縄掛け その5

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恐怖と、わななきと、こみあげる正真の焦りで意識が真っ白になっていた。
SMバーのショーに出演させられる‥‥私が?
無数の視線の前で、恥ずかしいよがりようをあますところなく見られてしまう‥‥!!
ショックで後ろ手が軋み、不自由なカラダがひとりでに跳ねあがる。
「んンーーッ、ひふゥゥ!」
だが、それだけだった。
抗議の身じろぎ、それさえほとんど形にならず、逆に焦らされきったカラダには途方
もない疼きと爛れたひりつきがこみ上げてきたのだ。
どうしようもなく絡めとられた無力な裸身。
毛穴の開ききった素肌にいくすじもの汗がにじみ、麻縄が吸いとられなかった分は雫
となって皮膚と縄とのわずかなすきまに溜まっていく。火照っててらてら輝くカラダ
は、汗という潤滑油を得てますます施された緊縛になじみ、一体化していく。
疑いなく、私のカラダは発情し、従順なマゾの緊縛奴隷としてデキあがりつつあった。
ご主人様に対する挑戦的で危うい抗議さえスリルに感じ、溺れてしまうほどに。
ふぅっと色の薄くなった瞳にオシオキの気配を感じて濡れてしまうほどに。
「ふ、ふぅぐ‥‥」
「口答えは許さないわ。あなたは奴隷。今は私の子猫ちゃんなの」
ほっそりした指先にドミナの意志をこめ、怯える私の顔をバーテンが上向かせる。
顔をそらそうとするだけで不自由な肢体はビクビク弾む。
絶望とあきらめがひたひた押し寄せ、屈服の陶酔となって心を満たしていく。
あぁ‥‥もう、逆らえないんだ‥‥
もっといじって、虐めて‥‥
おかしくなりそうなカラダに、縄の擦れるあわい感触だけじゃなく刺激を与えて‥‥
ギュチチっと音高く緊まってくる縛めが、止めようのない甘い痺れを加速させていく。
全身がわなわなと震え、意味もなくもじもじと足がもつれている。
「どうしたの。お仕置きなんだから、キツイ条件なのは当然。一番最初に、私の言う
ことに従ってもらうと約束したでしょう?」
「ふぅぅ‥‥く、くフッ」
「本気で、私に逆らうつもり?」
「‥‥ッ、うぅッ」
「NGプレイをきちんと聞いたはずよ、私は。人前でのプレイはNGになかったわ。
それともあれはいい加減を並べただけかしら。そういうウソを、私は許さないわ」
「‥‥」
「最初の約束は守る。舞台の上ではあなたを守るわ。それでも私を信用できない?」
信頼関係の基本を壊すような行為は許さない。
切々と語る女性バーテンの正論さえ、私の耳には入っていなかった。
ご主人様にいじめられることが、言葉でなぶられ、脅され、迫られることが‥‥
もう、こんな間接的な責めさえも感じてしまうほど、私は昂ぶって、イキきれない
もどかしさに苦しんでいるのだ。
「‥‥なんだ。あなた、わざと私を挑発していたのね。構って欲しくて」
そして。この老練なドミナが、私の思惑に気づかぬはずもなく。
「うふふ。予想以上に発情しちゃってる」
「‥‥ン、く」
「オッパイが苦しい? ムズムズする? 触って欲しい?」
伸ばされた手が尖りきった乳首からあと少しのところにかざされるのを目の当たりに
して、こねるように宙を揺れる手にリズムをあわせて‥‥
私の胸は勝手にグラインドしてしまうのだ。
「して欲しいのね。でも今はダメよ、あなたの一番苦しいところで一番きつくイカせ
てあげる、それが罰というものじゃないかしら」
さっと手がのけられるのを苦しい思いで私は眺め、お預けのカラダをふぅふぅ波打た
せているしかないのだ。
そんな私に冷ややかな笑みを投げかけ、首輪のリードを握ってバーテンは二匹の奴隷
を連れ出した。行き先はむろん奴隷の最後の理性をひきはがす場所、ステージだ。
そして、自分の快楽にかまけていた私には人目のある場所に引き出される意味など、
気づいていなかったのだ。
‥‥そこに、初めからいやらしく周到に用意された偶然の罠があるなどとは。


              ‥‥‥‥‥‥‥‥


開け放った裏口のドアから、身もよじれそうな寒気が吹き込んできた。
コートが手放せない季節の夜、それもビルの谷間の外階段に全裸で連れ出されていく。
いや、ただ全裸より恥ずかしい状況なのだと私は浅ましい現実を噛みしめる。
みっちり縄掛けされた上半身は完全に溶けきり、一匹の魚のようにひくひくと跳ねる
ばかり。首輪のリードは同じ不自由な姿で前を歩く怜菜という少女の首輪に、さらに
その先をバーテンが握っている。
まさに、市場に引き出されようとする家畜が今の私たちだ。
倒錯しきった現実はまぎれもない被虐の快感をそそりたて、奴隷同士の慰めあいで湯
気も立ち上るばかりに熱くなっていた肌には風の冷たささえ心地いい冷気にしか感じ
られない。
ふうふうボールギャグから涎を垂れ流し、おぼつかぬ素足でたしかめつつ踏みしめる
外階段のタラップからも、ゾクゾクと冷気は這い登ってくる。
通りの裏側にある狭いビルの谷間。人に見られるはずなどないと理性で考えていても、
屋外を引き回されるいたたまれなさは一層私をとろけさせ、ジクジク責めさいなむ。
目の前で振りたてられる少女のお尻も、非現実めいて誘っていた。
安全に配慮してなのだろうが、焦らず、一歩一歩屋外の引き回しを満喫させられて、
上の階に戻った時にはすでに、乳房の表面やクレヴァスを這いまわる狂おしい爛れは
たえがたいほどになっていた。
「少し待っていなさい、二人とも」
そう言い残し、ステージの裏側にある準備の為の部屋に怜菜と2人でとりのこされる。
犬用のリードで2つの首輪をつながれた、緊縛姿の裸女が2人きり。
ともに肉ヒダの奥深くまで巧緻な股縄を食い込ませ、ふらついて立っているしかない。
あれほど絡んできた怜菜は顔を赤らめ、私を避けるように黙りこんでいた。
いやらしいほどゆっくり時間が流れていく。
洩れきこえる店内のBGMはスローなジャズ系で、それがまたいたたまれないのだ。
「ッ、んく、くぅぅゥン‥‥」
たまらず、私はその場でひくひく全身をよじり始めていた。
音を立ててプラスチックがたわむほどボールギャグをかみしめ、必死で身を揺する。
少しでも激しい刺激を、擦過痕を、肌に刻ませて慰めたい。股間をもじつかせ、股縄
の刺激で心ゆくまでイッてしまいたい。その位、私は追いつめられていたのだ。
無意識に、椅子の肘かけに目が行っていた。
コレをまたいで、直接アソコをこすりつけたら、すごい快感だろう‥‥
クレヴァスが、アナルが、キュッと収縮する。
ぞくりと背筋がよじれ、けれど、怜菜の視線が気になって実行できない。告げ口でも
されたら、オシオキがさらにひどくなりそうな気がするのだ。
首輪をつながれていて、激しい行為もできないのだ。
せいぜい私にできたのは、この身に施された緊縛を利用して不自由な自慰に没頭する
ことだけだった。後ろ手の手首をわざとギリギリ上下に弾ませ、上半身を前かがみに
したりのけ反らせたりする。そのたび高手小手の縛めが引き攣って痛みが走り、呆け
た意識はそれさえ快楽にすりかえていく。
ン‥‥なんて不自由で、情けない行為に夢中になっているんだろう‥‥
けれど、本当‥‥もう少しでイケそう‥‥
だが、しかし。
「!!」
どぉっとバーの方でいきなり歓声がわき、思いがけず私をびくりと縮こまらせていた。
無邪気な歓声が、よがっている女性の躯におよぼすおそるべき効果。
ぐぅっとせき止められた快楽は、何倍もの苦痛となって理性に襲いかかってくるのだ。
イキたいのに‥‥
カーテンの向こうの人々に気づかれてしまうのが怖くて、思いきりできない‥‥
じんわりさめていく躯がひどく恨めしい。
ふぅふぅ乱れた息を鼻から吐き、私はカーテンの先を見つめていた。
すぐ向こう側に広がるのは、ふつうの人々の世界だ。
あくまでSMに興味を抱いただけの、ほんの一時の気晴らしに訪れる女性たちの空間。
半日前までは、私もノーマルな、あちら側の住人だったのだ。
だったハズなのに‥‥
「フフ、そうね。もう戻れないし、戻る必要もないのよ、発情期の子猫ちゃん」
「ヒィッ‥‥‥‥‥‥ッッ!」
耳もとでバーテンにささやかれ、ついでカプリと柔らかい耳たぶを甘咬みされ‥‥
おそるべき勢いでトリハダが全身をあわ立て、戦慄さながらに衝撃が駆けぬけていた。
ブルブルッと震えた躯がふたたび燃えあがる。
「あなたはもう、優雅なお客様なんかじゃないわ。むりやりショーに出演させられる
惨めな奴隷ちゃん。あっちに戻りたくても戻れないのよ。逃がさないんだから」
「ふっ、う、ふ、かフッ」
「なぁに? 声を殺しちゃって。お客様に聞かせてあげましょうよ、ヨガリ声。いっ
ぱい晒し者にしてあげるわ」
揶揄しつつ、バーテンの手が反発して悶える私を自在にもてあそび、さめかけた快楽
への希求をみるみる呼び覚ましていくのだ。それでいて、淫蕩な愛撫は私がイケそう
な刺激は何一つ与えてはくれない。
うぁ‥‥ヒドイ‥‥
惨めすぎる‥‥
こんな、カラダを火照らされたり、現実に引き戻されたり‥‥
こんな辛いのはイヤ‥‥いっそ、一思いに‥‥
抵抗していた四肢がギュッとつっぱり、ふたたびバーテンにしなだれかかってしまう。
あくまで意地悪く、彼女はそこで手を止め、耳打ちした。
「あなたは怜菜のショーのあと、30分後ね。運がよければ、フフ‥‥面白いわよぉ」
「んぶっ?」
「予想外の展開があって、きっとあなたにはツライ展開よ。だから、私が戻ってくる
までに手首だけでも縄抜けできていたら、ショーは許してあげる」
「‥‥」
M字開脚で椅子の肘かけに縛りつけられながら、私は怯えた。
バーテンが自分から寛大な条件を出すほどの展開とは‥‥まるで想像もつかないのだ。
首輪が太く分厚いものに取り替えられ、顔の下半分を覆うレザーのフェイスマスクが
ボールギャグを咥えた私の顔に取りつけられる。バチンバチンと金具を止める響きが
して、私は首さえ自由に回せなくなった。
最後に、小さなパールローターが敏感な場所に取りつけられ、ゆるい振動を始める。
久々の待ち焦がれた刺激に、一気に意識がうつろになっていく。
「まぁ最悪、それだけ隠せば顔はバレないでしょう」
「くぅ‥‥ン、んふっフ」
「私がカーテンを開いた時、左手奥のボックス席のカップルを見ておきなさい」
謎めいた言葉を残し、ヒクヒクと刺激を享受しはじめた私にバーテンが教えさとす。
怜菜を連れ、カーテンの脇にたたずんで、もう一度ふりむく。

「あなただって、性癖隠してる知り合いの前でイカされたくはないでしょう?」

真紅のカーテンがさぁっと開け放たれ、2人がステージに出て行く。
眩いステージの照明に目が眩み、ローターのいじましさに溺れていた私はバーテンの
忠告にしたがうことができなかった。


             ‥‥‥‥‥‥‥‥


派手な音楽と照明が、カーテン越しにもきらめいて踊っていた。
ときおり怜菜のシルエットが映しだされる。どうやら両手両足を吊られているらしい。
その躯をバーテンがいじるだけでなく、何人かのお客が間近までやってきて観察して
いるようなのだ。
カーテンが揺れ、たわみ、そのたびに私は抵抗するすべのない躯をこわばらせていく。
舞台に上がった観客は、まさか奥にもう一人奴隷がいるとは思わないだろう。けれど、
アクシデントでカーテンがめくれでもしたら、完膚なきまでに自由を剥奪された私の
淫靡な姿がさらけだされてしまうのだ。
このまま何もできず私の番になってしまってもそれは同じこと。
悦楽に蕩けきった頭でどうにかバーテンの言葉を思いだし、私は手首をこじっていた。
不可能にかぎりなく近い縄抜けを試みていく。
「ンーッッ」
正確には縄抜けというもおこがましいそれは、マゾの本能にかられた無意識の反射だ。
あきらめのほとりで自らをもてあそび、縛り合わされた裸身を軋ませることで自らの
惨めさに酔いしれ、無力感を味わいつくす自慰行為にほかならない。
あらためて、バーテンの縄さばきは絶品だった。
セルフボンテージの積み重ねできたえたテクニックがほとんど意味をなさない。背中
の手首は伸ばせば指先がうなじに触れるほど高々と吊られ、もっとも細いところで縛
られたウェスト・バスト回りはへこませてたるみを作るどころか、呼吸するだけでも
ギュチチと音をあげて食い入ってくるのだから。
肝心の両腕は絞り縄の苛烈さで上体と一体化し、もはや感覚さえおぼろときている。
――これで、どうやって縄抜けしろというのだろう。
――自由という餌を鼻先にぶら下げられ、否応なく踊らされて私は調教されてゆく。
――逃がれえない縄の魔力を肌にきざまれてゆくのだ。
私にできるのは煩悩にのまれて裸身を波打たせ、今度こそアクメの感覚をつかもうと
することだけだった。股縄に挟みこまれたローターはごくごく微弱な振動しか与えて
くれないが、それでももどかしい絶頂のきっかけにはなれそうなのだ。
ぐりぐりお尻をずらし、淫らに下腹部をグラインドさせる。
「ふっ、ふっ、ふぅぅっ」
玉のような汗を額ににじませ、私は一人であがきまわっていた。
椅子に座らされ、折りたたんだ膝を左右の肘掛けに括られたM字開脚のポーズのせい
で、縄のコブをむさぼる股間はあられもなく丸見えになっている。
視線を落とした私自身のカラダはなんといやらしいことか。
束ねられた両腕を、肩を、鎖骨を這いまわる麻縄の映え具合ときたら。
たわわな双乳を根元から縛めにはじき出され、乳首をびんびんに勃たせてしまって。
その先にはお汁まみれのお股がぱっくり口を開け、股縄をむさぼっているのだ。
ひっくりかえったカエルさながらの無残な媚態。
奴隷そのもの、屈辱的なこの姿のどこがセルフボンテージだと言い張れるのだろう。
お腹から腰にかけてのラインを淫乱にひくつかせ、お股をわざと卑猥に前に突きだす。
開脚の角度が広がれば広がるほど股縄の食い込みは深くワイセツなものとなり、私を
よりなまなましく責め上げていくのだ。
ビクン、ビクン、と電撃じみた衝撃が何度かクレヴァスのふちからわきあがる。
クリトリスには絶対触れそうもない位置にあるローターが、ときおりアソコのふちに
じかに触れ、淫らなオツユをこぼさせるのだ。
果てしのない焦らし責めと、必死になってイこうとする奴隷との戦い。
もう少し‥‥イケそう‥‥
今度こそ、ン、あと、ちょっとで‥‥ソコ、擦れて、感じちゃう‥‥
「はぁッ、あぁぁァァァン!!」
ビクビクン、と脳裏になにかが弾け、かろうじて全身がひきつって。
少し遅れて浅いアクメ、絶頂の衝撃が、火照ったカラダを中から揺さぶりたててきた。
びっしょり汗をかいたお尻が椅子の上で何度も跳ねる。
「ん〜〜〜むむむ、んくぅぅむ」
口枷を噛みしめ、かすかな幸せに酔いしれる。
長いこと求めていた高みの感覚、まだはるかな快楽の深みをのぞかせる、そのほんの
手前の絶頂‥‥それすら、渇ききった今の私には甘美な悦楽そのもので。
ぐずぐずに滾った激情がうねり、乱れ狂う。
ただれた裸身を、充血した女の芯を爪でかきむしりたいほどの疼きがトロトロ愛液を
あふれさせていく。
もう少し、もっと、まだまだ満足できない‥‥
瞳を閉じていた私は、いつのまにか舞台が終わっていることにも気がつかなかった。
「さ、出番よ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ッ!!」
「いいわ、そのままイッていなさい。その方が楽なはず、人前でイカせてあげるから」
そ、それは、それはイヤ‥‥
きゅうっと思わず眉根が寄り、それでも抵抗など思いもよらぬほど昂ぶっていた私の
カラダは、足の縄をほどく手つきにさえ反応して喘いでしまう。
頑丈な首輪にリードをつながれ、ふらつく足取りのまま、私は怯え、許しを請うのだ。
「今さらそんな顔はダメ。ショーにでるの禁止なんて、NGにも入ってなかったわ。
自業自得のオシオキでしょう。ね?」
「いぅぅ」
正論をさとされ、私は拗ねたように口の中で呟いてしまう。
しかし、どこかで私の心が期待と興奮にみちているのも事実だった。このバーテンに
なら安心して身を預けられる、人前というのがひどく切なくて情けないけれど、でも
確実に私は最後までイカせてもらえるのだ‥‥
「もう一人の奴隷ちゃんは、もうステージでスタンバイしているわ。いい? 絶対に
驚いちゃダメよ? あなたは知り合いでもなんでもない他人なんだから。そう思って」
「‥‥」
「顔の半分が隠れていれば案外分からないのよ。安心しなさい」
くりかえすバーテンの言葉は、なぜか不安を煽りたてた。
どういうことだろう。
何か、よくないことがあのステージの向こうに待っているというのか。
有無を言わさずカーテンの前に連れて行かれ、さぁっと眩い光の中に歩みでて‥‥

「‥‥!!」
「すごい‥‥この子! ハードボンデージだぁ!」

どうして気がつかなかったのか。
そもそもこのバーを紹介してくれたのは誰だったのか。
彼氏と一緒に来ようと思っている。あの時そう語ったのは、誰だったのか。
眩いステージの上で‥‥
プライベートらしく色気の漂うオフショルダーのニットにジーンズという姿で、縄を
打たれた顔にいつかと同じ興奮の色をうっすらただよわせ、自由を奪われた中野さん
が、いるはずのない同僚が、うるんだ瞳で私を見つめていた。


              ‥‥‥‥‥‥‥‥


ウソ、うそよ‥‥
どうして、中野さんがここに‥‥
今にもエクスタシーを迎える寸前だった私のカラダは、悪寒そのものの身震いに苛ま
れていた。無力な手首が、絞り出された双乳が、べっとり愛液をしたたらせた股縄が、
汚辱の疚しさにふるふる痙攣しだしている。
誰にも言えない秘密。私がセルフボンテージのマニアだということ。
ノーマルを装っていたことが、裏目となって私をぎりぎりの危地に追い込んでいた。
絶対に、中野さんだけには知られてはならない‥‥
こんな形で職場の後輩に知られたら、私、もうどうしたらいいか分からない‥‥
「あらあら、うつむいちゃって。恥ずかしいの、子猫ちゃん」
「く、くふっ」
バーテンに後ろ髪をつかまれ、ぐいと客席を見させられる。ショーの為のポーズだと
分かっていても、いきなりの乱暴な仕打ちに目尻がうるみかけた。
なんて屈辱的なの‥‥
私の登場で上がった歓声は、いつか息を呑む静寂に戻っていた。
おそらく、間近で目にした新たな奴隷が演技ではなく本当に発情しているのだと多く
の人が肌で感じ取ったのだろう。
無数の視線が私をねめまわし、吸いついてくる。お股やオッパイが刺すように痛む。
視線の暴力に嬲られて、私は何もできない無力な奴隷だ。
隠す場所さえ残されていない全裸をステージ上でさらし、客の見世物にされていく。
まだひりひり余韻を帯びた下腹部がいじましく疼き、じくりとあふれだすのを感じる。
そんな私を置き去りに、バーテンは中野さんと話していた。
「彼氏に縛ってもらったの? きれいな縄目ね」
「ふふ、はいっ」
嬉しそうに答え、後ろ手にくくられた中野さんが肩を揺すってみせる。私服の上から
打たれた緊縛は彼女の胸を強調し、えっちっぽく縊れさせていた。二の腕や手首にも
縄がかかり、ぎりぎりと音をたてている。
「こ、この人、本当にこうされたがっていたんですか?」
「ええ、そうですよ。ね、子猫ちゃん」
水を打ったがごとき店内に、2人の会話がしみわたっていく。
目を細め、動けずにいると、バーテンの瞳がすうっと色をなくしていった。
「お客さまが訊ねているの。頷くか首をふるかして答えなさい。あなたは望んでこう
なったのよね。縛られるのが大好きで、私におねだりしたんだもの」
「‥‥ン」
逃げ場はなかった。耳たぶまで紅潮するのを意識しつつ、私はコクリと頷く。
「さっきも舞台袖で、縛られたままオナニーに夢中だったものね」
「‥‥ンク」
「虐められて感じちゃうんでしょ? ペットのように扱われる方が感じるのよね」
「ァン、ン」
「恥ずかしい子。今だって、お客様に見られて濡らしているんじゃない?」
「‥‥ンクッ」
「イケナイ子だこと。しつけがなっていないのかしら」
「ひぅ、ンンーッ」
こくり、こくりと頷くたび、恥ずかしいほど私のカラダは燃え上がっていた。
バーテンの台詞一つできりきり舞わされ、ドロドロに崩れた身をよがらせてしまう。
徹底した、容赦のない嬲り責めだった。私がもはや私自身のものではなくバーテンの
ペットだと、隷属している愛奴だと、周囲と、何より私の心に認識させるための。
にやりと笑い、バーテンが私をあおるように耳の裏で囁きかけてくる。
「で、イケたのかしら? もうすっきりした?」
「‥‥」
分かっているくせに‥‥意地悪な、ご主人さま‥‥だから‥‥
瞳をギュッと閉じ、かろうじて首をフルフルと左右に振りたてる。恥ずかしい応答を
させられ、バーテンが手で撫でつける股縄からは再び淫乱な雫がしたたりだしていた。
興奮しきった中野さんの瞳が心に刺さってくる。
お互いに縛られたまま、奴隷の格好をしているのに、明らかに私の立場が下だった。
値踏みするように鑑賞され、濡れそぼる下腹部に目を這わされ、隠すこともできない。
お願い、そんな瞳で見ないで‥‥
おかしく、また、またおかしくさせられちゃう‥‥
「すっごーい。本当のマゾっているんですねー。私なんかまだまだかも」
「フフ、あなたがこの間連れてきた職場の先輩なんか、こんなの見たら卒倒するわね」
「あはは、ですね。素っ裸でこんな緊縛されて、マゾの極致じゃないですか。あの人
わりと潔癖だから、ぜったい受けいれられない卑猥さですよ」
いたたまれなかった。
自然とカラダがよじれ、高々と括られた手首が蠢き、弾んでしまう。
熟れきった肌の熱さにたえきれず吐息が乱れる。
その絶対受け入れらない緊縛を施されてしまったのが、目の前にいる先輩自身なのだ。
嫌がるどころか従順なマゾに堕とされ、感じているのだから‥‥
またもドロリと蜜を吐いたクレヴァスに、中野さんの目が吸いついている。
瞳をうるませ、私はバーテンに必死でサインを送っていた。
お願い、もう許して‥‥
これ以上は気づかれそうで怖いの、だから‥‥
「でも意外に潔癖な人に限って淫乱なものよ。その先輩も案外、縄が似合ったりして」
「ンッ‥‥でも、たしかにこの人似てますね」
どきりとした私は、必死で顔色を変えないようにこらえていた。
バーテンに後ろから抱きしめられ、縛られたカラダに手を沿わされて腰を跳ねさせた
中野さんの表情にかすかな疑惑の色が浮かんだのだ。
「‥‥雰囲気が、先輩に」
「じゃあ、この奴隷を先輩だと思ってプレイしたら感じちゃうかもね。2人そろって
ステージの上で虐められちゃうわけだ。あなたの彼氏の前で」
「やだぁ、恥ずかしいですよぉ、そんな‥‥アハハ」
笑いに紛らわせつつ、明らかに中野さんの声音には甘い媚がまじりだしていた。背中
で手を開いたり閉じたり、しきりにモジモジしている。想像して感じているのだ。
それは、私も同じことだった。
仲の良い後輩と2人で仲良くSM調教を受けさせられる。こんな状況、あるだろうか。
しかも、どんなに感じても私は自由に喘ぎ声を出せない。ボールギャグとマスクごし
といえ、日常接している先輩の声を聞き分けられないほど中野さんは鈍感なOLでは
ないのだ。
彼女の彼氏の前で、一緒に調教されてしまうのか‥‥疚しい気分が心をひたしていく。
「さて、2人ともこのロープをまたいでもらうわ」
「は、はいっ」
「‥‥ン」
いつのまにかステージには長いロープ二本が張られ、私と中野さんはそれぞれ股間に
それをくぐらされていた。壁から壁へ張りつめたロープがたぐられると、腰の高さへ
跳ね上がったロープがギチッとお股を圧迫して奇妙な刺激をうみだす。
「ンァ」
「やぁぁ、何これ」
「俗にロープ渡りなんて言うプレイの一つよ。あっちの壁際まで歩いてもらうわ」
取りだしたムチを、バーテンはいきなり振り下ろした。
「ヒうッッ!!」
パァンと鮮烈な痛みがお尻にはじけたと思う間もなく、じわんと痺れが広がり、よろ
めいた私は思わず一歩足を踏みだしていた。ぞぶりと張りつめたロープが股間に食い
込み、股縄とクレヴァスの隙間に食い込んだ。
膝が砕けかけ、じかに体重が縄のコブを咥えたむきだしのアソコにかかってしまう。
「ンァッ、ぁぁ‥‥ッッッ」
喉の奥から、苦悶めいた甘やかな嬌声がつきあげてくる。
充血しきって焦らされていた女の秘所に、唐突に加えられた暴力的な感触。その甘美
さに、私は声もないほど感じ、のけぞってしまったのだ。
や、ヤダァ‥‥こんなので、私、感じてる‥‥
どうして‥‥
ふっと目を落とせば、まぎれもなく股縄を圧迫してロープがアソコを責め立てている。
とろりと濡れて輝くロープは、あまりにも魅惑的で、はしたない。
「ほら、どんどん行きなさい」
続けざまにムチが小気味よい音をあげ、追い立てられた私たちはあわてて歩きだした。
不自然にロープが波打ち、下からお股を激しく擦りあげてくる。ひくひく爪先だちに
なった私の格好に、バーテンがうっすら笑った。
「2人のロープは繋がっているから、暴れると相手を虐めることになるわよ」
「‥‥」
ちらりと恨めしげにバーテンを見つめ、再び足を踏みだしていく。
ひときわ卑猥で浅ましい、奴隷2人を並べてのロープわたり。
客席から幾多の好奇心に満ちた瞳に凝視されて、それは恥辱の極みそのものだった。
とうの昔にズクズクに濡れそぼったアソコは痛みもなく、ロープを食い込ませるたび
突き上げるような衝撃を私のカラダへとしみこませていく。バランスをとろうにも、
高手小手に縛り上げられたカラダは腰をひねるのも苦しいほど窮屈で、必死になって
膝に力が入れば入るほど、お股の間で跳ねたロープが暴れまわっていくのだ。
「う‥‥変な、気持ち‥‥揺らさないでぇ」
すでに瞳を遠くに飛ばし、ゆらゆら歩いていた中野さんがカラダをよじって私に訴え
かけてくる。けれど、私もまた、中野さんのリズムに悩まされ、虐めぬかれていた。
上半身を揺らして歩く彼女のリズムは、ロープをひどく上下に揺らすのだ。
「下手だよう、あなた、ちゃんと歩きなさいよ、奴隷のクセに」
「う‥‥ク、ふクッ」
縄打たれた後ろ手をパタパタ弾ませ、中野さんに糾弾される惨めさに全身がよじれた。
口枷がなかったとしても、彼女に正体を知られるわけにはいかない。私は黙って、
理不尽な彼女の非難に耐えてロープ渡りをしていくほかないのだ。
ひたすらに股間に食い入っているロープの感触は股縄ごしにグリグリよじれていた。
まるで下着の布をへだてて触りまくられているような錯角だ。汗だくの裸身はもはや
カッカと疼いてステージの明かりに照り映え、ビクビクとうごめいてしまっている。
触ることのできないカラダ‥‥間接的にアソコを嬲るこの気持ちよさ。
狂わせていく。
しだいに溶けた意識は自虐的なロープに熱中し、はしたなく腰を擦りつけだす。
声を、こえをあげちゃダメ‥‥
呻きも、あえぎも‥‥身じろぎや特徴的な反応も、何一つ彼女に見せるわけには‥‥
正体を知られてしまう、ただその一点に呪縛された私は、限界まで昂ぶっていながら、
一歩ごとにアソコを擦りつくすロープの弾力に啼かされながら、彫像のように筋肉を
つっぱらせて我慢するほかないのだから。
「うっ、ふくッ‥‥ン、ンッンッッ」
こらえていても、不自由な鼻先から断続的に喘ぎは洩れだした。
手足も自由に動かせない、声も出せない、身じろぎも怖くてできない‥‥
二重三重の重い枷が、かえって躯の芯に閉じこめられた淫靡な刺激をたわめ、めくる
めく快感の境地へと加速していくのだ。
「う、おふッ‥‥ン」
目が眩み、一歩一歩ふみだす足はさながら雲をふみしめるかのよう。
張りつめたロープは幾度となく内股を、股縄を、股間を打擲しつづける。
もっとも敏感な女のとば口にささくれ立つ股縄が吸いつき、たっぷり愛液を吸収して
柔らかに濡れそぼった肉洞を抉り、同時にアナルに縄のコブをねじこみ、クリトリス
をピンピン弾きつづけて‥‥
とうとう足が動かなくなり、私はロープ渡りの中ほどで立ちつくしてしまった。
立っているのが不思議なほどの状況。
口枷の周囲はヨダレであふれかえり、縛り上げられた後ろ手は引き攣ってぴくりとも
動かず、ただ下半身だけがマグマのようにドロドロ滾り、縄目をむさぼり食らって。
死ぬ‥‥死んじゃう‥‥
もう、限界なのに‥‥いつでもイケそうなのに‥‥
苦しい背を丸め、私は歯を噛みしめていた。
気が狂いそうなほど、パンパンに快感が胎内に張りつめているのに。
今にも浸透した皮膚からにじみ、あふれだしそうなくらいに感じてしまっているのに。
なのに、観客の視線が気になって、どうしても怖いから、最後の一線を越えることが
できない‥‥なんて‥‥
お願い‥‥です、あと一押しの刺激を、私に‥‥
哀願のまなざしですがりつこうとふりむく‥‥その視野に飛び込んだのは、高々と鞭
をふりあげたバーテンの姿だった。
「ホラッ、もたもたしないでイク! 立ち止まらず、さっさと、行きなさい!」
「ひぎぃィッ!」
凛としたドミナの声が響く。
焼きごてを押されたような激痛が炸裂し、私はつぶれた悲鳴をあげていた。
桜色に染まったお尻をひっぱたかれ、ダダッと2・3歩たたらを踏みそこなって‥‥
駆け抜けた一瞬、狂おしい歓喜が背筋を貫いていた。
ゾブリと。
まるでカラダの中から串刺しにされたような、とめどない充足感と被虐の悦びが躯の
芯からほとばしりでていく。だらだらとオツユが垂れ流しになり、ぬらついたロープ
をさらにワイセツに染めあげる。
ギョッと見やる中野さんを尻目に、私は、ぶるりとケモノのように裸身をよじらせて。
火照った肌のすみずみで噛みしめる縄目を、とめどない快楽に昇華させてしまう。
そうして。
大きく、弓なりに腰がつっぱり、あふれだした快感が意識を灼きつくしていくままに、
脱力してロープに身をもたせかけた私は、真っ白な、無の中に堕ちていった。


            ‥‥‥‥‥‥‥‥

おぼろな意識の中、バーテンに抱えられ、ズルズル裏手のどこかに運びこまれていく。
ひっきりなしにわきあがり弾けていくアクメの連続は私を肉の塊のように脱力させ、
なすがままに私はハードだった緊縛を解かれて自由を取りもどす。
わななく全身は他人のモノのようで、ふわふわ飛んでいく意識は私を完全な無気力に
陥らせている。ひく、ひっくと息がつまり、喘ぎが喉を灼き、どうしようもない他幸
感ばかりがカラダ中を包みこむ。
「あらら、イキっぱなしになってるのかしら。バイブも使わずにこんななっちゃう子
がいるなんてね‥‥本当、あなたは逸材だわ」
「ふァ、ひぁぁ」
ボールギャグの下で喋ろうとした言葉はろれつがまわらない。
調教でイカされることが、セルフボンテージとここまで快楽のステップを違えている
ものなのだ。身をもって知った経験は、無防備な幼児さながらにバーテンを信頼させ、
私を彼女の腕にゆだねていた。
優しくて、イジワルで‥‥はかりきれぬほどの絶頂を与えてくれるご主人さま。
私だけを愛し、いたわってくれるドミナ。
女性のご主人様で、何がイケナイのだろう。同じ女性同士、ここまで深い余韻を、今
も‥‥与えて‥‥くれる‥‥ッ‥‥
「キヒッ」
再びつきあげた絶頂に私はガクガクと身をよじっていた。
止まらない。
イク。またイク。まだまだイッてしまう。
こわばり、血行の乱れた手足をマッサージしながら、バーテンは私のカラダを念入り
にいじっているようだった。
「お仕置き‥‥なんだか、ごほうびだったみたいね、子猫ちゃん」
「いぅぅ」
チュルチュルと乳首を爪でなでまわされ、甘い悦びを瞳に伏せて見つめ返す。
苦笑した女性バーテンはあごをこりこりかいていた。
「ここまでなつくなんて‥‥策を弄する必要、なかったかしら?」
‥‥策?
イキっぱなしになっている体のどこかが、鈍く警戒を発する。
依然として優しい笑みのまま、バーテンはつづけた。
「あなた本当はご主人様なんていないわよね。私はそう確信しているの、子猫ちゃん」
「‥‥!」
ほんの、一瞬。
驚愕と怯えで、私の瞳は大きく開いてしまっていた。
半分以上マスクに隠された顔のゆがみを、女性バーテンはどうとったのだろうか。
単なるひっかけか、根拠があってのことか‥‥
つかめずにいるうち、再び、バーテンは柔らかく嗜虐の笑みをのぞかせた。
「だから、やっぱりね」
「‥‥」
「確実にあなたを堕とすためにも、あなたのカラダには罠を仕掛けさせてもらうわ」

抵抗など叶わぬ裸身が、ほんのひととき、びくりと揺れた。


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