トライアル7 その4

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マズい‥‥このままでは‥‥
冷や汗が額ににじむと同時に、ぎちりと革ベルトが裸身を緊めあげてきた。
拘束具に喰い緊められたマゾ奴隷の身。
バージスラインを押し上げて食いこむ革ベルトは2か所の腕枷をくぐり、噛ませ縄の
役をはたして、二の腕をぴったり肘までカラダに密着させてしまう。後ろ手は高々と
吊りあげられ、斜めに重なる手枷が4個もの南京錠をかき鳴らす。
鈴鳴りの施錠こそ、危うすぎる私のカラダそのもの。
はかないエスケープの希望をくだき、これ見よがしに後ろ手を痛めつけてくる。
「ンァ‥‥ん、もどかし、これっ‥‥」
一歩リードしたシノは、視認できない後ろ手枷をまさぐり、たわわな乳房をベッドに
なすりつけながら、お尻をふりたてての解錠行為に没頭している。愛らしくも無防備
なソレにみとれるゆとりなど、もはやどこにもない。
ぬらりと焦燥の汗が鎖骨までしたたり、白磁の双丘をながれくだっていく。
「シノ。させない‥‥っ」
「ひゃア‥‥!」
おかえしの口づけでつーっと内股をなぞりながら、くびりだされたおっぱいの弾力で
シノのお尻をおしやり、テンションに手を伸ばす。
だがその直後、腰をひねったシノは手枷を奏で、はずれた南京錠をみせびらかした。
「んッ‥‥リリィさん、間にあいますか? 私、あと1つですよぉ」
「やるね。けど‥‥ここからじゃない?」
ペット同士、首輪のリードでつながれたうなじをもたげ、しどけなく裸体をからませ
あって好戦的な視線をかわす。
気づけばシックスナインの形だった。べちょべちょのドテが視界にひろがり、彼女の
吐息もまた私のいやらしいソコをくすぐりだす。
対決の勝利条件は「エスケープ」か「相手をイかせる」こと。
この先は泥沼のキャットファイト、自由を奪われた牝2匹のイかせあいだ。
ぷるんとしたシノのお尻にはなづらをつっこみ、量感たっぷりの肉を押し拡げていく。
「ぁァン、そこ、違っ‥‥っ、ッッっ!!」
シノの『女』は、美味そうにバイブを咥えこみ、みちみちヒダを絡ませていた。匂い
たつクレヴァスのおツユをたっぷり舌ですくいとり、濃厚にからむ雫をひくひく痙攣
する最奥のすぼまりへ、ぞぶりと一気にねじこんでやる。
「ン、ひゃにが、ひはふっ、の‥‥?」
「おしっ、お尻のあなぁ‥‥舌を挿れたまま喋らないでっ、ェ‥‥」
切羽つまったあえぎににんまりした直後、背骨を灼きつくす官能に瞳孔がすぼまった。
「いギっ、あぁンんンンっっ!」
「リリィっ、こそ‥‥おひ、おひりから舌、抜きなさはいよぉ!!」
わずかな油断。シノの鼻先でゆれていた汁まみれのクリトリスをぱくんとくわえられ、
あろうことかコリコリ前歯でしごかれてしまったのだ。肉芽を摘まれる快感のえげつ
なさに一瞬でジュースサーバーの栓が壊れ、ディルドーの形にゆがんだオンナのふち
からぷしっとシャワーがほとばしる。
「ひゃん、ひゃァァ!!!」
「まけなっ、いじめるのは、あたしなんだか‥‥あウ、ンッッッ‥‥!」
エロすぎる声と声の二重奏。
どちらも太すぎるディルドーでクレヴァスを蹂躙され、おたがいの性感帯をこってり
嬲られて、引き攣った前足‥‥高手小手の手枷ばかりが奇妙につっぱっている。少し
でもマゾの悦びに溺れようものなら、ピックがぶれて解錠しなおしになるからだ。
「あまっ、甘いわねリリィ‥‥っ、ひぁ、ァアっん‥‥ひぃ、ン」
「い、イキそうな、くせ‥‥キャン!」
感じきったシノの声音は陥落目前。妖しくさそいかける罠そのもの。
きちりきちり革で凌辱された肢体は、放置プレイとかわらない。相手をイかせながら、
タンブラー内のロックピンをひっかく、かすかな手応えのみが頼りなのだ。
ベッドルームを悩ましい吐息がつつみこむ。
かさなる息づかい。秒針の音。そして発情した2匹の牝――くんずほぐれつ目まぐる
しく座禅縛りの体位をいれかえ嬲りあう――をしつける拘束具一式が、したたる汗を
吸いこみ緊まっていく革鳴りばかり。
相手の肩に鼻をすりつけ、ちろりと舌をだして誘いかけた。
挑戦的に唇を吊りあげたシノが、不自由な首をつきだし、舌をさしだす。
カラダの位置が遠すぎて、首をのばしてもディープキスにはいたらない。半端な距離
で、くちくち唾液にあふれた舌先をつつき、こねまわす。
「んっふ、快楽ぜめなら、あたし、辛抱づよいですよ。勝てると思ってます?」
「ん‥‥くっ、シノっ、焦らしっ、んぁ、ア」
感覚が告げている。あと20秒もあれば、彼女がエスケープをやりとげるだろうと。
非常手段に頼るしかない、と。
だから。
「‥‥そう。なら、っン、本気でイかさなきゃ――ね」

そういった私は、両手を伸ばす(・・・・・・)と、彼女の胸をじかにやさしく揉みほぐした。

「はぁ、ァ、ヒァ‥‥ンンっっ」
がくんとシノがのけぞる。いま、ここしかない。首をねじり、よがり声を発しかけた
シノの唇を瞬時に完全にふさぐ。甘美なうねりを処理できずパニックにおちいった口
腔をむりやり拡じあけ、みっちり封したままグチャグチャに粘膜を攪拌していく。
にげまわる舌を絡みとり、歯の裏までしごきあげると反応がすさまじい。
太いまゆの下で、たれ目がどろりと焦点をうしなっていく。
出せない声のかわり、ほとばしったアクメの洪水を下腹部にあびながらも、弓なりに
何度も痙攣をくりかえすシノの絶頂すべてを飲み下し、ぽーっととろけたシノの唇に
ひとさし指でふたをする。
腰をはずませていた彼女は、状況に気づき、じょじょに青ざめはじめた。
「ウ、ウソよ‥‥」
「なにがウソなのかな、シノ」
肩から肘まで裸身にくくりつけたまま、まだ手枷のはまった指先でシノのおとがいを
つまみ、支配しながら頬をよせた。触れるまぢかで唇の温度を味わい、熱っぽい瞳を
からませあって、ふたたびねっとりした口淫で彼女を奪いつくす。
「あふ、ン、リリィ‥‥」
「イッて、しかも、エスケープにも負けたんだ、シノは。文句なしだろう?」
取りあげたピッキング用具まとめてベッド下へ投げ捨てると、上体を起こし、背中を
みせてやった。
自由をとりもどした二の腕から下を。ころがる南京錠とダイヤル錠の束を。
「あ、う‥‥これだけベッドがきしんで、衣ずれもひどいのに、どうやってダイヤル
錠をはずせたの? ピックもテンションも役立たず、セサミデコーダーさえなくて」
「指で、数字のすり減りぐあいをたしかめたの」
シノは呆然となり、声をうしなっていた。
その頬をつーっとなぞり、つややかな唇をあごがくたびれるほど大きくひらかせる。
「あぅ‥‥ひ、ひったいなにぉ」
「いいから。おもいきり口を開きなさい」
チェストに置かれた緘口具――イマラチオ用の巨大な鉄製リング――をつやめく唇に
ねじこみ、奥歯深くまで噛みこませてから頬にあたる革紐をぐらぐら梳きあげ、鼻梁
の脇から頭のてっぺんを通して、ぎりりと顔全体を拘束した。
おびえと媚びと甘えで混乱し、所在なくリングから舌を垂らす少女へと薄くほほえみ
かける。
「私の勝ちだな。かわいい子猫ちゃん」
「‥‥へぁっ!! ンンッ!」
「今夜から3日――いっぱい壊してあげる、露乃(シノ)。期待してて」
あきらめに瞳を伏せ、すり寄ってくるシノの腰を抱きよせ、手枷を調べる。抜けかけ
たピックの感じからみて、ギリギリの勝ちだった。追加として、両手首に丸い拘束ミ
トンをはめて指先まで使えなくし、固くきびしく、施錠しなおす。

――今でもおもいかえす。
――このとき‥‥私は本気だった。

理由はシンプル。彼女との遊技とは別に、私自身も賭けの対象だったからだ。
合意づくのエスケープによる賭けは、私たちのコミュニティでは絶対だ。だからこそ
露乃(シノ)も私をモノにしようといどんできた。
その裏で行われていた賭けの相手は、いわずとしれたニア。賞品は6日後にひかえた
トライアルの制限時間をどうするか。私が勝てば45分。負けたら30分。
一面の夜景ごしに、向かいの高層ビルからまたたくニアの合図を目に留め、なりたて
の新米ペットにむきなおる。
「‥‥たしか、私を奴隷にしたかったんだよな、シノ」
「ひっ、ひあいまふ‥‥あたひっ」
はっきりおののき、ふるふるかぶりを振るシノ。本当、ひどくいとおしい。
不自由に膝を折りたたまれたまま手を伸ばしてカーテンを閉ざし、そして、もう一度。

「いいから。がんばったご褒美だ‥‥私を、たっぷり虐めてくれ」

両手をクロスさせ、背中の高みで組みなおした私は、おびえるシノにみせつけながら
あらためて南京錠を嵌めなおす。
その後ろ手のカタチも、さっきよりヒドい。左の手枷が右の二の腕に、右手首が左の
腕枷に。手枷をじかに反対側の腕枷へ括りつけられて、ひねりあげられた手首の甲と
上腕部がくっついてしまう。
転がる6つの錠前をフルにつかい、手枷、腕枷、首輪すべて‥‥自力では外しようの
ない自縛を、ひとつひとつ、火照りきった裸身に刻みこんでいく。
抜けだすための唯一のカギは、隣室の鞄のなか。
仮にいやらしい蹲踞のまま、どうにかつま先立ちの獣の下肢と膝頭だけで70センチも
のベッドの断崖から下りられたところで、すでに私自身もシノと同じく、ピッキング
不能なカラダへ蹂躙され終わった拘束姿なのだ。
隣室へ到達できたところで、人間用のテーブルに、ケダモノの指先が届くはずもなく。
「んぁ、キツ、ぅ‥‥い‥‥ッ」
二の腕をしびれさせる腕枷に酔いながら、確認するよう、ひくひく施錠後の後ろ手枷
をのたうたせ、死にものぐるいで揺すりたててみた。
腕枷にへばりつく手首は反転さえできず、肩甲骨に溶けて癒着してしまったかのよう。
期待以上の完璧な仕上がりに、私をさいなむマゾの懊悩とドミナの嗜虐が同時にわき
あがってくる。
おののきと戦慄にひろがったシノの瞳が、愉快でしかたない。
私とシノどちらも『嵌まり』、エスケープ不可能な緊縛姿に見えているのだろうから。
蹲踞で縛りあげられている両脚を上手につかい、裸足の裏で、シノの頭をぐりぐりと
ふみにじる。
「ほら、ご奉仕の時間だ、シノ。そのネコの舌先で、私を、心行くまでイかせて頂戴。
生意気な姫を、リリィを奴隷にして嬲りたかったんだろう? 今なら願いがかなうぞ、
ん? 私はもう逆らえないカラダなんだから」
「ぁ、うぁ‥‥」
「返事は『はい、ご主人様』だ。さぁさぁ、早く。いまの私は、オナニーもできない
カラダなんだ‥‥ただし、私が満足できなかったらどうなるか、分かってるね?」
「ひゃ、い‥‥お、しゅひ、はま‥‥」
うなだれた表情で這いよってくる彼女に愛情ぶかくドミナのまなざしをくれてやり、
自身の悦びに没入すべく、私は大きくひざをわりひらく。
「そのかわり――私が泣いても懇願しても、やめなくてイイ。私が気絶するまで徹底
的にイきまくらせてくれ」
背中を少しまるめ、お尻をつきだすようにベッドに沈みこむ。
高手小手の後ろ手枷がギリギリとたわみ、革紐につながれ、引きしぼられた肘同士が
苦しくくっついて呻きがもれてしまう。
むりやり開口され、鉄の輪っかから、せいいっぱい濡れた舌をのばして。
本物の奴隷へ堕ちたシノが、懸命に、姫の被虐をなぐさめようとすりよってくる‥‥


                 ‥‥‥‥‥‥‥‥


トライアル7には、はっきりした目的がある。
立案者は、私ことアキュエール――リリィと、ニア。2人は、企画者にして発案者に
して、共同の運営責任者でもある。トライアル7は、エスケーププロジェクトなのだ。
裏では金銭がうごいている。
SNSコミュニティメンバーは、そこまでは知らない。彼らは単なるめくらましだと
経理担当のニアは前にわらっていた。実務は彼女が仕切っている。
骨子はシンプルそのもの。
『シナリオも脱出プランもない、命がけのエスケープを現代によみがえらせる』
ことだ。
古来、マジックは見せ物であり、術者の命を対価にむちゃなイリュージョンが盛んに
おこなわれた。大衆にとって、ギロチンの公開処刑もエスケープ失敗での絶命も同じ。
かつてフーディーニやが引田天功が切り開いた命がけのスリルや慄きをいまの技術で
配信し、リアルタイムに共感させる。
自信満々のエスケープ嬢がパニックと絶望に染まり、堕ちていく課程をたのしむもの
――なのだ。
エスケープのルールも、そこから必然にみちびきだされる。


1.トライアル7では、エスケープ嬢が指定エリアで時間内に拘束状況からの脱出を
  おこなう。エスケープ嬢はパトロン(いなければ立会人)が決めた内容・条件に
  さからうことができない。
2.エスケープ嬢の拘束は、一般女性が物理的に脱出可能なものにかぎられる(NG
  例:溶接による拘束・コンクリートによる生き埋め)
3.時間ぎれやルール違反、または第三者にあばかれたばあい、トライアルは失敗と
  なり、エスケープ嬢はペナルティを課され、放置されて終了する。
  パトロンありのトライアルなら、エスケープ嬢は、終了後さらにディシプリンを
  課せられる。
4.トライアルを成功させたエスケープ嬢はひとつだけ願いをかなえられる。立会人
  とメンバーは、この願いを実現させなければならない。
5.立会人は女性にかぎられる。中立の立場ですべてしきり、運営スタッフを指揮、
  トライアルを執りおこなう。
6.立会人はエスケープ嬢を助けてはならない。これが破られた場合、立会人自身も
  同じ拘束・ペナルティを課され、次回のエスケープ嬢に選ばれる。ただしエスケ
  ープ嬢の命にかかわるケースは例外とする。
7.毎回、メンバーは1名にかぎりパトロンとなり、エスケープ嬢に個人的な報酬
  「リワード」と個人的な罰「ディシプリン」を提示できる。逆に、エスケープ嬢
  がリワードをかかげてパトロンをつのってもよい。
8.トライアルは動画でメンバーに公開されるが、エスケープ嬢をふくめ全メンバー
  は第三者にトライアルのことをいっさい口外してはならない。
9.上記ルールを破ったメンバーは「誰であれ」エスケープ嬢と同等の処罰を受ける。
10.トライアル7は全7回で終了する。


しかし、まさか‥‥
なじんだはずの私自身がまんまとパニックを起こし、生け贄にされてしまうとは‥‥
「‥‥‥‥ン」
2回目となるトライアルのリミットも30分を割り、追いつめられたエスケープ嬢は、
本を探すフリで書棚に右肩をあずけ、ことんと首をもたれかからせていた。ジュンク
堂の店内はしずかで、一面のガラスごしに雑踏がみてとれる。
「んっ、んくっ」
囚われの裸身をやるせなく本棚にあずけたまま。
疚しい思いで、何度も、上半身をすばやく揺すり、手首・親指をきゅんと振りまわす。
いくらきつくたって所詮は女の身を縛めるだけの拘束具。ぷっくりふくれた親指の先
さえ、んッ、この痺れる鉄輪をくぐってくれたら、それだけで自由になれるっ‥‥ん、
なの、に‥‥
このっ、うれしそうに噛みついて、親指、ずーっといやらしく疼いてて‥‥んっ‥‥
連動するアナルフックまで犯してくる‥‥こんな刺激いらなっ‥‥ンァッッ‥‥
キン‥‥チキ、キ、カチャン‥‥
浅ましくも身もだえる反抗心が、澄みきった音色に耳ごと犯されていく。
ハートの錠前をかき鳴らす手枷はじぃんと麻痺し、指錠が灼けつく痛みを訴えるのだ。
これらは無茶な逃走の対価。
中年女性の好奇のまなざしを避け、気づけば2Fまで移動していた。
ずらりならんだ手品の教本に唇をゆがめる。この手枷指錠付の肢体をどうにかできる
本でもあれば、10冊でも買ってやるのに‥‥むろん、このカラダでは手に持つことも、
書棚からとることも叶いはしないのだが。
きゃしゃな制服の手首を高々と吊りあげる、精緻になめされた革手枷。
ラチェット付チェーンは首輪を緊めあげ、エスケープ嬢の反発もあらがいも許さない。
そしてなにより‥‥
手の甲をかさねて溶接された、親指同士の疼痛ときたら。
トライアルの最難関、指錠を外せる唯一のかギは、いまや、どこにも存在しない。
ブックストア特有ののおだやかなBGMが、あきらめを助長させる。
このまま奴隷へ墜ちていけたらどれほど甘美だろう。
私物はコインロッカー、手枷指錠南京錠のスペアキーは決して後ろ手でとりだせない
セーラー服のスカートの中。どうにか帰宅できてもマンションはオートロック、ニア
からも見捨てられ、完全に詰んでしまう。
エスケープが不可能な以上、私はこのまま変態の自縛マニアとして警察に保護され、
とりかえしのつかない人生へ歩みだすしか残されていない‥‥
「‥‥‥‥いいえ」
それはちがう。トライアルはまだ始まったばかり。条件が揃っていない。満ちてない。
かりにみずから屈従し、奴隷をえらぶとしても、それは今ではないのだ。
とろんとした露乃(シノ)の瞳が脳裏にうかんだ。
ヒトイヌの拘束をほどこされ、四つん這いで、口枷から舌をたらす自由しか残されて
いないシノは、私のマンションでモニタごしに女主人の恥辱を見せられ、ショックで
太い眉をハの字に垂らしはしないだろうか。
「‥‥カッコ、つかないわね」
ぼそりと口にして、ようやく気持ちがいつものリリィへ立ち戻っていく。
なにも変わってない。心も技術も折れていない。この絶望的な縛めから、あざやかな
エスケープを決めてこそのリリィ。マゾ奴隷に墜とされるまで、あと28分「も」ある
のだ。ならば‥‥
女の芯をとろけさせる忌まわしい指錠の疼きを、もがく親指で何度もえぐりながら、
靴底をきゅっと鳴らして、エスカレーターで1Fへ向かう。
ジュンク堂はよくない。BGMばかりでなく、鎖や指錠をガチャつかせてエスケープ
するには静かすぎるのだ。個室で、鏡があり、一人になれる場所‥‥となればどこか
試着室やブースをさがすべき。つまり‥‥
首輪から吊られっぱなしで脱力した両肘をエスカレーターの手すりにあずけ、回復を
はかる。ワンレングスの下で指先をもぞつかせ、血行をとりもどす。きりきり痛みを
与えてくる拘束すべてがにくらしい。
膝上15センチのミニスカの裏、すうすうする丸だしのお尻をかばいながらジュンク堂
を抜けだし、排泄の穴を凌辱されながらの足を、小走りに速めていく。
汗みずくの白桃に食らいつくアナルフックが少しでも緩むよう、羞じらいをこらえて
胸を張り、ノーブラで浮かびだす黒セーラーの2つの勃起をしらんふりしてスターバ
ックスの前をわたりすぎる。
すっぽんぽんの下半身で池袋を走らされるスリルときたら。
卑猥な拡張リングで膣内(ナカ)までまるみえにされて。
うるみきった制服下の秘部をかばうことすら許されぬ、危うすぎる自縛の愉しみに、
えっちなオツユがさきばしってミニスカから太ももまで糸をひくのだ。
むっちり汗ばみ、はりつめる内もも。
ぷりっと肉感的なお尻のいやらしさを思わせてはじらう柔肌に、ツヤめいた黒のオー
バーニーソックスのゴムが食いこみ、拘束感をいやますのだ。
絶体絶命に追いこまれ、リミットが迫りくる。拘束済の女子高生はいまだ施錠を甘く
噛みしめたきり、縄抜けの希望など欠片もみいだせず、手枷指錠付のカラダを淫乱に
ほてらせ、もてあましたまま。
制服の下の露出調教。無数のカメラによる衆人環視のエスケーププレイ。
こんな、かつて夢想した悪夢そのまま、私自身が仕立てあげられ、悩乱させられ‥‥
これ以上ない最高のオナニーそのものなのだ。
エスケープ嬢にしか味わえない、たまらないセルフボンデージの快感。
状況に酔いすぎ、柱の陰からでてきたサラリーマンにぶつかりかけた。流し目を送り
さっと体をかわす視線が、ショーウィンドーに吸いついた。そこには、破滅の悦びに
おぼれまいとメガネの奥で険しく瞳をひそめるくせに、これみよがしに両手を厳しく
肩甲骨のあたりで交差させ、おっぱいをつきだす黒セーラーの少女が。
‥‥なんていじらしく、ツンとしてるんだろう。
‥‥うるみきったマゾの情欲になすすべなく翻弄され、後ろ手の手枷までギッチリ鎖
絡みで緊めあげられ、刺激に逆らうことさえできないくせに。
‥‥えっちなことなんか興味ないですって顔で、懸命に澄ましてみせて。
‥‥いますぐ、限界まで蒸らされたその乳首をめちゃくちゃにしごいてあげられたら。
「んぐっ‥‥ン」
ああ‥‥ん、だめ、そんな私、今、は‥‥
理性のブレーキはもう遅い。ゾクっとこぼれた嗜虐心のまま、黒髪のヴェールの内で
おもいきり後ろ手首を引き下ろしていた。鎖でつながる金属の男根に、そりかえった
湾曲ごとお尻のアナから腸壁まで一気につらぬかれてしまう。
うそっ、イヤァ‥‥お尻ィ‥‥ッ‥‥!
こんな、野外でのアナルセックスそのもの、されちゃってェ‥‥抜けな、深ッ‥‥
ナカで‥‥子宮までっ、変な方向に圧迫され、っ、ちゃ‥‥
「ひぐッ、ん、んんッ! ‥‥ァァあン!」
隠しきれない快楽のほとばしり。
つややかな吐息に周囲からぎょっとされ、前髪の下に顔をうつむけてしまう。
清楚なスカート一枚へだてて、深々とフックを咥えこむアヌスをべたつかせながら。
ほっそりした指でハートの南京錠をなぞり、細い鎖をきゅっと握りながら。
くぱぁと秘部をこじ開けられたまま、みっちり食らいつくリングをクレヴァス全体で
喰い緊め、腰が抜けるほど反応しちゃっている‥‥
感極まって爪先だったその右脚を、どうにか一歩先へふみだす。
よろめき、他人の視線でどろどろにとろけながら。
みとめるしかない。いまの私はまぎれもなく、トライアル7という牢獄につながれた
虜囚の姫。捕らわれ、いたぶられ、公開処刑のその瞬間を早く早くとせがむ緊縛奴隷
そのものなのだ。
――私自身さえもが快楽に堕ちたいま、残されたよすがはリリィとしての矜持のみ。
理性とプライドだけが、隷属したがる躯と心をおさえつける。
物陰でも、個室でも、なんでもいい。
ほんの数分、この雑踏の人目をさえぎれればいいのだ。
駐車場前を駆ける靴底がブレーキをかける。自販機にまざる背の高いボックス、あれ、
スピード写真の撮影機じゃないだろうか。あの中なら、脱出不能な指錠からのエスケ
ープを試せるかもしれない。つんのめるほどに期待で脚がはやまり――
「‥‥うぁ、あ‥‥なに、コレ」
――2秒後の私自身を、失意の底へうちのめす。
ボックス正面にかかげられた「EPOS CARD ATM」の文字。自動写真機と同じ個室タイプ
ながら、ドアはクリアガラスで、なかで行う変態的な自縛指錠プレイがまるみえだ。
ギジリと。
わずかな私の期待すら罰するため、細身のチェーンが後ろ手吊りの悩ましさを、革手
枷ごしにあたえてくる。ギザギザの指錠の刃でえぐられる親指同士の悦びときたら。
ダメ、こう、虐められつづけたら‥‥本気でおかしく‥‥なる。
希望を打ち砕かれるくりかえし‥‥まるで、放置プレイの調教、そのもの‥‥
ガクガクの膝を叱咤して、サンマルクカフェ前を対岸にわたる。キャンペーンガール
に制圧されたスクランブルを避けるコースで、高手小手にねじまげられた上体をさも
自然によそおいながらパチンコ屋の角をまがり、危うく女子高生の4人組グループ
をかわして‥‥
『なに、いまの子‥‥』
『なんかおかしくない‥‥すごく走りにくそう。なんで背中で手ぇ組んでるの?』
『アレ首輪だった。ちょっとやばくない‥‥?』
とおりすがる会話に足がすくみ、立ち止まってしまっていた。
気づけば、グリーン大通りから混成のセーラー服が路地へながれこんでくる。
彼女たちからすれば、鞄ももたず不自然に両腕を組むみなれない冬服の女子は観察の
対象になるのだろう。まして観察眼も鋭い。とっくに首輪を施錠するハートの南京錠
にも気づかれている。
『ねえ。なんか、マジで縛られてるっぽい‥‥ヘンタイ的なプレーの最中かな』
『拉致られて逃亡中とか。ケーサツ呼んどく?』
どのグループからも妄想めいたささやき声が聞こえ、アナルと連結させられた首輪が
びくんと緊まってしまう。手枷と指錠と鎖、3重苦の鉄の縛めを咀嚼させられている
生身がひきつり、硬直してしまうのだ。
この子たちに首輪でもさわられた瞬間、エスケープは終了する。電撃のご褒美を浴び、
なやましくも完璧な自縛姿をみせびらかしながら、最悪のアクメをむさぼることにな
るのだろう。
あまりにもあっけなく、ただ一つの拘束をほどくこともできずに‥‥
『心配だよ‥‥声、かけてみよっか』
あどけない中学生ぐらいの声がきこえた刹那、震えあがった裸身がはじかれ、背中を
つきとばされるかのように飛びだしていた。
「んっ、んぁァアッ!!」
ぐりりっと悦びにみちたアナルフックが腸壁をえぐり、いきなりのピストン運動に、
サーモンピンクの内壁までまるだしのクレヴァスから、本気のおツユがほとばしる。
「んっ、ひぁ‥‥っ、い」
ピックが掌からこぼれかかり、奇跡的につまみなおす。
石畳にひびかせ、駅前の大通りへとびだした。
革ベルトの下着で卑猥にしぼりだされたおっぱいを揺すられ、尖りきった乳首に裏地
が擦れてこりこりした官能を送りこまれ、乳房すべてがじいんと火照りだす。真っ赤
な頬を隠すこともできないまま、息をみだしてユニクロ手前のビル、巨大なロゴ看板
の目立つg.u.にかけこんだ。
「いっ、ンぐ‥‥っ、っは、はっ、‥‥はぁッ、ン‥‥」
フロアを行きかう女子大生やカップルが、いきなり駆けこんできた学生に目を向ける。
みられてる。観察されてる。わかっているのに――なのに――
「んっ、んんンッ」
先ほどのショックで不自由によがる躯が、絶頂が、とまらない――!
露出プレイの快楽さえいや増して、エクスタシーにおぼれた裸身がそりかえり、鎖を
鳴らして革手枷をふりほどこうと反射的に両腕がくねってしまう。
「ごほっ、ンーっ、んァ‥‥ゴ、ホッ‥‥」
おさえきれぬ情欲を必死にむせぶ呼吸でまぎらわせ、イキたい心を抑えつけるのだ。
じらされきった自身が、あわれでしかたない。
ギリギリの数秒をへて、ようやく首がうなだれ、世界に音がもどってくる。
「いらっしゃいませー」「ただいま2Fにて処分セール‥‥」「あとなにを買うの?」
「ニットワンピさがしてて‥‥」
「あー、そうですね、お客様のサイズですと‥‥」
BGMにアナウンス、雑談、店員とのやりとりでみたされた混雑するg.u.のフロアで、
OLやら女子グループの圧力をかわしつつ、前屈みになった不自由な身でひとり階段
をあがっていく。
ここなら、試着室にとびこんで縄ぬけを試せる‥‥はず。
踊り場で1Fエントランスのガラスに目を落とし、ほっと息を吐く。セーラー服の女
子たちも追ってはこない。そこまでヒマでなかったようだ。
小さく身をちぢめ、足をはやめた。
人波にぶつからないよう慎重に全身をあやつり、すばやく体をかわす。
足音や声を聞きのがさないよう緊張した。南京錠やチェーンがノイズをたてぬよう、
高手小手の上膊部をわきに密着させ、手首をひねりあわせて歩いていく。
店内の時計に、あせりが呼びさまされる。
あと25分しか残っていない。
2F奥のフィッテイングルームへ走りかけた足がたたらを踏む。混みぐあいから1F
より空いてそうだという見たては正しかったが‥‥奥のブースが空いてるのに、店員
がフィッティングルーム入口で番をしている。
「‥‥‥‥っ!」
もどかしい。目の前に空いた空間があるのに‥‥
飛びこもうにも、この身は試着着すらつまめない施錠姿だ。手ぶらで入れば呼びとめ
られるだろう。かりに店員に服をもってこさせても受けとれない。あやしい動きで、
変にうたがわれても困るのだ。
衣服をえらんでいるふりで自然に鏡ごしに店員を観察し、じりじり動く。
じっと耐えた数分後――
いきなり店員が試着室をはなれて奥の階段へむかった。別の店員が移動中のケースを
落としたらしく、叱りつけながら一緒に拾っている。
いまだ。ためらわず試着室へすすみ、左右3つづつの一番奥へ小走りで入りこむ。
束ねられたカーテンをめくろうとお尻をつきだしかけ‥‥
悪魔めいた現実に、不自然なポーズで凍りつく。
ウソ‥‥どうして‥‥
不運、どころか、あまりにもピンポイントすぎ‥‥
試着室のカーテンは、ただ垂れ下がっているだけではなかった。
店員が丁寧に束ねたらしいカーテンタッセルの端は、私の肩口より上、ムリヤリひね
りあわされた合掌縛りの後ろ手よりはるか高みの房掛けに留められていたのだ――
どうやっても、指先では届きえないカーテンの束が揺れ、エスケープ嬢をあざわらう。
1メートル四方のまるみえの監獄で、私はたちすくむ。


                 ‥‥‥‥‥‥‥‥


試着室の等身大鏡に、絶体絶命の女子高生が写りこんでいる。
衣装さえもたず、みだれたワンレングスの下から高手小手の緊縛すべてを‥‥入念に
施錠された革手枷と、その真上で背をむけた親指同士に噛みつくサムカフまでさらけ
だし、お尻をつきだして首輪付のうなじをひきつらせている半身を。
すぐ解錠に入るつもりで黒髪のヴェールをほどいていたため、すぐには隠せないのだ。
それだけではない。
ここまでの疾走と露出調教、公開処刑にも等しい焦らしプレイにより汗まみれの肌に
漆黒のセーラー服がへばりつき、卑猥でエロティックなCGさながら、乳房のライン
まるごと胸のカップが浮きだしつつあるのだ。
「う、うぁ‥‥」
しかも冬服の裏を走る亀甲縛りの革ベルトも、勃起した乳輪までぴっちり見えはじめ、
どこからどうみても、自縛マニアのヘンタイ女子にしかみえない。
ツヤ消しの黒い指錠が、ビクビクッと痙攣しだす。
事故の瞬間みたいに、加速した意識がもうろうとしはじめる。
店員がもどるか別の客が試着にくるまで、多くみつもってあと10秒。破滅まで10秒だ。
手は届かない。ジャンプはムリ。酷使したカラダがうまく動かない。
なら‥‥
すばやく壁に頬をすりよせ、唇をひらいてカーテンのタッセルを咥えとろうとする。
房掛けに上唇をひっかけ、かすかな痛みを感じつつもしゃぶるようにはさみとって、
大きく首をふる。
‥‥かろうじて、まにあった。
ふわっと私を隠していくカーテンの向こうで、ちらと、こちらをうかがう店員の顔が
見え‥‥そこでさりげなく背中をよせた私が、指先で一気に閉じていた。
とっさの判断だった。一歩おそかったら店員に問いただされ、そのまま身バレでエス
ケープにしくじり、あの場で強制的にイかされていただろう。
顔が赤くなる、どころではない。心臓がちぎれそうなほど、バクバク跳ねている。
すごい‥‥濡れてる、私‥‥
へたへた座りこみたいが、そうすればよりひどい濡れジミをミニのプリーツスカート
に残すことになるだろう。
足に力を入れ、あらためて浅ましい自身を鏡に――ひいてはメガネのCCDカメラを
通じてすべてのトライアル参加メンバーに――さらけだす。
淫靡そのもののカタチがこれだ。
エスケープ嬢が発情していると、どこからでもはっきりわかる状況だ。だが、私はこ
の卑猥な姿をオカズにして愉しむために個室を選んだのではない。
甘噛みされっぱなしの指錠に、ぐいっと力をかける。
この絶望的な縛めのコンビネーションを仕上げる最悪の施錠だ。カギをうしなった今、
ほかのエスケープ嬢ならすでに詰んでいるだろう。残された希望などない。
リリィ自身のピッキングだけが、たったひとつの可能性なのだ。
エスケープ過程を魅せる鏡があり、女子トイレではない個室。望みうる最高の環境だ。
官能にのまれ、ひどく冒涜的な気分のまま、指をぎりりと鳴らす。
左手の命綱‥‥ピックは持ち手の上下でカタチが違う。
片方はストレートで三角の突起があるタイプ、反対側は細いL字型だ。テンションは
一本きり。慎重に指でピックを抜き取り、左から右手にわたす。
絶望的に括りあげられたカラダ。

持ちてを4つの指でつまみ、反転させて、L字のさきが、指錠側にくるよう調節した。

利き手のひとさし指と中指でつまみ、微細な動きをコントロール。左のひとさし指と
中指の背をおしあてて、ピックをささえる。
さあ――
ここからが賭けだ。1/2の運命で、私の人生がおわる。
子宮が蠢き、きゅんきゅんと下腹部が疼きだす。すべてを破滅のふちにさらけだす行
為。なんて、なんて甘美なんだろう‥‥これだけで、イッてしまう‥‥
強くピックをにぎりかえ、クリアに意識をたもつ。
楕円プレートの指錠は片面にしか穴がない。手さぐりで嵌められたサムカフの鍵穴が
手首側、つまり下を向いていたら、その時点でエスケープは『嵌まり』なのだから。
エスケープできるかの前提条件すら50%。あまりに絶望的な窮地なのだ。
でも、だからこそ‥‥
等身大の鏡ににじりより、高手小手の手首をミラーにおしつけて‥‥
うなじをかたむけてワンレングスのヴェールをとりのぞき、不自由きわまる革手枷の
先、きらめく指錠を真上からのぞきこみ‥‥

――あった(・・・)。こちら側、つまり指の先端、上側をむいて並ぶ、2つのカギ穴を。

安堵か、落胆か。ぎゅうっと全身がしびれ、いやらしく下半身で奴隷の仕掛けを咥え
なおす。垂直に溶けた蜜のしたたる音さえ、耳朶をたのしませる。
ここからは精度を要する単純作業だ。本来、サムカフなんてもっとも単純なロックの
ひとつなのだから。
テンションがなくても、L字ピック一本で解錠できる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のだから。
4本の指をあてがい、ほとんど意味ある動きをさせられない器具を少しづつずらし、
ピックの位置をそろりと鍵穴にあてていく。
指錠のカギ穴は、上からは8の字にみえる。上下の輪のなかに鉄の芯があり、上側は
ダブルロック解除用、下の輪っかがロックの刃をゆるめる用だ。輪の直径が約4ミリ、
ピックを入れられるスペースは1ミリしかない。
もどかしすぎるカギ穴を求めて、ひくひく跳ねる囚われの指先でピックをまさぐり、
穴におとしこんで‥‥解錠方向にゆっくり力をかけていく。
呼吸さえ、なだらかに減らしていく。視覚だけでなくかすかな反発、擦過音、すべて
頼りだ。全身を過敏にし、あるべき歯を探ってピックをじわじわひねっていく。
気づいたのは、カラダが先だった。
――音ひとつたてず、指錠のカギは、あいていた。
右手の親指をふりほどくと、ギザギザの刃が跳ね上がり、狭隘な輪から自由になる。
慎重にピックを左手にもどし、反対の輪は左親指にはめたままで指錠の刃をとじた。
理由は単純。両方ともはずすとサムカフを持ち運ぶ手間が増えるのだ。
手首がわなないていた。
ぞくん、ぞくんと、達成感に、カラダが打ち震えている。
緊縛を噛まされ、後ろ手を高々と吊られっぱなしの苦しみにさえ、躯が溶けてしまう。
これほど潤みきり、倒錯したシチュのなか、私はなしとげたのだ。絶望とおもわれた
最難関のエスケープを‥‥悪魔の施錠を、食い破ったのだから。
(どう、ニア? 見えてるでしょ!?)
とほうもない昂ぶりに、鏡へと後ろ手をきっちり見せつけ、嗜虐的に唇をつりあげる。
「まだ、やっと指錠ってとこか‥‥んっ、んク‥‥この‥‥っ」
あえてくやしげにまつ毛を伏せ、つぶやいてみせる。
奴隷じみた首輪のつややかさに悩乱する。みじめで、屈辱的で、たまらない。
あえてギチギチ左右に上半身をくねらせ、手枷をカラダの外へふりだそうと身もだえ、
ぎりりと緊まる首輪にうっと窒息しかけてみせる。
すでに半分は解錠したも同じ。
あとは、ひねられている手首の感覚をつかみ、手枷にピッキングを仕掛けるばかり。
「ねえ、サナエ、こっちはどうかし‥‥」
そのときだった。試着室ブースの外から、声が降ってきたのは。

おびえた目で振り返るのと、ブースをまちがえた女子大生がカーテンをあけたのは、
ほとんど同時だった。


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