トライアル7 その3

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カチ、カチチと。
指錠をにぎりしめる左手の、あいた人さし指と親指で無心に鎖をたぐりよせていく。
ラチェットは、荷造り用ロープラチェットの流用だ。これで緊めあげた鎖は、絶対に
たるむことがない。
DIYショップで購入時、ラチェットのカムにチェーンが噛みあうかどうかは確認済。
2重の輪をかたちづくる鎖の末端はセーラー服にそって垂れさがり、屈辱的なアナル
フックへつながっている。
小さくなる鎖の束につられて、じりじり手首がつりあがっていく。
同時に、お尻の直径を拡じあけていたアナルフックが優しく力をうしなっていく。
チキキ‥‥チキッ‥‥
背中ごしに化粧台の鏡をのぞきながら、私は焦りにかられて手首をあやつっていた。
ニアが隣にいるといっても、いつ人が来てもおかしくない状況だ。
身バレは即失敗――
だからこそ、時間がかかる自縛プレイを強いられ、わきのしたを冷たい汗がつたう。
そしらぬ顔で、ニアが盗撮カメラをまわしている。
映像映えするよう、わざわざ鏡ごしに妖艶なポーズをみせつけ拘束を厳しく吊り上げ
ていく私自身は、すっかりマゾの色香にひたりきっているかのよう。
漆黒のスカートの下へ、黒い鎖がもぐりこんでいく。
鎖をたぐるたび、卑猥にマ○コフックなどとも呼ばれる海外SMグッズが不浄の穴を
えぐり、みりみりと深いところで揺れうごく。無骨に凍える金属の張型に、あやうく
喘ぎをけずりとられそうになる。
「‥‥いいわ、リリィ。すごく良い感じ。ずいぶん攻めたわね」
そうして、ハッと気づいたとき。
お尻のもどかしさに唇をかんでいた私の後ろ手は、高々と、肩甲骨にさえ指がふれる
ほど高手小手にひきしぼられていたのだ‥‥
「やっぱリリィって柔らかいわぁ。いまだって、どんどん高手小手に吊りあげていき
ながら、自分のポーズにぜんぜん気づいてなかったし」
「‥‥私を、言葉で嬲るつもり?」
「別にー。さ、はやく、はやく。知ってるでしょ。女子トイレ個室でのエスケープは
NGなんだよ。もう後戻りできないんだから。行かなくていーの?」
「くっ‥‥」
カメラのことも忘れた私は、タイマーを起動させてふんわり笑うニアをにらみながら
両腕をゆすり、金属に縛められた窮屈さに舌打ちして。
「さっそくだけど、試練よ、リリィ。そのドア、どうやって開けるの?」
え、と視線をおとし、血の気がひいていくのを感じる。
トイレは引き戸だった。誰かが押すのを待つか、腰の高さのノブを引っぱってひらく。
外へ出るには、芋虫のようにドアにへばりついた私が、店内のだれにもみられること
なく、不自然きわまる後ろ手の中腰でドアを内側にひっぱり、すばやくカラダをわり
こませなければいけないのだ。
この、ペンギンの羽さながら、肩甲骨にくっついた不器用な手首の先だけで。
「がんばってねぇ」
ふだんなら意識にさえのぼらない、2秒たらずの動作。
それが、ほんの2メートルの鎖と首輪と手枷とを嵌められただけで、みたこともない
ステージへ変貌をとげる。
じつに、エスケープ開始からわずか10秒のできごと。
一歩目で首をもたげるマゾの疼きを、どうにか抑えこんでドアに背をあてがい――


――その、みずからなしとげた高手小手に、私は今なお、くるしめられている。
「かっ、は、ふクッ、ん‥‥」
上半身をゆるく曲げたきり、前かがみにも、後ろのめりにもなれない。
理由はシンプル‥‥吊り上げた腕の高さにあわせ、アナルフックと鎖を再度みっちり
引き緊められてしまったカラダだから。
このポーズでは、首輪そのものがアナルをかきむしっているのと変わらない。振動は
じかにつたわり、身もだえすべてが胎内から直腸を犯しぬく。敷石をふみならす靴の
ひびきさえ、じんわりお尻を責めたてるのだ。
リミットまで、あと40分たらず。
コンビニ前をぬけ、ヤマハのショールームでピアノとたわむれる家族をガラスごしに
見やり、もたつきながら足を動かしてゆく。
そもそも、エスケープの検討はおろかセーフポイントの確保さえ行っていない。広い
池袋エリアだ。どこかにそんな場所もあるだろう、ぐらいの話。だから‥‥もしかし
たら、どこにも私を救うすべなんて‥‥
「んくッ」
破滅のイメージだけで、セーラーにつつまれた裸身ががじんじんしびれだす。きゅん
きゅんすぼまった括約筋でフックを喰い締めてしまう。
「ぅう、ん‥‥」
くやしいけれど、イイ。瞳がうるんでくる。どろっどろに煽られてしまう。
――これこそがトライアルの深み。
手順ありきの脱出だなんて、本来のエスケープではない。脱出にしくじり、むざんに
終焉をむかえる。希望を打ちくだかれ、凌辱され、さらけだされ、ときに絶命する。
つねに現実はあまくない。
そんな、ニアと議論のなかで溜まった想いこそ、トライアル7の基本骨子なのだから。
ぎりりと奥歯を噛みしめる。
背中高く括られた親指をくいっと曲げ、甘がゆい疼痛に背すじをぞくぞくさせる。
嗜虐的に食いこむ絶望の刃。まずは、親指同士を接着するサムカフ――玩具ではない
鍵付き――この指錠を、はずさなければ。
頭のなかで拘束衣の全体図を思いえがき、ぶるりっと腰がよじれた。
他のすべての束縛とちがう。どうあっても、指錠だけは、カギを使って外さなければ
ならないのだから。
べつに、指錠の拘束難易度が高いわけではない。楕円で2層プレートのサムカフなど
手錠と大差ない。いつもならピックとテンションで20秒たらずだ。
だが。今日、このエスケープだけは例外だ。
たかが10センチ幅の指錠を、唯一無二の、強力無比な拘束具にしている所以がある。

いまの私は、後ろ手に手首を交差させたうえで、親指同士をつながれている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。

かりに前手で施錠されていたなら、痛みをこらえて手首をひねり、ピッキングできた
かもかもしれない。
けれどいまは、自身の背中とストレートヘアとで完全に目隠しされた後ろ手拘束の姿。
親指以外すべての指がサムカフのロック穴に背中をむけており、錠前にピックをさし
こむことさえ容易ではないのだ。
握りこんだピッキング用具を落とさないだけでせいいっぱい。
ラチェットの歯ぎしりを味わわされ、完璧に溶接された親指同士がじぃんと鈍い痛み
にシンクロしつづける。
よくある指錠ぬけのトリックでは、わざと指に角度をつけたり、強くこぶしをにぎり
親指をまげることで指錠の刃を一段ゆるく施錠させる。でも、今カラダがそうなって
いないことは、私自身がなにより知っていること、
――ッっ、おぼれてはダメっ――
ぐわんと頭を揺さぶられ、あわててしゃきっと身を起こす。
次の瞬間、自分のポーズに気づいてゾッとした。
エスケープに夢中のあまり、お尻をたわめ、ガードレールに腰かける寸前だったのだ。
そのまま座っていれば、菊花を貫く凶悪なフックに腸壁をえぐりこまれ、よがり声を
もらし失禁しながらアクメに達していただろう。
いや、いっそ、壊されたい‥‥わきあがる破滅願望を理性でおし殺す。
うまれたての子鹿さながら、引き攣れる下半身をこらえて開脚し、足をぴんとのばす。
やみくもではダメ。
一人になれる安全な空間を探し、足首のカギを拾うのだ。
直腸のフックを刺激しないようお尻ごと下半身をひねり、さらさら崩れるストレート
ヘアをめぐらせてあたりを仰ぎみる。
とたん、意識のすみに追いやっていた喧噪の汚濁におしながされた。
クラクション、排気に轟音、百人単位の私的な会話のノイズ、あらゆる自動ドアから
あふれだすBGMと宣伝ソング。頭のてっぺんまでおぼれ、自分をみうしなう。
瞳の先にはうずまく狂ったアリスの世界。
林立する看板とネオン。月の雫、BIG ECHO、天狗、サンマルクカフェ、無秩
序な固有名詞。電柱にはローン会社のポスター。囲碁クラブ、雀荘、植え込みの不法
駐輪を避けて歩く人、ひと、ヒト‥‥
くらりと視線がぐらつき、懸命に意識をつないで安全な場所をさがす。
三井住友銀行‥‥は。ありえない。監視カメラと警備員の餌食だ。なら雑居ビルは?
餃子の王将の入ったビル脇のせまい階段なら、踊り場で屈みこめば‥‥ムリだ。人が
降りてきたらジ・エンド。変質的な光景を言いぬけできない。
せめて着替えできる場所、着がえ‥‥って‥‥?
対岸に目が吸いよせられた。セールを示す太った俳優のポスターは洋服のサカゼンだ。
あそこなら、そう、試着室だってあるはず‥‥!
信号待ちのロスさえおしく、小走りで車道を駆ける。ほんの4歩でつまづき、胎内を
つらぬく衝撃に絶息した。白線上で足をつっぱらせ、はためくスカートの内側でどろ
りと愛液をこぼす。涙目で首をよじり、肢体をみせびらかすポーズで硬直した。
対向車をまって、ようやくわたりきる。
つかのま、店先でちゅうちょした。窮屈にあふれかえる衣類をかきわけ、ひっきりな
しに人が出入りする。しかもサカゼンは紳士服の店なのだ。女性客もいる、けれど‥
‥いや、タイムリミットが‥‥
ぎちりとセーラーカラーの布地で鉄鎖がしなる。優柔不断をあざわらう。
心を決めて前のめりでコートの森へ歩みだすのと同時、出てきたばかりの大学生風の
男にぶつかっていた。あっとおもうまもなく、後ろへおよぐ両肩をしっかり支えられ、
引きもどされてしまう。
本能的に身を揉みねじったが、転ぶと勘違いした男がいっそう強く躯を押さえつける。
「うわっ、ゴメン‥‥本当、ケガしてないよね?」
「あ‥‥」
なにを口にしたかは、おぼえていない。
肩が自由になるとすぐ、私は体をひるがえしていた。背後からの声はもう聞こえない。
ころがるようにサカゼンの前から走りだす。
フルボリュームで心臓が鳴りひびき、頭が真っ白だった。高手小手のためバランスが
とれず、左右の胸をゆさぶる淫靡な足取りになってしまう。
囚われたことがショックだった。たいして鍛えている風でもなかったのに、彼の手で
両肩をぎゅっとつかまれただけで、私は抵抗を封じられていた。あのていどの力で、
私は自由の衣を奪われ、男の手に堕ちたのだ。
おびえるまま、多感な少女の防衛本能でもって、逃げだしてしまった‥‥
だが、いまは時間のムダを悔やむ猶予さえおしい。
またも足はジュンク堂方面へむいていた。男ばかりの吉野家にびくっとし、カフェ・
ベローチェの狭さと密度に肩をおとす。女子高生が1人でもぞもぞしても目だたない
場所が必要だ。べつに、建物じゃなくても‥‥
「‥‥!」
路地を挟む2店舗のはざまから公園の鉄柵がみえ、カラダがかしぐ。あそこなら‥‥
だが、路地へ歩きだした瞬間、ビリッと短い電撃が下半身をつき崩した。
「かッ、は‥‥ァ」
体内がひくひく脈打ち、深く噛みしめるお尻の穴がアナルフックをしゃぶりつくす。
指先で肩胛骨をかきむしり、どうにか理性(じぶん)をとりもどした。
これ‥‥これ、警告、だ。
エスケープ嬢がエリア外へ10メートル近づくごとに警告の低周波が2度ながれ、実際
エリアから出てしまったら、ペナルティの電撃に裸身を犯されるのだ。
近づくにつれて思いだす。たしかにあそこは公園だ。いつも人気がなく、遊具とベン
チがあったはず。今も公園前のガードレールのあたりは閑散としている。
あそこ、あれはエリア内? 外? どっち?
あたまがもうろうとして思いだせない。思いきって入ろうとガードレールをまたぐ。
「いぎッ‥‥イッ‥‥!!」
2度目の警告は、抓られたような衝撃だった。
アナルフックどころか、拘束によろめく奴隷の全身をじかに流れぬける電気ショック
で、悲鳴よりはやく女のソコが抜けていた。
バックからの力強い一撃。
ぷるんとそそりたてるヒップを、電気の爪にぐいぐい揉みしだかれ、抽送そのものの
擬似的な信号に、ドクンと、女の腰が淫らに前へつきだされてしまう。
強制的にぱっくりくつろげられたクレヴァスも同じ。
外気にふれてすうすうするソコで、大きすぎるクスコのふちを噛みしめ‥‥
まあるい鉄のリングで色羞く女のヒダすべてを晒しだすお○んこ全体を痙攣させ‥‥
冬服の裏地をこすりあげ、きゅんきゅんに勃起してた乳首まで強くひねりつぶされて、
声もだせず、意識がまっしろにはじけて‥‥
無慈悲に、容赦なく反逆のお仕置きをあたえられて、イクっ、イっちゃ‥‥
イッてしまう‥‥
すがるものも、自身をつなぎとめる相手もない。高々と吊りあげられた手首を、シラ
ウオのように波うたせ、黒セーラーの下でギシギシきしむ不愉快な革ベルトを貪欲に
味わいながら。
ガードレールをまたぐおかしな姿勢のまま、腰をよじりたてて、イかされちゃ‥‥
無慈悲に、容赦なく反逆のお仕置きをあたえられて、イクっ、イっちゃ‥‥
イッてしまう‥‥
イクっ‥‥いやァ、最悪‥‥なのに、またっ、またいクッ、もっとイクっ、ココロが
溶けちゃ‥‥っ‥‥!
ぎしぎしと腰をグラインドさせ、はためにはまるでオナニーそのもので。
たっぷり、10秒はしびれ、動けなかった。
ガードレールにまたがり、海老ぞりで呆ける女子高生の拘束姿はさぞ見物だったろう。
白昼の池袋の、それも通行人だらけの路上で。
行きかう人々から不審な視線をあびせかけられて、ひとり濃厚なアクメをむさぼり、
本気で自失してた‥‥
後ろめたさで、カラダがのろのろとしか動けない。
この瞬間が、もっともあやうかった。
黒髪のヴェールがみだれ、手枷と指錠がのぞいていたのだ。それどころか、プリーツ
スカートまでがまくれ、白桃のつややかな割れ目と、お尻ふかくもぐりこむ革ベルト
までが晒されていたのだから。
かろうじてガードレールをまたぎこす。ここで2度目の警告なら、公園の入口近くは
ぎりぎりエリア内だ。なら、木陰で足首のカギを‥‥
そこで、入口がないことに気づく。
小高い鉄柵の檻のむこう、すべり台とベンチがわびしく佇む。なぜ? どうして?
左肩を柵をそわせながらよろけて進み、ようやく理解した。
フェンスに掲示された工事の看板。数年がかりの整備工事中で、立ち入り禁止らしい。
ほんの数年で都内は様変わりする。つまりそういうこと。またも時間をロスしたのだ。
――痛恨のミス。
とりもどせるか、この数分を‥‥?
ひきつる指先で、のろのろとピッキング用具をにぎりなおす。
公園がダメなら戻るしかない。でもどこへ? サンシャイン通りはマズい。人が多す
ぎる。しかも学生や若者が多く、ナンパ目的でうろつく連中も多い。
――ルートと手順ぐらい決めた方がいいわよ、リリィ――
ニアの台詞を思いだす。
なぜジュンク堂方面に来たのだろう。本屋に入りたいのか‥‥本屋、ジュンク堂‥‥
7F建てで、ビル丸ごとがブックストア‥‥
唐突に、力がみなぎった。腰の疲労を無視し、足を早めていく。スクーターをよけ、
カップルをかわし、さりげなく男子高校生の一団をやりすごす。
公園ぞいの路地を右折すれば、外壁一面の窓ごしに雑誌をめくる人々がみてとれる。
生乾きの太ももの気持ち悪さも、スターバックスのテラス席からそそぐ無遠慮な目も
気づかぬふりで、ショーケースのように混みあう1Fフロアへ入っていく。
あせりと緊張で、意味もなく指をひらいたり閉じたりする。
むろん、黒髪に隠れて、その仕草もまわりに見えていないだろう。けれど、通学鞄も
もたず両手を背中高く折りたたむポーズそのものがおかしいのだ。
極力さりげなさをよそおって手すりに背をおしつけ、エスカレーターを上がっていく。
3Fの文庫フロアで降り、店の奥‥‥女性用トイレに向かう。
ここなら‥‥
池袋の対象エリア内。人気もない。安心して作業ができる。
カギのまかれた右足の革靴を半脱ぎにして、すぐ作業できるよう準備する。
入口に設置された本の一時置き場がからっぽなのを目にし、そのまま個室にむかって
大股に2歩目を踏みだした、その刹那。
「う、くっ、ヒィッ‥‥ィ!」
うそっ、嘘、でしょ‥‥
またしても電撃で乳首を揉みほぐされ、びくんびくんと弓なりに胸がそり返っていた。
のどを詰まらせ、快楽にのたうつシルエットが、ロッテリアよりひとまわりは大きい
ジュンク堂書店の化粧鏡にアップで写りこんでいる。
フレームごしの理知的な瞳が、悩乱しだす私自身をみつめた瞬間、きゅんと切なげに
すぼまってしまう。ダメよ、やめてリリィ‥‥ナルシストにもほどがある‥‥内心で
さけぶが、すでに遅い。

虐めぬかれている自身をみて、もっとひどい目にあわされたいと願ってしまう――
めちゃくちゃに、晒しモノになりたい、だなんて――

わたし、そこまで変態じゃ‥‥ン‥‥っちが‥‥
いやっ、イヤぁ‥‥いま、今はイきたくなっ‥‥ンァっ、ぁぁ‥‥っ‥‥、
露出調教でイクことをおぼえたばかりの躯はビンカンで、あっというまに息もあらく
達していた。
なんども伸びあがり、爪先だちでフラついて、指先をうごめかす。
ひくひくとお尻の穴であまい背徳感をかみしめ、けれど、イきたがる心を圧殺する。
「ウソ‥‥みてるでしょ、ニア! どうしてっ!?」
暴れたはずみで脱ぎかけた右の革靴がころげ、靴下ごしの冷たい床にふるえあがる。
混乱したまま首を左右にふり、無人のトイレをみわたした。問題はない。身バレした
わけでも、ルールを破ったわけでもないのに、

どうして、お仕置きをうけさせられているの、私は‥‥っ!?

切迫した気持ちのまま、インカムにささやく。
「ねえ、聞こえてる? 私、どうして罰を受けてるの? 見えているんでしょ、同じ(・・)
視線で私の痴態を撮影している(・・・・・・・・・・・・・・)んだから!!」
こぶしを握り、上半身を鏡にのりだしてメガネをにらむ。超小型CCDカメラ内蔵の
sメガネを。うたがう余地もない。立会人のニアは、フレーム内蔵の視点からルール違
反に気づき警告してきたのだ。
そして、どれだけ叫んでもニアはこたえない。助言、アドバイスもルール違反だから。
ニアが正しいのなら、致命的な見落としがある。このまま個室に駆けこめば、きっと
それだけでエスケープ失敗とみなされてしまうほど重大な違反。
個室‥‥
ぞわりと、服の下で裸身がとりはだだっていた。
個室――それも女子トイレの。そうだ。なぜ気づかない。これは明快なルール破りだ。
女子トイレは自縛のスタート地点なのだから、そこがOKならエスケープ嬢は一歩も
うごかず密室で縄抜けできてしまう。
ほんの30分前、エスケープ開始直後にニアと会話をかわしていたのに。


『知ってるでしょ。女子トイレ個室でのエスケープはNGなんだよ』


急速に、ルールを思いだす。
今回のトライアルでの追加条件は、鏡のまえでピッキングを行うこと、そして、女子
トイレ個室の使用禁止‥‥だ。
足音が近づいてきて、はっとわれにかえる。
あわてて転がった靴に駆けより、右足をさしいれてトントン爪先を押しこむ。間一髪、
靴を履くと同時に、人なつこそうなおばさんが入ってきた。やむをえない、一度外に
でるしかないか‥‥
「あら」
おばさんが声をあげ、床からなにか拾う。困惑ぎみにかざすのはチェーンの輪っかに
つながれたカギだ。視線が、こちらにからみつく。
「これ。落ちていたんだけど、心当た‥‥あなた、大丈夫? 顔がまっさお‥‥」
「‥‥いえ」
はたして、声を出せたか、どうか。
ぎくしゃくと、さびた自動人形の動きで身をねじり、震える足でトイレをあとにする。
自己主張をしたがる親指にとらわれの身をしつける刃を食いこませながら。
言えるわけがない。
このカラダ、この状況下で、あの女性に頼むこと。それ自体が身バレそのものだ。
彼女が掲げていたのは、私の指錠をはずす唯一の――カギ。


タイムリミットまで30分を切った、ジュンク堂の文庫フロア。
もっとも困難な後ろ手拘束のサムカフをはずす手段は、この瞬間、うしなわれた。



                 ‥‥‥‥‥‥‥‥



他人の手で施錠をほどこされる一瞬、いつも、心が震えだす。

『‥‥アキュエールさんですね、初めまして! あたしは露乃(シノ)っていいます』
『ふふっ。楽しんでいってね。女子は希少資源だから』
『あは、ならリリィさ‥‥じゃないアキュエールさんが一番レアメタルですっ!』
シャギーを入れた頭が跳ねあがり、彼女が笑う。
表のSNSでのオフ会――リリィではなく、本来のハンドルネーム『アキュエール』
としてのオフ会で、彼女は私の目を惹いた。
垂れぎみの甘え上手な瞳ながら、まゆがきりりと太い。手入れはされているので彼女
自身の選択だ。そのアンバランスが童顔じみていて、けれど不遜な相貌なのだ。
女同士の親しみをこえた熱っぽいまなざしを注がれ‥‥
ひとめで気に入った。だから、1次会で隣に移動し、いつものように口説いていた。
後見人きどりで肩をすくめるニアのあきれ顔など知ったことか。
あくまで、私なりの経験則、だけど。
かわいい子、それも、カギ開けやエスケープなどに興味をもつ子ほど、マゾが多い。
ピッキング愛好家・ロックスミスのコミュは、不思議とエスケープに魅せられた女子
ばかり。みな、施錠され、はく奪される夜を待っている。
‥‥まあ、コミュ全体をそちらへ誘導している私の影響も大きいのだろう。
この時もそう。
肩を抱いたり、冗談で胸をさわったり(『大きいね、うらやましいなぁ』)スキンシ
ップの判断はGO。こっそり持ってる手錠を後ろ手にかけてあげたり、逆に嵌めても
らって解錠までを間近でみせてあげ、気分がたかまったところで耳打ちした。
2人きりで抜けださない? と。
かるく照れをのぞかせて、彼女は赤くなり、こっくりうなずいた。
コミュの管理人、あこがれのアキュエール姫とデートなのだ。悪い気はしないはず。


「いまからなにをするか、わかる?」
ベッドのふちにすわり、バスタオルを巻いてふるふる首をふる彼女。少し作っている
雰囲気があるが、自分を魅せる仕草は充分かわいい。
「私とあなたで賭けをしたいんだ。すごくえっちで感じるゲームをさ」
「えっ、え、えぇ‥‥っ」
酔った瞳を羞じらわせるシノの前で、革製のベルトと金具で構成された、女の裸身を
あやしく彩る小道具を2着分、取りだす。
「な、なんです?」
「見てのとおり拘束着。私とあなたの。おたがいこれを着せてエスケープ対決。先に
エスケープするか、相手をイかせられたら勝ち。勝者は、敗者を3日間、好きにして
いいの。どう、こういう趣向は?」
彼女が4日分の有休をとって上京してきているのは確認ずみだ。
「ダメかな? 同じ拘束を施されて同じ条件でのエスケープ。あ、ハンデもあげるわ」
太いまゆがおもしろいように動く。
リスクとリターンを天秤にかけている証拠だ。
「そ、それって、あたしが勝てばリリィさんを3日間ドレイにできちゃう?」
「ええ‥‥本当、悪いね。賞品がものたりないよね、きっと」
かるく媚びを含んであやまってみせると。彼女はあわてたように顔の前で手をふった。
「で、でもドレイって、どこ‥‥どういう」
「ドレイは奴隷だよ。ご主人様に絶対服従の。SMの奴隷をイメージしてくれれば。
なにを命じられても、私は逆らわないわ」
「やあァ‥‥すご―い。本気の賭けですね。テンションあがっちゃいます」
おもわず笑っていた。予想どおりだったから。
彼女の瞳に浮かぶのは攻めなぶられる哀れな私。本当のこの子はSなのだ。コミュの
高嶺の花アキュエールを、凛とした姫を、蹂躙したくてうずいている。けれど、その
ためには心とうらはらのプレイで、あえて奴隷に身を堕とさねばならない。このジレ
ンマこそが私をくすぐるのだ。
窓辺に歩みより、さぁっと、夜のカーテンを引きあける。
ホテルの高層階特有のきらめく夜景の海が一面ひろがった。煌々とした屋内は、周囲
のビルから浮かぶ孤島か。さぞ丸見えだろう。
「じゃあ、私は慣れてるから。まずはシノに着せてあげる」
「‥‥んっ、はい。受けて立ちます」
バスタオルが床に落ちる。プロポーションには自信あるけど、この娘はもっとすごい。
たぷんと量感あふれる胸が、細いウェストをきわだたせる。
おそろいの黒い首輪。革の拘束衣。二の腕の上下にはめた腕枷とバージスラインの革
ベルトをつなぎ、乳房をひずませ、左右の脚それぞれを折りたたんでから太い足枷で
きっちりと自由をうばう。全身くまなく拘束衣で絞りたてていく過程だ。
「どう? シノはこうして虐められるの、初めて?」
「し、しりませんっ! 私は逆で‥‥っ‥‥」
責める側とでも言いかけ、あわてて台詞をのみこんだのだろう。
顔をあかくする彼女の後ろ手をひねり、首輪の裏から下がる鎖まで手首を吊りあげ、
キキッと手枷のベルトをしぼって施錠する。
そのまま、なじんだベルトを這わせ、みずからにも革拘束をほどこしていく。
最後に腰をよじり、あらわな背中をシノにむけた。
「ね、ここ‥‥自分じゃうまくできないの」
いまはまだ自由な左右の手首をぱたぱた動かし、施錠によって完成する、脱出不能な
後ろ手縛りの手枷をみせつける。
返事はない。つばを飲むシノのせわしない呼吸ばかりが、ベッドルームにひびく。
「だから、ね‥‥シノの後ろ手で、うんときびしく、緊めあげて、欲しい‥‥かな」


しばらくのち。
ちょこんと正座させられた2匹のメスが、瞳をきらめかせてベットでむきあっていた。
つきあわせた膝をひらき、それぞれいやらしい部分にのみこんだ張型をみせびらかし、
乳房をたわませ、背中高くで両手をひくつかせる。
正座というか、M字に足を折りたたまれたまま膝と足の指先で立つ蹲踞のかっこうだ。
真剣な目をからませるさまは、武道家の立ちあいさながら。
違うのは、ふたりともなにもできないぐらい裸体を絞りだされた奴隷のカラダなこと。
ほっそりした双方のうなじは首輪のリードでつながれ、にげだせない。
発情期のメスをありのまま晒されて。
鎖骨のくぼみ、乳輪のつや、勃起した乳首の尖りぐあい、革ベルトでくびりだされた
おっぱいの描く歪んだ曲線美までもおたがい見せつけあい、羞じらう顔をかくせない。
ふたりの生足がおりなすデルタ地帯の中央にはピックとテンションが二人分。
「じゃ、はじめようか‥‥3・2・1、スタート!」
朱を羞す2つの裸体がベッド上で大きくおどりかかり、からまりあって沈みこんだ。
シーツの海へもつれ、窮屈そうにのたうちながら道具へ手をのばす。
だが‥‥
「あっ、ちょっ、シノ‥‥暴れちゃ、私のピッキング用具が、あンっっ‥‥」
一瞬のためらいもなかった。
シノは工具ではなく熱をおびた私の胸に飛びかかり、ちゅうちょなく唾液をまぶした
舌先で乳首をねっとり吸いあげてきたのだ。
いきなりの快感にバランスを失い、ベットの海へ押したおされる。
同じM字開脚に縛りあげられている下肢をシノは器用にあやつり、私の下半身を大股
開きにさせると同時、おツユでとろとろのクレヴァスめいっぱいに咥えこむディルド
ーの底を、ぐりりっと左膝でノックしたのだ。
子宮のとば口まで深く男のモノを突きこまれ、どろどろのヒダを甘く擦りたてられて。
拘束具と南京錠をはげしく奏でながら、全身がひきつり――
「ヒァ、ぁっ、ンー!!」
かろうじて‥‥かろうじてこらえ、イく寸前でふみとどまった。
拘束に食い緊められた手首が痙攣し、ぬれそぼった下腹部から、ぱたたっと雫がとび
ちり、革ベルトでがんじがらめのシノの太ももを濡らす。
「あは、リリィったら、すごーくかわいい声。頭がしびれちゃいそう」
「‥‥っく、リリィと呼ぶなって、何度いえば」
「うふ、リリィ嘘ばっかり。ゲームしよう、だなんて。あたし、知ってるんですよ。
これ、『()』のルールでしょう? 本物の奴隷をつくる(・・・・・・・・・)ための」
「なっ‥‥」
「違反じゃないですよね。相手の邪魔しちゃいけない、なんてルール、ないんだから」
ふいに。
太いまゆの下で瞳が怜悧に細まり、瞳孔が私を射抜いた。
ゾワリとした悪寒が裸身をつらぬき、高手小手に括りあげられた手首がシーツの海の
なか、ビクビク跳ねおどってしまう。
「72時間も連続調教されたら、きっと人格崩壊しちゃう。だから、リリィがリリィで
いられるのは、今夜が最後です」
「それが分かって賭けにノッたのか。いきなり卑怯な手をつかうね」
「ふふ、好きに言ってください。リリィは今夜からあたしの奴隷になるんですからぁ」
ぞわりとしたわななきがこころを震わせる。
敗者にあたえられるのは苛烈な罰。
3日間、睡眠から排泄まですべて支配される完全調教。人格をはく奪され、彼女に奉
仕するだけのモノになるのだから――
「あたしを奴隷にしたかったんでしょう、リリィ姫。でも残念。あたしを食べるつも
りが、逆に食べられちゃうなんて、ね」
「このっ、く、シノ‥‥やってくれた、な‥‥」
ウェストの横から後ろ手で、つかみとったピッキング工具をみせびらかすシノ。逆に
ひっかきまわされた私は、ピックこそ手にしたものの、テンションがシーツに埋もれ
みあたらないのだ。
そのうえ、私の革手枷に施されたハンデは、カギ4つ。
3つは南京錠。最後の1つが彼女のポーチについていた3ケタのダイヤル錠だ。一方
シノの手枷を縛めるのは2つの南京錠のみ。
エスケープ特有の緊張と焦り、いわく言いがたい灼りつきが神経をむしばんでいく。
こんな、このままでは私‥‥


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