まなざし その4

Novels Back Next    

(※当アトリエは成人向け・SM小説サイトです。検索等でお越しになられた方はまず こちら をご覧下さい)


くらりとよろめく歓喜につらぬかれ、扉にもたれかかってしまう。
後ろ手緊縛のセルフボンデージが完成した――それだけでブルリと軽い絶頂にのまれ、
爪先だって快楽を飲み干してしまう。
ウワサは本当だった。V字の胸縄まで施されて、私、縛りあげられちゃってる‥‥
本気で、縄が手首に食いこんできてて‥‥
痛いほど心にあふれだすのは、後悔にも似たマゾヒスティックな陶酔。
ほとんど一発勝負だったにもかかわらず、完璧に縄目は軋み、食い入り、ギチチッと
喰いこんで欲しい部分を甘く緊めあげてきた。
まぎれもない縄鳴りが裸身を軋ませる。
力づくで手首をこじり、上体をくねらせ、抜けだせない現実を肌であじわう。
今はまだ、縄目もゆるく手首や上半身を押さえつけるだけ。
けれど、これは始まりにすぎない。
お尻の下で弾むリードにヒールを引っ掛ければ、縛めはきつく緊めあげられていく。
いつもとは違う。
縛り終えたこの瞬間も、私はご主人様であると同時に従順なマゾ奴隷なのだ。
マゾヒスティックな被縛にもだえる縄付きの裸身でなお、執拗に私自身を虐め抜き、
思いのままに調教してゆけるのだ。
この新鮮な感覚に昂ぶり、ミニスカートの奥で咀嚼する異物を熱くうるおす。
しなやかなフェミペットの曲線が、私を鈍く煽っていく。
「あ‥‥いぃ‥‥」
舌足らずな喘ぎも、リングギャグからきちんと言葉になって漏れている。
これもまた初めてだ。声が出てしまう。それは逆に、自分を嬲りながらも決して一線
を超えられないということなのだ。
カラダをくねらせてどうにかジャケットを肩にはおり、トートバックのファスナーを
閉じると、必要なものを手にして、背中から扉を押し開け、個室からあゆみでる。

――帽子をかぶった女性がそこにいた。

服の下で、縛りあげられたカラダがギチギチっと卑猥な軋みをあげた。
あやうく悲鳴をあげかけ、すんでのところで声を飲みこむ。あせって不審者のように
たたらを踏み、そこでようやく、視野の端で身じろぎする女性と視線があう。
「んぐ‥‥!?」
なんていやらしい‥‥妖艶に、匂い立つよう‥‥今の私、こんな風に見られてる‥‥
口枷から、甘い屈服の呻きがもれた。
同時に吐息をもらすのは、化粧室の広い鏡に映りこんだ私自身。
外見は普通なのに、その姿はなぜか奇妙なエロスを感じさせる。それほどに、セルフ
ボンデージの仕上がりは悩ましい女のツヤを周囲ににじませていた。
ベレー帽にスカーフ、風邪マスクで隠された顔。
袖を通せないジャケットも、膝裏から垂れるリードも、そう不自然ではない。V字に
胸をくびりだす首縄さえ、ホルターネックの首紐に隠れている。はだけたジャケット
の前だって、縄掛けは服の下に隠され、見えてなどいない。
にもかかわらず‥‥
鏡の彼女は、あまりにもねっとりした牝の匂いをまきちらしている。
自分をとめられず、大胆に人気のない洗面台に片膝をのせ、鏡に頬をすりよせてみる。
あまり好きじゃない鼻フック。あえて今回責めのレパートリーに加えたのは、万が一
顔を見られたとき、佐藤早紀だとバレないための予防措置だ。
刻々とカラダが自縛になじみ、淫靡さを深めていく。
ホルターネックに隠れているはずの胸が、じわじわ熱をはらんだ汗のせいでカラダの
輪郭にへばりつきはじめ、ノーブラの乳首も、どころか縦横に胸を走る縄の陰さえも、
しだいしだいに透けだしている。
つんと上向いて生地をおしあげる二つのふくらみ。柔肌を食む奴隷の縄目。
そのいやらしさと言ったら‥‥
尖りきった乳首をこするニットの感触、もはやそれを隠しようのないカラダにされて
しまっている事実、それらにますます被虐の情欲をあおられて、腰を打ち振りかけた
私は必死で流されそうな意識をつかまえた。
まだ、まだだ。エクスタシーにおぼれるには、あまりに早い。
とにかく、エレベーターホールへ向かうのだ‥‥
よろめく足でカツンカツンとタイルをならし、化粧室の外へと向かう。
ホテルの廊下は、桃源郷そのものだった。
淡い電飾も、窓越しの夜景も、意識が、どろどろに混ざりあう。
目に映る何もかもが溶け、カラダからたちのぼる爛れた匂いで狂おしく息がつまり、
理性が幻惑されていく。汗ばむ肌に麻縄がしっとりまとわりつき、慰撫する緊縛感は
意識をとりこにしてしまう。
とにかく転ばないよう。人と出くわしても不審に思われないよう。
背を伸ばし、犯される下半身を脳裏から締めだす。
それでも、エレベーターホール前で足がすくみ、凍りついた。足がかたかたと震える。
無理もない。
怖いくらいの快美感、そしてそれ以上のおそれとわななき。
今回、何もかもが、いつものセルフボンデージとは違う。リスクも危険も大きすぎる。
縄抜け不可能な自縛ゆえ、最初から化粧室に脱出手段を用意してあるのだ。いつでも
戻れば自由の身になれる。
「‥‥」
どくんどくんと胸が弾む。
いつでも戻れる。でも、だからこそ、エレベーターの中で、この動悸を感じていたい。
中野さんの話がきっかけとなり、人目のある密室の死角で羞恥とうらはらの快感を味
わってみたいと思ったのだ‥‥
だから、私は‥‥
裸身を壁にぴったりよせ、太ももに固定したリモコンを押しつける。スイッチは半分
がた入っていたはず。軽くこすり上げればすぐ、どろどろのお股にもぐりこみ、外と
内から敏感な肉芽をすりあげるフェミペットが‥‥動きだす。
「ん‥‥んァッ、んぁぁぁっっ!!」
あっというまだった。
とめどなく甘い嬌声が唇からしたたり、閉ざせない口唇からよがり声があふれだし、
しずかなホテルの廊下をわいせつに染めていく。
裸身をいざらせ、のたうっていく。
止まらない。
あふれだす蜜が、快感が、抑えきれない。
あまりに激しくピンポイントな振動に肉壁をはさみこまれ、ヒール履きも忘れてその
場でそっくり返り、爪先までのけぞってしまう。ジャケットの中で後ろ手がぎちぎち
縄を食み、快楽にむせび啼いた。
ダメ‥‥
ここで、今すぐ‥‥イかされちゃ‥‥ッッ!
ぶるるっ、ぶるっっと緊縛の身をよがらせて、ひくひくと痙攣しつづける。
計算高いSも服従のMも、すべて倒錯した疼きの波に呑まれ、あっけなく弾けちった。


(続く)

                         Total  daily  - 

Novels Back Next bbs Entrance