10月のサマーカクテル その4

Novels Back Next    

(※当アトリエは成人向け・SM小説サイトです。検索等でお越しになられた方はまず こちら をご覧下さい)



                 ― 16 ―

 マンションの、家のカギ‥‥!
 その意味する重みに、心臓がバクバク壊れそうな勢いで弾みはじめる。
 香椎先生が、無条件に家のカギを貸してくれたことの意味。一人なのねという問いかけ。
流れる電車からの夜景が、緊張で舞い上がりそうな心をどうにか現実につなぎとめている。
ウソじゃない。夢でもない。香椎先生も、僕のことを‥‥!
 速攻で一度帰宅し、下着とトランクスを一番気に入ったモノに取り換えて家を飛びだす。
彼女の住まうマンションは、走り書きのメモを頼りにすぐ見つかった。 
「お邪魔します」
 口の中で呟き、ドアを押し開ける。2LDKの室内はかわいいインテリアで統一され、
一番奥の寝室からは、ドキっとするほどなまめかしい女性の生活の匂いがただよっていた。
 足を踏み入れると、あの甘い柑橘系の匂いが鼻腔をみたした。大好きな人の匂いにみた
された部屋。ベットに近寄り、布団をそっと手で撫でる。電気のようにゾクゾクっと産毛
があわだち、柔らかな毛布の中に僕は顔をうずめていた。思わず顔がニヤける。
「何してるの」
 不意打ちに、僕は飛びあがった。めっと叱りながら入ってきた香椎先生は懸命に笑いを
こらえている。リビングのテーブルに眼鏡を置き、彼女はほうと吐息をついた。
「そんな、布団なんかですりすりしなくてもいいのに」
 え? と問い返す僕をはぐらかすように、香椎先生の瞳が教師のそれに戻る。
「清水君も覚悟してね。未成年の飲酒だから‥‥後日、学園長にお叱りを受けると思うわ」
「それは‥‥仕方ないですよね。自業自得です」 
 うっすらほほえむと、上着のブレザーを脱ぎ、彼女は寝室に入ってきた。
「さ、服をぬいで。先生に見せてくれる?」
 ストレートな台詞に思わずのけぞった僕を見て、彼女はクスクス笑った。
「バカね。ケガの具合を調べないと。こう見えて、私は保健教諭の資格も持っているの」


                 ― 17 ―

 そうか、そういや木村に殴られて‥‥思いだすと同時に痛みが走り、小さく呻く。
 香椎先生は、器用な手つきで僕の服を脱がしていった。しなやかできめ細やかな指先が
僕の上半身を裸にし、慰撫するようにまとわりついてくる。不覚にも体がビクビク跳ねた。
「恥ずかしがらないで」
 誤解した香椎先生が僕をさとし、丁寧に全身のアザをなぞっていく。時折強く押されて
呻いたものの、そう問題はないらしい。大丈夫ね、軽い打ち身だわ。彼女が呟く。
「次は、顔を見せて」
 言いながら、腫れあがった頬に指を這わせ、暖かな両手の掌が僕の顔を包みこむ。
 香椎先生が、そっと顔を近づけてきた。
「ねぇ、清水君、覚えている? 初めて会ったときも、こんな事があったよね」
「‥‥」
 むにむに頬全体を触られながら、僕は鼻をくっつけてくる香椎先生の顔に見とれていた。
「半年前かな。木村先生に強引に迫られた時、ホテル街の入口で口論になって‥‥生徒に
見られたのね。あの頃、男性不信とか、少し入っちゃってたわ」
 半年前‥‥新学期の直前。僕と、香椎先生が初めて出会った時期だ。
「傲慢は許してほしいけど、私は美人なのかしらね。生徒も教師も、ほとんどの男の人は
初対面で見さだめるような目つきをするの。それが、好きじゃなかった」
「‥‥」
「だから、私を見てすごく不機嫌そうにしたあなたに、ふっと興味を持ったのよ。初めは
そんな感じ‥‥だけどいつか、魅かれてる自分に気づいたの。あなたは、どんな大人より
素敵で、男らしかった。そう思うようになって、私‥‥生徒なのにどうしてって、何度も
苦悶したわ。心を抑えつけて、思いを殺してた。でも‥‥どうしても‥‥」
 言葉に詰まった香椎先生の顔が、じわりと歪んだ。あふれた想いがこみあげてくるのか、
揺らぐ瞳がまっすぐに僕を射抜いてくる。教師としてでなく、一人の女性として。
「先生――」
「私はもう、清水君に嫌われたって思っていたから‥‥もう、こんな風に話をすることだ
ってできないんだって、そう思いながら過ごす毎日が、本当につらくて、だから‥‥」
「先生、僕は、僕はいつだって――」
「ううん、分かっている。だって、一目ぼれしたのは、私の方が先だったんだから」 
 ゆっくり瞳を閉じた香椎先生の端正な顔立ちが、心なしか形の良い唇を開いて近づいて
くる。さえぎるものは、もう、何もない。
 おずおず両手を回して柔らかな身体を抱きしめ‥‥僕は、初めて大人のキスをした。


                 ― 18 ―

 唇と唇が、さえぎるものもなくゆっくり触れ、淫らな音をたてて絡みあう。
 もわっとする彼女の吐息を感じ、それを味わう間もなく繊細で濡れた舌がぬるりと入り
込んできた。ビクッと体を弾ませてしまうと、女教師の顔に薄く愉悦の笑みが浮き上がる。
 互いの鼻が何度もふれあい、興奮した彼女の息づかいに僕も煽られてゆく。
 「ンっ‥‥んあ、んふっ」
 かすかに鼻をならし、年上の女性の舌が、嬉しそうに僕の口の中を侵略してきた。前歯
の裏をくすぐり、捕えようと懸命な僕の舌をかいくぐって、とろとろと甘い蜜を喉の奥に
流し込んでくる。完全に防戦一方の僕のおとがいをつまんで、彼女が軽く上向けた。
 「ん、ック」
 僕はひとたまりもなく、彼女の唾液を一滴もこぼさず飲み干させられていた。ネバッと
した感触が体を下りていき、どうしようもなくカラダが燃えあがる。閉じていたはずの瞳
が細く開き、甘い視線が勝利に酔っていた。少しだけその色にカチンとくる。
 今度こそ逃げまわる彼女の舌を絡めとった僕は、勢いのままに香椎先生を押し倒した。
「うあっ、ン〜」
 ブラウス越しに抱きしめたカラダは、あまりにきゃしゃで柔らかい。
 ぼふっとベットが軋み、いきなりの事に彼女が驚きの抗議をあげる。そのスキに、僕は
ぬるりと彼女の唇をこじあけ、侵入していった。たった今、彼女にされて感じた事を思い
描きながら、同じように舌先を這わせ、ねばついた未知の口腔を探索していく。ズルリズ
ルリと舌先で触り具合をたしかめ、口の中にためておいた唾液をとろりと注いでいく。
 「あ、ん〜、ま、待っ‥‥ん〜〜」
 思わず屈服の声を上げかけた香椎先生の、香椎杜奈の唇を、僕は強引にふさぎたおした。
唾液をため、かぐわしい口腔にザラザラまぶしつける。ぐちょぐちょに混ざりあったそれ
を飲ませていく。コクンコクンと喉を鳴らされた香椎杜奈は、悔しげな色をうるんだ瞳に
たたえ、ヒクヒクと身をよじっていた。


                 ― 19 ― 

「な、なによぅ、上手じゃないのぅ」
 長い長いキスのあと、ぽうっと瞳をうるませて香椎杜奈はかわいく拗ねてみせた。ギシ
ッと2人分の体重でへこんだベットに、美しいロングヘアが波打って広がっている。
「先生の教え方が上手なんですよ。煽るようなことするんだから」
「年上としての意地だったの。フフッ」
「あははっ」
 抱き合ったまま親密に笑う。裸の胸にすれる彼女のブラウスの生地がくすぐったい。
「清水君は、私をいじめてみたい?」
 唐突で意外な台詞に目を向けると、女教師は恥じらってモジモジしていた。
「その、ブラウス。私が脱いでもいいんだけど‥‥脱がせられるのも、いいかな、って」
「‥‥もちろんです」
 にまぁっと笑う僕に、香椎先生は怯えと期待の入り混じった目を向けてくる。
 ブラウスに手をかける指先が、呆れるほど不器用になっていた。僕に身をゆだね、彼女
はベットに横たわっている。しどけなく両腕を広げ、無防備な姿で。
 どうにかブラウスの前を押し開き、彼女を抱きあげて袖を脱がせる。ほっそりくびれた
腰、大胆な胸の隆起、鎖骨のくぼみ。そして大人の女性らしい、素敵なデザインのブラ。
「‥‥ホックは、ここ」
「し、し、知ってますっ!!」
 とまどいかけた手を導かれ、僕は真っ赤になって背中のホックを外した。ふるんと揺れ、
彼女の乳房があらわになる。視線は完全に釘付けになり、ゴクンと唾を飲む音が響いた。
なだらかな曲線の先端にツンと染まる乳首。吊鐘型のバストが淡く色づいている。
「は、恥ずかしいな‥‥そんな、見ないで‥‥ドキドキしちゃう」
 あわてて目を逸らしスカートに手をかけた。恥ずかしいのか、横を向いた彼女はシーツ
に顔をうずめてしまった。ショーツを足から抜きさる手がじっとり汗ばんでいる。
 そして‥‥
 香椎杜奈は、僕の前にすべてをさらして横たわっていた。


                 ― 20 ―

 ベールを脱いだヴィーナスの裸身は、淡い桜色に染まっていた。瑞々しい張りと熟れた
甘みが入り混じる20代の女の人の丸み。かすかな身じろぎのたびにふるふる乳房が震え、
素晴らしい腰のくびれから下半身にかけてのラインに目を奪われていく。
 女性の一番大事なあのワレメは、男性向け雑誌で見た写真とは天地の差ほどもあった。
黒ずみや沈着もなく、うっすらとヒダがほころび、鮮やかに肉めいた息づかいをしている。
痛いほどジーンズの前を突き上げるこわばりを、僕は抑えられずにいた。
 これが、これが本当の彼女なのだ‥‥なんて美しいんだろう‥‥
「ダメ‥‥隠さないで」
 思わず胸をかばいかけた香椎先生の動きを制する。ためらいのあと、彼女は静かに腕を
のけ、さっきまでのしどけない姿で横たわった。耳の裏まで真っ赤になった顔をよじり、
恥じらいに唇を噛んでいる。年上の女性のそんなさまは、僕を激しく興奮させた。
「先生。キレイです。僕‥‥その、もう」
「嬉しいわ。10才も年下の男の子に褒められるなんて‥‥ドキドキするね」
 突然、ニコリとほほえむ彼女の頬から、感極まったのかつうと涙がこぼれた。その涙に
さえ気づかないのか、僕だけを見つめて彼女が話しかけてくる。
「お願い。清水君。来て。抱いて」
「い、いいんですよね‥‥?」
 それは、なにげない確認のつもりだった。本当に、なにげない台詞。
「ええ。だって‥‥もう私には、今夜しか、残されていないから」
 ‥‥えっ?
 意味深なその台詞に、僕はドキリとした。ざわつくような悪寒が一瞬で背を這いあがる。
 だって、普通、そんな台詞の後に続くのは‥‥
「学園をやめることになったの、私。恩師の先生に紹介されて、四国の徳島の高校に行く
ことになったのよ。だから、もう、清水君とも会えなくなるの」


                 ― 21 ―

 阿呆のように口をあけ、僕は香椎先生の顔を見つめていた。
 どのくらい放心していたのか‥‥彼女がそっと頬をなで、涙まじりに微笑んだ時、堰を
切ったように呪縛がとけ、僕は彼女のカラダにむしゃぶりついていた。
「ウソだ! ウソでしょ、酷いじゃん。なんでそんな、そんな冗談を言うの。ヒドいや」
 叫びながら分かっていた。この寂しい微笑みに、表も裏もないことを。
「ずっと木村先生に交際を迫られていて‥‥学園長の甥だから負い目もあるし、辛かった
けど学校は楽しかったわ‥‥だけど、あの人は、俺とつきあえないならあなたの事を噂に
して流すぞって。あんな‥‥私と同じ思いをさせるぐらいなら、私が」
「分かったよ。別れる。僕が、別れるから」
「えっ?」
「もう先生と親しく話をしたり、好きだってそぶりも見せないから。会話だってしなくて
いいから。だから、だから行かないで‥‥僕のそばにいて。いるだけでいいから」
「‥‥清水、君」
「僕、僕は大人なんかじゃない。クールでもない。先生が、先生がそう望むから、だから
今までだって努力して、やっと、やっと‥‥なのに‥‥それなのに先生がいなくなったら、
僕は‥‥」
 泣いちゃいけない、そう思っているのに、涙がボロボロあふれはじめていた。
 こんな‥‥こんな残酷なのって、あるのだろうか?
 教師と生徒の恋愛なんてムリだと思ってた。
 彼女といると癒されるのは先生だからで、好きだからだと考えないように努力してきた。
 あれだけお互いを想って、心を殺して‥‥傷ついて、すれ違いを重ねて‥‥
 やっと、やっと両想いになれたのに‥‥!
「ね、お願い、泣かないで。笑ってよ。せっかくの夜じゃない。こんな素敵な機会なのに」
 そっと囁きながら、香椎先生は僕の目尻を優しくぬぐった。その甘い声も、ビブラートが
かかったように、こみ上げる感情で震えている。
「お願い。普通に私と接して。今日で最後なんて思わないで。明日も‥‥あさっても‥‥
そのあさってもずっと続く、いま始まったばかりの恋人のように、して」
 透明なしずくが、また彼女の頬をつたって落ちる。
 涙をいっぱいに切れ長の瞳にたたえ、それでも微笑みつつ、彼女は両手を広げて招いた。
「私でよかったら、いい思い出を、残してあげるから」



Novels Back Next bbs Entrance