飼育 一日目

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ぐるぐると、乳房になすりつけられたその単語だけが、頭の中で渦を巻いていた。

飼ってあげるよ‥‥
飼って‥‥飼われて‥‥しまう‥‥
私は、飼われるのだ‥‥
この不自由なカラダで‥‥首輪つきのまま‥‥
とびきり発情した、いやらしいマゾのペットととして、調教されてしまうんだ‥‥

喉の渇きも。
冷えきった汗みずくのカラダを、さらにぬらぬらとべとつかせる新たな汗も。
ひくひくと収斂をくりかえす、下腹部の鈍いうずきも。
『人』としての尊厳を失い完全なオブジェと化して侵入者を楽しませるだけの存在に
成り下がった、この私自身の、わいせつなる緊縛の裸身も。
すべてが花開き、すみずみまで肉を犯しつくす被虐の調べを奏ではじめてしまう。
誰とも知れぬ異性がもたらした、たった一言の睦言。
『飼って、あげるよ‥‥』
それは奴隷志願の私の心をたやすくわしづかみにする、なまめかしい誘いそのもの。
いや‥‥拒否できない私にとって、この誘いは命令と変わりない。
おしつけられた指文字の感触がまだ乳房に残っていて、ジンジンと恥ずかしいほどに
カラダを火照らせ、乱れさせ、女の芯をどぷどぷと潤ませてしまっている。
なにをされても、抵抗のそぶりすらかなわぬ肢体。
私自身の望み通り、もはやこのセルフボンテージを自力で解くことは不可能だった。
抜けだす希望をすべて潰す、悩ましくも巧緻に編み上げられた縛めの数々。磔の身を
ひたすら悶えさせる絶望的な籠女の檻の中で、すでに私自身、嫌というほどこの拘束
のいらやしさを味わい、焦り、理性を失い、よがりくるってしまったのだ。
自分の状態を熟知しつくしているからこその恐怖。
犯されようと傷つけられようと、殺されようと、ボールギャグをしみじみ噛みしめる
このカラダで‥‥目隠しの拘束姿で、いったい何ができると言うのだろう。悲鳴一つ
口にできない現実はあまりに残酷で決定的だった。
「‥‥」
息が浅く細くなり、目隠しの下でまぶたがひくひくひきつっている。
恐怖と、被虐の期待と、身のよじれるような悪寒が、ぐちゃぐちゃに裸身をかき乱す。
怖かった。
マゾだから、奴隷だから、誰でもいいなんて思うはずがない。
むしろ、逆。
マゾだからこそ、いっぱい虐められたいからこそ‥‥
安心して、信頼できる相手にしか、カラダをゆだねたくないのだ。
なのに、厚い目隠しはすべての情報をさえぎっている。
目の前にいるだろう男性が誰なのか。
泥棒や暴漢とは思えなかった。何も知らない侵入者なら意地悪い台詞で煽ったりせず、
すぐに私を犯すだろう。とっくに最悪な目にあわされているに違いない、と思うのだ。
そして‥‥解放者でもありえない。
ひょっとしたらという淡い期待はとっくに裏切られていた。拘束を解こうともせず、
悶える私はさっきから視姦され、嬲られつづけているのだ。
水谷くんだとしたら‥‥
彼だったら、彼にだったら、もちろん後で私は怒りくるうと思うけど、このカラダを
任せてもいい。少しぐらい意地悪されてもいい。見も知らぬ、好意もない男性に好き
勝手されるくらいなら、まだ、その方がいい。
だけど、あんなに隣の部屋との壁を叩いたのに、水谷君から反応がなかった。あの時
外出していたのなら、今になって彼が都合よく私の部屋に来るわけがないのだ。
それ以外の可能性。
残されたたった一つの可能性は、身勝手にすぎるような気がした。
この部屋の合鍵をもっている人物。
すでに引っ越した『佐藤志乃』さんあてに拘束具を送ってくる、彼女のご主人さま。
しらずしらず私をセルフボンテージマニアに調教し、したてあげた‥‥
まだ見ぬ、私自身の、ご主人さま。
そうなのだろう、か。
この人が、時に夢にまで見た相手なのだろうか。
いつか恨み言を言おうと、ちょっとした手違いが一人の女をどれほど変えたのか見せ
つけたいと‥‥調教され開発された私自身がどれほど貴方に会うのを待ちわびていた
か、身をもって味わって欲しいと‥‥
そう思っていた、ご主人さまなのだろう‥‥か‥‥?
「ング。くぅ、くふゥゥ」
喉がゴクリとなる。
ヨダレがボールギャグのふちからあふれ、はっきり呼吸が荒くなりはじめていた。
恥ずかしいほどの妄想。
いつかご主人様に出会うため、すっかり従順に、緊縛の味に馴らされた私。
甘やかな妄想さえ凌駕する、筋肉がひりつくほど厳しく、淫蕩な拘束を施された裸身。
エクスタシーに昂ぶったままの余韻が、イった直後のカラダをまたも責め嬲っていく。
恐怖と絶望とがあっけなく究極の快感へと反転し。甘美な隷属への期待でお股の奥が
トロトロしたたりだすのだ。
私は、どうなってしまうんだろう‥‥
怖いはずなのに、おののいているはずなのに、なのに、私は‥‥
バクン、バクンと乱れきった動悸が止まらない。
翻弄された全身はひきつけを起こし、衝撃の波をかぶった手足がぷるぷる突っ張って
舐めあげる快楽の舌先に踊らされつづけているのだ。自ら止められぬ絶頂は、もはや
それ自体がはしたない奴隷を惨く躾けなおす調教行為そのもの‥‥
「うぅ、ふぐぅゥゥ」
ゾクリゾクリと快楽のほとばしった拘束の身はぶざまに跳ね踊ってしまう。
この男‥‥
私のもがくさまを、悶える姿をみて、黙って一人楽しんでいるんだ‥‥
怖い‥‥さからえそうもない‥‥
ギッとベットを軋ませ、ふたたび相手が近寄ってくる気配がする。身体は思わず跳ね、
意味もなく距離をとろうといざってしまう。無意味だと分かっているのに止まらない
カラダを不意に横抱きにされ、耳もとに顔が近づく気配がして。
「志乃と同じだね、キミも」
「‥‥!」
耳朶の奥へ、男のささやきがしみわたっていった。
志乃さんのご主人様と私しか知りえない名前を、彼ははっきりと口にしたのだ。
ならば。前に住んでいた佐藤志乃さんを知っているこの人こそが、この男性こそが。
たゆんとすくい上げられたオッパイを、こねまわす動きで指文字がくねっていく。
『かわいいよ』
『よく、ここまで、自分を調教したね』
『あとは、たっぷり虐めぬいて、俺の奴隷に、してあげるから』
‥‥
‥‥
‥‥‥‥
歓喜。
あふれだす、背筋を舐めるように這い上がる、悦虐の、凌辱の期待。
カラダ中の毛穴からしみだし、上気した裸身をひたしていく激しい衝撃の波。
一瞬にして、消耗しきっていた私のカラダは大きく前のめりになり、突き上げてきた
マゾの悦びに飲み込まれてしまっていた。磔の身がギイギイとかしぎ、脱力したまま
括りつけられていた両手が、ピィンと固く突っ張ってしまう。
ニップルチェーンがさらさら残酷に痛みを囁いて。
深く深く下腹部に咥えこまされたバイブが、拘束衣のお股と擦れ合ってなしくずしに
私を内側から抉り、受け身の快楽でゾクゾクとのぼせあがっていってしまう。
この男性に‥‥ずっと会いたかった、私のご主人様に。
おそらくは、私は嬲られ、躾けられ、過酷な調教を施されて、しまうのだ。
心の奥深く、どこかで求め狂っていたように。
彼の思いどおり自由をもてあそばれる奴隷として。虜の裸身をハァハァといやらしく
波打たせる肉人形にしたてあげられていく‥‥のだろう‥‥きっと‥‥
セルフボンテージとは違って‥‥私の意志にかかわらず、特にムリヤリ躾けられて。
強制的に、被虐の快楽を塗りこまれ、後戻りできぬマゾのペットとして。
肉洞の底まで、濡れたヒダ一枚一枚まで触られ、しゃぶられ、無抵抗に貫かれて‥‥
いっぱい、可愛がられるんだ‥‥
ガクガクと震える裸身を、柔らかくしっかりとご主人様の手が支えてくれて。
その手にすべて委ねて、ピクピクとよがってしまうのが気持ちよくて。
まだ怖くて、慣れないからご主人様の手が這いまわるとドキリとおののいて、でも。
うん。
こんなに優しく抱きしめてくれるご主人様に調教され、奴隷になれと命じられたら。
最後まで抵抗する気力なんか、私にはない‥‥
「いいんだよ、力を抜いて」
「く、うぅン」
「我慢しない。イって。さぁ」
耳もとでふたたび。
低く柔らかく、たしなめるような声が囁く。
一瞬で真っ赤に頬が火照り、茹でダコのようにカァァッとのぼせあがってしまった。
怯えつつなぜか期待してしまう、どうしようもないマゾの心理を見透かすような口調。
否応のない響きが心をグズグズに溶かす。
私はこういう声を知っていた。どういう人が、どういう時に出す声かを。その効果を。
あの、女性バーテンの声と同じもの。
絶対的な断定口調は、奴隷に対するご主人様の命令そのもの‥‥それが、嬉しいのだ。
ご主人様の調教はもう始まっている。
今、私はご主人さま好みの奴隷になるために、少しづつ躾けられているんだ‥‥
「躾けがいがあるよ。君みたいにエッチなペットは」
「くぅぅンン」
その一言で決壊が甘く崩れ、全身を大きく弓なりにそりかえらせて、私はイっていた。
ペット‥‥私は、ペットなんだから‥‥
ゾクリゾクリと裸身をねぶる波のくるおしさ、幾度となく頂上に押し上げられ、男の
手に支えられて底なしの谷間へ落下していく。ジュブジュブと淫猥な音をクレヴァス
からしたたらせ、目隠しとボールギャグで覆いつくされた顔を真っ赤に染めあげて。
「ふふ」
嬉しげな男の笑い声で、私もホッとする。
良かった、私、ご主人様の望みどおりのカラダに自分を開発してたみたいだ‥‥
最後にニップルチェーンを軽くはじかれ、突然の甘いおののきに短い悲鳴をあげた私
は、戦慄と痛みがエクスタシーとなって全身にしみわたっていくのを感じていた。
他人から与えられる刺激。予想外の刺激。
おののきは、さらなる凌辱を調教をもとめ、かえって肌を敏感にさせてしまう。
調教されるというのはこういうこと‥‥
「くぅ、ンン‥‥」
知らず知らず喉声ですりよっていた私の頭を、男が優しくなでた。よしよし、とでも
言わんばかりに、小動物をあやし落ち着かせる手つきで何度もなでる。
震えるカラダをあやしつつ、そっと口元に手をあてがいボールギャグを外していく。
溜まった涎の臭気がむわっと鼻をつき、ぴっちり顔半分を覆っていた革マスクが、次
に唇からはみ出していたボールギャグが、実に1日半ぶりに外された。
締まりをうしなった唇からボダボダッと涎が流れおちる。
恥ずかしい‥‥
そむけかけた顔に、ひんやり濡れたタオルがおしあてられた。
丁寧に、優しい手つきが顔の汚れをぬぐいとっていく。涎にまみれてかぶれかけた顔
をぬぐっていくのだ。気持ち悪かった顔まわりが、すっきりと元に戻っていく。
「あ、ぁ‥‥」
何か話しかけないと、と焦ったが、麻痺した口は呂律など回らず、変な呻きばかり。
男の手がそっと唇に手をあてた。喋るな、といいたいらしい。
離れていく男の気配を感じながら、私はゆるゆると全身の力を抜いていった。
セルフボンテージとはまるで違う感覚。
他人に支配され、他人の思うがままにされ、すべてを受け入れるしかない。つい最近
SMバーで味わった感覚と似ているようで、けれど、決定的に違う。
この調教には、閉店時間などないのだ。
ご主人さまが満足するまで私は拘束されつづけ、嬲られつづけ、調教は続くのだろう。
間違いなく、身も心も私がご主人様のモノになるまで、ご主人様は満足しない‥‥
ゾクリ、ゾクリと甘やかな戦慄でカラダがうねってしまう。
気持ちイイ‥‥すごく、イイ‥‥よぅ‥‥
縛られて、自由を剥奪されて、どんな風に虐められるか妄想するだけで私、おかしく
なっちゃってるんだ‥‥
「んぁ、ン、ふぅぅぅ‥‥はぁぁ」
かすれ、ひりひりした喉から低く息をはきだす。
全身の自由を奪われた上に視覚までさえぎられ、どうしようもなく私は敏感になって
しまっていた。肌の細胞一つ一つがみずみずしく跳ねている感じ。いま触られたら、
それだけで感じてしまいそうなほど。
「‥‥ひゃァ!!」
急に背負った金属のポールごと腕をつかまれ、舌足らずな悲鳴をあげて私は真っ赤に
なってしまう。怯えるも何も、もう私は、ご主人様のモノでしかないのだ。この人に
カラダを預けきっているのも同じなのだから‥‥
ツンツンと唇をつつかれ、おずおず開いた唇にストローのようなものが差し込まれる。
「飲んで」
言われるままストローをすすると、渇ききった口の中を跳ねるように鮮烈なミネラル
ウォーターが流れこんできた。その一口が流れ下ってはじめて、どれだけ喉が渇いて
いたのかを思いしる。
むさぼるようにして、私はゴクンゴクンと飲み干していた。たちまち中身が空になり、
ストローが離れてからようやく、大事なことに思い当たる。
私は、この人のおかげで助かったのだ。
たしかにまだ拘束されたまま、後で犯されるかもしれない。でも。ご主人さまが来な
かったら、私はきっと脱水症状かなにかで倒れていたと思う‥‥
「あ、あのぉ」
潤った唇を開いてしゃべりかけたとき、ぐぅとお腹が音を立てた。
沈黙。
じわじわと、赤面。
目隠しされていなければ、きっと、目のふちまで真っ赤に染まった顔を見られていた。
懐かしさを感じるクスクス笑いが聞こえ、ふわっと頭をなでられる。
「よしよし」
ご主人さまがキッチンの方に移動して料理を始めるのを耳にしながら、私は今までで
一番の羞恥に‥‥身もふたもない羞恥にたえかねて火照った裸身をよじっていた。
分かってる。生理的なものだと。
まる一日半、何も食べてないのだから、そうなるのも分かる、理解できる‥‥けれど。
エッチな姿を、イかされる様子を見られている方がまだ良かった‥‥
こんなの、何倍も恥ずかしい‥‥


聞き取れぬほどの呟きが、密着した息声となって耳に届く。
「口をあけて」
「あーん」
ほどよく温まったお粥を、ひとすくいごとにご主人様に食べさせてもらう。まるで、
愛しあうカップルのようだと思った。私が拘束姿でなく、目隠しもされていなければ。
「はい」
「あー‥‥ンッ、ァンッ」
本当は違う。
セルフボンテージ姿のまま、私は発情した裸身を甘くまさぐられ、電池を取り換えた
バイブでぬぷぬぷと秘裂を犯され貫かれながら食事を与えられているのだ。背中から
抱きすくめられ、乳房をいじられたり敏感な部分に吐息を吹きかけられて思わず首を
のけぞらせたりしながら‥‥
快感をすりこまれながらの餌付けをされているのだ。
食欲と性欲がぐちゃぐちゃに入り交じり、口の中でおかゆを咀嚼しながら下の口では
ギチギチと濡れそぼったヒダで太いシャフトをくわえこみつつ蠢いてしまっている。
ぬるぬると這い上がってくる被虐の疼き。
何より悩ましいのは、この身を縛る革拘束が私の施したセルフボンテージということ。
こうして悪戯されるのも、エッチな手で嬲られるのも、すべて自業自得なのだ‥‥
「ンッ、イヤァァ‥‥ぁッ、ン」
「嫌ならやめる?」
低い低い声で、ご主人さまが囁く。
とたんピタリとカラダが止まり、私は悔しいながらも逃れようとしたご主人様の手に
ふたたび自分のオッパイをすべりこませ、密着させるほかない。
みしりと、重みを持って乳房をいじりまわす指先に、イヤイヤながらも鼻をならす。
どうしようもない空腹感は、まして食事を始めてしまった以上は、もう我慢できない。
だから、ご主人様にさえるがまま、私は食事をねだらないといけないのだ。
「お、お願いです‥‥食事を、ください」
返事の代わりに耳たぶを軽く甘噛みされ、ゾクゾクッと感じてしまった唇にスプーン
があてがわれる。
そうして、私はふたたびカラダを這いまわる手に啼かされながら食事を再開するのだ。
お股に埋もれた革ベルトごしにつぷつぷ濡れた肉芽を擦りあげられ、こらえきれずに
男の肩に顔をうずめて弱く低くすすり泣きながら。おかゆを食べたその同じ唇で下の
お口からあふれだすしずくを舐めさせられ、あまりの良さに感極まって声も出せない
ほどよがりながら。
予想もできぬ刺激におびえ、いっそうギクギクと腰を揺すりたてて。
革の枷を食い込ませ、ご主人様に抱きつくこともできぬもどかしさに身を捩じらせて。
鋭敏な肌をさいなむ被虐の旋律に裸身を奏でられながら。
ぼんやりと蕩けた頭のどこかが、これが何度も続けばきっと食事を与えられるだけで
感じるようになるんだろうなぁと思う。
パブロフの犬のように条件付けされ、調教されていくに違いないのだ。
でも‥‥
私は、快感におぼれた今の私は、ご主人様に逆らう気なんておきないらしい‥‥


               ‥‥‥‥‥‥‥‥


空腹と渇きという深刻だった欲求がみたされて、薄らいでいた理性が戻りつつあった。
変わらず不自由なカラダ。下腹部で食い締めるバイブの快楽。目隠しによって過敏に
刺激を受け入れてしまう裸身。セルフボンテージの時と状況は変わっていないのだ。
食器を片付け、戻ってきた男がベットの脇にギシリと座る気配がした。
このあと、どうなるのだろう‥‥
分からないけれど、でも、彼に求められても、私は拒めないだろうと思った。この人
は私を助けてくれた、それ以上に、ずっと会いたい相手だった‥‥
目隠しがもどかしい。顔をみたい。
今の私以上にセルフボンテージに習熟していた佐藤志乃さん。あの人をあれほど調教
したご主人様は、どんな顔なのだろう‥‥?
ご主人様の手が何度か頬をさすっている。感じさせる手つきではなく確かめるように。
考えてみたら、この人は、私のことを前から知っていたのだろうか。
だってそうだ。
今まで考えたこともなかったけれど、佐藤志乃さんはとっくの昔に引っ越している。
なのについ最近まで、ご主人様は私のところへ、危うい拘束具を送りつけてきていた。
もしかして‥‥
「ご、ごしゅ」
言いかけて、なれない言葉に詰まってうろたえる。
いいんだ、実際そうなんだから、私はずっと前からこの人を慕っていたんだから‥‥
「ご主人様は、その‥‥私のことを、ご存知でしたか」
「‥‥」
黙っていたが、頷く気配をはっきりと感じた。
「じゃ、じゃあ‥‥今日は、どうして、こんな、偶然私が、危なかったときに」
「咥えて」
うまくまとまらない私の言葉をさえぎり、彼がちいさく呟く。
同時に、さっきまで口にほおばっていたボールギャグが、私の唇にあてがわれて。
「俺に飼われたいのなら、自分で咥えるんだ」
「え?」
「‥‥‥‥」
鼓動が大きく乱れた。
ドクンと胸が激しく動悸を打ち、カラダがぎしりときしんでしまう。
「いやなら、俺は帰る」
「‥‥」
「‥‥‥‥」
分からない。分からなかった。
口をついた言葉さえ、自分のものであるかどうかさえ分からないほどに混乱していて。
でも‥‥だからこそ無意識の真実を‥‥
私は口走っていた。
「な、なります‥‥奴隷に、してください。でも、その」
「‥‥‥‥」
「私、ご主人様の言うことを聞きますから。だから、猿轡は、しないで‥‥」
私はこの人の事が知りたいから。
ご主人様ともっと話をしたいから、顔も見たいから、もっと近くなりたいから‥‥
返事はない。ただ、じっと唇に、なじみぶかいボールギャグが押しつけられたままだ。
時間だけが、じりじりと、過ぎていく。
「‥‥」
「ど、どうしても‥‥ですか、ぁ‥‥」
「‥‥‥‥」
震える声で問いかける私には答えず、静かに唇の上をボールギャグがくすぐっている。
ドロリとした粘着質の震えが、全身を伝って這い降りていく。
ご主人様の返事ははっきりしていた。
う、うぅ‥‥ぁぁ‥‥
ゾク、ゾクッと、いいようのない感触が、私の背をくすぐっている。
どうあっても、彼は私に口枷を噛ませ、言葉を喋る自由を奪うつもりなのだ。しかも
力づくでなく、私が自分から猿轡を咥えるのをずっと待ちつづけている。
それが、私が調教してもらうための条件。
ムリヤリ調教されるわけではない。むしろ反対に、私が、ご主人様に調教をおねだり
しないといけないのだ。
どうしようもなく惨めで、浅ましい選択肢だった。
ずっと憧れていたご主人様に助けられて、その人に選択肢を選ばされたとして。
こんな状況におかれて、どうして逆らえるだろう。
「わ、分かり‥‥ました‥‥」
「‥‥」
「お、お願いします‥‥私を、虐めてください」
あぁ‥‥
わけもない震えが、吐息となってこぼれていく。
本当にそれでいいのか。
自分から望んで調教されたくて、それが本心なのか。
分からない。
分からないけれど、でも、私は。
この人と、まだ、一緒にいたいから‥‥
沈黙の重さに心を締めつけられて、私はおずおずと口を大きく開いていく。
一度洗浄したらしく、新鮮な水気を含んだスポンジの玉が優しく口腔を圧迫していく。
しっかりとストラップを引き絞られ、ふたたび私は、ボールギャグを咥えこむ格好に
させられた。さっきと同じ奴隷の姿、なのに、なぜだかカラダがビクビクしてしまう。
そうか‥‥
自分から望んで、私は、この人の支配を受け入れたんだ‥‥
だからこんなにも‥‥カラダが、疼く‥‥
『支配』と『服従』の構図。それがはっきり形となって、私の心をあおりたてていた。
少しづつ馴らされ、従順なペットに仕立て上げられていく。
それがいいことなのか、マズイことなのか。
私には判断できないまま、ふたたび、理性にぼんやりとした膜がかかっていくのだ。
横たえられたカラダから慎重に拘束具が外されていく。
長いあいだ同じ姿勢をとらされ、硬直してうまく曲がらない手足を、ご主人様の手が
ほぐしはじめる。少しづつ血行の戻っていく関節に、カラダに、じぃんとした痺れを
感じながら、ようやく弛緩しはじめた四肢を力強くマッサージされて気持ちよく身を
まかせつつ、うつらうつらと、私はゆるやかな睡魔に引き込まれていった。


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