥‥パァァン!
 本気の愛液をズクズクに混ぜ合わせ、シェイクして、クレヴァスのとば口から最奥まで
長いストロークが何度となく繰りかえされる。熱いシャフトで強引に肉壁を拡げられる快
感が私をすっかり馬鹿にさせ、獣のポーズをとらされた腰を引きずりまわすのだ。
「わっ、私は別に‥‥っひぃぃン、普通なのに‥‥っくぅ」
「説得力‥‥んっ、ないですよ‥‥」
「きひっ」
 そう。分かってる。誰が見たって一目で分かる、惨めな証‥‥
 ぐいっと手綱を引かれ、私はたまらず海老ぞりに反りかえった。つかんでいたシーツに
さざなみができる。無意味に暴れる膝をつかんで、彼がわざと私の腰を高く掲げる。誇示
するかのように、パァンパァンとクレヴァスの根元まで突きこんでくるのだ。
 エアコンの風が強くなり、カーテンが大きくゆらめいた。鏡のように澄みきった窓に、
もつれる2人の姿が映りこむ。
「ほら、見て‥‥会社の誰にもみせたくない、ボクだけの彰子さんだ‥‥」
「ふぅっ、ふぅぅぅっ」
 ダメ、見ちゃダメ、私が私じゃなくなる‥‥
 経験で知っているいるのはずなのに、そそのかされるまま視線が窓の方を向いていく。
暗い窓に映った、細い首筋を鮮やかに彩る恥ずかしい快楽の証へ。
 ペットのように、しっかり繋がれた私自身に。
「エッチの時に首輪をつけてくれる女性なんて‥‥しかも本気で感じてくれる女性なんて
‥‥彰子さんほど可愛い女性、どこにもいません」
「み、見ないでぇ‥‥」
 吐息混じりに叫んでも、こみ上げる疼きをこらえきれない。しなやかに背筋にそらし、
快感をかみ殺して蕩けている私自身の顔‥‥その喉もとには、彼に嵌めさせられた惨めな
赤い犬の首輪が食い入っているのだから。
 ゾクンゾクンと、体全体を被虐的なおののきが突き抜けていく。見せつけられる現実に
カァァッと素肌が燃えあがる。
 あまりにあさましく、エサをねだるように年下の彼氏の前で発情している自分に。
 シーツに4つん這いになって爪を立て、首輪のリードを握られて自由自在にアクメまで
追い上げられていく私自身の姿に。マゾのように、獣のようにアクメを貪りつづける私の、
止まらないカラダの反応に。
「いっ、いやぁぁァ‥‥恥ずかしいぃぃ‥‥‥‥」
 嫌がる言葉と裏腹に、トロトロに溶けきった語尾が尻上がりにめくれかえっていく。
 ズブズブッと、強く肉洞をこすりながら彼自身を挿し込まれて、声を失った。下腹部が
獲物を咀嚼する蛇のようにぎゅうっと蠢く。一つ一つ繊毛を収縮させる微細な肉感が巨大
にうねり狂う快楽をこじり、私の中にドロドロそそぎこんでいく。
 快感すら私の自由にならず、彼のペースで昂ぶらされていく。
 気持ちいい。けれど、惨めだ。快楽でしつけられて、彼から離れられなくなっていく。
ズン、ズンと子宮の底に容赦ないストロークが叩き込まれていく。
「イク‥‥んっ、んんンンンン‥‥ッッッ!!」
 吐息を重ねたシンフォニーが、いやらしく甘い音階を駆け上がっていく。
 不本意にも私は彼を深々と噛みしめたまま、真っ白に弾けるまで追い上げられていった。


                   ☆


 目覚まし代わりのCDコンポが、お気に入りの洋楽をかなでだす。初登場チャート3位
の、実力派女性ヴォーカルの新曲だ。
「ん‥‥んーっっ‥‥」
 けだるい伸びをしたときには、ベットルームは燦々と冬日に照らされていた。白で統一
され、こだわりぬいたインテリア。冗長なOL生活へのささやかな反抗がこもった自慢の
1LDKだ。
 エアコンの涼風が、毛布にくるまれた裸の肌を柔らかく包みこむ。
 寝返りを打つと、隣のシーツのくぼみはまだ暖かい。乱れすぎた昨日の夜を思いだして
顔が上気する。喉元をさぐると、赤い首輪は吸いつき、南京錠もかけられたままだった。
 獣の証。マゾの証。快楽の、源泉。
 小さくため息をつき、彼のことを‥‥彼の、特殊な性癖を思う。
 彼、原口良平は今年入社したばかりの新入社員だ。目鼻立ちがぱっちりし、愛嬌のある
可愛らしい男性だ。それでいて会話もうまい。おどけたり場を和ませつつ、自分のペース
で周囲を魅了するしたたかさがある。新卒の23才。あらためて言うまでもないが、私とは
6つも年が離れている。
 職場で知り合った当初、彼と男女の仲になるなんて想像さえしなかった。
 素敵な男の子だとは思ったけど、同期や1つ2つ上には彼を意識する後輩OLがたくさ
んいた。悔しいけど彼女たちは若さで輝いている。肌のハリもいいし、会社の制服だって
よく似合う。余暇の過ごし方もずっと華やかだ。
 私だって昔は‥‥そう思う記憶のなんと遠いことか。
 いくつかの恋を重ね、逡巡し、気づいたら私がお局と呼ばれていた。所詮、OLなんて
使い捨て。能力より何より、職場を華やかにさせる空気が大事らしい。言葉に出さずとも、
そうした気分は会社というシステムのすみずみに行き渡っている。
 22,3才のOLが大手をふる社内では、29才の女性など色眼鏡でしか見てはもらえない。
刺激のない毎日が、ゆっくり自分を錆びつかせていく。
 そんな時、私は良平から口説かれたのだった。
 驚きと、忘れていた喜び。
 良平は、私を一人の女性に戻してくれる。いとおしく思われ、大切に扱われる甘やかさ。
恋という名のみずみずしい悦びがどれほど日常をうるおすものか。ひさしぶりの甘い果実
を、私はわれを忘れて貪っていた。
 そして私は、人知らぬ彼の性癖を肌で覚えることになったのだ。
「あ、起きたかい、彰子。おはよう」
「うん。おはよう、良平」
 バスルームの音がやみ、ひょいと下着姿の良平が顔をのぞかせた。剃りかけの電気シェ
ーバーを置いて私のところまでやってくる。頬をなでるように手で包み、そっと朝のキス。
良平は、こんなところまでマメで素敵だった。
 とろんとしてばかりはいられない。うなじに吸いつく首輪を示し、訴えかける。
「良平、そろそろ外して」
「あ、ゴメン」
 セックスの時に首輪を嵌めてほしい‥‥初めてそうねだられた時、目が点になった。
 SMプレイ‥‥らしいが、私にはまったく理解できなかった。恥ずかしいし、それ以上
に惨めだ。本気で怒った私を良平は必死で説き伏せ、一度だけだからと年下の甘えで上手
に媚びた。
 そうして‥‥
 首輪でつながれた時、私のカラダは私のものでなくなった。
 怒涛のような快楽と疼きの波濤に押し上げられ、肌という肌のすべてが剥きだしの性感
帯になったようだった。何度も狂い、カラダが跳ね、それでも収まらずに痙攣しつづける。
 やっぱりだ、と彼は言った。彰子さん、マゾですよ、きっと。
 そんなのあんまりだ、と思う。けれど屈辱的な行為と裏腹に、ケモノ扱いされる私の躯
は悦び、あさましく惨めにのたうち、打ち震えたのだった。
「んッッ」
 カチリと音をたてて、喉もとに吸いついていた皮の感触がはがれる。物足りないような、
ほっとしたような感情に揺れる私を、良平が楽しそうに見つめていた。思わずうろたえる。
「ふふ、また今晩もしてあげますから。がっかりしないで」
 洗面所に戻っていく年若い彼の裸の背を見ながら、私は複雑な心境だった。


 日曜の朝遅い食事を恋人と済ませ、私は良平を送りだした。良平の方は親と同居だが、
ここしばらくは半同棲のような生活が続いている。彼の姿が見えなくなると、統一された
インテリアが急にがらんと空虚な感じに変わってしまった。
 さんさんと降り注ぐ冬日の中、しばしボーっと立ちつくす。時刻は、朝の9時すぎだ。
 29才と1日目を迎えて最初の朝。もう、30のとば口まで来てしまった。
 同期入社の多くはすでに寿退社か、やりがいを求め転職してしまっている。彼と過ごす
時間はすべての難題をうやむやにする麻薬めいたひとときだが、一人に戻ればその反動も
心におしよせてくる。さっきまで躯を抱擁してくれていた良平の感触がよみがえり、小さ
く息がもいれてしまう。
 こぼれた吐息には、快楽のそれよりも、困惑とあきらめが色濃くいりまじっていた。
 急に電話が鳴り、われに引き戻される。
「はい、中谷です」
「ああ。彰子かい? お誕生日おめでとうね」
 ディスプレイの名前表示を確認もせず、あわてて受話器を手にした自分を、私は恨んだ。
昨日電話がなかったせいですっかり油断していた。ほかでもない、もっともおそれていた
もの。母からの電話だ。
 案の定、誕生日を祝う母からの言葉は名目で、本題は別にあった。
「‥‥その話は断ったじゃない」
「でもねぇ彰子。富子おばさんだってお前を心配してくれて色々お話を聞かせてくれるの
だもの。私だって早く安心したいじゃないの」
 はっと失言に気づいて母が息を飲む。それが、半端な共感がまたいっそう苛立たしい。
「こんな気持ちで会ったって、相手に悪いだけでしょう」
「それはお前、実際に会ってみないと分からないわ。母さんだってお見合いだったもの。
愛情なんてものはね、お金と生活さえあれば後からついてくるものよ」
 もう幾度となく繰りかえされたやりとり。母の用件は毎度変わらぬお見合いの話だった。
「分かった、分かったから。考えるだけは考えるから」
「本当かい? じゃあさっそく富子おばさんに連絡しなきゃいけないわよね」
 語尾の跳ねあがった母に、私は深々とため息をついて電話を切った。腹立たしさと憂鬱
が入り交じっている。私が考えてないと、悩んでいないとでも思っているのだろうか。
 一人きりの部屋を眺めて洩れたため息と同じもの、同じ憂鬱の原因。
 『だれかお付き合いしている人はいないの?』
 この母の問いに、私は黙るしかなかった。今はまだ良平を紹介することなんてできない。
経済力こそが結婚に不可欠な条件だと思っている両親に、6つも年下の彼の話などできる
わけがない。まして彼を親に紹介するだなんて。
 そもそも私自身が、良平が結婚について意識することを怖れていた。
 私も良平もまた8ヶ月足らずだというのに。将来の話なんて、どちらもまだ口にさえし
ていないというのに。なのに、来年の今頃、クリスマスを迎える頃には、私は30の大台に
のってしまうのだから。
 親にも同僚にも言えず、まるで隠れるように彼とつきあわなければならない後ろめたさ
は意味もなく私の心を重くする。けれど私は、どうしてもそのことを口にはできなかった。
ほのめかすことさえ、怖くてできないのだ。
 年上が好きだと言ってくれた。心を許せると言ってくれた。一途に私をくどいてくれた。
なら、もし私が親に会って欲しいと、婚約したいと、そう告げたなら‥‥良平はそれでも
良平のままでいてくれるだろうか。今までの男性のように急に不機嫌になったり、縁遠く
なってしまわないのだろうか。
 私が内心焦っていると知ったら、良平はどう思うのだろう。そんな、つかのまの幸せと
将来とを天秤にかけた打算的な思考に嫌気がさし、再び鳴った電話をとる手は乱暴だった。
「あらぁ、どうしたの、けんか腰で」
「あ‥‥なんだ、敦子(あつこ)じゃないの」
 からかうような口調が流れだし、私は思わず頬をゆるめた。
「なんだはご挨拶ね、彰子。お誕生日おめでとう。それより今の声。彼と喧嘩でもしてる
最中だった?」
「ううん、ちょっと別件。彼とは、今朝も一緒だったわ」
「あーらら、あけすけに。のろけ?」
「あはは」
 佐々木敦子は、今も親しくしている数少ない同期入社の一人だ。前から弁護士への夢を
捨て切れなかったという彼女は、OL3年目に突然、まわりが驚くほどあっさりと会社を
やめ、資格予備校に通いながら弁護士事務所につとめだしていた。
 目的もなくダラダラOLを続けてきた私にはない思いきりの良さを彼女は持っていて、
さばさばした男性的な性格が魅力だった。
「お祝いをしたかったんだけど、どう? いきなりだけど今日のお昼とか空いている?」
「ええ、空いてるわ。久しぶりに会って食事でもしましょうか」


                   ☆


 値段もグレードも高めのランチを味わいながら窓の外に目を向ける。大通りの街灯には
赤と緑の飾りつけがされ、街並全体が近づくクリスマスのムードを高めていた。
「あら珍しい。今年のは一人なんだ、敦子。ふぅ〜ん」
「ちょっとなによー。聞き捨てならない台詞ね」
「ホントは山のようにいい男をストックしてあるんじゃないのー? 逆ハーレムみたいな」
 敦子と私、二人してコロコロと笑う。
 電話ではマメに連絡を取り合っていたものの、半年ぶりに会う彼女はさらに磨きのかか
った知性派の美人になっていた。マニッシュなスーツをさらりと着崩す感じがおしゃれだ。
同い年なので、私も会社で見せない砕けた表情でくつろいでいられる。
「で、どうなの。彼氏は。何か悩んでいるんじゃないの」
「うん。まぁ、結婚のこととか、ほら年のこともあって考えちゃったりとか、ね」
 かいつまんで話をする。
 時折あいのてを入れて聞いていた彼女は不思議そうに首をひねった。
「そっか。でも、結婚の話は結局あなた自身が踏み切っていくしかないでしょうね。今の
ところラブラブで破綻要素もないし、パワーバランスで言えば彰子が上なんでしょう」
「うん。そうだ、ね」
 彼の熱意におされ、付き合うことになって、たしかに追われる恋愛なのだから本来なら
私が彼をリードするべきなのだろう。けれど‥‥と歯切れ悪く口ごもった私に、敦子の瞳
の奥が光った。
「他にもあるんだね。悩みが」
 やはり、親友の目はごまかせないらしい。
 敦子のカンの良さに半分はホッとし、半分は困りつつ、まるで奇妙な腫れ物かなにかの
ように私はそろりと舌の先で台詞をころがした。
「‥‥その、彼の性癖のこと、なんだ」


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