トライアル7 その2

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「肩幅より少し広めに足をひろげて、上半身をすらっとのばす。いいわ。胸をそらし
ておっぱいを強調するの。みせつけるように揺すって」
「っ、く‥‥。こう?」
「上出来。そのまま20度ぐらい顔をあげて。うん、ちょうどカメラ目線よ、リリィ」
「‥‥そう。気に入ったかしら」
「ゾクゾクする。その抑えてるけど悔しそうな表情、イイ」
平日の午後2時。
池袋東口五差路のどまんなか‥‥
スクランブル交差点、車道の中心で、対岸をみあげている。
360度すべてから歩行者がおしよせる。無個性なサラリーマン、鞄をかかえ小走りの
スーツ女性、ラフな大学生の一団。そして、私と同じセーラー服を身にまとい、たの
しげにはしゃぐ女子高生・中学生たちの群れ。
あの娘たちと同系統だが濃紺ではない漆黒のセーラー服に肢体をつつまれ、ただし、
肩がけの指定鞄のかわり、ひどく不自然なポーズで高手小手に後ろ手をおりたたみ、
ワンレングスのストレートヘアで二の腕から先を隠してている。

――それが、今の私自身。裏のハンドルネーム『リリィ』のありのままの姿だ。

「堪能してるかしら。野外プレイをさせられてる、いまの感想は?」
「エスケープよ、ニア。なんど言えば」
「うふ、強がっちゃっても、映ってるよ。目元うるませちゃって。このマゾっ娘め」
ニアの指摘はただしい。
意識はひどく昂ぶり、被虐めいたうずきが下半身を芯から麻痺させていく。たしかに
私はこの倒錯した状況におぼれている。
‥‥ねばっこく彼女に言葉ぜめされていなければ、だ。
トライアルの仕掛け人。立会人のニア。インカムからの声が、ひどくいらだたしい。
きっといま、録画されている私はフレーム眼鏡の奥できゅっと眉をひそめ、理知的な
瞳をくもらせているのだろう。
私の姿は、ハッキングされた街中の監視カメラすべてでとらえられている。
トライアルがはじまってすぐニアに命令され、目の前のスクランブル交差点まで誘導
された。まるで遠隔調教‥‥奴隷の曳きまわしと変わらない。
すこしでも不信におもった通りすがりのだれかが観察すれば、すぐに気づくだろう。
この黒髪の女子高生が、なぜか小犬用の首輪をうなじに吸いつかせ、ハート形の南京
錠でこれ見よがしに施錠されていることを。
いくら首輪裏の拘束と鎖がストレートヘアに隠れていても、いっさい安心できない。
肩でもぶつけられ、よろめいて髪が流れようものならすべて丸見えになってしまう。
「っ、ヤバ‥‥!」
スクランブル交差点の音楽が変わった。
せかすジングルにあせらされ、よろめきながら、もつれる躰を突きうごかす。
後ろ手でバランスをとりながら、まわりに視線をはしらせる。
まずは人気のない場所。屋内がのぞましい。
繁華街には無人の死角などない。指錠をはずすには、どうやっても地面あるいは床を
這いずらなければならないのだ。そんな光景を他人にみられ、拘束されていると知ら
れたら‥‥
後ろ手に施錠され、気丈にひとり身もだえる女子高生をみつけたなら。
――それが、悲鳴もとどかない繁華街の裏路地だったなら。
ギリ。手首を引っぱり、首輪を緊めあげ、かぶりをふって余分な妄想をはらい落とす。
愉しんでいる猶予などないのだ。
拘束をほどく手順を、脳裏にひろげていく。
まず、ピックとテンションを取りおとすことなく、指錠をはずす。
その後むりやり手首をねじりあげ、首輪裏でぶらぶらする南京錠を解いてチェーンを
ゆるめ、後ろ手を解放。そうしてようやく、手枷にとりかかれるのだ。
「いい画がとれたわ。あと40分だから、通信切るわねー、リリィ」
「お好きにどうぞ」
「無力にもだえて、あがきまわって、抜けだせない焦りにたっぷり冷や汗かいてね。
気分だしてる今のリリィじゃ、脱出の見こみは‥‥5%未満かなー」
プツンとノイズが断たれる。
ぞくりとするニアのあおりに、心の奥がとろりと溶けだす。
最後まで陰湿なトラップをしかけておいて、いとおしげに語尾をのばしてインカムは
切れた。不意の孤独にうちのめされかけ、腹筋をつよく引きしめる。
あらたな決意をもって、指錠にぐぐっと力をいれる。
10センチの金属板で、分かたれることもくっつくことも許されず癒着した親指同士に、
指錠の歯の痛みをしっかり味あわせる。
もうだれ一人、なに一つ、たよれない。ここからが私のステージだ。


                 ‥‥‥‥‥‥‥‥


はじめに、つたえておきたい。あるいは弁明‥‥かも。私がどういう女なのかは言葉
にしておきたいのだ。きっと誤解されてしまうから。
まず、SMプレイや主従関係なくして生きられないマゾやM女ではない。
――いえ、私がそう思ってるだけ、いわゆる『ご主人様』にめぐりあえてないだけで
じつは真性の奴隷気質かもしれないけれど。でも今はちがう。
コンプレックスがあったり、抑圧された性的な葛藤をもっていたりもしない。
心もカラダも自分に忠実。
体のくびれや肌の手入れにも入念に時間をかけ、人にどう見られているのか、意識を
おこたったことはない。社内ではめだたないOLとして。オフのときは自分を解放し
心ゆくまでプライベートを満喫する。
私は、私自身を気に入っており、好ましく感じ、パーソナリティを愛している。あり
ていに言えばナルシストなんだと思う。自信がないとか自罰的とか、そういったこと
でエスケープアートにのめりこんでいったわけじゃない。
むしろ逆。
こんなにかわいいからこそ、虐めてやりたいと思えてしまう。
鏡のなかの自分をそう見つめている時点で行きすぎの心境だとはわかっていても、だ。
出勤前に笑顔を作ってみせ、化粧をチェックしながらよく思う。
このとりすましたオンナの本性を知っているのは私だけ。いやらしい性癖をにぎって
いるのも。そう思うと、ひどくみだらで嗜虐的な衝動にかられてしまう。
人前にさらけだし、あばきたててやりたい。
まつげを伏せた瞳に秘められたエロスが、どれだけ背徳的で悩ましいものかを。
たとえば‥‥
――ひとりでは絶対エスケープできないムチャクチャな拘束を噛ませてやり‥‥
――たっぷり冷や汗と絶望をあじあわせ、無抵抗な躰だと痛感させてやるのだ‥‥
――一方的に、イけないギリギリの刺激をたくわえさせ‥‥
――焦らしまくり、物欲しげに腰を振るマゾの牝犬にしたてあげておいて‥‥
――いきなり、もみくちゃな渋谷のスクランブルにでも放りだしてやれたなら‥‥
鏡のむこうで悪魔が私を嗤っている。
手錠をかき鳴らしてうろたえ、取りみだす不細工な顔の自身を想像し、性欲と知性の
はざまでもだえる滑稽さを鼻でわらうのだ。
そんな。

実現不可能だったはずのみじめな私自身が、まさにいま、auのキャンペーンガールの
さしだすテイッシュにさえぎられて立ちつくす――なんて、悪夢。

林立する街路樹と電柱のはざま。行き交う人波をさえぎり、ロゴマークもあざやかな
キャンペーンガールが広く展開している。
身をかわそうにも、もたつくカラダを御しきれるわけもなく。
「ただいま学生様お乗りかえキャンペーン実施中! ぜひauショップ池袋へどうぞー」
かわいいものを見る目で声をかけられ、互いの瞳がまじわる。
――私は、ただ、かたくなに背中へと両手をひねりあげ、唇をむすんだまま。
冷えきった指錠の重み。
親指のつけねにぎしりと喰い入り、反応を奪う。
ひくつく後ろ手でティッシュを受けとるつもりはない。とれるはずもない。
けれど、とまどいと不審が愛くるしいキャンペーンガールに浮かぶのをまのあたりに
して、急速にあせりがつのっていく。
「えっと‥‥大丈夫?」
「やッ」
思わず、伸びてきた腕からステップバックしていた。たたらを踏み、足首がもつれて
大きくのけぞり、うなじをあらわにしてしまう。
――黒い光沢をはなつ、愛玩用の首輪で躾けられた首筋を、さらけだして。
後悔は、すでに遅かった。
「え、それ、どういう‥‥くび、わ?」
女子高生のおかしな動揺ぶりにあたりがざわめきだし、足が痙攣しはじめてしまう。
目立ってはダメ‥‥だというのに。
この肌をなでる無数のまなざしのなまなましさときたら。
あのときの、あさはかな私の耳たぶに噛みついて、ささやきかけてやりたい。
ふるえてイイんだよ、と。
浅ましい辱めをあじあわされ、心ゆくまで悦んだらイイよ‥‥と。
どうせ貴女の恥ずかしすぎる妄想プレイは、数日後、リアルに叶ってしまうのだから。
――ほんとうに、ありえない。
ティッシュを配られただけで晒しものとなり、好奇の目をあびせられて。
淫靡きわまるあの朝の妄想そのまま肢体を作りかえられ、オナニーのネタでしかなか
った拘束姿を、野外でお披露目させられているのだから。
「っ、その、ごめんな、さっ‥‥」
心配そうなキャンペーンガールをさえぎって小声でつぶやき、小ウサギのように体を
かわすと、ねっとりした視線をからみつかせて小走りに逃げだす。
これは夢ではない。白昼夢じみていても。
スクランブル脇の喫煙所からそそぐ視線をワンレングスの黒髪にからみつかせ、ジュ
ンク堂方面へと足をふらつかせていく。
いやァ‥‥こんなの、惨めすぎ‥‥のぼせ、ちゃう‥‥
妄想よりずっと、すごくて‥‥
「んぐ、ン‥‥私。感じちゃ‥‥ダメ‥‥」
背徳的なシチュエーションに没頭しすぎるあまり、声がもれていた。
人が、ヒトが多すぎるのだ。どこに目をむけても、だれかの視線とかちあってしまう
‥‥まるで360度から観察され、視姦されてるみたい。
マゾでも、お仕置き希望でもないのに。
ダメ‥‥なのに。感じて‥‥あふれてきちゃってる‥‥
潤沢にうるおいだす下腹部を、制服のスカートごしになさけないほど意識する。
このスカートだってそう。折り目ただしくプレスされた学生時代の黒セーラーの下で、
淫乱そのものの仕掛けが、私をよがり狂わせようとしてる。
汗と、ほてりと、潤滑油と。
なめらかにしようと塗りこんだクリームが、思いのほか効果を発揮して浸透してゆく。
じんわりした微熱こそ、まぎれもなく首輪と手枷と指錠がもたらす疼き。
だれでもいい。気づけるものなら。
無抵抗なのだから。ほら。スカートをめくってみれば良い。
相手がマフラーの老人だろうが、コートのはためく背広だろうが、生足をさらけだす
女子大生であれ‥‥たとえ、行儀よく駅へむかう女子小学生の集まりだったとしても
‥‥きっと、わたしはなにひとつ、あらがえない。
池袋にいるすべての人々のなかで。
もっとも無力で無抵抗な裸身をセーラー服に隠したきり、なされるがままなのだ。
せいぜい腰をひいて逃げかけたところで首輪が締まり、指錠につながれた親指同士を
食いちぎられ、へっぴり腰で動けなくなってしまうだろう。
膝上20センチの布地の下は、露出狂さながら。
私を屈服させ、支配するご主人様があらわれたなら、じっくり視姦して、はしたない
雌犬への罰とお仕置きをしていただけただろうに‥‥
「っぅク‥‥っは、ぁ」
じくり。
肉をかきみだして「ソレ」が蠢き、腰が抜けそうになる。
なんてひどい‥‥の‥‥
これ、私が、胎内からかきみだされ‥‥ッ‥‥
ニアの趣味でもって、トライアル開始寸前に着せられた「コレ」ときたら‥‥


サンシャイン通り入口の、ロッテリア池袋東口店。
清潔でしゃれた店内は、ファーストフードというより喫茶店の雰囲気だ。
段になった一人席からは、正面のテーブル席が見わたせる。談笑してもりあがる女子
高生たちのうえ、つくりつけの大きな鏡が、少しだけ目に不安をたたえた私らしから
ぬ私をくっきり映しだしている。
衣装は紺のセミタイトスカートとジャケット。その下はリボンブラウス。ありきたり
のOLのよそおい。無意識に手をやるメガネは、変装をかねた度なしだ。
甘ったるいシェーキをすすり、すでに20分は待っていた。
この店は待ちあわせや時間つぶしでひっきりなしに客が出入りする。トイレから出た
私が入ったときと違う姿で誰かの目をひく‥‥なんてヘマは避けたい。
ケータイをいじり、裏のSNSコミュニティを呼びだす。
アダルティな、つまり性的な話もできるSNSで、入会まで非常にきびしい分、アン
グラな嗜好の集まりが多い。オフ会も相当にディープなものばかり。
のぞくのは、今日の、二度目のトライアルの発端。
私の主催する裏コミュニティ「エスケープ大好きっ娘あつまれ!」だ。こんな平日の
昼にかなり書きこみがある。それも当然、ニアと私のトピックのせいだ。タイトルは
「トライアル7」。
発案はニア。7つの試練‥‥などという一般的な解釈でいいのかどうか。
直近の、ニアの書きこみ。
『じつは、もう挑戦者も選ばれてまして、今日の午後からトライアル決行なんです!
リリィ様も同行予定。ねー。楽しみですよねー』
『報告はメンバーのみ。たぶん動画。拡散NG。ニアが取りしきってるから』
『またまた、リリィ様。私が仕切ってるとか、ウソついちゃって。あーんな悪魔的な
エスケープを思いついちゃったりしてー、しかも空想だけじゃなく実行させちゃうの、
リリィ様だけですよ』
これが1時間前。そして今――
『どど、どこでやるんですか、せめてヒントっでも、アキュさん』
『まじで野外でやるの? 身バレとか警察への対処は準備できてるの?』
『すごい、やらしー。私もされてみたい。考えただけでおま○こがきゅんて‥‥』
『で、罰ゲームは? 当然、屋外で犯りまくるんでしょ!?』
ものすごい食いつきぶりだ。
定番となった「リリィと呼ぶのはやめろ」の台詞がコメントに埋もれるほど。
まあ、彼らの食いつきぶりは今さらだろう。SMプレイにおけるDID的な部分‥‥
縄ぬけやエスケープなどと、それに対する加虐・被虐嗜好のメンバーが集まる完全な
成人向けの裏コミュなのだ。
オフ会だってそう。
奴隷の調教、お披露目、オークション、性行為だってそこには含まれてくるのだから。
だからこそ。
あまりに赤裸々で、どん欲で、ギラつく性的な書きこみに目がくらんでしまう。いま
から「それ」を実行しようとしてる私にこんな破廉恥な願望をそそぎこまれたら。
「!」
わきばらをこづかれ、はっと顔をあげる。
見れば、トイレ横のテーブルから女子高生グループが立ち上がったところだった。
今しかない。一瞬で心をきめ、席をたって女子トイレを押しあける。清潔感あふれる
個室の片方へむかい、そそくさとドアの錠をおろし、ようやく息を吐く。
さあはじめよう。
リリィを、ニアいわくの「高飛車な姫騎士さま」を、奴隷に引きずり下ろす儀式を。


ガクン、と。
縁石の5センチたらずの段差につんのめり、現実にひきもどされる。
ガクガク砕ける脚を必死に踏みしめ、髪をなびかせ、かろうじてバランスを取り戻す。
パニックは、遅れてやってきた。
冗談ではない。こんな路上で転んだら、それだけで一巻の終わりなのだ。
エスケープはしくじり、後ろ手に縛められたことで発情しきった、淫蕩な躯をすべて
さらけだすことだろう。受け身もとれず、顔から地面にたたきつけられ、高手小手の
指錠も制服の下の「コレ」も、すべて公衆に知られてしまう。
そのうえ、重大なペナルティまで。


――第三者にエスケープ行為を気づかれ、あばかれたばあい、即座に失敗とみなす。
――エスケープ嬢はペナルティを課され、その場に放置され終了する。
――立会人はエスケープ嬢を助けてはならない。これが破られた場合、立会人自身も
  同じ拘束・ペナルティを課され、次回のエスケープ嬢に選ばれる。
――エスケープ嬢は、第三者にトライアルのことをいっさい口外してはならない。


私自身がとりきめたルールにそうあったはず。
つまり身バレした時点でニアに見捨てられ、なにが起きても助けてもらえず、手枷指
錠付のセーラー服のまま、ひとりぼっちで取り残されてしまうのだ。
そして、万一警察に保護などされたとき‥‥
私は、自発的にセルフボンデージを愉しんでいるマゾだと告げなければならない。
まさに『お仕置き』そのもの。
「っ、ん、んク‥‥」
いつのまにか、息があがっていた。なんどもツバをのみくだす。
おののきで、膝ががくがく痙攣している。
うまれたての子鹿だ。無力で、庇護をもとめてしまう。いるはずもないご主人様に。
エスケープの中止を求めたくても、通信は一方的にきられており、タイムリミットは
無情に刻まれていくばかり。
のろのろした足どりのなか、瞳だけが活発にうごき、林立するビルに目を投げていく。
どこか‥‥どこかに、私を救うための手だてがあるはずなのだ。
他人の目につかず、ほんの数分つかえる場所。
しゃがみこみ、靴をぬぎすて、足首にまかれた指錠のチェーンを拾おうと奮闘できる
だけの広さの場所が‥‥
「っ!」
不意に車道をトラックが走り抜け、つむじ風がプリーツスカートをまいあがらせる。
零れかけた悲鳴を抑えこみ、とっさに両膝を手で押さえかけて‥‥
「いぎっツ!!」
一瞬後、親指のつけねと手首をつらぬく電撃の痛みのあまり、全身棒立ちになってた。
絶叫さえ出せない衝撃に、弓なりに背をそらしながら悶絶してしまう。
ング‥‥忘れてた‥‥っ‥‥
マゾ仕様の拘束をほどこされてることを。自分の哀れな緊縛ぶりを。
反射的にスカートへ伸びた仕草すべてが反動となり、鉄の縛めをめりこませてしまう。
ちぎれそうな指の痛みを、さすることもごまかすこともできず、涙目になり、けれど
慰めてくれるご主人様も解放してくれるヒーローもいない。
私はわたし。ただひとりきり。
こんなにもきびしく鉄枷と鎖と首輪の虜にさせられ、いやらしい上気を抑えきれない。
苦悶さえ、セーラー服の下であつらえられた裸身を淫靡に仕立てていく。
だって、乳首のあたりなんか、もう‥‥


個室のなかまでロッテリアはきれいだった。
クリーム色の便座にバッグを設置し、ブラウスを胸からはだけ、スカートのホックを
滑りおとす。ストッキングを足の指先からぬきとるころには、むきだしの柔肌がほん
のり微熱をおびている。
たわんで発情しだす乳房を手ブラでホールドし、紐ショーツをするりと脱ぎすてた。
ファーストフードのトイレ内で、パンプスのみ履いた全裸のオンナ。それが私‥‥こ
の時点でじゅうぶんヘンタイだ。
衣服を鞄にしまい、トライアル用コス――ニアご指定の革下着――を引きずりだす。
ひとめみて、おもわず呻いていた。
下着代わりのソレは女体をラッピングする扇情的な黒革ベルトの塊、ショーツ部分は
紐の集合体。女のアソコを、あえて剥きだすつくりなのだ‥‥
ためらう心を裏切って、手はとまらない。
生足をくぐらせて革ベルトを履き、ウェストから卑猥に緊めあげていく。つけねから
きつくくびりだされた乳房は小さすぎるハーフカップからはみだし、どうやっても
こぼれだす乳首をつつくほど寄せあげられ、ひずんでしまう。
完全にトップレス。革のカップのふちが、勃起した二つの芽をちくちく刺激してくる。
エスケープどころか、奴隷調教のための拘束衣だ。
さらに革ベルトにまきつく電極パッドを、乳房や乳首の真下、太もも、うなじ、わき、
お尻のすぼまり、敏感なクレヴァスのふちにもはりつける。無線ボックスは腰まわり、
自縛完了後は自力でさわれない部位だ。
エスケープ失敗時に動きだす卵型バイブも、クリトリスの真上にとりつけて。
革拘束ごしに高校時代の黒セーラーを着ると、あきれるほど大胆に砲弾めいた胸をさ
らす、ハダカよりなお悩ましい、女子高生の輪郭が浮かびあがる。
生足にはえる黒のオーバーニーソックスを穿きあげ、ふとももの下でぱちんとゴムを
鳴らす。
「‥‥っ!」
頬をあからめつつ、肝心の拘束に手を伸ばす。
接続済の首輪とチェーンとラチェット。濡れ羽色の革手枷。ハートの南京錠。そして
得体のしれない器具も――
器具をどかすと、ワンレングスをたくしあげて首輪を締め、セーラーカラーを避けて
鎖を背中へ垂らす。手の甲側にU字のシャックルがくるよう調節した革手枷を左右の
手首にきびしく巻きつける。後ろ手に腕を組みあわせ、南京錠のツルをとびだした革
手枷のシャックルにくぐらす。
あとは2つの手枷をたばねるハート形南京錠を深く押しこみ、施錠するだけ。
どくんどくんと、はずみだす鼓動が耳に痛い。
これで本当に良いのか。左右の手枷をつないだら、もはや、あと戻りは効かないのに。
灼りつくノドはしびれ、あえぎ声もかすれ、唾液がくちのなかにたまってしまう。
本気なの‥‥?
エスケープの保証さえなく‥‥ながされるまま‥‥
いまなら、まだ、拘束をほどける。引き返しがきく‥‥だから‥‥ッ‥‥
理性をうらぎった裸体が勝手に身をよじり、ハートの底を個室の壁におしあてていく。
ビチッ
あっけない金具のきしみが、この瞬間、私の退路を閉ざしていた。
後ろ手にしっかり拘束が噛みあった感触が、不自由な手首から流れこんでくる。
「ぅ、うぁ‥‥っ、っ」
無意識の反発で、拘束された上体をこじってしまう。たてに、横に。誘拐された王女
が犯人の目をぬすんで身もだえるみたいに、おりたたまれた腕を全力でふりまわす。
わざと手の甲がくっつくよう拘束をほどこした自身のカラダ。
左右の指をからめあわすことはもとより、ピックの受けわたしすらままならない。
ひねりあげられた両手の甲がこすれあう窮屈さにふるえあがり、セルフボンデージの
仕掛けを壊すおそれすら忘れて、強引にもがいてしまう。
「っ!‥‥ン、‥‥っく」
だというのに。
チェーンも南京錠も無慈悲なまま。つられた指先が宙をかきむしるばかり。
金属の輪がギチリと食い入り、交差する手首同士と体幹をつなぐ首輪を引きしぼられ、
高手小手に上半身をつりあげられたまま絶息してしまう。
腰より高い位置。肋骨の下あたりで、黒セーラーの生地を無力な爪がひっかいている
計画通り。
あまりに無防備なカラダ‥‥
灼けつくおののきの波が、とぷんと心をひたしていく。
この感触。この絶望――こればかりは、なんど拘束されても慣れることがない。
今の私は無力化され、施錠され、自縛をほどこされた露出過多の女子高生にすぎない。
ぞくりと首をもたげるマゾの心。
屈従をのぞみ、隷属したがる裸身を、理性だけでおさえつける。
首を2・3回かたむけ、つややかなストレートヘアで元通り、拘束の痕を包みかくす。
この瞬間、私は、みずからのぞんだエスケープ嬢となったのだ。
(どう、ニア? お気に召したかしら?)
バッグにとりつけたCCDカメラに、挑発のまなざしをおくってみせる。自縛の一部
始終をうつすレンズが、スカート奥までのぞくローアングルで私を犯していく。
お股に食いこむ部分なんか、すでに匂いたつばかり
丈を15センチ詰めたスカートからお尻の肉まるだし、細い革ベルトは局部のつけねに
左右から食い入り、アソコも不浄な部分もみせつけているのだから。
クラクラと頭のどこかがしびれている。
おぼろな意識のなか、ならべたピッキング一式と指錠を不自由な指でつかみとり‥‥
「リリィ、支度はできた? 開けて〜」
「‥‥え?」
ニアの声。おかしい。着がえも自縛もトライアルのうちなのに。不測のトラブルでも
おきたのだろうか‥‥じわりとイヤな汗がにじむ。
「ほら、人来ちゃうってば、リリィ」
「ちょっと、いっ‥‥なんだっていう、の」
個室のドアにもたれて不自由な身をのたうたせ、あせる指先でどうにかロックを外す。
するりと入ってきたニアは、じっとり視線を私に這わせてからにやりとした。
「いいね。超エロエロ。ナマ女子高生、ただし手枷指錠付き、ね」
「なにしにきた、見られたらどうする」
狭い個室で抱きしめられ、密着したまま文句をつけるが、効果なし。
さっきまで隣のカウンターに他人の顔ですわっていたニアは、女子大生のよそおいだ。
ベージュのダッフルコートに白のシフォンスカート。黒タイツをつつむロングブーツ。
コケティッシュな瞳がくるくるとよく動く。
バックと拘束具を点検したニアが、やっぱりと言いたげなしたり顔でこちらを見やる。
「ほらー。装着するはずの拘束具が1つ抜けているわ」
「‥‥っな、なにを」
「わかってるくせに。プレイ中にリリィを楽しませるものよ」
――器具の使い方をね、教えにきたの。
――でももう手枷を嵌めちゃってるしね。着替えをてつだってあげる。
よこしまな調教の悦びに、ニアの頬が上気していた。
おもわず腰がひけるが、横抱きに腕をからめられては逃げだせない。ニーソックスと
スカートの絶対領域をまさぐられ、プリーツスカートをめくりあげるまま、ぷりんと
羞じらう双丘をむっちり外気にさらけだれ、観念する。
「あっ、その‥‥ニア、ええっと」
「なぁに? リリィ」
「ッ‥‥と、その、やさしく‥‥して」
ぽろりと零れた台詞が、ニアの琴線にふれたのだろう。ネコ科の瞳が嗜虐の色に灯る。
「うんうん。わかったわ、リリィ。おのぞみどおりに」
言うなり、革ベルトでぷっくり盛りあがったアソコにぎゅむっと指を食い入らせる。
みがかれたマニキュアのがはしたない汁音をひびかせ、私のクレヴァスごと下半身を
すくいあげる。
「ひぁっ」
「だまってて、すぐ良くしてあげるから」
私を知りつくすニアに翻弄され、うるみはじめる女のとばり。
指でおもいきりクレヴァスを抉じあけられ、男性の形のままリングを咥えさせられる。
革拘束衣のアタッチメント。濡れたヒダ奥までまるみえにする鉄のリングだ。
気をとられた一瞬のスキに――
ちゅうちょなく、ローションにまみれた金属製フックが凍りつく鋭さでお尻の穴へと
ねじこまれた。
「ひぁ、あっ、コレ‥‥」
体内に押しこまれてくるフックの、はてしない角度と長さに目をむく。
力んでおしだすことも叶わず、フックの端を吊りあげられ、首輪から垂れたチェーン
の末端につながれ、絞りあげられて抜けなくされてしまう。尾てい骨の丸みにそって
骨格のように食い入り、2センチ径はあるフックを咀嚼するお尻のヒダがたえまなく
蠢いてしまうのだ。

「これで完成よ。どう、リリィ」

声も、だせなかった。
いずれの器具も用途も知っており、オフ会とかプライベートで使ったことさえある。
だというのに。
トライアル前の高揚と緊張をねこそぎ引きぬかれ、ドロ沼の被虐をたたきつけられて、
腰が、上体が、破裂しそうなほど淫靡によじれ、いやらしく出来上がっていた。
たえきれない。今すぐ犯してほしい。
物足りないアソコを満たして、ぐちゃぐちゃにかき回してくれないと気が狂っちゃ‥
‥言葉をおしだそうとして果たせず、あえぎまじりに、深く息を吸う。
‥‥ゆるせない。
わけもなく、つよく、そう思った。
トライアル7は、エスケープを主眼においた淫靡な賭けだ。自縛し、あやしい官能に
むしばまれながら、それでも脱出をめざす女の子を『鑑賞する』遊びだ。
――その企画サイドが、官能におぼれてどうする‥‥っ!
「きついの? いいわ、気付けのキスを」
「‥‥ッ」
頬をはさまれ、キスをせまってくるニアを、気力をふりしぼってひきはがした。
いまだ息はあがっている。くるおしく疼き、灼りつく。たまらなくみじめで、でも。
「‥‥た、たすけは、いらない。余計なことを」
私を屈服させようとするニアに、あらがえる程度には、理性はのこっている。
ととのえろ。呼吸にリズムを、とりもどす。
体温により、じわじわ温かみをますアナルフックと拡張リングを、自分からしっかり
咥えこむ。むしろ食い緊めて、感触を把握する。
この体勢、この女子高生のコス。短すぎる丈のスカートに、ノーパンどころかSMの
アナルフックまで装着されて。けど、これが当たり前。そういうカラダなのだ。
そう納得しなければ、エスケープは不可能だろう。
異物感におぼれ、快楽にのまれて達成できるほど、たやすいトライアルではないのだ。
感覚をとりもどすべく、背中の指をなんども開きながら、問いかける。
「どうせ、このフックにも通電するんだろう」
「ご名答。さすがねー。リリィの聡いところ、私、好きなんだー」
不幸中のさいわい、なのだろう。
残酷な外見のアナルフックも、アソコで咥えさせられた金属のリングも、SM的では
あれ、バイブやローターのように快楽をひきだすものではない。
だから。
「さっさと出てくれ、ニア。いつ人が来るかわからない」
「‥‥」
にんまり嗤ったニアが、着替えに使ったバッグを回収し、くるりときびすをかえす。
その、直前。
「最後にひとつ。その鎖。ちょっと低すぎるわ――――あげなさい」
「えっ?」
「もう少し、腕を上につりあげて。でないと見栄えしないの。せっかくの高手小手の
自縛プレイ‥‥鎖の緊縛が。いいわね」
――ドミナの命令さながら。ニアが傲然と指示をくだす。
エスケープをよりおもしろくするという名目で、自縛のステージをひきあげていく。
頬のうちがわを噛み、録画中のCCDカメラをにらみつけた。
「ええ。いいわ」
いずれにせよ、立会人の指示は絶対。エスケープ嬢にさからうすべはない。
そう決めたのも、私とニアなのだから。
ニアにみちびかれて個室を抜け、洗面台の前でCCDカメラに背中をみせつけた私は、
ラチェットの鎖をカチ、カチッと引っぱりはじめた。


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