まなざし その3

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妖しく刺激的な思いが、じわじわと私を虜にしていく。
人ごみのさなか、自身の手で仕立てあげられたマゾの痴女が晒しモノになる。縄抜け
不能な緊縛におののく誘惑的な裸身をじっくり鑑賞され、エレベーターという檻で、
嬲りものの恐怖と羞恥にしずくをしたたらせ、イかされる。
想像するだに悪魔的なサディストの責めだ。
しかも、調教するのも私なら、責めを課せられ、自由になれるかどうかもわからずに
よがり啼くのも私自身‥‥なのだから。
ポーっとうつろに上気したまま、一週間は駆け足ですぎていった。
OLの佐藤早紀をこなしつつ、たえず躯の深奥はとろ火で炙られつづける。グズグズ
溶けていく心を隠し、いつもと変わりなく過ごすのが、期待と不安にさいなまれるの
が、本当に心地いいのだ。
男性社員が見かけた痴女についても、さらに詳しく聞く機会があった。
OL仲間との昼食帰り、またも休憩所で山城君が大木君を捕まえていたのだ。猥談に
聞こえたのかムッとした顔で幸崎さんが割りこむと、山城君はかわいそうな位慌てて
受け売りの話を披露してくれた。
シーズンスタワーの彼女は、やはり自縛プレイの最中だったらしい。
革のボンデージ衣装というか拘束具で上半身をギチギチにされていたこと、カラダの
あちこちを南京錠で留められていたこと、鼻から下を革のマスクで覆われた顔が上気
していたこと、完全に一人きりだったこと、くるりときびすを返して立ち去った時、
後ろ手に食い込む手枷がはっきり見えたこと。
「なぁにソレ‥‥嫌ねー。不愉快。通報しなさいよ、あんたたちも」
「ま、今思えばね。でも、助けを求めてる感じじゃないし、俺もビビっていたんだよ」
「そうじゃなくて。ストリーキングじゃない。犯罪じゃないのなら」
「え、警察に引きわたすの? そこまでは‥‥」
「ムリムリ。大木の話聞いて分かんない? その子、ただのSMマニアで楽しんでた
だけかも。ヘンタイだって好き好きだし、迷惑掛けてないし‥‥なぁ」
「山城君、考えかたが最低。鼻の下伸びてるじゃない」
「そんなぁー」
糾弾された山城君はへらへらっと情けない声をあげた。まあ、むっつりと話を聞いて
いた満井さんに比べれば山城君の方が健康的なのかもしれない。けれど。
‥‥ヘンタイだから。好きモノだから。
嫌悪がさきだつ女性と違う、一見好意的なその反応は、実は好ましいものではない。
『だから』の後に彼が何を言いよどんだのか、想像ぐらいつく。無防備な裸体が目の
前にあって、しかもそれが好きモノのヘンタイだとしたら。
彼は、そうイメージしたのだ。
不自由なカラダで男に捕らえられ、モノのように弄られ、嬲られてしまったら。
それを思うと、恐怖で膝が砕けそうになる。
セルフボンデージ特有のぎりぎりの焦燥感、その先に何があり、どんな結末がもたら
されるものか‥‥私は、分かっているのだろうか。
分かっているのなら‥‥
ならば、なぜ、こんな残酷な想像で躯がほてってしまうのだろう。
自分の心さえ分からぬまま、予定が近づくにつれ、私は急速に溺れていった。マゾの
疼きを我慢しつつ、自分自身を虐め抜く企画を練る甘美さときたら。
妄想は情欲を加速させ、あらゆる卑猥なプレイのバリエーションばかりが思い浮かぶ。
オナニーを禁じる手がつい、下腹部に、スウェットの下にもぐりこんでしまう。
焦らされ、理不尽に発情させられ、不安と愉悦は膨らむばかり。
自縛プレイの決行は、土曜日。
私自身の手で拘束され調教を施される、避けようのない週末が近づいてきていた。


              ‥‥‥‥‥‥‥‥


金曜の夕方、下見のため会社を出て直接シーズンスタワーに向かう。
コインロッカーに用意した大胆な夜遊び服に駅の化粧室で着替え、普段はしない艶の
あるメイクを重ねた。もとの童顔のせいか、この系統のメイクは妙に蠱惑的になって
しまう。鏡から微笑みかえす小悪魔めいた唇に、軽いしびれをおぼえた。
シーズンスタワーを下から眺める。
夜にそびえる景観は他を圧倒していた。地上20階。V字に東西ウィングが広がり、
その両翼を駅の高架が貫く。今しもホームに入ってきた車両を追う目の端を、ガラス
張りの物体が外壁に沿ってのろのろ上昇していった。なにげなく視線で追う。
無意識に、躯がびくりと跳ねていた。
シーズンスタワーの外側に突出したデザイン。服装どころか靴まで丸見えの標本箱。
それこそ、緊縛姿の私が晒し者にされるエレベーターだったのだ。
こんなクリアな檻の中で、全裸をさらすの‥‥?
立ち眩みをおぼえて前のめりになった瞬間、ニチャリといつもの感触が下腹部を貫く。
想像しただけで、女の部分がとろんと反応してしまったのだ。
こんなにも昂ぶらされたまま本番で厳しい自縛プレイを強いられたら、私のカラダは
一体どうなってしまうだろう‥‥?
怖れが、甘い緊縮に、深い疼きと飢えに変わっていく。
失敗した時の脱出ルートをさがす。
繁華街につづく正面のスクランブル交差点方面は、自殺行為だった。
唯一、東ウィングから高架づたいに住宅街へのルートなら、沿線こそ違うがマンショ
ンまで一駅強の距離を歩けなくはない‥‥もちろん、自縛されたまま快楽に身悶える
不自由な肢体で、運良く痴漢にも会わず、そこまで歩ければの話だが。
かってない危険なステージに、足が小刻みに震えだす。
心のどこかで許しを求めている私自身を、もう一人の私が、意地悪く突き放す。
自分自身によって調教を施されていく。
奴隷に作り変えられていく。
セルフボンデージは脱出の解放感、達成感、快楽のコントロールまで含めての行為。
だというのに、私の心には、毎度おなじみの痺れるようなジレンマが湧き上がるのだ。
失敗した瞬間の、あのおののきを味わいたい‥‥
不自由な躯を弄ばれ、脱出の手段を奪われ、脱出不可能な拘束姿にされて‥‥
後戻りできないほどの晒し者にされ、限界を超えた快感に意識を手放しせたのなら。
夢遊病めいた破滅願望に背を押され、タワーの中へ進んでいく。


エレベーターの中では、おーんと低い駆動音が響いていた。
最低限スカートの中は見えないように配慮して設計されているらしいけど、膝下まで
透明なガラスに囲まれていると、そわそわしてしまう。
両ウィングに二機づつのエレベーターは、意外なほど利用客が少なかった。考えれば
分かることで、下層階のショッピングモールや市役所へ向かうにはエスカレーターが
一番便利なのだ。シティホテルの宿泊客と、19階より上のレストランフロアの利用
者だけが、エレベーターを使うことになる。
夜の街並みを堪能させつつ、エレベーターは時間をかけて上昇していく。
ガラス張りで素通しだからか、監視カメラもない。たっぷりと冷や汗をかき、自縛の
スリルを味わうには最高の密室ではないだろうか。
衝動は、発作的だった。
レストランに向かうグループの背後で、束ねていた髪留めのヘアバンドをそっと外す。
くるくるっと二重にして八の字にひねり、背中に両手をまわすと収縮したゴムの輪に
むりやり手首を差し入れた。指先から力づくでねじりこみ、肌が擦れていく。
「ンッ」
吐息とも苦鳴ともいえない息が小さくこぼれた。
ミチリと音さえたてたような錯覚と共に、8の字にねじったゴムの輪2つがそれぞれ
左右の手首にがっちり食い込んでいた。腕を揺すり体をひねっても、鬱血する位きつ
く嵌まったヘアバンドは簡単には外れてくれない。
やっちゃった‥‥本当に‥‥
ゾクゾクッと下半身を甘い揺らぎが包みこんでいく。
ブーツの足元がふわふわ危うくなる。
談笑するグループの背後でさりげなく壁にもたれる格好の私が、実はジャケットの背
中で手を括られているなんて、誰一人気づかない。しかも肩掛けのトートバッグには
拘束具。万が一にもこの姿を詰問され、バッグの中身を見られでもしたら。
歯を食いしばって声を出すまい、息を荒げまいとする。冷ややかな表情を保ちながら
束縛の痛みに人知れず酔いしれるのだ。
括られた手首を道ゆく人に見せつけながら、エレベーターが上がっていく。
ジャケットの地の色にまぎれ、黒いヘアバンドは多分すぐには気づかれないだろう。
けれど、私の不自然な動きを見ていれば、いつかは誰かが‥‥
ポーン。
突然のチャイムに文字通り飛び上がった。
先にエレベーターから降りかけた数人が不審そうに振りかえる。目をそらし、知らん
ふりで最後に降りたった私は、もはや自分をごまかしきれないほど濡れそぼっていた。
入れかわりに乗ってくる人々の視線が怖くて、意味もなくカラダをねじり背中を隠し
ながら歩いてしまう。
フロアに出た私の元へ、カップルやグループのざわめきが遠い潮のように響いてきた。
本当に、拘束された格好でレストラン街まで来ちゃった‥‥
後ろ手をかばいって背を壁に擦りつけつつ、人目を気にしてじりじり廊下の端に寄る。
全然引き抜けない手首に焦り、人が途切れるのを待っては手首を食む縛めを外そうと、
もどかしく腰をくねらせてしまうのだ。
たまらない。
今すぐもっと、深い拘束を、スリルを味わいたい‥‥カラダが‥‥
これから行う卑劣な責めを思うだけでじっとりカラダが熱をはらみ、そのはしたなさ
はまるで私自身ではないかのようだ。


             ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


夢のなかでうなされていたらしく、明け方起きたときには汗びっしょり。
どんな夢かは想像がつく。
女の部分が、グチャグチャだったから。
‥‥しっかり二度寝して幕を開けた土曜日は、暑い日になりそうだった。
ほんの10時間もすれば、佐藤早紀という人格は剥ぎ取られ、変わりに被虐の歓びで
痙攣させるみだらなマゾ奴隷に作り変えられた痴女が、人前でアクメをむさぼること
になる。
かってないほど成功率の低いセルフボンデージを強いられる裸身。
縄抜けの可能性も、自由の身で戻ってこられる可能性も極めて低い。わかっていて、
だからこそ自縛マニアのプライドをくすぐられる。
昂ぶる失敗への誘惑‥‥これを振りきり、本当に私は自分をコントロールできるのか。
伸ばした指先まで満ち満ちてくる緊張と期待に全身をひたらせ、ゆっくり身を起こす。
すでに、プレイは始まっていた。


自縛のなかで最も難度の高いステージが、真夏の屋外で行う露出調教だ。
不自然にコートでカラダを隠すこともできず、悩ましい拘束はあらわになってしまう。
公の場で自縛する以上は全裸で出かけるわけにもいかず、いかに目立たぬ服を選んで
いくかが成否を分ける。
今回は、あえて肌見せを増やすことにした。
上半身は、首の後ろで結ぶホルターネックのアメリカンスリーブ。大胆に肩から背中
まで肌見せなので、拘束も後ろ側で処理しやすく、強調された胸元は逆にオッパイを
虐める自縛を目立たせない。
下はお尻のラインをきわだたせるタイトミニ。サイドスリットとピッチリしたライン
が注目を集め、私をギリギリまで昂ぶらせてくれるだろう。
自縛後は、スタンドカラーのジャケットをはおり、日よけスカーフとベレー帽で口元
を隠す。さらに、人に見られたり奪われたりしても身元が割れないよう、すべての服
は新品のバーゲン品だ。邪魔になるブラは最初から外していく。
じわじわと、カラダの内から期待が高まっていく。
大き目のトートバッグに、現実の拘束具をえらび、詰めていく。
ボディラインを浅ましく引き立たせる奴隷の仕立て。革の首輪に、尻尾つきのアナル
プラグ。猫耳つきのボールギャグ。佐藤志乃あてで届いたこれらは、ベルト穴に通す
金具がU字に改造され、南京錠で施錠できるものばかりだ。
さらには保温用ランチバッグとタオル数枚、例の形状記憶合金の枷がついた丸ミトン。
‥‥そして、最新の器具も、このなかに。
頬が微熱をおび、おととい届けられた小包に視線が向かう。
またしても偶然か、それとも、まだ見ぬご主人様に、思惑あってのことなのか。使う
べきかやめるべきか、動揺がおさまらない。それほどに凶悪な‥‥仕掛け。
送られてきたのだ。新たな拘束具が。
一つは金属バーつきの足枷。海外製ならではのサイズで、拘束後は足幅が1メートル
にもなり、しかも金属バーと足枷をボルトとナットで接合するため、完全に、両足が
一本の棒で溶接された状態になってしまう。
後ろ手拘束に追加でこんなモノ嵌められたら、足を地面に打ちこまれたカカシ同然だ。
試してみたが、これは晒し台に括られるのにひとしい。
どんなに頑張っても大股開きでペンギンのようなヨチヨチ歩きがやっと、それも一歩
で5センチしか進めないのだから。
もう一つは、リング式の開口用の口枷だった。
猫耳のボールギャグの部分を交換して使えるアタッチメントだ。
SMショップでみかける排水栓めいた形状の革マスクではない。ゴムで覆われた薄い
金属板のリングに歯を埋める溝がついていて、ぴったり噛みこむと、かぶさった唇で
リングが隠れてしまう。後頭部でストラップを結んでしまえば、まるでフェラチオを
自分から求める愛玩人形みたいな格好になってしまう。
ご主人様は、これを今回の自縛に使うようにと言いたいのだろうか‥‥?
そんなはずないとは分かっている。私の計画など、誰一人知るはずがないのだから。
バカバカしいほど大げさな拘束具の数々。
変だとわかっているのに止められないほど、私はこの状況を堪能していた。服の下で
裸身がふつふつ滾り、マゾの気分が下半身へ沁みだしていく。
シーズンスタワーの痴女になりきって晒し者になる。その時が、刻々ちかづいてくる。


              ‥‥‥‥‥‥‥‥


ようやく長い陽が傾ぎ、歓楽の短い帳が下りてきた。
サングラスの縁を軽く下げ、二度目となる深夜のシーズンスタワーを下から見あげる。
粘りつく夜気がむきだしの肌をなぶり、それ以上にカラダが火照っている。
あらためて胸に問う。
危険をおかして裸身をさらす勇気が、実行するだけの度胸が本当に私にあるだろうか
‥‥ふっと唇がゆるみ、妖しく官能的な笑みがこぼれた。
答えるまでもない。
ここから先、佐藤早紀は姿を消す。
きらめくネオンをくぐり、カツンとヒールを鳴らした。
どっと吐き出される人いきれをくぐり、正面玄関からホールに入っていく。
会社員、OL、学生、家族連れ。混沌の中から注がれるあまたの視線を肌に感じた。
あざやかに映えるリップ、ふわりとしたベレー帽、かけたままのサングラス、あるい
は高いハイヒール‥‥むろんその格好も目を引いたのだろうが、それだけではない。
(おや? まさか噂の‥‥?)
そんな、確認ともうたがいともつかぬ反応がみてとれるのだ。
残念ね‥‥
あなたたちが探しているのは、30分後の私なの‥‥
軽く唇を湿らせ、ショッピングセンターの雑踏を東ウィングまで進んだ。下見どおり
突き当たりのエレベーター近辺は人も少ない。ホテルフロアの12階まで上がり、無
人の化粧室に滑りこんだ。
ホルターネックの首紐をほどくと、ニットの上半分がぺろんと胸の下まで垂れさがる。
さらけだされた胸元でつんと自己主張する尖った乳首に目のふちが赤くなった。ミニ
スカートもショーツも脱いで靴だけになると、すうすうと外気になぶられる下半身は
はしたないほど熱を帯び、うっすら桜色にゆだっているのだ。
いやらしいカラダ。
もう、今からこんなに期待しちゃって‥‥かわいらしい。
虐めがいがあるというものだ。
細い革の首輪を嵌めて南京錠を留め、首の後ろからリードをたらす頃には、私の心は
すっかり、浅ましい露出を強要される奴隷の色に染めあげられていた。
指の痙攣がとまらない。
震えるほどの羞恥、恐怖心、ためらい。
それらすべてが私を昂ぶらせ、痴女になりきった露出プレイへと押し流していく。
扉のフックにひっかけたトートバックを開く。
‥‥そこに、今回のセルフボンデージのために用意した、最高の道具がのぞいていた。
‥‥黒染めの、二つ折りの麻縄の束。
予備を含めた数本の縄束だ。
あの夜以来、女性バーテンに調教されつづけている私のカラダは、みっちり縄掛けの
味を覚えこんでいた。セルフボンデージであの感触を味わいたい。今まで何度、そう
願ったことだろう。
拘束具と違い、一度縄つきのカラダにされてしまったら、自由を取り返すすべはない。
そしてそれ以上に、肌を擦りたて慰撫しながら抱きしめてくるあの肌ざわり、絶望に
裏打ちされた縄の愛撫が忘れられないのだ。
そんな縄での自縛が、1人でも可能だと知ったのは最近のこと。
同好の士が集まる掲示板での書きこみから、さまざまなテクニックを教わった。
あらかじめ3つの輪に結んでおいた束を取りだす。
左右の輪に両手を通し、真ん中の大きな輪を足から履いて胸元までズリあげることで
中央の大きな輪がわきの下に絞り縄までかまされた胸縄となり、上半身が緊縛され、
上下から乳房を圧迫しだす。
さらに、カラダの前に垂れたあまりの輪っかを首にかけてから縄尻を引くと、たるみ
が取れてV字に胸縄をすくいあげ、上半身をくびりだす。
絞首刑の縄のようにぐるぐる巻きになった縄尻こそ、この自縛の要だった。縄尻を引
けば引くほど縄全体がきつくカラダを締めあげ、しかも一度緊まった縄目はどれだけ
あらがっても絶対にゆるまないのだ。
この結び方――ハングマンズノット――こそ、自縛の必須テクニック。
自分自身を自縛するなんて不可能だと思いこんでいたのに、その掲示板では、図解か
ら実体験まで、赤裸々な発言がならんでいた。
ハングマンズノットで自縛すると縄が締まってすごいんだって‥‥興奮するから‥‥
ホントだって‥‥
その体験談と、そしてくどいほどくりかえされていたある注意・・・・が、私をこの困難な
自縛へと駆りたてていく。
この時点で、上半身は完璧な胸縄縛りができていた。
両手は、二の腕の上下を噛みしめる縄のせいで、まったく動かせない。
肘から下の不便な動きだけで、さらに私はウェストから下半身へ縄掛けしていった。
腰を下ろし、胸縄につながる輪の残りを腰に履かせていく。
カラダを締めあげる縄目はアメリカンスリーブの下に隠していきながら、束になった
輪をほぐして菱縄縛りの形にもどし、カラダの輪郭、くびれにそってきりきりと締め
つけていく。
おへそ前で交差する縛りは下腹部にもぐり、一本づつに分かれて爛れたお股のふちに
食い入り、ドテを盛りあげ、濡れた肉裂をぱっくりと左右に広げたまま閉じられなく
してしまうのだ。
「んっ」
自分で選んだはしたない縛り方に、喉の奥で喘ぎがもれた。
すでにじくじく潤んでいる自分自身を見せつけられ、いやらしさでポーっとなりつつ
物足りないうつろな女の部分をみたすエッチな器具を取りだした。
一つは細いビーズの並んだアナルプラグ。
そして、もう一つはシャワーのノズルのように先端が膨らむJ字型のバイブレーター
……フェミペットだ。
独特の形状をしたフェミベットは先端を挿入すると膣圧で自分から中にもぐりこみ、
同時に婉曲した反対側がぴたりとクリトリスに吸いついて、軟質素材のトゲトゲで内
と外から同時に女性を責めたてる。
普通はワレメに入れるだけで安定するらしいのだが、その、私の場合‥‥オツユが人
より多いらしくすぐ抜けてしまうのでアナルビーズの末端にゴム紐で結んであるのだ。
「ンッ‥‥ふ、んァ」
待ちわびた刺激にカラダをよじりつつ、最初にアナルビーズを丁寧に一個づつ根元ま
でお尻にのみこませていく。
どうしようもない異物感に息を荒くし、今度はひくついた女の部分へつぷんとフェミ
ペットをもぐりこませていく。あっけなくぬるぬる入っていく様子にゾクゾク煽られ、
バッテリ−のスイッチを入れる前から快感と興奮で笑いだす膝の痙攣を止めることが
できない。
もどかしくてたまらない下半身を柔らかく刺激する突起の感触。
腰にも縄を巻きつけ、おへその下から垂らして自分に股縄を掛けていく。感じさせる
ためと、やらしい道具を落とさないため、二重の措置だ。
ショーツを捨ててタイトミニだけ履きなおす頃には、もう、つうと零れた濡れジミが
膝にまでしたたってくる。
裸身を揺すりたて、縄の具合を今一度たしかめる。
ホルターネックを首の後ろで結びなおせば縄目はほとんど隠れ、わきの下のニットの
すきまから、胸をくびりだす緊縛が執拗に両手にからみつくばかりだ。
ドクンドクンと動悸が胸をうつ。
全身に吸いつく縄。
けれど、結び目は仮止めになっているこの縄はまだゆるく遊びが残り、ハングマンズ
ノットの縄尻から垂れるロープを引いていけば、力をかければかけるだけ、際限なく
裸身を絞りたててゆくことができる。
ひたすらに自分の意志で裸身を責めることができ、しかも後戻りできない悪魔の自縛。
革拘束にはない初めての危うさとリスクが、普段よりもはるかに早く私の心身をドロ
ドロに狂わせていく。
んあ、と、おもいきって小さなあごを開く。
口に入る限界近いサイズの口枷――リングギャグを咥えこんだ。
さらに、鼻の下をそっと触り、驚くほど深い金属フックを二つの小鼻にひっかける。
本来、この口枷は女性の自尊心を打ち砕くもの。
となれば、自由を奪うのは口腔ばかりではない。頭上からフックを垂らすための穴は
最初から開いている。私が、この責めを嫌いだっただけなのだ。
つまり‥‥
ヘッドギアめいて十字にクロスする革紐の一方をあごの下にくぐらせて拘束力を強め、
もう一方を後頭部から首輪につなぎ、きつく緊めあげてゆく。
透明なストリングがぎじりと張りつめ、小鼻がみにくく吊り上げられる。
あらかじめストリングの長さは調整済み。口枷を絞って施錠してしまえば、引っぱろ
うが揺さぶろうが、もはや、鼻フックは絶対に外すことができない。
興奮のあまり、浅ましく息がみだれはじめていた。
ベレー帽と、風邪の立体マスク、立たせたスカーフで顔の拘束をかくす。
閉じられない口腔からちろちろ舌をのぞかせ、いやらしい仕掛けに低く喘いでしまう。
――あとは、手首、だけ。
完全にできあがったマゾの意識の中、上気した私はおののく手を背中に回していった。
縄による自縛を完成させる。完膚なきまでに私を後戻りできないカラダに作り変えて
しまう、まったく無抵抗に、何一つあらがえない淫らな痴女に私自身を仕立て上げて
いく‥‥
その、最後の手順だ。
背中の腰のあたりに垂れさがる、手首を拘束する縄目。
三重の八の字に束ねられた輪の中央を、ぐるぐる括ったハングマンズノットのロープ
が上に伸びている。
首輪には南京錠でロープラチェット――逆流防止の滑車のようなもの――が連結され、
ロープはラチェットをくぐり、上半身の縄尻と束ねられてリードへと結びつけられ、
そこから、膝の下まで垂れさがる。
つまり‥‥
手首と全身の縛めは、たがいに連動するのだ。
腰の後ろの輪に左右の手首を入れると、まず手首が緊まって抜けなくなる。
次に、膝まで垂れたリードの端をさらに引きしぼれば、後ろ手は高手小手に吊り上げ
られ、全身の縄がさらに食いこんでくる。
逆流防止のラチェットのおかげで、吊られた後ろ手は二度と下げらることができない。
いやらしい仕掛けだった。
自縛でも、工夫次第で高手小手の縛めを実現できる。
あとはこの縄尻をしっかり緊めあげ、手首が抜けないように縛りあげてしまうだけ。
‥‥ふと、トートバッグに目が落ちる。
バッグの底には、蒸しタオルに包んで保温バッグにしまった形状記憶合金の枷つきの
丸いミトンが入っていた。指先の自由さえ奪う危険な道具。使うつもりもないのに、
昂ぶる気分のまま持ってきたケモノの拘束具だ。
もし、もしも‥‥後ろ手に緊縛され、さらにこのうえ指先の自由まで奪われてしまっ
たとしたら。スリリングな妄想が頭にひらめき、全身がビクビクンと跳ねてしまう。
金属の光沢が私を誘い、さらなる深みに堕とそうと‥‥
かろうじて、誘惑をはねのけた。
いけない。いくら自縛が気持ちイイからって、限度を超えたプレイは必ず悲惨な結果
をもたらすものなのだ。今、この自縛だけでも、決心が鈍るほどハードなのに。
足がよろめき、個室の壁にもたれる。
大波のようなおののきが心を覆いつくし、始めることも、中止することもできぬまま
私はためらい続けていた。
最後の最後、いつもの瞬間に感じる、このジレンマ。
行くかやめるか、この抗いがたい誘惑はいつも私をまどわし、おかしくさせてしまう。
けれど、今夜の誘惑はさらに決定的に、普段とはまるで違う意味を持っているのだ。
後ろ手での緊縛姿。
ずっと憧れて、けれどセルフボンデージでは不可能だと思っていた。
でもホントは不可能じゃない。自縛できるのだ。


‥‥二度と自力でほどけなくなる・・・・・・・・・・・・・、その最悪のリスクと引き換えで。


しゃがみこみ、短いリードの先をトイレの床にたらす。
そのリードにヒールのかかとをのせ、後ろ手の8の字の輪っかに両手を通していく。
手のひらを何度か握り、しっかり手首の細い部分に縄目が噛んだのを感じとってから、
躊躇なく縄尻を踏みつけ、一気に中腰まで立ちあがった。
「ン、んぐぅぅっ‥‥‥‥」
みちりと。
はっきり引き返し不可能な、淫猥な縄鳴りのきしみをあげて。
腰のあたりで後ろ手がひきつれ、縄掛けが完成する。
ビシッと極まった手首の、縄独特の窮屈な圧迫感を味わい、爛れきった意識のなかで
遠いことのように、被虐の旋律を全身で奏ではじめていた。
長い長い――夜の競演が、はじまる。
脱出不能な、自縛の味とともに。



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