トライアル7 その7

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「‥‥‥‥ッ、ギ‥‥ンッ!!」
奥歯のそこでかろうじて衝撃を飲みほし、右手のピックをもちなおす。
あれから、2回の罰を裸身にあびていた。
52階でも人が乗りこみ、5人ほどがエレベーターケージで立ちつくす。他人が気にか
かり、おもうようにエスケープできない。
神経をむしばみ、灼きつくすマゾの懊悩がたかぶっていく。
むごい仕打ちを与えられ、低周波というにはあまりに重すぎる電気ショックを浴びせ
つづけられて、くるったように乳首が快楽の中継となって疼き、充血してむっちりと
張りつめるおっぱいすべてが性感帯となり‥‥
セーラーカラーの衿もとから、濃厚なマゾの、オンナの匂いがたちのぼってくる。
これじゃ、自罰的に野外露出でのお仕置きを愉しんでいるだけ――
30秒の感覚が、シビアすぎるのだ。
低周波によるショックが約10秒。よがりくるうマゾの愉悦から理性を奪いかえすまで
約10秒。結局、残り10秒のタイムカウントにおびえながらでは、ミラーをふりかえり、
最速の手さばきでも、南京錠にピックをあわせきれない。
『hednism』では、拘束され、片手だけの状況で、それでも解錠に11秒かかっていた。
あれより不安定で、しかも今度は後ろ手、ミラーの鏡像ごしだ。
そもそも、11秒の猶予があたえられない今、どうやっても焦燥にさいなまれ、作業の
指先がまにあわせるまえに電撃をあびてしまう。
「くっ‥‥」
悩ましく唇がゆがんでしまう。
このままではジリ貧のまま、リミットに押しつぶされてしまう‥‥‥‥!
「50階です。下にまいります」
電子音声のアナウンスと到着チャイム。ドアがひらく。
またも無人のフロアに、いらだった非難の視線がとぶ。ボタンを押した私もそしらぬ
フリでそちらを見やり、けれど意識はすべて冬服の背中がわだ。
どこまでつなわたりなのか、いや、タイトロープははこの瞬間からだと感覚がつげる。
操作パネルの点灯ランプはあと2つ。
49階、48階で乗り降りがなければ、ノンストップで1階まで、おおよそ80秒だろう。
そして、リミットは、あと78秒。

2秒、足らないのだ。

このままいけば、1階に降りたつ前にトライアルは幕を下すだろう。しくじっていた
場合、エントランスでドアがあくと同時に、イキくるう自縛マニアの姿をさらけだす
はめになる。
もはや、リスクを犯した賭けにでるしかない。
命綱となるピックを強くにぎってミラーをにらみ、高手小手のチェーンを束ねる南京
錠へ、すばやく先端をあわせていく。
押しこむのは指錠とおなじ、ピックの先がL字になった方だ。
錠前を鎖のたばに押しつけて固定、ハートの表面をカギ穴まですべらせる。
時間がない。次の電気ショックまで、3‥‥2‥‥1‥‥
ためらわず、南京錠のカギ穴にピックを差しこみ、おもいきり力をかけホールドした。
この状況で電撃をこらえ、次の十秒で解錠するのだ。
残り90秒の予告が来る‥‥っ‥‥
「ぃぎっ!!」
バヂッと、きつい衝撃が肌を灼き焦がしてゆく――
って、まさか――ローターも!?
強烈なスパンキングに引き攣らせた刹那、甘いしびれを広げさせるローターが、ヌル
ヌルに体液をあふれさす女の肉芽3カ所をじかに責めだしたのだ。
汗とオツユまみれでガッチガチに尖り、充血した両乳首とクリトリスを、同時に。
ローターは、ほんの数秒のみ。
くりくりっと突起をころがす振動もかぼそい。
でも‥‥だからこそ、電極の痛みに麻痺していた性感帯が瞬時にめざめてしまって。
ビクビクッと指先までつっぱり、左手の指で懸命にチェーンをたぐり、官能のしらべ
を理性でおさえこもうとする。
けれど、焦らされきった裸身にとって、ここが限界だった。
足がふらついて、鏡におしつけた上半身をのぞきこんでしまったのだ。
卑猥にひくつく自身のエロ拘束をみせつけられて、リリィに我慢できるはず、なんて。
あっというまに臨界点をこえたカラダが、陥落、して。

「ふわぁぁ、ンっ、ダメェ‥‥ひぐっァ‥‥ぁあンン!!」

しんじ、られない。
あっとおもった半開きのおとがいから、舌足らずな嬌声がオクターブも跳ねあがり、
蠱惑的なビブラートをのこして密室にひびきわたっていた。
脳髄をしびれさせる甘い誘いかけ。
一瞬にして、エレベーターケージが凍りつく。
冬の海につきおとされた気分。冷や汗がびっしょりセーラー服をへばりつかせていく。
呼吸が、うまく、できない‥‥
こわごわと、視界をあげていき‥‥ケージ内すべての乗客の瞳が、私一人だけに向い
ているさまに、ギクンと不自然に硬直してしまう。
ちがう、見ないで、そんな目で――
私に、かかわらないで――
「すっ、すみません‥‥あのぅ、放っといて‥‥気に、しないで‥‥ェェ‥‥」
「‥‥、‥‥」
「‥‥‥」
「‥、‥‥‥!?」
頭がまっしろ。耳が焼けるように熱をおび、まわりの反応さえ聞きとれない。
言いワケなど思いつかないほどうろたえていた。
消え入りそうな声で否定しつつ、必死に身をちぢめる。黒髪のヴェールをおろして、
高手小手のまま拘束された肢体を、腰までおおいつくす。
見られて、こんなに、視姦されてるなかでッ‥‥
せますぎる密室があだとなる。
まわりの不審な視線にさらされながら、カンを頼りに解錠しなければならない‥‥
ここまで淫靡な気配を放つ私が、見のがしてもらえるはずもない。バストトップを
あからさまに勃たせ、首輪を見せびらかしているのだから。
エレベータードアが閉まりだす。
48階を通過して、あとはとまらず一気に下降。速度があがっていく。
‥‥右手は?
ピックは、どうなっているの?
ぎょっとして指に力をこめる。さっきまで石膏のように固まっていた指が、ピック
から離れず、ゆすってもビクともしない。予感をおぼえておしこんでみる。
「‥‥っ!」
手につたわる反応‥‥忘れるわけがない。カギ穴をさぐっている、あの感触だ。
ならば、あとは外すのみ。目は閉じて頭のなかで南京錠の構造・座標をとらえ、脳
裏にイメージして、ピックをただしい方向へ返し、ひねっていく。
音はなかったが、確実なピッキングの手ごたえ。
さらにピックをおしさげ、解錠した南京錠を大きくひらかせた。背すじを波打たせ、
ひっからまっていた鎖をにがす。
危険をおかし肩ごしにのぞくと、チェーンの束がぬけ、南京錠が指錠にからまった
状況だった。
あとは、カラダをくねらせてチェーンをほぐすだけ。
ふたたびラチェットを閉じかける指錠の刃を、つるりと南京錠がすべっていく。
ホールドしそこなった南京錠が、落下していく。
「あ」
ヤバ、しまった‥‥!
失策だった。
ハートの南京錠が、ゴトンと鈍い音をあげ、床にぶつかる。
エレベーターの甲高い振動にまぎれているが、ちらりと数名がふりかえり、私の革靴
の後ろ側にころがるハートの南京錠におどろいたようすだった。
あたまが真っ白になる。
なぜ今なのか。次の電気ショック、リミット1分まで、あと10秒。
ふりかえった数名が私と足元で視線をうごかす間も、お仕置きへのカウントダウンが
すすんでいく。残り9秒。8‥‥7‥‥6‥‥
絶対に、ダメ。
今ふたたびアヘ顔をみられたなら、リリィは破滅する‥‥
とっさに焦りの表情をすりかえ、人の圧力におびえたっぽく、瞳をちらりと全員‥‥
とくに男性に投げかける。小さく身をすくめる真似も。
しぶしぶ、乗客たちの視線がそれていく。声がけをあきらめたらしい。
「っ、は…」
息があらい。かくごをきめろ。まにあわない。電気ショックが。残り1分を知らせに。
いま、‥‥いま、来るっ!
ゾクン――
子宮の底がぎゅうとすぼまり、蜜にまみれた吐息を、自分の肩におしつける。
ドクっ、と。深い収縮が、私をおそった。
‥‥えっ?
いままでと違う‥‥!?
一瞬のお仕置きがもたらす苦痛じゃ‥‥ないっ!
間隔のながい電気パルスが、ぐににゅっと乳房をつかんで揉みほぐし、わき腹をくす
ぐり、濡れたクレヴァスのとばりをチュクっとかきまわす。
巧みなマッサージを、たっぷり刺激をたくわえた柔肌にみっちりほどこされていく。
ダメ‥‥揉んじゃ、だめェ――
拡張リングをはめられたきり、物欲しげにみたされない、女のなか。
男性の太いエラ先っぽだけ挿れられ、焦らしプレイで掻きまわされている。これじゃ、
腰から下が挿入感をもとめ、おかしく、くねりだし、ちゃうっ‥‥
「ふっ、ひ、ふ、はァ‥‥ぅ‥‥ッ!!」
ウソ、こんなヒドイ‥‥
たかぶっているのに、感度あがっちゃってるのに。
みっちり愛撫のペッティングをほどこされて、私っ、軽くっ、イっちゃう、ぅ‥‥!
しかも、どんどん低周波のリズムが短くなってく‥‥揉みほぐしがさすりに、さらに
叩きへと、刺激がキツく、なって‥‥
下半身が溶けちゃって、ひとおもいにハメて、奥までッ、つらぬいて‥‥‥‥っ!
「ぎぃィ!!」
燃える頬を肩にこすりつけていた。おもいきり、鎖骨の上に噛みつく。
かまうものか。リアル女子高生のあえぎプレイより全然マシ。セーラーカラーを歯を
たて、くるおしくアクメをやりすごす。
ちらりとミラーを‥‥みやり、後悔する。みなければよかった。
後悔あとにたたず。
ふうふうと鼻息をあらげ、うらめしげな上目づかいでにらみつける女子高生がいた。
顔をじぶんの肩にうめ、全身をつっぱらせてイッてることを隠してるくせに、性的な
うずきに飲まれて、お尻をふりたてるのだから‥‥
むずむずと居心地悪そうにしている乗客に、かえってプレッシャーを受けてしまう。
息づかいも、衣ずれも、すべて聞かれているのだ‥‥
「ン、んはっ‥‥ひぅ‥‥」
ながい。
まだ、まだ電気ショック、とまらな‥‥ッ!
たっぷりとオツユをこぼし、真っ赤にのぼせさせて、ぷっつり刺激がとだえた。
ほとんどエスケープの意思がとぎれたまま、後ろ手だけが反射でチェーンをほどこう
と動きつづけている。
はぁ、はぁ、と隠れながら、大きく息をみだす。
信じられない。20秒ちかく、私、低周波に犯されていたのだ。
つまり、いまこの10秒後‥‥9‥‥すぐに最後の電撃が‥‥7‥‥来る‥‥!
後ろ手の手首で、身もだえしだす。
緊縛AVで、縛り上げられた女優がひたすら手首をこじるみたく。抜けだせるはずも
ない縄目をギシギシ鳴らすように。
あるいは、天空の城ラピュタで、縛られたシータが必死にもがく情景さながら。
音をたてないよう、上へ、下へ、左右にひねりたてるのだ。
チェーンがたるみ、腕がじわじわ下がりだす。もう高手小手ではない。腰の後ろまで
腕がさがる。肘をひろげ、手枷同士をつなぐ南京錠を、手枷の革ベルトに載せて安定
させてやる。
トライアル終了まで残り30秒を告げる、最後の通告。
電撃まで、残り、2‥‥1‥‥
左手でハートの南京錠をつまみ、ひらめく右手からピックの先端がはなたれる。
2ミリのカギ穴を正確にうがち――あとは、ひねるだけ――っっ
「っひ!」
視界が白く閃まっていた。
無音のまま、なにひとつ鎖さえ鳴らさず、ぴくんとのけぞってしまう。
クリトリスと、お尻のフックを、直通で。
まさかの、凌辱。
同時に、無機質な器具にサンドイッチされての2穴責め。
前後同時の電気パルスが、女の部分をつぶす勢いのショックをあびせてくる‥‥
カチり――
たしかに耳朶の奥で解錠のひびきを聞き、けれど。
下半身から煙がのぼっているかのようで、最大の苦痛に、セリフさえ失いながら。
「‥‥ン、ぁ‥‥っっ‥‥!!」
ただのひと声も発することができないまま、無限のアクメに堕ちていって。
背中を、ぎくぎく突っぱらせる。
濃厚なシャンプーボトルを、最後の一滴までしぼりつくすみたいに。
オンナのしずくを、汲めどつきぬバッカスの豊穣を、ひたひたあふれださせていく。
自分のカラダを、もう、信用できない。
ただの苦痛だけで、アクメの極みまで昇りつめてしまう‥‥いやだ、そんなの嘘‥‥
なのに、いっぱい唾液をためた口が、うったえている。
いつのまに被虐をたのしむまで、しらず調教され、開発されていたんだろう‥‥
脱力したうなじが、ぐるんと回転する。
よろりと鏡にもたれたまま、背中をのぞきこむ姿勢になる。
だらんと下がる両手首の革手枷、そのまんなかで、ツルのはずれた南京錠がブラブラ
していて‥‥
その重大さに思いをめぐらす猶予も与えられず、リリィの意識はとぎれた。


                 ‥‥‥‥‥‥‥‥


サンシャイン独特の、到着チャイム。ついで、無機質なアナウンス。
「1階です。ドアが開きます」
‥‥
‥‥‥‥‥‥え?
なにが、なんだか分からない。立っている事実におどろき、つんのめりそうになる。
エレベーターケージのなか。ほんの数秒、気をうしなったらしい。
トライアルに、勝ったの‥‥か?
わすれていたインカムから、不意に、彼女――ニアの声がひびいた。
魅惑的なアルトボイスが、淡々と事実をつげる。
「リリィの、負けよ」
「‥‥!」
ウソだ。うそ、そんなはずない。
外したのだから。解錠の音を聞いた。無意識の防衛反応だろう、意識を落とす直前に
メガネを通したCCDカメラではずれた南京錠を映してもいる。
まちがいなく施錠をはずしきったのだから。
「手首をみて」
「へ?」
切迫したささやきにおどろき、首輪の内蔵マイクへ問いかえす。
そこで、がばっと背中をふりむいていた。
からまり、のびきった細身のチェーンのそのさき。いまにもはずれそうな連結済みの
革手枷と、そのバックルのはざまで間抜けに引っかかったままの、半開きのハート。
ペナルテイをつげるエレベーターのドアがひらく。
ああ‥‥
タイムアップ、してたんだ‥‥
あきらめの呻きをこぼし、最悪の電気ショックにそなえ、全身をこわばらせた。
そうか。リリィはトライアルに失敗したのか。
紙一重の、ゼロ。
私が成しとげたのは、あくまで解錠まで。
このトライアル終了時、シャックルのあいたハート型南京錠によって、両手首はまだ(・・・・・・)
きっちりつながれていた(・・・・・・・・・・・)‥‥のだ。
あそこで南京錠を振り捨てていれば、私の勝ちだった。
ドアがひらき、さしこむ照明に、殺到するエスケープ嬢への罰に、そっと目を閉じる。
敗北者として‥‥受けいれる。
腰のボックスが不吉なうなりをあげ、激痛が全身をつらぬく。
こんどはすべて同時、乳房全体が、2つの乳首が、クリトリスが、お尻までも‥‥!

「あ、ごめんなさい、ちょっとゴメンなさいっ‥‥失礼しますねっ」

――へ?
意識がまっ白にはぜかけた、ギリギリのタイミング。
「ちょっ、ユキナっ。あんたどこ行ってんのよ、方向音痴にもほどがあるでしょ!」
「んんンっ、ひ、んキャ、ひぁっ、イッ、いクっっぅぅう‥‥」
旋風のごとく。
一陣の黒い風がとびこんでくるなり、ぎゅうと私の頭を抱えこんでいた。あふれだす
懊悩と被虐のよがり声が、さらに大声でしゃべる若い女性とその弾力ある――なじみ
ぶかい――胸の谷間に吸いこまれていく。
呼吸がつまり、嬌声がくぐもる。
ベージュのダッフルコートに、白のシフォンスカート。女子大生のよそおいなのは、
つい45分前までロッテリアで隣りにいた、トライアルの立会人にして、運営責任者に
して、私のパートナーの‥‥ニア。
「ひっぐ、ひぇやぁァ、おしり、おひりぃぃ‥‥っ!」
「もーこのバカ妹! ひとりで先にいくなって‥‥あ、ああーすみません、おじゃま
ですよね、でます、でますー!」
「‥‥」
かんぜんに場の空気がとまっている。
みるからにシスコン風味の姉と、さっきまで不穏な色気をただよわせていた妹の組み
合わせに毒気をぬかれ、だれも、なにもいえないのだ。
「ほら、咥えて」
「ひゃい、っふひぃ‥‥ッ!」
目をまるくする私さえおきざりにした超反応。
マジシャンの手管で、すばやく口にスポンジボールをおしこまれて悲鳴をうばわれ、
ニアのうでに、ボリュームありすぎる胸元におもいきり顔をうずめた直後。
冷静そのものの台詞が、耳をえぐっていた。
「ほら、もうイっていいよ‥‥リリィ。私だけの、かわいい奴隷」
「ンンッ! ひぐぅぅっっうっっ!!!」
耳たぶをかまれながらの囁きに、電気ショックでくるったカラダをぎゅっと凝結させ、
全身全霊のエクスタシーに痙攣しはじめて、のびあがったまま、腰とお尻をぎゅっと
抱きしめられたまま。
まだ鎖のからまる腕をだらんと下げ、手枷付の後ろ手を、一本の棒につっぱらせて。
ぐっちゃぐちゃの、ニアへの愛情に――
人生おわらせるはずだったペナルティを、彼女のうでのなかで。
今日もっともとろけきった、最良のアヘ顔を、ニアにだけみせつけながら。
完璧に封じこまれたあえぎをのどからしぼりだし、涙とヨダレと洟にまみれて、おも
いっきり‥‥よがりくるっていた。
あっというまに垂れた鎖を回収してしまい――堂々としすぎて、なにをしてるか見て
いる周囲がわからない――私を抱えてケージから引きずりだす。
腰を抱きよせてムリヤリ歩かせながら。
ニアが、私とともにエレベーターホールを離脱する。
ビクンビクンと絶頂の余韻に膝の砕けかかる私を、やすやすと連れていく。
ああ。もう、今はそう‥‥なのだ。
私は負けたのだから。トライアルで敗北したのだから。もう、なにも心配することは
ないのだ。

私のすべてはこれで、ニアの、所有物になるの‥‥だから。


                 ‥‥‥‥‥‥‥‥


サンシャインシティの広大なエントランスホールのはじっこまで連れて行かれ、よう
やく腰にまわした腕がふりほどかれる。
ボールギャグを外されたが、手首には依然、革手枷。首輪もそのままで、つや消しの
チェーンだけが回収されている。
ニアの瞳にちろりと冷めたい気配がまじる。プレイ直前のドミナの空気だ。
「あ、あの‥‥ありがとう。その、私、これでもう、ドレ‥‥」
「あなた、いったいあそこで何をしていたの?」
えっ?
とつぜんの問いかけに狼狽し、言葉をうしなう。
「手枷に首輪。セーラー服の下も、さわった感じ、それ、ボンデージよね。ところで、
お名前ぐらい聞かせてもらってもいいかしら」
「‥‥あ、その。えっと」
にっと唇をゆがめるニアをまえにして、呼びかけはのど奥でくぐもった。
これこそ、ニアが仕掛けた最大のトラップなのだ。
――この声は、録音されている。
リリィがリリィとしての矜持を保つのなら、いまの私は無名のエスケープ嬢なのだ。
コミュを支配する姫騎士をまもるため、ここでは、無謀な自縛で人生を台無しにしか
けた真正のマゾヒスト嬢でありつづけなければならない。
嗜虐にみちた瞳が、肢体をやさしくなめまわす。
夜伽でしかみせない本来のニアの貌。私をかしづかせ、選択せざるをえない苦しみに
懊悩する姫奴隷を愉しむのだから。
ならば。
「あ、わっ、私は、その‥‥その、屋外で自縛プレイをし、してただけで」
「え? あなた、なにを言っているの?」
ニアは私を助けてくれた。ように思える。あの場で放置されたらまちがいなく警察で
調書をとられ、解放後、おおくはそのまま拉致られ、奴隷としてオークションや調教
をほどこされてしまうのだ。
先んじてニアが私を拾うことにはそれだけのアドバンテージがある。
けれど、それすら屈折した表層。
事実は、さらに怪奇にねじくれゆがんだ心理のなせるわざで。つまり彼女はムリヤリ
私に言わせたいのだ。
「その、セルフボンデージマニア、で‥‥SMみたく自分を縛って、人前でえっちな
ことを楽しんでいたんです」
いかにもな会話をしながら、ニアが密着し、私を壁におしつける。
「そうなの。ヘンタイねぇ、貴女‥‥‥‥‥‥」
「‥‥」
「‥‥‥‥かわいいわ」
語るニアの手が、さりげなく腕を後ろ手にねじりあげていく。
「でも、セルフボンデージマニアだっていうなら、拘束具がたりなくない?」
貴女の忘れものだと思うんだけど。ふわっと極上の笑みをうかべ、ニアが手提げから
なにかをとりだす。
「ひぁッ‥‥え、あ、あの‥‥私のじゃ、おねがい、ッやめ」
それ、は。
「指先までギッチリ、ミッチリ、ぐちゃぐちゃに縛りあげてあげる」
あまりにも、残酷で。
「脱出不可能にしておかないと。それが自縛の愉しみ‥‥なんでしょう?」
片手づつ(シングル)の、革のアームグローブ。
指先が三角錐にほそくなっており、窮屈な先まで手首をおしこんだら、二度と自力で
抜けだすことはかなわない。
セーラー服の袖をまくり、二の腕までグローブをはめていく。
すぼめた五指が先端にあたるまで押しこまれ、もはや脱げないグローブの手首に、先
ほどの手枷をまかれ、ふたたび高手小手でハートの南京錠を留められる。
ただし、手枷と首輪をつなぐのはチェーンではない。
左右そろえたアームグローブのD型リングと、首輪のリングを、あまっていた指錠で
むりやりつないでしまう。
より苦しい姿勢は、後ろ手合掌縛りにちかい。
ストレートロングの黒髪で手首を隠せることだけが唯一の救いだ。
「ふふっ、いいわ‥‥じゃあ、私の奴隷になりなさい。期間はそう、一週間ね。絶対
服従すること」
「‥‥ひゃ、ひ、は‥‥はい」
彼女の庇護を承諾したこの瞬間から、私はニアの奴隷となる。
ごっこ遊びではない。真実、私はニアに、すべてを売りわたしたことになる。
一週間という期間にカラダがふるえた。
普通はそこまで長くない。ニアは、私にどれほどの調教をほどこす予定なのだろう。
「話もまとまったし、最後にコレね」
「ひぇ、んァァ」
ぐりりっと、さきほどエクスタシーを吸いこんだヨダレまみれのボールギャグを口に
押しつけられ、しっかり咥えこむ。
このギャグは、水を吸うと膨張する素材でできており、口のなかがふたたび乾燥する
まで外せなくなる。ストラップいらずの代わり、危険な緘口具だ。
ギジッと歯をかみあわせる。
どうしても上下が2センチ程度あき、すき間からボールギャグの暗褐色がのぞく。
「どう?」
愉しそうに、怜悧な美貌をゆがめてニアがほほえむ。
「これだけ大きなギャグボールなら、どれだけ悲鳴をあげてもほとんどかき消えるわ
‥‥この意味、わかるでしょ」
「‥‥っひ」
そうして、ニアが、私の手綱を取る。
ここまで10分もかかっていない。人気の少ない隅だとはいえ、いとも自然なしぐさで
私を拘束してのけたのは、ニアのドミナとしての手ぎわだろう。
だから、立会人としての後処理が、気になった。
視線だけで察したのだろう。インカムを切って、ニアがつぶやく。
「大丈夫よ。トライアルのルールはルール。あなたは売り飛ばされるわ。奴隷として」
でもね、とニアはうすくほほえみ、
「ルールに手をつっこめるのも管理者の権限。だから」
くい、と、首輪につながる地味な色のリードをニアがひっぱり、歩きだす。
わたしたち2人は、はためにはどう見えているのだろう。
仲良くあるく姉妹なのだろうか。
ほぼ完ぺきな自由をうばわれた奴隷姫であると、何名が気づくことだろう。
いとおしむように私の頭をだきよせ、形良いニアの紅唇が耳元をかすめ、ささやく。

――リリィを助けてあげることはできないけど。
――だいじょうぶ。海外に売り飛ばしたりはしないわ。リリィは皆のアイドルだもの。
――責任をもって私が飼い慣らしてあげるから、安心して墜ちてね。
――たしか、一生だったよね。
――死ぬまで、リリィをペットとしてかわいがって、あげるから。

「‥‥‥‥‥‥っ!!」
それが、最後の、トリガー、だった。
これ以上なく蹂躙され、拘束され、無力化されたマゾの裸身が逆海老に跳ねてしまう。
びくびくんと縛り目にあらがって弓なりにそりかえっていく。
完璧に、リリィの心ごと無限地獄にたたき落として。
「にァ‥‥ア、ぃひへ、ぅ‥‥」
‥‥つまり、ニアの特別な奴隷になるということ。
一週間で済むはずがない。リリィ姫のクセをしりつくしたニアに、私は屈伏させられ、
生涯奴隷の契約をかわされることだろう。
トライアルの一時しのぎではない。
彼女は、私を手放すつもりなどない。支配しつづけるつもりなのだ。

その責めのきびしさを想うだけで――

瞳の焦点がぶれていくのも気づかぬまま、
公衆の前ではめられた巨大なボールギャグの底でとろけるような被虐の悦びにのまれ、
私は完膚なきまでに、イきっぱなしの奈落へ足を踏みはずしていく。
どこまでも――



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