手違い その1

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(※当アトリエは成人向け・SM小説サイトです。検索等でお越しになられた方はまず こちら をご覧下さい)
 

まちがいで届いた荷物。
配達の人が帰ってからそう気づいた。
たまたま佐藤という同じ姓、だけど接点はそれだけみたい。私は早紀、宛名は志乃。
一字もあってない。そもそも何才なのか、同じOLかどうかさえ分からない。
ただ。
普通の女性じゃ、なかったんだろう。
リビングの上でほどいた梱包の紙づつみ、そしてその中から出てきた、グロテスクで
淫靡な雰囲気の、革の水着。

全身拘束用の拘束具だと知ったのは、しばらく荷物を調べたあとだった。

                     ‥‥‥‥‥‥‥‥

「困ったなぁ‥‥どこの誰なのよ、志乃さんって」
同封された手紙を3度目に読み終わって、無意識にまたため息がもれる。
今のアパートに越してきたのは半年前。このえっちな荷物は、前の住人あてらしい。
ネットでメール調教をしていたとか、自縛プレイが好きなんだとか、まるで意味不明
の文面が続いて、けれどSMのなんからしいことだけは分かった。
そして、この変な服を扱ってるネットのHPも。
「ニャ〜〜」
「こら、テトラ、引っかかないの、誰のか分からないんだから」
ものめずらしげに、テトラ(友人からもらった、雑種の子猫だ)がテーブルに飛び乗
っては爪を立てようとする。
「まったく‥‥捨てようがないよね‥‥」
とりあえず半透明のゴミ袋に包んで台所のスミにうっちゃったけど‥‥
これって燃えるゴミ、燃えないゴミ?
それに、捨てにいく処をいつもの主婦に見とがめられたらどうしよう。うるさい住人
がいて、いちいち人のゴミをチェックしたり、分別がどうのと言ってくるのだ。
かといって‥‥
これを送ってきた変態男(文面は男のようだった)が、いつ押しかけてくるかも分か
らないわけで。
もしも、あれを置きっぱなしにしてあるのが知られたら‥‥
結局、その日はそれでタイムアップ。
風呂に入って、いつものようにラジオを付けっぱなしでベットにもぐりこんで。
それでも、気味の悪い、おちつかない感触がずっと室内に居座ってるみたいだった。

                          ‥‥‥‥‥‥‥‥

2・3日はそのまま。
けれど、偶然ほど恐ろしいものはない。
いつものOL仲間と外で昼食を取ってる時、去年入社した後輩の中野さんが相談があ
るといって、SMの話を始めたのだ。
なんでも彼氏の変なクセで悩んでるとかで、縛られて(まぁそれだけで普通じゃない
けど)、そのまま触わりもせずに眺めるのが好きなのだそうだ。
彼女は痛いだけだし、嫌がって身もだえるとますます彼が喜ぶとか‥‥
「早紀さんは、どう思います?」
「へ?」
私は、あわてて取りつくろった。
そう、その話‥‥それはまるで、あの手紙にあった内容そっくりだったのだ。
‥‥セックスとかは必要じゃない‥‥
‥‥君みたいな可愛い女の子が、縛られて、もがいてるのを見るのが好きなんだ‥‥
‥‥是非、それを着て、いつものようにデジカメで送ってくれ‥‥
あの、同封されていた手紙の内容。
こんな機会だから、私もあの荷物の話をして、どうすべきか相談してみようか。けれ
ど、ヘンタイみたいな目で見られるのは、やだしなぁ‥‥
「で、最近になってからなんですよ」
「本性表したんじゃ?」
「でもぉ、普段はすごく優しいし、収入も悪くない人だから‥‥」
「でも縛るんだよ、カノジョを?」
‥‥いつものようにデジカメで‥‥
‥‥いつもの‥‥ように‥‥?
初めてとかじゃなく、前の人はいつも、あんなヤバげなものを着て、えっちな気分に
なったりした‥‥ってこと?
そんな‥‥
「ねぇ、早紀ったら」
「‥‥あ、へ、そうね、ヤバめ?」
「だ〜か〜ら、そんなのはもう分かってんの。変態じゃん」
「おかしいよね〜、イヤラシイっていうか、異常っていうか、嫌がっているのに手
にアザとか残されちゃうらしいし」
「だからさぁ、要するにどうしたら止めさせられるか‥‥」
「止めなくてもいいんじゃ」
あ‥‥
と思った時には、つるりと言葉が落ちていた。
「え?」
「あぁいや、違うの、なんかその‥‥ゴメン、聞いてなかったよ、今の」
あわててペコペコ謝りながら、思わず口から出た台詞を確かめる。
『止めなくてイイ』って私‥彼女らに反発して‥‥?
SMとか、そういうのが異常だって言われて、逆に感情移入しちゃってるの‥かな。
そうか‥‥
私も、気持ち悪いとか、捨てる捨てる言わなくてもいいのかも。
どうせ、いつでも処分できるんだし、カレシいないから問題も起きないし。むしろ、
周囲の人に相談なんかしたら、かえって変かもしれない。
そう思って、かすかなゆとりが生まれる。
でも。
それと同時に、私は踏み込むべきじゃないところに踏み込んでいたのだった。

                           ‥‥‥‥‥‥‥‥

それからしばらくは、余暇に一人でネットサーフィンを繰り返すようになった。
同僚や友達には、つきあい悪いっていわれたけど‥‥
とにかく、前の住人がやっていた『SM』がどんな物か、それが知りたかったのだ。
SM‥‥漠然と、痛かったり汚かったりのイメージ。
けれどあの規則正しい形の拘束具や、几帳面な手紙の文字はそういう不快さをあまり
感じさせなかった。
それが興味をそそる一つの理由だったのかもしれない。
それに、調べるのはいつでも止められるから‥‥
なんて言い訳を頭の片隅に用意しながら、テトラを膝であやしつつテーブルに座り、
ノートPCを立ち上げる日課。なみなみ麦茶を入れたグラスに手を伸ばしては、時々
カラカラになった喉を潤す。
まずは、手紙にあった、この拘束具を制作・販売するインディーズのHPから。
そして文面にあったHPから、送り主がちょくちょく顔を出しているらしいSM系の
出会いサイトへ。さらにリンクをたどって‥‥
本当に。
ほんとにノーマルなセックスしか経験のない私にとって、SMというのはめくるめく
大洋だった。果てのない、性の秘境。
ちょっとのぞいただけで眩暈がし、いやらしく縄や革ベルトで彩られてる女性の写真
を見るだけで心拍数が上がって、1人きりなのにまわりを見渡したりする。
「ね、テトラ‥‥」
「ぬ゙〜」
主人の気持ちを知ってか知らずか、テトラは膝の上で気持ち良さそうな喉声を上げる。
やわらかい毛並みをいじりながら、私は次々とイケない知識を仕入れていった。
そして‥‥そう。
いつしか、ネットを立ち上げる時、必ず私の膝には、寝そべるテトラの下にあの拘束
具がしかれるようになっていた‥‥

                             ‥‥‥‥‥‥‥‥
2週間がたった。
最近、ぼんやりしてることが多い。
気がつくと、なぞの差出人と、その男に調教されていた女性‥志乃さんのことを思い
浮かべてしまっているのだ。
前の住人、志乃さんはセルフ・ボンテージに嵌まっていたらしい。
セルフ・ボンテージ‥‥つまり自分で自分を縛って、抜け出せなくなるスリルを楽し
むような、危ういプレイのことだ。
正直、そういうのを想像してエッチな気分になれる特異な才能は、私にはなさそうだ
った。現実にも普通のエッチしか経験ないし、それでいいと思ってる。
ま、今はカレシなしだけど‥‥
大体、自分を縛るってのがよく分からないのだ。縛って、解けなくなったり、危ない
状況になったりする。スリル以前の、恐怖感。想像するだけで、心拍数が上がって胸
がしめつけられそうになる。
しかも、わざわざ全裸になってから手錠を背中ではめて、鍵も持たずに外出したり、
戸外へ出て全身を拘束具で縛ってから、えっちな玩具を大事なところに挿入して一人
遊びするのだという。
最後のころに彼女がやっていた「調教」、それは私の理解をはるかに超えていた。知
ったら引き返せなくなりそうな気さえする。
なんでそんな無茶をするんだろう。

               ‥‥‥‥‥‥‥‥

「あっ‥‥」
玄関の前で、自分でも意識せずに、小さな声が出ていた。
知ってしまったのだ。
自縛が、どんなものか‥‥

いつものように仕事で疲れて帰宅した、ある晩のことだ。
なにげなくネットにつないでSM系ののHPとか調教記録とかを読みながら、ふっと
気づいたら手首に拘束具を巻きつけていた。
カチャカチャ、地味な響き。
リストバンドみたいに左手の手首にまかれて、だらんと垂れ下がる革手錠。
「なにやってんだろ、私‥‥」
モニタを目で追うのに夢中で、手が寂しかったらしい。苦笑して外そうとしかかった
動きが止まっていた。
そうだ‥‥
こんな簡単に手首にはめられるんだし、一回ぐらい試してみようか。
‥‥もちろんSMの、「自縛」のことだ。
革手錠というのは、ものものしい名称と裏腹に簡単な仕組みになっている。ズボンの
バックルなんかと一緒で、ベルトを絞ってから金具で穴を留めるだけだ。バックルは
外せないように小さな南京錠で施錠することができる。
手首をごそごそひねり、カラダの前で両手を拘束してみることにした。
幅広のリストバンドを手首にまき、ベルトを締めてバックルにはめカギをかけて‥‥
「あ、できた」
なんだか意外なほどあっけない‥‥かな?
不思議な思いで、革手錠にガッチリ捕らえられた自分の両手を見つめる。
うん、少しは不自然な動悸もするけどえっちな気分とかにはならない。カギを使って
普通に外すこともできた。大丈夫。それが私を大胆にさせた。
そう、次は‥
やっぱり、後ろ手よね‥‥
いろんな掲示板とか見る限りでは、後ろ手に拘束するっていうのが一番スタンダード
でドキドキするらしい。外しにくくてスリルが増すとか、本当に「ご主人様」の人に
虐められてる気分になるとか、理由はさまざまだ。
右手だけ外して、そうっと背中に手をまわす。
「んっ‥‥あれ‥やりにくい‥‥‥」
たしかに、ワンレングスの後ろ髪をはらいつつ背中をのぞきこんで作業するのは大変
だった。けれど、不可能ってほどじゃない。
左手で革のリストバンドをつかみ、右手にかぶせようと奮闘する。
「んっ、んっ」
変な声が出ちゃうのがおかしいというか、笑っちゃうっていうか‥‥
二の腕の筋肉が張りつめてるのをこんな角度で見ること自体、変わっているわけだか
ら。悪戦苦闘しながら、それでも前で縛ったときと同じようにキツク‥‥ガチャリな
んて感じじゃなく、ずりずりベルトを押し込んで完成。南京錠がかかって、この瞬間
からまったく腕の自由が奪われたことになる。
「ほ〜」
ちょっと感嘆して、無言。
ラフなタンクトップと短パン姿で、背中で手錠を嵌められた(こういうのを後ろ手錠
とかいって、けっこう高度らしいのだが)OLの図。
今の私のこれって、かなりSMっぽいさまに仕上がってるかもしれない。
「私、後ろ手錠しちゃってるんジャン‥‥これって、自縛?」
うんとか、えいとか声を上げて、もがいたり腰をよじったりしてみる。
まぁ、着脱は難しくないって言っても人の自由を奪うための器具だから、私の非力な
身もだえでは外れるはずもない。左右のバンドをつなぐ短い鎖がジャラジャラして、
大きく腰をひねらないとキーボードにもさわれないのだ。当然、テーブルの上に置い
てある鍵にもすぐには指が届かない。
「キニャ〜」
「こら、テトラ、あは、ひっかくなぁ‥‥縛られている女の子には優しくするの」
私は身をよじってくすぐったがった。
女の子って年じゃないし、テトラもメスだし、いろいろ問題あるんだけど、モニタの
脇からテトラが胸に飛び乗ってきて、爪を立ててタンクトップにしがみついてくるの
だからしょうがない。
しばらくSMチックな拘束感を味わったり楽しんでいると、ドアチャイムが鳴った。
「佐藤さん、隣の907の中谷です。小包み預かっているんですよ〜」
「あ、は〜い」
思わず反射的に答えて立ち上がってから、気づいた。
‥‥後ろ手錠!!
思わず、顔が青ざめた。

なにしろ返事しちゃったから、あまり不自然に相手を待たせるわけにもいかない。
それで、あわてて後ろ向きになって、テーブルの上に置いた鍵を探したんだけど‥‥
「あ、あれ‥‥ヤダッ、ない!?」
鍵がなければ当然、革手錠も外しようがない。しっかりした革の生地でハサミだって
ほとんど通らないくらいなのだから。
そっか、さっきテトラが飛びかかってきたときに、どっかに落としたのかも‥‥
ほとんど泣きそうな気分になって、必死に目で探す。
それでも見つからず‥‥
「あのぅ、佐藤さ〜ん?」
「あ、は、はいっ!」
不審げな声に、私は観念した。
手錠をしっかり食い込ませたまま、よろめく足取りで玄関まで歩いていき、お尻をド
アに突き出すような不自然な姿勢で指を伸ばし、鍵を外す。
「あ、開けましたから〜」
そういうと、カチッとドアを開けて、すがすがしい感じの青年が顔を見せた。最近、
お隣に越してきた水谷さん。テープで梱包されたダンボールの包みを抱えている。
男の人‥それも、まだ20才いかないくらいの、若い人だ‥‥
ヤダ、私、こんな姿でどうしたらいいの‥‥
一気に心拍数が跳ね上がり、ギクシャクと挙動がおかしくなる。
「あ、どもっ水谷です。今日たまたまお昼ごろ家にいたので預かりました、コレ‥」
そう言って差し出された包みを、私は途方にくれて見つめた。
さりげなく背中の、腰の上あたりで手を組んだ格好。その姿が自然体じゃないのは、
私だけが知っている。絶対に、気づかれるわけにはいかないのだ。
「あの‥‥佐藤さん、受け取ってもらえます?」
「あ、あぁえっと、あの‥‥はいっ」
脳の中身が、揮発しそうに沸騰して言葉が出てこない。
必死に冷静をとりつくろって‥そうだ‥‥
「あっあっ、そっすみません、ちょっと今、油もので手が汚れているので‥‥そこに
置いていただけますか?」
「全然いいすよ」
気さくな返事。まさか、私がSMの革手錠でもって両手を拘束されてるとは想像すら
しないのだろう、玄関の、下駄箱の上に置いてもらうことに。
彼が包みを置いた時、ジャリッと手首の鎖が鳴って思わずビクッと震えが走った。
ひやりと汗のしたたりそうな背徳感がただよう。
「いやぁ、でも佐藤さんが若くてきれいな女性でよかったですよ」
「え?」
まさか私、なにかヘマをして気づかれた‥?
意味深な言葉に凍りつく。
「あ、いやいや、そじゃないんです。お隣さんが口うるさいおばさん主婦だったりす
ると、ガミガミ言われることあるじゃないですか。開けてないでしょうね!?とか、
なんとか」
沈黙を違う意味でとらえたのか、青年はあわて気味に説明をつけた。
「あ‥‥あぁ、あぁぁ、そうね」
ぎこちなくひきつった顔でどうにか笑顔を作り、私は内心の動揺ををおし隠した。
これじゃ、まるで私‥‥
あのインターネットで目にした、SM好きのヘンタイ女性たちと同じだ‥‥
ううん、違う。私はSM好きなんかじゃない。
内心それは確信できる、けど‥‥
もし、このニコニコする好青年に手錠のことがバレたら、きっとそうは思ってもらえ
ないだろう。なにしろ奥には例の全身拘束具、それに立ち上げっぱなしのPCの履歴
はすべてSMがらみなのだから。
そう思うと、タンクトップの下でざわざわ皮膚が粟立ちはじめて‥‥
「‥‥じゃ、はい。ちゃんと渡しましたから」
「はい、どうもありがとう」
ようやく彼が出て行って、扉がゆっくり閉まってゆく。
ドアの鍵をかけようと踏み出しかけた私の足は、どうしようもないくらいガクガクと
支える力を失っていた。
こんな、こんなものなんて‥‥
自縛するってことが‥‥縛られて自由がないってことが、こんなにも日常生活に支障
をきたすなんて。
あまりにも、衝撃的で妖しい体験‥‥
んっ、こんな、胸がパンパンに張りつめちゃって、痙攣が収まらないみたい‥‥
「わた、私‥‥こんなはずじゃ」
ぺたんとしりもちをついたお尻がひんやりして、それで初めて。
ショーツにまぎれもないアノしみを作っていたことを、私は思い知ったのだった。
‥‥知ってしまったのだ。
トリ肌だつような、自縛の快感を。 


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